出会いっていうものはいつだって偶然の連続だ。
いつ、どこで誰と出会うかなんて誰にも予想できないだろう。
もしかしたら学校で、映画館で、図書館で、新しい出会いが待っているのかもしれない。
でも、今回ばかりは本当に衝撃的な出会いだったとしか言いようがないだろう。
なにせ俺達の出会いは……あの眩い光と轟音から始まったんだから。
「なっ、なに!? また姉さんなんかしたの!?」
その時はまだ、姉さんがまた妙なイタズラでも考え付いたのかと思っていた……でも、俺の目に飛び込んできたのは、姉さんのイタズラじゃ済まないような現実離れした光景だった。
「闇の書の起動を確認しました」
「我ら、闇の書の蒐集を行い、主を守る守護騎士でございます」
「夜天の下に集いし雲」
「ヴォルケンリッター……なんなりと命令を」
何故か空中浮遊していた姉さんの本が何故か光ったかと思うと、その場には何故かさっきまでいなかったはずの四人組が跪いていた。意味が分からん。
一体何が起こったのか、理解がとても追いつかない。これは夢なのか、そうじゃないのかすら判断が出来ない。
一つ分かっていることは……伝えなければならないということだけだ。俺に向かって跪き、忠誠を誓っている彼女達に……この残酷な現実を。
「あの……盛り上がってる所悪いんだけどさ……主、多分あっち……」
『え?』
下のベッドで目を回している姉さんを指差す。
「き、きゅう~~……」
『……え?』
そんなこんなで、俺と騎士の初対面はなんともマヌケなものだった。
翌日、目を覚ました姉さんを交えて彼女達から事情を聞くと、姉さんの本は何でもベルカとかいう異世界で作られた魔法本で、彼女たちはその持ち主である主……つまりは姉さんを守るための守護騎士だという。
意外……でもないけど、姉さんはあっさりと彼女達を受け入れる姿勢を見せていた。家族って言葉に人一倍憧れがある姉さんなら、多分そうなるだろうとは思っていたけど、まさかものの5分で受け入れるとは思わなかった。
一方の俺は――正直どうしていいか分からなかった。
「魔法に闇の書に、その守護騎士ねぇ……。にわかには信じがたいけど、魔法って実在してたのか……」
「……あまり驚かれないのですね」
「まぁ、こっちは普段から変な人たちと関わってるからね。ホモのフェレットがいたくらいだし、もう大概のことじゃ驚かないよ。えっと……シグナムさん?」
「我々に敬称は不要です、ご令弟様。 我等の事はどうぞ、呼び捨てでお呼び下さい」
「いや、それじゃ俺が落ち着かないし……。そもそもあなた達って―――」
「まぁまぁ、これから家族になるんやし、お互いに変な遠慮は無しや。楓も、詮索するようなことはやめとき、な?」
な? と言われてもこっちだっていきなりこんな事態になれば戸惑うのは当然だ。正直、未だに何がなんだか分からないんだ。姉さんが完全に受け入れ態勢になってるんじゃ、俺は疑うしかないじゃないか。
「……家族になるとは言っても姉さん、犬猫を拾うのとは訳が違うんだよ? これからずっと生活していく以上、少しはこの人たちのこと知って置くべきだと思うけど?」
「う~ん……楓の言うことも分かるけど……。そうや! それやったらこないしよう!」
姉さんが何かを思い付いて数十分後、そこには『どきどき!第一回、みんなのことが知り大会!!』と書かれた横長の垂れ幕と、なぜかクリスマスやら正月の飾りでデコレートされた我が家のリビングあった。
早い話、まぁた姉さんの悪ノリが始まったよ。
姉さんはまるで面接官みたいに長机とパイプ椅子に座り、同じく正面でパイプ椅子に座らさせられた騎士のみんなに説明を始めた。
「えー、本日はお日柄もよく、みなさん忙しい所をお集まり頂きありがとうございますー。今日はまだお互いのことがよう分からんってことで、こういう場を設けました。……つまり、みんなで自己紹介大会や!」
なるほど、自己紹介か。確かに手っ取り早く相手のことを知るにはいいかもしれない。姉さんにしては意外とマトモな提案で安心した。自己紹介に大会があるのかは実に微妙な所だけど。
「じゃあまずは……お手本みせたげて、楓」
「自己紹介にお手本も無いと思うけど……ま、いっか。
えっと、俺は姉さん……つまり君達の主の弟の、八神楓です。あんまり気の効いたことは言えないけど、よろしくお願いします」
パチパチと手を叩く音が3つほど聞こえる。
自己紹介なんて長らくしてないけど、こんな感じで大丈夫だよな?
「えっと、じゃあエントリーナンバー一番、ザフィーラさん。お願いします」
パイプ椅子の一番左に座っていたザフィーラさんが無言で立ち上がる。もう完全に面接じゃん。
「盾の守護獣、ザフィーラ。主の盾となり、あらゆる外敵から御身を守るものです」
盾の守護獣……ザフィーラさん。
褐色の大男でイヌミミという萌えに正面から喧嘩売ったようなヴィジュアルに最初は圧倒されたけど、すごく真面目そうで頼りがいがありそうな印象だった。
前々から俺が学校に行っている間、誰も男が家にいないのは少し不安だったから、その間姉さんを守ってくれるっていうならこれ以上の逸材はいないかもしれない。
なにより、盾のってのがいいね。盾ってのが。
キャプテン・アメリカもメイン武器が盾だし。
「よろしくお願いします、ザフィーラさん。俺が不在の間は姉さんのこと、お願いします」
「はい、一命に代えても」
やだ、かっこいい。俺、もし女に生まれてたら絶対この人に惚れてたわ。
一番手のザフィーラさんがこれだけの人格者なら、他のみんなもきっとすごい人に違いないだろう。
最初にみんなが出てきた時は不安だったけど、今は少し安心した。
「では次、エントリーナンバー二番、シグナムさん。どうぞ」
はっ! と気合の入った返事と共に、シグナムさんが立ち上がる。
座っている間もずっと背筋を張ってたし、生真面目な性格なんだろうか。
「烈火の将、シグナム。主の剣となり、騎士の誇りにかけてあらゆる命令を遂行させてみせます。つい先程も任務を遂行させて参りましたので、その報告も兼ねさせて頂きます」
……? 命令?
俺はもちろん、姉さんもずっと一緒にいたから命令なんて出してないよな。
「ねぇ、俺、命令なんて出してないけど……姉さんは?」
「私も知らんよー」
シグナムさんが怪訝な表情で俺達を交互に見やる。そんな目で見られても、俺達なにも知らないんだけどな……。
「……? グリコのポーズで交番の周りを全力ダッシュしてこいというご命令があったとシャマルから聞いていたのですが……」
「」
言葉を失った。
待て、冷静になって考えてみよう。
何? シグナムさんがグリコ? はは、有り得ないだろ。まだ知り合ってそんなに経つわけじゃないけど、この厳格そうな人が? うん、ないない。
「……もしや、お二人のご命令では無かった……? おのれ!騙したなシャマル!! よくも私にあんな恥知らずなマネを……! 少し楽しかったではないかッ!!」
「少し楽しかったんですか!?」
グリコしたことよりそっちの方が大問題なんですけど。恥知らずなマネと言いつつ再犯する気まんまんじゃねぇか。命令を遂行しても守りきれてねぇよ騎士の誇り。
というかよく信じたなそんなん。いつの間にやって来たんだよ? よく捕まらなかったな。
「ま、まぁ、シグナムさんが忠実な騎士さんだってことはよく分かったよ。これからもよろしくお願いしますね」
「はい。ご希望とあらば例え水上だろうが、ホワイトハウスだろうがグリコで走りきって見せます」
そんな期待は誰もしてないよ。国際問題になるわ。しかもグリコめっちゃ気に入ってんじゃねぇか。もういいよ、次、次に期待だ。
「では、エントリーナンバー三番、ヴィータちゃん。どうぞ」
3番手は俺達よりも更に年下なんじゃないかというオレンジの髪の女の子だった。
今までの2人が好意的? だった為か、少し機嫌が悪そうに見えるのは気のせいかな。
「……鉄槌の騎士、ヴィータ。……あんまじろじろ見んなよ」
「……あ、うん、ごめんね。騎士ってこんな小さい子までやってるのかって思って」
「……別に小さくねーです」
「そ、そうだね。あ、そうだ。ヴィータちゃんは一体どんなことができるのかな?」
「呼吸」
……か、会話が続かない。
な、なんだろう、めっちゃ警戒されてないか俺。
いや、俺だけじゃない……この子、主の姉さんにまでちょっと敵対心出してないか?
やっぱり、こんな小さい子が騎士なんてのは相当ストレスを感じるものなんだろうか。もしそうなら……この子にとって俺たちは自分を縛り付ける鎖みたいな物なのかもしれない。あまり良い感情が湧かないのも当然か。
「お互いに突然のことで戸惑うかもしれないけど、できれば家族として仲良くして行きたいな。よろしくね、ヴィータちゃん」
ヴィータちゃんに握手を求めて手を差し出す。ヴィータちゃんはその手を不思議そうに見つめて、しばらくしてからおずおずといった様子で握り返してくれた。
「よ、よろしく、お願いします……」
「うん、こちらこそ」
まだ手探りの状態だけど、少しずつ仲良く慣れたらいいな。
今回ばかりは、素直にそう思った。
「では最後はエントリーナンバー4、シャマルさん、お願いします」
「はい! 湖の騎士、シャマルです。趣味はお料理と、お裁縫、あとは……読書かしら」
シャマルさんはおっとりとした感じの優しそうな女の人だった。
家庭的な趣味に、知的な雰囲気を感じさせる佇まいは流石は騎士って言うだけあって、非の付け所がない。
……ん? でもシャマルって確か、シグナムさんに要らんことを吹き込んだ名前じゃなかったっけ? いやいや、まさか。多分同名の別人だろう。どう見てもこの人そんなキャラじゃないじゃん。
「シャマルさんは本が好きなんですか。姉さんと話が合いそうですね。ちなみに普段はどんな本を?」
「はい! それはもう小さな少年少女がくんずほぐれつしてる薄い参考書を嗜んで――」
「不採用」
「そ、そんなご無体な!」
ご無体じゃねぇよ、常識に基づいた判断だよ。むしろなんで子供の前でロリショタ好きをカミングアウトして大丈夫だと思った? 頭大丈夫か。ていうかシグナムさん炊きつけたのも確実にあんただろ。
「そもそも、いつそんなものの情報を手に入れたんですか?」
「ネットって便利ですよね。なんでも知りたいことがワンタッチで分かるんですよ」
現代への適応早すぎだろ古代ベルカ。
「わっ、ワンチャン! ワンチャンを希望します! あっ、ザフィーラは座ってて。とにかくもう一度だけ私にチャンスをください!!」
自己紹介の段階で信頼を地に落としておきながら諦めてくんないよこの人。正直全く気が進まないけど、ここはもう一度機会を与えて、今度こそまともに自己紹介してくれるのを期待してみるか。
「……では、もう一度、どうぞ……」
「湖の騎士シャマルです! 私は子供が大好きで、毎日小学校の前を通る。それだけでもう私は生きる幸福をひしひしと噛みしめられます」
なんだろう……得体の知れない後悔に襲われた。
「なんか怖いんで、やっぱり不採用で……。とりあえず、今度物置小屋を買ってくるんで、寝泊まりはどうか、そちらで……」
「そんな!? 私に合法的にロリショタと同棲するチャンスをみすみす捨てろって言うんですかッ!?」
知らねぇよ、発狂するな。あと本人の前でロリショタとか言うな。シグナムさん、出番だぞ。騎士として俺達をこの変態から守っておくれ。
あ?いつの間にかシグナムさんいないじゃん。書き置きが……『ちょっと病院の前でカバディ踊ってきます』だと? そのまま入院してこい。
「フフフ、言っておきますけど、はやてちゃんと楓くんだって余裕で私のストライクゾーンなんですよ? 今だってこうして会話しながら二人でエッチな妄想しているんですからね?」
「したり顔で言うことか! ザフィーラ! ザフィーラーー!! 助けてー!!!」
「Yesロリショタ・Goタッチ」
その後、シャマルさんと鬼ごっこをする羽目になったり、捕まったシグナムさんを警察まで迎えに行ったり、ヴィータちゃんと遊んだり、ザフィーラに慰めてもらって、騎士との共同生活一日目は終わりを告げた。
拝啓、天国のお父さん、お母さん。
今日、我が家に愉快な同居人が増えました。
次回から三~四話かけて遊園地編の予定。
ギャグは今回の八割増し位でいきたい