転生失敗!八神家の日常   作:ハギシリ

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お久しぶりな方はだいぶお久しぶりです


宿題は自分でやりましょう

「う~ん……」

 

それは春の穏やかな気候も終わりを告げた、蒸し暑い夏の土曜日のことでした。

突然ですが、今、俺はある重大な課題を抱えています。それは……。

 

「作文の宿題ってなに書いたらいいんだ……」

 

 そう、全国の小学生の共通の敵、学校の宿題です。しかも、今日の宿題は自由作文。つまり、自分で何かテーマを決めて、それについての文章を書かなければならないのだ。正直、数ある宿題の中でも俺はこれが特に苦手だ。おのれ先生。

 

変に考えすぎてテーマすら決まらない……。日誌に続き、こういう文章書くのってなんだか苦手なんだよな。そもそも俺理系だし。というか、そもそもなんでもいいってのが悪いんだよ。晩のおかずのリクエストも宿題もなんでもいいが一番困るって隣のババアが言ってた。

 

「こういう時は誰かに相談するのが一番なんだけど、友達いないしなぁ、俺……」

 

「あ、楓くん、それ今日の宿題? 困ってるなら私でよければ相談に乗るよ?」

 

「さも当然のごとくいつのまにか我が家にいたことはともかく、なにかいい案があるの月村さん?」

 

「うん、ちょっと待ってね……」

 

 我が家の座敷童、月村さんが手持ちのカバンから綺麗な字で書かれた作文用紙を手渡してくれます。しかも、軽く内容に目を通せば、これまた小学生らしからぬ高度な文章表現だった。しかしすごいよな月村さんって。だってこれだけの輝く才能を、カバンからはみ出てる男物のパンツ一枚で台無しにできるんだもん。誰にでもできることじゃないよ。

 

「私はお姉ちゃんやメイドのファリンやノエルのこと、それに近い未来の旦那様のことを書いたんだ。楓くんもご家族の人に協力してもらって、家族のこと書いてみるのはどうかな?」

 

家族かぁ……。確かにいい案かもしれないけど、うちの家族だしなぁ。どうせまたロクでもないこと書かされるに決まってる……。特に姉さんとかシャマルとかシグナムとかシャマルとか。

 

「……うん、悪いんだけどさ、月村さん、やっぱこの宿題に関しては自力でやろうと思うんだ。月村さんも、うちの家族にはこのこと、黙っててもらえるかな?」

 

「うん、わかった! 楓くんがそう言うなら私、絶対に言わない!」

 

「今約束したからね? 本当にお願いだよ。いい? 俺の宿題の件は姉さんたちには、絶対秘密!」

 

「楓くんが2年生までおねしょしていたことは、絶対秘密!」

 

「ちがう!! というかなぜ知っている!?」

 

 とかなんとかコントをしていたら、騒ぎを聞いた自宅警備員達《ヴォルケンリッター》が何事かとこっちに集まってきていた。

 

「さっきから一体どうしたんですか? もしかして最近近所にできたおたのしみ幼稚園の話ですか? だったら私も仲間に入れてください!」

 

「ああ、そういえばその幼稚園からシャマル宛に接近禁止命令の手紙が来ていたぞ。わざわざシャマルごときに様付で手紙を送ってくれるなんて実に礼儀のなった先生だ」

 

「……あれ、楓それ何書いてるん? あっ、それ学校の宿題?」

 

 あーあ、結局こうなっちまうんだよ今回も……。

 

「宿題ですか! だったら私たちもお手伝いしますよ。ねぇ、シグナム?」

 

「うむ。ご令弟と主の力になってこそのヴォルケンリッターだ。宿題ごとき、目でもない。して、宿題とは何者なのですか、どう始末するのが効果的ですか、爆薬は何個必要になりますか? ご令弟」

 

 慈愛に満ちた聖母のような表情で訪ねてくるシグナムに、今、俺の中の本能とか危険信号とか、なんかそれっぽいものが全力で警報を発していた。

曰く、このランボーと同じような思考回路を持った女に任せてはいけないと。

 

「いやー……みんなの気持ちは本当にありがたいんだけどさ。だからこそ気持ちだけ受け取っておきたいというか……」

 

「へー。自由作文の課題かー。最近はこういう宿題がでるんやねぇ」

 

って、もう始めてる!?

 

「悩むことなんてないわ楓くん! テーマを家族にすれば、こんなのすぐに書き終われますよ! 例えば家族の好きな食べ物とか、休日の過ごし方とか、趣味とか!」

 

「ただでさえ微妙に教室で浮いているこの俺に、家族の趣味はおたのしみ幼稚園をおたのしむことですと書けと?」

 

「じゃあ僕、八神楓の将来の夢はシャマルお姉ちゃんのお婿さんになることですっていうのはどうですかッ!!」

 

「あ、絶対ヤダ」

 

 真顔で速攻で答える。

 今の時代では大事だよね、はっきりとNOを言う意思。

 

 とかなんとかやっていたら、いつのまにか姉さんが原稿用紙と鉛筆を手に取っていた。

 

「こういうのはわたしに任しとき。結構得意なんよ。あらほらさっさー……と、こんなんでどないや?」

 

『テーマ お姉ちゃんについて。僕には、双子の姉がいます。僕は、お姉ちゃんが大好きです。どのくらい好きかというと、お姉ちゃんと僕の服を交換して、僕がお姉ちゃんになったような気分になりながら鏡を見て、いろいろなポーズをとることで快感が……』

 

「却ーーーーーーっ下ッ!!!」

 

 勢いよく姉さんの書いた原稿用紙を破り捨てる。

 こんなもんを学校で発表したら友達どころか学校にいられなくなるわ。

 というか、俺は9年の人生の中でそんな回りくどい快感なんて感じたこともないからね!?

 

「予感はできてたけど姉さんはいったい何がしたいの!? 俺を一体どうしたいの!?」

 

「そんな事お姉ちゃんの口から言わすなんて……いやん、楓のエッチ☆」

 

「やめてくんないかなそういうこと言うの!? というかエッチなのは姉さんの頭の中だよ! ハァ……時々何で姉さんが俺の姉さんなのかと本気で思うよ……」

 

「そっか……。ごめんな、楓……妻になってあげられんで。今度みんなで姉弟婚が許される国に行こう……?」

 

ポジティブだなあんた……。

 

「では、僭越ながら次は私が……ふむ、こんなものか?」

 

「あっちょ、勝手に……! てか書き上げるの早いな!?」

 

 シグナムが一瞬で書き上げた作文に目を通す。相変わらず無駄にスペック高いなヴォルケンリッター。この能力のリソースをなぜ一割でも頭に回さなかったのか。闇の書の製作者はきっとアホだったんだな。

 

『テーマ、近年の規制強化について。最近、子供向け番組で、過激なシーンやお色気のシーンが露骨に減っています。なんでも、子供にとって害悪な存在は規制するのが正しいとかいうことですが、そのせいで、うちのシャマルがとても辛そうにしています』

 

「あれ? シャマルって子供向け特撮とかアニメ好きだっけ?」

 

「いえ? 私はあくまで三次元のロリショタにしか興味ありませんよ。二次元ごとき規制されても屁でもありません。ちょっとシグナム。この作文間違ってるわよ」

 

「……? なにを言う。お前は存在そのものが子供にとって害悪だろう?」

 

 あ、そっちね。

 クールな顔してしれっとひどいなシグナム。

 

「どっちにしても間違いよ! 私はただちょっとロリショタを眺めたり舐めまわしたり蔑んだゴミを見る目で見られたりするのが好きな近所なエッチなお姉さんよ! ね、楓くん?」

 

「滅べロリコン」

 

「そうです、それです。ありがとうございます!」

 

 お礼言う前に謝れよ、全国の少年少女に。

 

「駄目だ、月村さん。やっぱりうちの家族は頼りにならない。というか頼りにしちゃいけない。なにか他に案はないかな?」

 

『パンツが洗濯済みのものしかなかったので帰ります。 すずか』

 

 そういやすっかり忘れてたけど君もシャマル側の人間だったね。

 

これ以降、もう宿題でこの人たちを頼るのはやめようと固く誓ったのでした。

あ、ちなみに俺の作文のテーマは若者の人間離れについてになりました。

 


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