転生失敗!八神家の日常   作:ハギシリ

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それは珍妙な出会いなの

『今日は、みんななんやかんや騒いでいて、あとなんか授業頑張ってました。学校楽しいです。終わり』

 

「……いや、さすがにこれじゃ駄目か……」

 

 突然ですが、俺は今とても困っています。というのも、実は俺は今日は日直なのです。

 

 日直の仕事は主に休み時間ごとの黒板の掃除や、プリントをみんなに配ることなど、簡単なものばかりですが、俺にはどうにも苦手な仕事が一つだけあるのです。

 

「学級日誌……どうやって書けばいいんだこれ……」

 

 いくら唸っても、目の前の用紙は白紙のまま。俺はこの放課後に残って日誌を書く仕事だけは入学以来、どうにも苦手だった。

 

 しかも、一人で唸っているうちにクラスメイトはとっくにみんな帰って、教室には俺一人……。なんで一人でいる教室ってこんなに寂しさを感じるんだろうね。

 

「……こうなったら、あんまり良い事じゃないかもしれないけど……みんなのを読んで参考にさせてもらおう」

 

 ということで、ちょいちょいとページを捲る。うわ、この人すごい字がキレイなんだけど。誰だ?

 

『○月□日

 今日はテストの成績表が帰ってきました。英語はすずかに負けちゃったけど、理数科目は学年で1位をとりました。このまま勉強を頑張って、将来はパパの“あーくりあくたぁ”とかいうものを作る仕事のお手伝いがしたいです。』

 

 これはバニングスさんだな。

 やっぱり普段は真面目というか、まさに日誌のお手本って感じだ。というか俺もその仕事のお手伝いがしたいです。

 

『○月☆日

今日は雨。そのせいで男子みんなでやるつもりだったドッチボールができなかったから雨嫌い。まじで雨とかありえねーよ。なんで神様はこんないらないものを作ったのか意味ふめー。』

 

 これは……隣の席の田辺くんか。なるほど……こんな風にラフな書き方をしてもいいんだな。

 

 ……ちなみに俺はそのドッチボールに誘われていない。少し泣きそうになった。

 

『○月×日

 今日は掃除当番で、教室を掃除していたら、山田くんがふざけてバケツを振り回して、八神くんに水がかかってかわいそうでした。すずかちゃんが注意してくるっいってたので、私は八神くんをふいてあげてたら、つかれた目でこのくらい家にくらべたら平気って笑ってました。』

 

 そういやあったね、そんなこと。これは佐藤さんか。あの時はありがとう。そういや確かこの日は結局濡れたまま家に帰って、事情を聞いた姉さんやみんなも怒ってたっけ。

 

『○月○日

今日、山田が転校しました。』

 

「や、山田ァ!?」

 

 そういや、最近見かけないな~程度に思ってたら明らかに何かの陰謀に巻き込まれていらっしゃる!?

 

 もうやだよ……なんか怖いよこの学校……。……いや、考えるのはよそう。どうせ時間の無駄だもん。ほら、次次

 

『○月@日

今日はとても天気がいい日で、洗濯物を干すなら今日かなぁと思いながら学校へ来ました。みんな私と同じことを考えているのか、どこの家も洗濯物を干していました。そのあんまりにずらっと並んでいる光景がなんだか面白くて、ついついその内の一つに手を伸ばしてしまいました。

 

そんなわけで、パンツ盗んだのは私ですごめんなさい。』

 

 むしろ月村さん以外に誰がいると言うのか。ホント、やめてよね、最近じゃ俺の下着を何故か月村さんの方が多く持ってるという謎の事態になってきてるんだから。

 

 窓の外から人の寝顔を見るのだって昔はロマンティックだったかもしれないけど、今じゃストーカーって立派な犯罪なんだよ?

 

『○月★日

日曜日は家族みんなでビリー隊長のブートキャンプをやりました。だんだん体か温まって、テンション上がってええええ!!! 思い出したら居ても立ってもいられないのでランニングしてきます!!』

 

 おい、誰だこれ書いたの。ありなのかこれは? もはや学校が一ミリたりとも関係ないんだけど。

 

 そっと学級日誌を閉じる。これは危険だ。見れば見るほど俺の世界がおかしくなっていく。

 

 と、まぁこんな具合にアホなことばっかさやっていたら不意に後ろから声を掛けられた。

 

「あの……八神くん?」

 

「ん? ……あれ、高町さん? どうしたの? もうみんな帰ったと思うけど……」

 

「八神くん、今日の日直だったよね? 先生にね、これを渡してほしいんだけど……」

 

 はい、と高町さんから長方形の封筒を手渡される。

 

「これって……休学届け? 高町さん、学校休むの?」

 

「うん、ちょっとね。あっ! でも本当にちょっとだけだよ! 用事が終わったら直ぐに戻ってくるから!」

 

 お、おう。

 なんかよく分からないけど、随分と張りきってるみたい。とりあえずがんば?

 

「うん! ありがとう八神くん!!」

 

「きゅーきゅー」

 

「……ところでさ、さっきから気にはなってたんたけど……高町さんの肩にいるそれってフェレット? 」

 

 正直、今はできるだけフェレットに関する話題は避けたかったけど、なんかさっきからこっちをガン見してるんだけどそいつ……。

 

「あ、うん。この子はユーノくんっていうんだ。ちょっと前から家で飼うことになったんだけど……お兄ちゃんがあんまり一緒に居たくないって言うから連れてきちゃった」

 

 へぇ、もしかして高町さんのお兄さんは動物が苦手なのか。そういやフェイトちゃんもフェレット苦手だったっけ。いや、あれは相手のフェレットが特殊すぎるだけか。

 

「ま、いいや。よろしくね、ユーノくん」

 

「きゅー、きゅー」

 

「あ、鳴いてる。かわいいなぁ。きゅー、きゅー、きゅ~?」

 

「日本語でおk」

 

「!?」

 

 ……い、今のは幻聴……?

 

「い、今このフェレット……!」

 

「き、ききききき気のせいだよ!うん! 絶対に気のせい! 気のせいったら気のせいだよ!」

 

「木の精!? このフェレットは木の精なの!?」

 

「強いて言えば奇の性かな? やぁ、ホモーニング! 」

 

「また喋った!? しかもなんか気持ち悪い挨拶した!」

 

「こ……これはそのぉ……ふ、腹話術! そう、腹話術なんだ! 最近練習してるの!」

 

「『どーも、私、高町なのは。趣味はプロテイン自作と、町でいちゃついてるカップルに泥団子を投げつけることでゲスゥ~』」

 

「私はそんなこと言わないもん! ユーノくんのバカ! ……あっ」

 

 まさかこいつ……

 

「いやー、それにしても君、男の子だよね? よかった~。なのはの友達ってエセツンデレとロマンティックストーカーくらいしかいないものだと思ってたよ。なんだいるじゃないか、僕好みのショタボーイがさ!」

 

 間違いない。こいつ、フェイトちゃんの言ってたフェレットだ……!

 

「もう! ダメでしょユーノくん!!

ユーノくんは変態さんだから八神くん驚いちゃってるじゃない!」

 

「それはちょっと聞き捨てならないな。僕は変態なんかじゃない、ただ純粋に男の子が好きなだけだ」

 

「どっちにしてもタチ悪いよ!」

 

 頭が痛くなってきた。

 

「高町さん、今って夜だっけ……?」

 

「認めたくないのは分かるけどこれは夢でも幻でもないよ。歴とした現実なんだ」

 

 ですよねー。ちくしょうが。

 

「あ、あの、八神くん、これはね……」

 

「あー……いや、いいよ説明しなくて。多分聞いても後悔するだけだと思うから。でも代わりににそいつにフェイトちゃんをあまり虐めないように言っといてくれない?」

 

「えっ、フェイトちゃんを知ってるの!?」

 

「今まではやれ、脱いだ後の靴下だの、鼻をかんだ後ティッシュとカスどもにゴミ同然に扱われてきたけど……その不幸も全て、君に会うための試練だったんだね!」

 

 おい、こいつさっきからなんかおかしいぞ。なんの脈絡もなく変な話題ぶっこんできやがった。

 

「ほらユーノくん! 八神くんが困ってるでしょ!! それに今は私がかえ……八神くんとお話してるんだから邪魔しないの!!」

 

「止めないでよなのは。言っておくけど、僕は女の顔なら躊躇いなくグーで殴ることもできるんだよ?」

 

「したり顔でなに言ってるの!?

コラッ! ユーノくん、女の子には優しくしないとダメって言ってるでしょ!」

 

 ……なんだこれ?

 

 …………なんだこれ?

 

「あの……悪いけど俺もう行っていいかな? 帰ったらヴィータちゃんvitaで遊ぶ約束してるんだ」

 

 早くこの現実から離れてゲームの世界に逃げ込みたい。面白いよね、ゴッ○イーター。

 

「あ、もしかしてG○D EATER!? 私も持ってるんだ! ねぇ、今度通信しようよ!」

 

 ーー臥せれてない!?

 

「ゲームぅ? やめときなよそんな子供騙し。君には似合わないよ。僕ともっと危ない遊びをや ら な い か?」

 

 お前は黙ってろ靴下。

 

「ごめんね八神くん!ユーノくんはちゃんと近いうちに去勢しておくから!」

 

「え、なにそれ聞いてない 」

 

「ほ、ホントに今日はごめんね、八神くん……」

 

「いや、いいよ……。なんかもう最近いろいろありすぎて、ちょうど人生に諦めがついてきたところだしーー」

 

「ん? 今諦めるって言った?」

 

 ……え?

 

「まずい……!」

 

 何故か一目散に逃走を始めるユーノ。そして高町さんはユーノの顔面を鷲掴みにしてそれを食い止めていた。

 

 ……は?

 

「今諦めるのって言ったよね? なんで? なんでそこで諦めるの! 根気よくお話しすれば変態のユーノくんも分かってくれるかも知れないでしょ!? 諦めちゃ駄目!諦めちゃ駄目! 一生懸命に頑張ってれば気付かない内にやり遂げられるから! 八神くんはまだエンジンのかけ方を知らないだけなんだよ! 私も一緒に頑張るから、八神くんも頑張って! 具体的に何を? 知らないの!! 考えるんじゃなくて感じるの!!さぁ、一緒に叫んで! よっ……しゃぁぁぁああああッッ!!!」

 

「……ねぇ、ユーノ。これはなに……?」

 

「な、なのはに『諦める』は禁句なんだ! 昔の体験がどうちゃらとか言う割とどーでもいい設定で、その言葉を聞くとなのはのテンションがフォルテッシモに……!」

 

「おい、ユーノ。 なんかこの子シャドーボクシング始めたんだけど……!」

 

「ついでに攻撃的になるんだよ! この前なんてその言葉を言った金髪にスープレックスかまして泣かせたくらいなんだから!!」

 

 なにそれ金髪の子かわいそう。

 

「な、なのは! とりあえず一端落ちけつーー」

 

「リリカルトーキック!」

 

「ア゙ァァァァア!!」

 

「ユーノ!?」

 

 高町さんは鷲掴みにしていたユーノを地面に叩きつけると流れるような動作でつま先蹴りを叩き込んでいた。

 

 なんて酷いことを……でも、ごめん、ちょっとスッキリした自分がいるわ。

 

「くそ! 下手に出れば女の癖にいい気になりやがって! 僕にこんなことをしてみろ! 動物愛護団体とムリゴロウが黙ってないぞ!!」

 

「リリカルストンピング!」

 

「ア゙ア ゙ァァァァァァァアアア!!」

 

「ユーノォォォ!?」

 

 

 その後、高町さんの、お仕置き完了なの、という死刑執行完了宣言が出るまでユーノフルボッコは続いた。

 

 俺はというと、もう完全にハートフルボッコされてその場に立ち尽くすことしかできませんでしたとさ。

 

 

***

 

 

「ご、ごめんね二人とも。諦めるってワードを聞くとどうしてもテンションが上がっちゃって……。私のこと、めんどくさい子だと思う……?」

 

「ま、まさかそんなぁ。ねぇ、楓?」

 

「そ、そうだよ! そんなこと思うわけないじゃないかー……」

 

「ほんと!? 良かったぁ……」

 

「「(めんどくさいわこの人……

……)」」

 

 

『今日の日誌

 

今日、ホモと修造に出会いました。

 

     八神楓』


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