オープンキャンパスとかで忙しかったから更新遅れました弁明終わり!!!!!
今度からは更新遅れたりしません!!もし遅れたら木の下に埋めてもらってもいいよ!!!!
ーーーーーーー少し、懐かしい夢を見た。
久方ぶりにあの体を動かしたからだろうか。
それとも彼女に出会ったからだろうか。
かつて、彼女に問いかけられた言葉を思い出していた。
『ねぇ、アーチャー。………自分のしてきたことを、後悔したことってある?』
俯きがちにそう言葉を紡いだ彼女に、私は黙って次の言葉を待つ。
『私は、出来ればしたくない。でもそれってきっと難しいんでしょうね、きっと……私が考えている以上に』
自分のしてきたこと。
つまりは自身が辿った道のり。
それを後悔するか?と彼女に聞かれた時、私は何故それを問いかけられたのかがわかってしまった。
彼女はきっと見たのだ。
私の結末を。英霊エミヤの最後を。
無数の剣が突き立てられた紅い荒野で、理想を呪った一人の男の物語を。
今は断片的でも、いずれ全てを見てしまう時が来る。
その時、この問いかけは無意味と化すだろう。
何しろ最初から答えは出ているのだ。
今更問われることもない。
それをわかっていながら、私は意思に反して動く口を止めなかった。
『出来る者もいれば、出来ない者もいる。
とりわけ君は前者だ。その手の人間は、まず誤ちなど冒さないし自らの誤ちを考えることもない』
自身の行いを悔いる。
即ちそれは、自身の否定に他ならない。
自己否定とは、元を遡れば自分を形取る"芯"を否定するということになる。
それは心であり、信念であり、また理想でもある。
それをする人間というのは、誤ちを自覚しつつも冒す人間だ。
自己満足の正義のために人を殺し、願いを、思いを踏みにじってきた人生だった。
当然私はそれを後悔した。
当たり前だろう。人の笑顔を見たかったのに、結局人の泣き顔しか見ることができなかったのだ。
これの何処が私の望んだ理想だというのだ。
略すと簡単なことだ。
彼女は前者で、私は後者だった。
それだけのこと。
『鮮やかな人間というのは、人より眩しいモノを言うものだ。そういった手合いにはな、歯を食いしばる暇などないんだよ』
私の知る彼女は、いつだって輝いて見えた。
それは単に容姿が綺麗、というわけではない。
彼女の言動、振る舞い、信念。それら全てが、他人を惹きつけて止まなかった。
『そして君は、間違いなくそういう人間だ。
遠坂凛は、最後まであっさりと自分の道を信じられる』
そう、彼女が歯を食いしばり嘆いたことを私は見たことがない。
それは、自分に確固たる自信というものがあったからなのだろう。
私にはなかったものだ。
ーーーーいや、正確に言うと、失くしてしまったという方がいいだろう。
最初は信じていた。
自身の理想を、切嗣から受け継いだ正義の味方を。
だが、それは徐々に疑いに変わり、最後には後悔になった。
醜悪な正義の体現者。
その姿は、周りからはどう映っていたのだろうか。
『ーーーーーーーじゃあ、貴方は?最後まで、自分が正しいって信じられる?』
容易に予想できた問いかけ。
それを、私は当たり障りないよう躱すことが出来たはずだ。
だが、私は合わせていた視線を逸らし、彼女に背を向ける。
まるで、自分は君とは違うといったように。
『ーーーーいや、申し訳ないがその質問は無意味だな。忘れたのか』
最後まで自分を信じられる?と彼女は問うた。
なら、私の答えは一つだ。
『私の最後は、とうの昔に終わっている』
★☆★
正午時。
あるものは挙って学食に特攻したり、またあるものは弁当ないしはコンビニで買ったパンなどで昼食を済ませている頃だろう。
それはここ、穂群原学園でも同じである。
春時にしては少し暖かい風が頬を撫でる。
三寒四温という言葉通り、昨日は気温が低かったから今日は暖かいのだろう。天気予報でも最高気温は昨日よりも2℃ほど高めだったのを覚えている。
今はお昼時。
いつもなら生徒会室で一成と一緒に食事をしている最中だが、生憎と今日は勝手が違っていた。
照りつける柔らかな陽射しの中、士郎は屋上に設置されてあるベンチに腰を下ろす。
そして後ろ目で、眼下に広がる校庭をチラリと視野に入れた。
「…………………」
思い出されるのは昨日の出来事。
突然帰ってきた凛とルヴィア。
サーヴァントの実体化。
謎の異世界。
そしてーーーー。
「イリヤ、か…………」
ポロリと口から懐かしい妹の名前が漏れた。
まさか久しぶりの再会があんな格好で叶うとは士郎も予想していなかったらしい。
一瞬コスプレ趣味に目覚めて深夜街を徘徊しているのか、と思い胃が痛くなったがどうやらそういうことではないらしい。
士郎は苛立たしげに腕を組み、背中をフェンスに預ける。
元凶はやはりあのステッキだ。
あれが鍵を握っている気がする。
だが直接凛たちに問いただすわけにもいかなかった。
何せ今彼女らが何処にいるかもわからない状態だ。
問いただすも何もまず居場所が割れないことには何も始まらない。
なにより、昨日の感触からすると、アーチャーは敵として扱われていると士郎は断じていた。
「グラウンドには、もう魔力は消えているらしいな…」
目下に広がる校庭には、昨日まで色濃く漂っていたメドゥーサの魔力は存在せず、いつも通りの姿を取り戻している。
そこには昨日の先頭の爪痕など欠片もなく、あれが本当に違う世界なのだということを改めて実感させられた。
「…………ふぅ」
肺に溜まった空気を吐き出し、気持ちを切り替えるように新鮮なものと入れ替えた。
これ以上考えても仕方がないだろう。情報が少なすぎる。
膝に置かれていた手を動かし、ポケットから携帯を取り出す。
そしてアナクロな凛とは違い、慣れた手つきで操作して、電話をかける。
いずれ近いうちに会う予定だったのだ、それが早まったところでどうとでもなるだろう。
「だが……会う人物が人物だからなぁ………」
これからまた胃の痛くなるような話になるな、と眉を顰めて電話に出た彼女に予定を聞く。
通話相手の名前欄には、カレン・オルテンシアと明記されていた。
★☆★
「なんなのよ
同時刻。
あるものは昼食の準備、またあるものは昼寝やドラマを見ている時間帯の住宅街。
そこに建ち並ぶには場違いすぎる巨大な洋館に、窓ガラスを割るような大音量で怒声が響き渡った。
その声の主である遠坂凛は、まさに怒髪天つくといった様子で荒々しく革張りのソファに腰を下ろす。
そんな彼女の様子を見ていたルヴィアはかけていた眼鏡を外した後、ため息をついて
「私の邸宅であんまり大きな声を出さないでくれます?家の中にゴリラを飼っている、とでも思われたらマトモに外を歩けませんわ」
「アンタねぇ………!」
普段に比べてキレが一段と強い毒舌に、凛が額に青筋を立てる。
だがやはりルヴィアも少なからず頭にはきているようで、その質の一段と悪い言葉がソレを物語っていた。
「だったらアンタも何か対策を考えなさいよ。あの昨日現れた黒化英霊についての、ね」
「………それが出来てないからこうやって座っているのでしょう?」
「……………………」
書斎内に落ちる沈黙。
重い空気に支配される室内は、まるで彼女たちの心情を表しているかのようにも思える。
その時、ノックと共にガチャリと扉が開く。
視線を向けると、そこにはルヴィア御付きの執事であるオーギュストが盆に紅茶と茶請けを乗せて入ってくるところだった。
それらを机に並べると、この重苦しい雰囲気を察したのか、老執事は空気を読んで静かに退出していく。
今しがた置かれた淹れたての紅茶を一口含んで、鬱屈した気持ちを変えるように言葉を開いたのは、当然とも言うべきか凛であった。
「……もう一度、状況の確認から始めましょうか」
ルヴィアは無言を貫く。
沈黙を肯定と受け取ったのか、元から置いてあった、厳粛な書斎には少々合わないホワイトボードにペンで現在の状況を整理していく。
「まず第一に、回収できたクラスカードはアーチャー、ランサー、ライダーの三枚。でも今の所使える限定展開武装はランサーのみっと」
ホワイトボードに記入した後、凛はやれやれと肩をすくめる。
先のクラスカード回収の際、ルヴィアとの壮絶なジャンケン勝負の末、ライダーのカードを手にした凛であったが、それをイリヤに限定展開させると同時に天を仰いだ。
召喚されたのは、ライダーが振るっていた鎖剣。
英霊の持つものであるが故、神秘はある程度内包してはいたが宝具という定義には当てはまらない一品だった。
依頼人である宝石翁から受け取った二枚のクラスカード、アーチャーとランサーに関してはアーチャーは役立たずとすでにわかっている。
残るはランサーのクラスカード、アイルランドの光の御子であるクーフーリンが誇る呪いの槍『
「……明らかに戦力不足。これで今日の黒化英霊を打倒できるか、と言われると正直首を傾げざるを得ませんわね」
ルヴィアが、今は自身が保護した名義上の義妹である美遊に預けてあるランサーのカードを脳裏に浮かべ、皮肉気に顔を歪ませた。
通常ならば並みの魔術師、それ以上の封印指定執行者ですら英霊の一撃を受けてマトモに生きてはいられないだろう。
だが彼女は相手にしているのは曲がりなりにも神話に記載された神秘を有する人外、英雄である。
英雄を打倒するのは同じ英雄であり、もし今日対峙する英霊がクーフーリンより格上の場合、刺し穿つ死棘の槍が受け切られる可能性もあるのだ。
それも加味するとなると、もう一つ宝具が必要となる。
だが使える手札は一枚。安易に切ることができない。
つまり、後手に回らざるを得ない。
しかしもし初手で刺し穿つ死棘の槍を使い、外した場合は?
英霊を殺す手段は、対魔力を貫通する魔力弾でも確かに事足りる。しかし、戦闘力とくに一撃の威力、突破力は格段に落ちる。
余裕がないということは、想像以上に重いことなのだ。
「第二に戦闘能力に若干の不安が残るということ。アンタのところの………美遊、だったっけ?あの子、飛べるようになったの?」
投げかけられた問いに、ルヴィアはゆっくりと首を横に振った。
即席の魔法少女。これがまた彼女らの足を引っ張り、重石となっている。
ルビーとサファイアという特級の魔術礼装が凛とルヴィアというマスターを裏切って、イリヤと美遊というマスターを見出したのがそもそもの原因だ。
素養は確かにある、それは彼女らの目から見ても間違いないだろう。
だが素養だけだ。せっかくのダイヤの原石も磨かなければ意味がないのと同じこと。
その研磨期間が足りない。
戦闘能力も、判断力も、知識も、何一つとして凛たちに勝るものはなかった。
昨日の戦闘。応用である空中浮遊さえ出来れば、跳躍以外に対空能力がなかったライダーをあっさりと仕留めれたはずだ。
終わった後何故かイリヤだけはあっさりと出来ていたが、美遊の方はそうもいかなかった。
人間が飛ぶ、というイメージが頭の中で思い描けなかったのだろう。魔法少女とはイメージだ、浮遊という明確で強いイメージを持たなければ飛ぶことはできない。
凛は思い出すと再燃してくる礼装達への怒りに、地団駄を踏んで紛らわす。
元々は彼女らが喧嘩さえしなければよかった話なのだが、そも礼装が意思を持つなどということが前代未聞だ。
こんな事態誰が予測できただろうか。割と予測できた、反語。
「そして最後……」
一旦言葉を区切った後、腸で煮えた怒りをぶちまけるようにホワイトボードを力任せにぶっ叩いた。
「昨日の黒化英霊のことッ!!!なんだってのよアイツ!」
怒りのあまり、手にしていたペンがバキリと音を立てて中央から折れる。
怒髪天といった凛の様子をみたルヴィアは、心底鬱陶しげに、
「だからあまり大きな声を出さないでくれます?ドラミングがしたいのなら動物園に行ってはいかが?」
「喧嘩したいならそう言えばいいじゃない」
すぐさま両者が互いの宝石を取り出し、臨戦態勢に入る。
こういう点がステッキに見限られたところではないのだろうか。
緊迫する空気。
だが意外にも先に矛を下ろしたのはルヴィアであった。
「……カレイドの能力を大きく上回る戦闘力、そしてライダーの宝具を正面から打ち破った力。何を取っても一品級の英霊ですわね。」
「そして自身で空間を移動できる能力を持っていて、尚且つその戦い方はアーチャーに酷似している………か」
「アーチャーのカードは今誰が?」
「イリヤに持たせてあるわ。限定展開をしてみたいって言ってたけど、正直なんの能力もない弓じゃ役に立たないのよね」
手詰まりと言わんばかりに腰をソファに落ち着ける。
その顔は苦虫を噛み潰したように苦渋に塗れていた。
「でも一つ疑問がありますわ。昨日のあの状況、あちらは間違いなく我々全員を抹殺できたはずですわ。それをしなかったのは……」
「出来なかったのか、それともすると不都合があってしたくなかったのか……」
昨日のあの状況。アレは彼女らにとって間違いなく死地であった。
美遊のカレイドステッキは後方に飛ばされ、実質イリヤとの一騎打ち。
そしてアーチャーには絶対的に有利なリーチで相手は陣取っていた。殺そうと思えば、一瞬のうちに凛たちの命は終わっていたはずだ。
だが生きている、正しく言えば生かされている。
「戦い方もそうだったけど、間違いなくアイツには理性がある。そうなると今回の任務で一番の障害はあのアーチャーよ」
前提として、黒化英霊というのは理性を失って本能で動いている。
だから魔術師でも、ステッキという礼装に頼れば勝てる見込みがでてくるのだ。
しかし、凛の脳裏に浮かぶのは昨日の戦い。
詰将棋のように、淡々とライダーの回避場所を狭めて、追い詰めていくスタイル。
アレは理性がないとできない戦闘だ。
「どうしますの?」
「どうするも何も、此方から打てる手なんてないんだからあっちから来てくれるのを待つしかないわ。今日にでも来てくれると手っ取り早いんだけどね」
凛はそう言った後、窓から空を見上げた。
ーーーーーーー太陽はじきに沈み、夜が来る。
★☆★
昨日と真逆の、冬場のように冷たい風が肌に刺さる。
太陽は地平線の彼方へ沈み、代わりに月が出ている。夜の緞帳に覆われた空には、雲に覆われて今は見えないが、今日はきっと満月だろう。
凍える体を手でさすり、士郎は眼前にある建物に視線を向けた。
外からでもわかる荘厳なステンドガラス。
場に漂う聖なる雰囲気は、建物の頂点に飾られている十字架が力場の中央だ。
言峰教会改め、オルテンシア教会。
それが近年新しく改築されたこの教会の名前だ。
正直士郎は、ここにあまりいい思い出はなかった。
この世界に来てからはここに足を踏み入れたことは少ないが、生前ーーーー特に聖杯戦争の時は悪い意味で性悪神父にお世話になった覚えしか出てこない。
現在の教会の主は神父ではなくシスターなのだが、本性は寧ろ場合によっては神父の方がマシなのではないかというほど酷いものだった。
今から彼女に会いに行くと思うと、自然に足取りが重くなるのを感じる。
腕時計を見ると、短針は文字盤の十を指し示していた。
気持ちを切り替え、予め連絡しておいて開けていて貰った鉄格子の扉から、中に入る。
そしてよく手入れされた庭を通り抜け、木で出来た教会のドアをあけ開いた。
白で統一された懺悔の間。
夜ともなると参列の席には無人になり、普段なら人の気配がしないそこは、今日ばかりは勝手が違った。
燻んだ銀の髪を揺らし、黒のシスター服に身を包んだ女性は、その黄金の瞳でこちらを一瞥した後口を開いた。
「ようこそオルテンシア教会へ。待ってたわよ捻くれ凡人」