クエストだらけのVRMMOはお好きですか?   作:薄いの

9 / 61
Quest8

 木製の水筒のような筒を覗きこむ。中は翠色の液体で満たされており、独特の薬草の臭気をボクの鼻が捉えた。

 

 リジェネレーションポーション Rank1 一定時間の間、HPを回復させ続けるポーション。容量が多く、複数回使用することが出来る。

 

 調薬スキルのないボクが作ったにしては上出来だろう。

 そう、調薬スキルがないのだ。取れなかったのだ。残念だ。というか村には調薬スキル持ちは居ないらしい。やはり、このゲームのスキルというのは習得そのもののハードルが高いみたいだ。

 これも街になると、ポーションも硝子瓶入りで売っているらしいけど。割と目分量な村レシピだと筒の方が都合が良かったのかもしれない。

 ふと、なにかを蹴りあげた感触に気付いて、足元を見ると家屋かなにかに用いられたらしい平らな木片が転がっていた。

 

「ここかぁ」

 

 見上げれば古びた館。窓には蔦が絡みつき、門の役目を担っていたであろう金属塊は赤茶けた錆にまみれている。というか広いというかこの屋敷大きすぎる。庭付き一戸建てとかいうレベルじゃない。それどころか噴水まで付いてし。水出てないし明らかに壊れてるけどね!

 さて、どうやって入ったものか。思考を巡らせながらなんともなしに門に掌を添えてみたらギィギィと嫌な音を立てながら門が開いていく。……これ、入ったら背後の門が勝手に閉まったりしないよね?

 

 おっかなびっくり門をくぐってみるが入口は閉じない。

 良かった。正直撤退も視野に入れてたから本当にありがたい。と、思った瞬間、皮膚が泡立つ感覚。

 

マリオネット Lv8 状態:通常

マリオネット Lv8 状態:通常

マリオネット Lv6 状態:通常

マリオネットナイト Lv9 状態:通常

マリオネットアーチャー Lv7 状態:通常

 

 大歓迎じゃないですかヤダー。

 正面から突っ込んで蹴散らしたいところだけど、アーチャーが邪魔だ。

 救いといえるものがあるなら、通常状態、マリオネットたちが未だに門の入口に入るボクを認識出来ていないことだろうか。手近な所に資料庫だか詰め所らしき小さな小屋があったのでその背後に身を隠し、足元から小石を一つ、拾い上げる。

 

「ふぅ……よしっ!」

 

 気合を入れ直す。やるぞー。ボクはやるぞー!

 小石を構え、小屋の影からそれを全力で放り投げた。放物線を描いたソレは【マリオネットアーチャー】の足元へと落ちた。

 訝し気にそれを見つめていた【マリオネットアーチャー】はこちらへと無防備に近づいてくる。ある程度まで近づいた段階でボクは二体の【マリオネット】の足元に偽装した泥濘の陣を仕掛ける。幸い、多少陣のサイズを拡張する程度で二体共納まった。【マリオネットナイト】が陣に入っていないのは残念だが、仕方がないだろう。

 

「アサルトストライク!」

 

 【マリオネットアーチャー】が今まさにボクの潜んでいる小屋の影を覗きこもうとした瞬間、ボクは溜めた盾を【マリオネットアーチヤー】の顔面に突き出した。頭部に値する部位が吹き飛び、光の粒子となって消滅する。やっぱり人形でも頭部は弱点なのか。正拳突きで頭部を吹き飛ばした経験が活きた。まぁ、あれは偶然だけど。同時に【マリオネット】二体の足元に仕掛けていた泥濘の陣が発動し、【マリオネット】の膝から下を沈める。

 

 躍り出るようにして飛び出したボクを迎えるのは想像通り【マリオネットナイト】。拾っておいた小石を投げてみるが、その手に構えた盾で弾かれた。やっぱりナイトは伊達ではない。

 

「せーっのっ! アサルトストライク!」

 

 ゴリ押しのアサルトストライク。それを盾を構えて受け止める体制の【マリオネットナイト】。盾同士が衝突し、激しい火花が散る。

 ゆらり、と【マリオネットナイト】の姿が揺れる。

 流れるように逸らした相手の盾が光を放ち、片手剣を構えた【マリオネットナイト】がゆらり、とボクの懐に飛び込んでくる。これが盾の初期武技のパリィングスラストか! 凄い! 欲しい!

 

 咄嗟に腰から抜いたナイフを【マリオネットナイト】の顔に投擲すると、【マリオネットナイト】の剣の軌道が逸れて、ボクの隣に突き刺さった。危ない。その隙にアサルトストライクからの殴打コンボで【マリオネットナイト】を光の粒子へと変える。

 

 残りはもう簡単だ。ようやく泥濘の陣から抜け出したマリオネット二体を正面から叩きのめす。これでベースレベルが1飛んで7。陣術が6になった。そして盾が3に自衛の心得が5かな。盾と自衛の心得の相性の良さが凄い。この世界の人の言葉を借りるなら女神様の導きだ。

 

 まずは庭園を中心にマリオネットたちを討伐していく、スキルがボク自身に馴染んでいく感覚。危うかったのは最初の一戦だけで思ったよりも順調だ。なによりこいつらはAIが弱いというか、行動が単純だ。こちらで誘導してやれば泥濘の陣にもハマるし一掃するのも楽だ。ただし、パーティー単位というか複数で群れるので油断は出来ないが。

 

 ユラ Lv9 性別:男 称号:なし 

【陣術】Lv8 【テイミング】Lv1 【自衛の心得】 Lv6 【盾】Lv5 【投擲】Lv1

 

 庭園での狩りでの成果はこんな感じだ。

 装備補正込みの詳細ステータスはややこしくて好かんのですよ。というかLv上がっても素の能力がちょっとしか上がんないのはステータスインフレ防止的ななにかなのかもしれない。ボクが昔やってたゲームなんてサービス開始時の最強装備最大レベル時での最高ダメージとサービス開始一年後の最強装備最大レベル時での最高ダメージの差、一千倍とかあったからね。この業界と数値インフレは切り離すのが難しいのです。

 

 というかナイフ投げてたら投擲覚えた。意味が分からない。あの、短剣スキルは……。【マリオネット】ドロップのナイフが八本ほどまで増えたから嬉しいんだけどさぁ! ナイトもアーチャーもドロップなかったのにぃ!

 まぁ、そんなことより盾ですよ! 盾! 陣術がLv5で新しい陣を覚えたから期待してみたらやっぱりあったよ!

 

盾 Lv5 盾を用いた武技が使用可能になる。取得武技:アサルトストライク ショックウェイブ 

 ショックウェイブ:盾から衝撃波を発生させて広範囲を攻撃する。

 

 うむ。パリィングスラストでも良かったんですよ? って思ったけど衝撃波だ。やだ、カッコいい。これはもうやるしかない。ということで中に入りたいんだけどこの館、どこから入ればいいの? 玄関どこ?


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。