クエストだらけのVRMMOはお好きですか?   作:薄いの

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Quest6

 疾風の大盾 Rank3 風の属性を帯びた大盾。重量軽減の補正が与えられている。 耐久:300/300

 

 やっぱり鈍器だ。ボクは悟った。ナマクラな刃物を使ったところでマリオネットみたいなタイプには通じない。殴ったほうが早いのだ。

 というかこのマリオネットから奪……ドロップした大盾が凄い。まるでボクの一部となったかのように馴染む。レアドロップみたいだけどRank3ってこんなに凄いの? それとも別のなにか理由があるの?

 疾風の大盾を構えたままダッシュ。飛来した矢を盾で弾き、そのまま【アーチャーマリオネット】の胴体に叩き付けた。

 

スキル「盾」を取得可能です。取得しますか? Y/N

 

 来た。迷わずYESを選択する。というか本気でなんなんだ。盾よりナイフの方が時間で言えば明らかにボク使ってたのに。思考を巡らせながら、起き上がろうとした【マリオネットアーチャー】に地面から掬い上げるようにして球体関節の膝に大盾を叩き付けた。再びゴムボールのようにマリオネットが弾け飛ぶ。盾楽しい。凄く楽しい。

 

 倒れ伏した【マリオネットアーチャー】に盾の底部を叩き付ける。右肩、左肩を強打。これで反撃の心配もなくなった。最後に首に大盾を叩き付けてフィニッシュ。弓がドロップするかと思ったがそもそもドロップがなかった。ぐぬぬ。あ、そういえば盾の武技使ってない。

 

 ログを見てみたらボクのレベルが5になって陣術のレベルも5になっていた。あと自衛の心得もレベル3に、やっぱり戦闘系スキルはスキルレベルがレベルを上回ることはなさそうだ。あ、というか新しい陣術覚えてるし!

 

陣術Lv5:敵味方に様々な効力を及ぼす陣を発生させる。取得術理:泥濘の陣 巧妙の陣

 巧妙の陣:陣内で使用したアイテムの制限を軽減し、効果を増幅する巧の力を与える。

 

 うーん。便利そうだけどなんかパッとしない。安全地帯で敷いてポーション飲むくらいしか使い方が思い浮かばない。戦闘中に敷く余裕はあんまりないかもしれない。爆弾みたいなアイテムがあれば活用できるかも。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 予想以上に大盾の扱いにハマってしまったらしい。

 斜めから流れてくる木刀を大盾で受ける、力の抜けたタイミングに合わせてボクは疾風の大盾に力を籠めた。

 

「アサルトストライク!」

 

 両足から尋常ならざる力が沸いて、ボクを動かす。

 一歩二歩、そして三歩目でボクは大盾を真っ直ぐ前に押し出した。

 重苦しい音と共に疾風の大盾が真紅の光を宿し、空を裂く。

 外した、かぁ。

 

「ほぉ。見事なものだな」

 

 思わず溜息を吐くボクに声が掛けられる。

 

「ボクの記念すべき初武技だったんですから受けてくれてもいいじゃないですか」

「あんなもの喰らえば骨が折れるでは済まない気がするんだが……」

 

 アサルトストライク。これがボクの盾スキルの初期武技らしい。非常に攻撃的だ。素晴らしい。まぁ、アドルさんはげんなりしながら肩を木刀で叩く。狩人なんだから根性見せてください。

 

「というか盾で最初に身に着ける武技はパリィングスラストだぞ」

「……はい?」

「受け流し、敵の懐に潜り込む武技だ」

「この武技、全然受け流してないですね」

「あぁ。ぶっとばす気は満々みたいだけどな。まぁこれも女神の導きだろう」

「女神の導きですか?」

「……そうか。お前は渡りびとだったな。忘れていた」

「いやいやいや、忘れないでくださいよ」

「そうだな。女神の導き、なんといえばいいのか、あぁ、お前、その盾を持っていてどう思う?」

「使いやすいです。気持ち悪いくらい」

「だったら、これを使ってみろ」

 

 アドルさんは木刀をボクに向かって放り投げる。

 放物線を描いて飛んできたソレを慌てて掴み上げる。うむ、普通の木刀だ。

 

「振ってみろ」

 

 素振りの要領で幾度か振ってみる。うん、やっぱ普通。

 

「へったくそだな」

「う、うっさいです!」

 

 自棄になってアドルさんに向かって木刀をぶん投げるが指先で摘み上げるようにそれは持ち主の手に帰って行った。

 

「スキルは取れそうか?」

「流石にそれは……時間を掛けないと」

「だろうな。だが、お前は盾スキルはすぐに習得しただろ。そういうことだ。それが女神の導き、お前の才気の顕れ、今回はアタッカーとしての盾へと女神が導いたということだ。つうかお前ちっこい割りに凶暴だよな」

「余計なお世話です。……というか、女神様ってなんなんですかね」

「おいおい、そんなこと神父の爺さんに聞かれたら大目玉だぞ。まぁ、女神に愛されるほどこの世界では得だ。渡りびとは間違いなく愛されてる。先天性スキルだったか? 俺らは一握りのヤツら以外、そんなものを持たずに生まれてくる。更には目を見張るレベルの上昇に成長速度、こんなんが大量に居るなら冒険者の先達どもは気が気じゃねぇだろうよ」

「敬ってくれてもいいです。将来の大英雄になるかもしれませんよ」

「くくっ。お前は小生意気だし女みてぇな顔のガキンチョだが嫌味がない。まぁ、なるにしてもまだまだ先だ。上には化け物みてぇな連中が大量に居るからな」

「女みてぇなって……そういえばラティアちゃんがやたらとボクに絡んでくるわ女の子扱いするわで納得いきません」

「そりゃあ……アレよ、俺を良く見てみろよ」

「はい」

 

 ふむ、アドルさんは彫りは深いし、それなりにカッコいいのではないだろうが。

 二十代後半にしては割とオッサンだけど。

 

「お前と違ってイケメンだろ?」

 

 地面を蹴る。一、二、そして距離を詰める跳躍。

 背後に捻るようにして溜めた大盾を突き出す。

 

「アサルトストライク!」

「ぬおっ!?」

 

 手ごたえは、ない。

 オッサンのくせに素早い。オッサンのくせに。流石にボクの二倍近く歳喰ってるだけはあるのだろうか。

 

「お前、おっそろしいガキンチョだな! ちょっとした冗談だろうが」

「いえ、アイテムの効果を上昇させる術理を習得したのでポーション辺りで試してみたいな、と」

「俺に怪我して実験台になれっつってんのか!?」

「そんなことないです。結果的にそうなってしまったら試してみたいだけです。勘違いしないでください」

「本当にお前ってやつは……」

 

 会話が途切れる。ボクは疾風の大盾をインベントリに放り込み、なんともなしに肩を押さえて腕をくるくると回す。

 

「そういえば、そろそろ予定を早めて人形遣いのダンジョンに行こうと思います。今日戦った連携してくる人形が外に溢れれば面倒なことになります」

 

 個人的にはもうちょっと鍛錬していたかったが、思ったより時間は残されてなさそうだ。

 

「……ま、お前がしくじっても俺らでダンジョン内の雑魚共の数を減らすくれーは出来るんだ。怖気づいて逃げ帰ってきてもなんとかしてやらぁ」

「なんなら一緒についてきてくれてもいいんですよ?」

「おいおい、冗談言うなよ。お前、顔に「一人でやってみたい」って書いてあんぞ」

「……そんなことないです」

「嘘つけ」

 

 ぐぬぬ。バレてる。不安か楽しみかと聞かれればまぁ、確かに楽しみだ。というか、ダンジョンへの挑戦がぶっちゃけ楽しみすぎてどうしようもない。こういうあたりがガキンチョ言われる理由なのかもしれない。

 とりあえずは準備かな。ポーション作りだけは教わっていくつかストックを作っておかなくちゃ。


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