クエストだらけのVRMMOはお好きですか?   作:薄いの

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Quest50

 結論から言えば、入り直してもウインドウが再び現れることはなかった。

 ……別にいいし、ちょっとは覚えてるし。

 これは負け惜しみではない、ないのだ。

 

 もっとも、なんかが引っかかったらしいことくらいしか覚えてないけど。

 多分、祭壇の入口でスキル構成というか、キャラクターデータを読まれたのだとは思う。後、励起効果を保有するアイテムがうんたらかんたら。これに関しては本気で心当たりがない。あるとしたら、唯一のRank4装備である大火狐のローブくらいだろうけど、じゃあこれなのって言われたら正直自信がない。

 

 ――結論。

 最終的に選定者属性持ちとやらはかなりの数出ることになるんじゃないかな。

 殆ど直観だ。なんというか、ばらばらになったパズルのピースを当て嵌めているというか、なにかしらの要素の足し算を繰り返されている気がした。ある程度条件が割れれば、狙って先ほどのよく分からない枠に滑り込める気がする。潜り込んで得するのかどうかは知らないけど。まぁ、基本的にこういった要素はプレイヤーの人海戦術で割り出されるという無情な結末を迎えるので気にするだけ無駄かもしれない。

 

 気づくとコレットが眉を微妙に曲げながら大剣を虚空に振るっていた。

 なぜだかその表情は険しく見える。

 

「……なにやってるの?」

「ん? あぁ、いや、なんでもない。気のせいだったみたいだ」

 

 困惑を浮かべながらコレットは手を止める。

 よく分からないが、コレットの気が済んだならそれでいいんだけど。

 

 ダンジョンというか、迷宮というべきか。

 四方を壁で包まれた土塊の祭壇はなんというか。こう、前進、後退、右、左でワンフロアずつ移動するタイプのちょっと珍しいタイプのRPGみたいになっている。壁際には時折土の塊や、大き目の石が転がっており、このダンジョンに出現する魔物の性質を分かりやすくボクに伝えてくれる。

 

「おぉ、なんか凄く初めてのダンジョン攻略みたい」

「……私の館も一応ダンジョンだったんだがな」

 

 微妙に寂しげな顔をしたコレットがボソっと言葉を零したのを聞いて、今更ながらに思い出す。あれも一応ダンジョンだけど……微妙な気が。

 館内の侵入経路が窓だったり、大量に魔物を惹きつけて範囲攻撃でまとめ狩りするわであんまりアレはダンジョンアタックって感じがしなかった。というか、バックストーリーが血生臭く、微妙に後味が悪くて、ボクのテンションが削られたのも大きい。

 

「……ん?」

 

 などと考えごとをしていると行く手に広がる左右の通路の内、片方からずっしりとした岩石で出来た一本の柱が飛び出て来た。よく見ればその柱の先からは指のようなものが五つに枝分かれしている。

 通路の端からソレはゆっくりと姿を現す。

 

ストーンアームゴーレム Lv17 状態:敵対

 

 巨大な岩を寄せ集めて作り上げたような無骨なゴーレムは図体の割りに明らかに長すぎる腕を引きずりながらこちらへと近づいてくる。

 

 ゆらり、と。

 ストーンアームゴーレムの肩と思わしき部分が一瞬だけ揺らいだ気がした。

 次の瞬間、巨大な図体が天上近くまで跳び上がった。

 

「……えっ?」

 

 その肩越しに背後に回されていた長い腕に真紅の光が集い、なんらかのスキルの効果が発揮されているのが一瞬だけ見える。

 抜き放たれたのは空中からの高速の鞭、というかチョップである。ゴーレムの数百キロ単位はあるであろう岩石の腕が高速で迫る。

 

 ボクが慌てて振り下ろされるであろう岩石の腕の真横に付ける形で大盾を地面に突き立て、ボクの背後にコレットを引き込み、盾にすっぽりと隠れる形でコレットに体勢を下げさせると同時、爆撃でもされたかのような轟音が響き渡り、盾に無数の小石が衝突する甲高い音が続いた。

 

 詐欺だろうこれは。

 腕が長い以外はどう見ても防御力重視っぽいゴーレムなのに、実際は超攻撃的じゃないか。この決して高くはない天井のギリギリを跳んでくる辺りもなんか理不尽さを感じる。

 

「マトモに受けたらコレットでも一撃で蒸発しそう」

「……主は私を一体なんだと思っているんだ……?」

 

 ――耐久体力お化け。

 

 それはともかく、だ。

 腕の振り下ろされた場所から瓦礫を踏みしめる音が聞こえる。

 その巨大な図体を再び表したストーンアームゴーレム。だが、少しだけ先ほどと様子が違う気がする。微妙に動きがぎこちないというか。……なんだろう、これ。

 

 その時、がこん、と異音が聞こえた。

 続いてもの凄い音を立てて、両腕が砕け散った。……そう、砕け散ったのだ。――ストーンアームゴーレムの腕が。

 顔らしき場所にある、緑色の鉱石、瞳の代替となっているものが両腕のあった場所へと向かう。

 

「もしかしてあの腕は使い捨てなのか?」

 

 んな馬鹿な。

 と、コレットに言えたらどれだけ楽か。あの強烈な攻撃で腕が使い捨てって色々と歪すぎる。というか、初撃で仕留められなかったらその時点でメインの攻撃手段がなくなって詰むってどんな博打魔物だ。流石にそれは……。

 

 ……と、腕をなくしたストーンアームゴーレムが体当たりと踏みつけをメインの攻撃手段にするまでは思っていたのであった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 正直、感知系スキルなどのサブスキルを持ってたほうがこのダンジョンは攻略しやすいと思う。

 

 現在までに遭遇した魔物が、ストーンアームゴーレム、ストーンゴーレム、マッドゴーレム。Lv帯で言えば15~18くらい。そして、中、小型モンスターでクレイナイト、クレイアサシンの二種類だ。こちらは11~15と言ったところだろうか。多分ダンジョン全体でもうちょっと種類は居ると思う。というか、ストーンアームズゴーレムの存在が心臓に悪すぎる。ふと、振り返ってみたら両腕を振りかぶった状態でヤツが大ジャンプを決めていた時など本気で死に戻りを覚悟した。

 

ユラ Lv29 性別:男 称号:灯火の巫女姫 

所属ギルド:トーチ(Master) 

【陣術】Lv23 【テイミング】Lv18 【自衛の心得】 Lv20 【盾】Lv21 【投擲】Lv19 【精霊術:灯火の巫女姫】Lv1 【調薬】Lv6

使役魔物:リビングドール:ヴァンパイア

 

 プレイヤー自身の経験値としての稼ぎとしてはそれほどでもない気がする。

 その代わり、スキルの成長は悪くない。ジャンピングチョップしてくるヤツを除けば盾で受けて自衛の心得を意図的に伸ばせるというのがある。それに、瞳となる鉱石や、コアを破壊する際に投擲を用いるのが多いのでその辺の伸びも良い。特に投擲の伸びが美味しい。スイさんのような弩スキルほどの威力は望まないが、それなりに威力がないと、ゴーレムの瞳のような部位を投擲で破壊しづらいのは間違いない。やはり、投擲のスキルが底上げ出来たのはありがたい。

 

 そして、大事なのがこっち。

 

コレット・テスタリア リビングドール:ヴァンパイア Lv29(59) 性別:♀

【エルダーヴァンパイア】 Lv29(55) 【瞬身の心得】 Lv29(45) 【重撃の心得】 Lv29(40) 【精霊剣】 Lv29

 

 なんかレベルアップしてた。

 元の数字をメモしてなかったら多分スルーしてたと思う。

 ベースレベル58からベースレベル59へ。そして、ついでに重撃の心得も一つ伸びている。多分これはずっとゴーレム叩き壊していたからだろうが。ついでに使用不可だから今は関係ないけど、精霊剣スキルが完全にアンロックされている。良かった。分割された経験値はどっか消えてる訳じゃなかったんだ。

 

 あと30レベル、あと30レベルでフルスペックコレットなんだよね。

 ちょっとモチベーションが上がった気がしないでもない。というか、精霊剣スキルが機能してない時点でフルスペックかどうかは怪しいけど。あと、リビングドール・ヴァンパイアっていう種族事体が本来のエルダーヴァンパイアっていう種族の力を勝手に引き下げてるらしいけど。……なんでこの子、変な枷だらけなんだろう。RPG序盤で100レベルにならないと必要レベルが足りなくて力を発揮出来ない伝説の剣を拾った気分だ。いや、でも――。

 

「……伝説の剣と呼ぶにはちょっと頼りない……?」

 

 こう、慢心系というか。最期の最後に痛恨の一撃を受けてダウンするような……? なんだかんだで平凡系主人公にやられるチンピラみたいな気風を感じるというか。なんなんだろうね、これ。

 

「よく分からないがなんとなく立場的な危機感を感じる。……いや、まさか、そんなはずが……」

「……あぁ、加入時から初期ステータス高いけど後半になって強くなるキャラの方が便利でなんだかんだで使わないままクリアされちゃうRPGの残念キャラクターみたいな」

「主がリリア様のような目で私を見ている……」

 

 おぉ、なんだか凄くすっきりした。

 少し靄の掛かっていた頭の中が晴れていく。

 というか、リリアみたいな目ってどんな目だ。よく分からないが良いことじゃない気がする。というか、コレットが時々思い出したようにリリアリリア言うとなんとなくむっと来るのはなんなんだろうか。……面白くない。

 こういう時、結局自分は性格が良くないんだと自覚させられて自己嫌悪に陥りそうになる。……怒るとすぐ手が……というか、足が出るのはやっぱりおばあちゃん譲りなのだろうか。

 

 幾度か戦闘を挟みながら、ダンジョンを進んでいくと一際ボクの目を惹くものが視界に入る。

 

「……扉? なんで扉?」

 

 行き止まりになっている壁になぜか無骨な鈍色の扉が設置されている。

 そのやたらと重量感のある扉は石造りの迷宮の中では一際異彩を放っており、一言で言えば浮いていた。

 

「扉……? 一体なんのことを言っているんだ?」

「えっ、あるじゃん。あそこの壁のところに」

 

 ボクが扉を指指すが、コレットは首を傾げるだけ。

 一体なにが起こっているのか。

 ボクは、若干慌てながら扉の設置された行き止まりまで駆け、再び扉を指す。

 ついでに、軽くノブを捻って見る。鍵は掛かってないみたいだ。

     

「こ・れ! 見えるよね!?」

「……いや、壁だろう」

 

 どうなっている?

 ボクには見えて、コレットには見えていない。この差は一体?

 渡りびと、レベル、スキル構成、それとも……?

 

 試しにコレットの手を握り、扉まで引っ張って――。

 

「いや、待ってくれ主。見えたぞ。この鉄の扉だろう?」

 

 訳が分からないという体のコレットが目を細めながら言う。……まさかとは思うが、コレットの手を振りほどいてみる。

 

「……見えなくなった」

 

 握ってみる。

 

「見えるようになった」

 

 どうやら、見えるようになるためのなにかに引っ掛かっているのはボクの方らしい。だが、身体的接触で視認出来るようになる。これは一体……。

 

 ……もしかしたら、システム的な同一視となにか関係あるのかもしれない。それは、例えばボクとスイさんがパーティーを組めばシステム上はそのパーティーにはコレットは含まれず、ボクとスイさんの二人しかカウントされない。言い方は悪いが、ユラというプレイヤーがコレットというアイテムを所有しているイメージ。……ん、なんか微妙に引っかかるものがあるような、そうでもないよう。まぁ、思い出さないってことはたいしたことじゃないんだろう。

     

「というか、コレット、遅い! 早く行こうよ!」

 

 ボクは先ほどから扉の先が気になってならないのだ。

 ボーナスステージか? ボーナスステージなのか?

 これ見よがしに宝箱が安置されている当たり部屋かもしれない。

         

 しきりに関心しているコレットの掌を左手で握って引っ張ると、コレットは爪先でよろけるように歩いて着いてくる。

 ……半ばコレットを引きずるようで、重い。

    

「しっかり自分の足で歩いてくれないと重いんだけど……」

 

 ボクが振り返ると、コレットはなぜか呆然とした顔付きのまま、動かない。

 ……なに?

 

「――あの時も同じように、私は手を牽かれて――。やはり似て――。この強引な小さな掌に私はずっと―――」

 

 なんだかコレットが遠いどこかにトリップしてる気がする。

 

「歩けぇぇぇ! コレットォォ!」  

 

 地面にコレットの踵の跡を付けながら引きずる。

 なんでボク、こんなことやってるんだろ。

  

「……自分の足で歩く、か。……済まない主。もう少しだけ、もう少しだけ私の手を牽いていてくれないか」

「……よく分からないけど、なんかセンチメンタル入ってる?」

「そういうのは口に出して尋ねたら色々と台無しになるとは思わないか、主」

 

 ……ごめんね。空気読むのヘタクソで。

 なぜかジト目で見てくるコレットからそっと視線を逸らした。

                          


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