クエストだらけのVRMMOはお好きですか?   作:薄いの

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Quest36

「んー……」

 

 ぼんやりとボクは考えごとをしていた。

 掌で新たに拾った宝石を転がし、ぼんやりと虚空を眺める。

 

「どったの巫女っち?」

「……なんだかスッキリしません」

「スッキリしないって……なにが?」

「話が噛み合いません」

 

 

 世界の門は繋がった。その先は喪われた世界。悪魔に奪われた世界。

 世界を渡る術を持つ渡りびとよ。囚われたのは白のアリス。

 敵対するはアリスシャドウ。幾多の英雄を屠りし、黒のアリス。

 黒のアリスは強者を好む。世界の扉は強者を求める。強き者よ、心せよ。黒のアリスは強者である。弱き者よ、心せよ。戦いは決して一つではない。

 

 

 これに嘘がないと仮定するなら、おかしい部分がある。まず一つ、シロは宝石で悪魔を食いとめていると言った。つまり、この世界は弱い魔物こそ出現するが、"まだ悪魔自体には奪われていない"のだ。その旨をスイさんに伝える。

 

「うーん、確かに。あ、でもでも、弱き者のくだりは分かったよ」

「えっ、分かったんですか?」

「うんうん。この森のあちこちに刺さってるトランプ、きちんとターゲットして確認するとLv10のトランプの兵隊を召喚する触媒になってるんだよね。だから、レベルが低くてもこの森は攻略できるみたい」

「トランプ回収しておきます……?」

「引っこ抜いて何分かで自然消滅しちゃうんだって。あくまでここ限定のお助けアイテムみたい。それに私たちだとわさわさ召喚しちゃうと邪魔だし誤射しちゃうしで要らないよね」

 

 確かになぁ。

 あくまで初心者用の救済措置みたいなものか。

 

「いや、でも、トランプの兵隊を大量に率いて黒アリスに挑むのもちょっと楽しそうですね」

「もうそれ国盗りシミュレーションみたいになってないかな……」

「騎馬隊とか鉄砲隊も作りましょう」

「巫女っち帰ってきて! ここはVRMMOなんだよぉ!」

 

 いかん、つい脱線した。

 いやでも、それはそれで楽しいとは思うんだけどな。

 

「あっ、見っけた!」

 

 スイさんがパタパタと走って、背の低い草に紛れて落ちていた宝石を拾い上げた。よく見ると、周囲の地面には無数の焼け焦げや、木々に鋭い斬撃の跡が残っている。――戦闘跡、これは、そう言って差し支えないだろう。

 

「よくよく考えてみるとこういう場所でばっかり宝石拾いますね」

「そうかも。見た感じ、宝石のある場所には結構共通点があるね。私たち以外でも戦闘があった場所で良く見つかるみたい」

 

 戦闘があった場所で見つかる……かぁ。

 ボクが再び考え込んでいると、視界の端で真紅が複数瞬いた。

 

「スイさんっ!」

「にゃっ!?」

 

 ボクはスイさんの胴を片手で抱いて背後に跳躍する。

 それと同時に先ほどまでボクたちが居た場所に六つの火球が降り注ぎ、地面が僅かに抉れる。

 

「な、なーんだ。てっきり巫女っちがとうとうスイさんの抗いがたい魅力にやられてしまったのかと……」

「この世界でも花壇の土みたいなのって売ってますかね」

「埋める気満々だ!?」

 

 樹上から一対の真紅の瞳がボクたちを見下ろしている。

 

「……やぁ、クロ」

 

 ドレスを風に揺らしたクロが掌をこちらに向けていた。

 だが、クロは一言も言葉を発しない。

 ただただ、無機質の瞳をこちらに向けるだけだ。

 

アリスシャドウ Lv30 状態:敵対 ◇:Special Character

 

 反応がない。

 ……うん? クロで合ってるよね?

 

「――在るがままの火よ。六つの弾丸の力を以って打ち据えよ。ファイヤーバレット」

 

 掌は相も変わらずこちらに向けたまま、クロの掌を中心に六つの火球が纏わりつくように発現した。

 

「……シュート」

 

 うち一つの火球が飛翔中に指先大のサイズから人一人を飲み込むようなサイズへと膨れ上がりながらこちらへと飛んでくる。

 ボクはスイさんを庇う形でそれを避け、後に着弾した火球が炸裂した。

 

「シュート、シュート、シュート」

 

 新たに三つの炎の弾丸がボクたちに向けて放たれた。

 

「衰魔の陣!」

 

 スイさんの目前に展開する形で衰魔の陣を張り、三つの火球が陣を通過した。

 火球は陣を通過した瞬間から、威力を一気に弱まる。

 

「ショックウェイブ!」

 

 ボン、と子気味の良い音を立てて、三つの火球が弾けて、消えた。

 衰魔の陣を掛けてからならショックウェイブで十分蹴散らせる威力だ。少しだけ安心する。

 

「シュート、シュート。穿つ土よ。地より育みし息吹によりて――」

 

 新たに二つの火球を放ち、詠唱を初めた瞬間、クロの頬すれすれを一本の矢が通過し背後の大木に突き刺さった。

 

「失敗、外しちゃった」

 

 スイさんがぺろりと舌を出しておどける。

 詠唱が止まっただけ全然アレは有効打だ。こういったゲームのお約束として、詠唱が中断された場合、初めからやり直しだ。ボクは大盾を振りかぶり、全力でクロに向けて投げた。

 

「っ!?」

 

 流石にこれには驚いたのか、クロは目を瞬かせて木から飛び降りた。

 

「イリュージョニストシールド!」

 

 一瞬で視界が変わり、ボクはクロの真上に居た。

 握ったナイフを投げ放つ。頭を狙ったそれは、僅かに首を逸らしたクロの肩に深々と突き刺さった。

 

「……が……ぁ……! ば、万物を照らす光よ。癒しの力をこの手に。ヒーリングハンド」

 

 突き刺さったナイフを引き抜いたクロはナイフを投げ捨てると、傷口に光を放つ手を押し付けた。次の瞬間、傷は跡形もなく消え去っていた。

 そして、憎々し気な紅の瞳をボクたちへとぶつける。

 

「切り裂く風よ。暴風を束ねて編みし竜巻よ! その咢にて眼前のものを噛み砕け! テンペスト!」

 

――瞬間、竜巻が巻き起こる。

 

 着地と同時に、ボクは竜巻に巻き込まれ、再び宙を舞う羽目になる。

 ボクの肌を暴風が裂き、漏れ出した血液によって、竜巻に時折赤いものが混じる。ダメージ自体はそれほどではないのだ、問題はこれが恐らくはドットダメージ、つまりは時間単位の継続ダメージと束縛の効果を織り交ぜた攻撃であることだろう。

 

 駄目だこれ、空中コンボ叩き込まれるパターンだ!

 

「衰魔の陣!」

 

 ボクを巻き上げていた竜巻の威力が一気に弱り、再びボクは地面へと落下していく。

 

「――穿つ土よ! 地より育みし息吹によりて敵を貫け! ピラープラント!」

 

 地面を割って出てきたのは木の根だった。根は先端に鋭さを宿し、ボクを害するべくこちらに狙いを定めている。――これはマズい。

 次の瞬間、ボクを目がけ、飛んでくる巨大な根の中心に巨大な穴が開いて、よろめくように中心から折れた。

 

「セーフ!」

 

 振り返れば、そこには一台のバリスタ。

 もう修理してたんですか、それ。仕事が早いとしか言えない。

 着地したボクは両手にナイフを握り、投げ放つ。新たにストレージから取り出したものを追加で更に二本。

 

 命中したのは、よろけるように避けたクロが庇うように掲げた両腕に二本ずつ、腹部に一本、左足の膝に一本。

 

「……覆い隠す闇よ。この場に小さき漆黒の帳を降ろし、安息の地へと誘え! ダークフォグ!」

 

 クロは掌を一閃した。

 それと同時に漆黒の靄が放たれ、広がり、周囲を靄で染める。

 闇討ちなんてされても溜まらないので、ボクは靄が広がる前に盾を回収しながら後退し、スイさんの居る場所まで戻り、周囲を警戒した。

 

「……居ないね」

 

 靄の晴れた先には誰も居なかった。

 どうやら逃げられたらしい。――ん、逃げた? 一体何故?

 

「……そうですね」

「じゃあちょっと感じたことを話そうか」

「……ですよねぇ」

「――うん。まず、さっきのは黒アリスだけどクロちゃんではないよね?」

 

 スイさんはいきなり核心とも言える部分を指摘した。

 そう、アレをクロと呼ぶには余りにも戦闘スタイルに差がありすぎた。

 

「まず可能性を一つ、黒アリスは元々複数用意されていた。二つにアレは誰かが成り済ました偽物……っていうのは厳しいかも。きちんとアリスシャドウって表示されてたし」

「……複数用意されていたっていうのはありそうなんですよね。この森って広いですし、でも、アレは変ですよ」

「どこらへんが?」

「あの黒アリスは逃げました」

 

 というかナイフが刺さったまま逃げられたからナイフが四本どっか行っちゃったんだよね。ぐぎぎ……勿体ない。

 

「そりゃ劣勢になったら普通は逃げない?」

 

 そう、黒アリス以外だったら逃げてもおかしくはないのだ。

 だが、黒アリスだけは別なのだ。

 

「黒アリスはリスポーンの権限持ちです。やりあって負けたのならそれはそれでいいはずなんです。むしろそこまで追い詰められたなら死力を尽くして掛かってくると思ってました」

「まぁ、確かに襲ってきたくせに逃げ帰るような権限じゃないよね」

 

 スイさんとボクが揃って首を傾げる。

 こう、パズルのピースが足りないというか、それでも、後一歩のところまでは踏み込んでいるとは思うのだ。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 次の日にログインするとボクの傍に光の粒子が漂っていた。なんだろうと思っていると、それが人型を形作り、コレットとなった。どうやら四十八時間経ったらしい。

 

「正直済まないと思っている」

 

 土下座だった。無駄に手馴れているというか、土下座慣れしているというか、言い知れないような微妙な気分になったのでただただジト目だけを送った。

 

 十分ほど口も開かず、淡々とジトっとした視線だけを送っていると、コレットが頬を紅潮させて、息を荒くしていた。見ていると気持ちが悪いので終わりにする。

 

「……あんまり心配かけさせないでよね」

 

 黒アリスについて言わなかったボクの責任も少しだけ、すこぉしだけ、存在しているかもしれない。でもまさか、言う前に本人を捕まえてくるとは夢にも思わないだろう。

 

「勿論だ」

「……信用ならない」

「行動で示そう」

 

コレットは無駄に澄んだ瞳をしていた。

 

「……じゃあ、これと似たような宝石を集めに行くから支度して。それと今はスイさんって人とパーティー組んでるから仲良くしてね」

 

 ストレージからいくつか宝石を取り出して、そのうち一つをコレットの掌に乗せる。残りの宝石を掌に乗せて弄ぶ。

 

「―――少し、聞いてもいいか?」

「んー?」

 

 なぜかコレットが真剣な面持ちで話しかけてくる。

 一体なんだろうか。

 

「主はなぜ魔導魂核なんてこんな忌まわしいものを集めているんだ?」

 

 コレットの言葉に頭の中が真っ白になる。

 弄んでいた宝石が掌から零れ落ち、床にぶつかって涼やかな音を立てた。

 

 

 

 ユ※さんがアリスの特殊権限、嘘吐き(ライアー)を看破しました。消失条件、"一つ以上の嘘の看破"が満たされました。アリスの特殊権限、嘘吐き(ライアー)が消滅しました。連鎖的に全ての嘘吐き(ライア―)の適用された情報が看破されます。

 

 アリスの宝物に施された嘘が看破されました。

 これよりアイテム情報が正しく表示されます。

 

 アリスに施された嘘が連鎖的に看破されました。

 これよりユニット情報が正しく表示されます。

 

 クエストページに施された嘘が連鎖的に看破されました。

 これよりクエストページが正しく表示されます、

 

 ◇白のアリスの探し物

  悪魔に囚われ、堕ちてしまったアリス。

  アリスは嘘の力でアリスシャドウに成り済まして悪魔に捧げる魂を集めます。

  堕ちたアリスに倒された存在は魔導魂核をドロップしてしまいます。

  アリスが魔導魂核を回収するのを阻止しましょう。

  現在回収された魔導魂核の総数 3803

 

 魔導魂核の回収の阻止に成功しました!

 回収された魔導魂核の総数3803個。回収された魔導魂核5000個以内のクリア! 特別報酬:女神の守護の祈り

 女神の守護の祈りは現在使用不可能です。ストックします。

 

 Event Quest『嘘吐きアリスと魂喰らいの悪魔』。達成! 

 Event Quest『白のアリスの探し物』。達成! 




次回、補足を兼ねた掲示板予定

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