クエストだらけのVRMMOはお好きですか?   作:薄いの

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Quest31

「……「Alice」。……間違えた、ユラ。そろそろクロと勝負して欲しい」

 

――そんなん、死ぬわ。

 

 思わずそう言い返したくなるのを堪えて走る。

 火力が、火力が足りない。コレットがさっくりと戦線離脱しなければ十二分に戦えたと思うが今のボクでは厳しい。いや、ギリギリ行けるのだろうか。どちらにせよ、ようやく勝ちの目を拾えた。

 

 スカートが翻り、ボクの頭上に舞い降りる。

 慌ててボクが避けた後の地面にはクロの踵がめり込んでいた。木々を利用した三角跳びからの踵落とし。もはやなんでもありか。いや、救いは術式の類を使ってこないということだろうか。もしかしたら武器スキルと心得スキルでスキルスロットの大半が既に埋まっているのかもしれない。

 

 大木の幹に何度か目印代わりに見つけていた、小さな切り傷が付いているのが目に入る。見渡せば先には分厚い岩盤が突き出しており、ぽっかりと口を開けた特徴的な洞穴も顔を覗かせていた。

 足元の大岩を蹴り、跳躍。洞穴に向けて真っ直ぐに駆ける。

 

「っ!」

 

 背中に熱を感じる。左肩に一枚のトランプが突き刺さっていた。

 だが、今は気にしている場合ではない。

 

「ショックウェイブ!」

 

 途中ですれ違った鋭く突き出していた岩へと武技の衝撃波をぶつける。

 砕かれた岩の破片は、散弾となってクロへと襲い掛かった。

 

「……来て、フロート・シールド。セブンスシールド!」

「泥濘の陣!」

 

 クロの掌から僅かに浮くようにして現れた巨大なトランプ。あれはフロート・シールドといってかつてのボクが愛用していた盾そのものだ。重量が非常に軽いので扱い易く、盾でありながら、軽装ならば機動力をかなり保てる代物だった。

 同時に、クロを起点にして七枚の巨大なトランプがクロを庇うように大地に突き刺さり、強固な守護の陣と化して石飛礫を防いだ。

 

「……なっ」

 

 泥濘の陣が発動し、クロが踵から陣に沈んでいく。そもそもの話、見たところセブンスシールドとやらは泥濘の陣との相性が最悪なのだろう。自身の周囲にトランプの盾を展開するせいで、発動者の行動が酷く制限されるのだから。

 

 ボクはそれを横目に洞穴に飛び込んだ。鬼が出るか蛇が出るかは分からないが、試すだけ試してみよう。駄目ならここが決戦の舞台となるだけだ。

 

 洞穴の中は仄かに発光する不可思議な石が時折足元を照らしており、不気味さを発揮していた。その中を駆け足で進んでいると、とんでもないものがボクの目に入った。

 

―――バリスタという兵器が存在する。

 

 当然のごとく、ボクにそれ以上の知識なんてないのでなんとも言えないが、設置式のもの凄く大きな弩、それかクロスボウと考えていい代物だったと思う。

 確かに弩というスキルはチュートリアルの時にも武器スキルに存在した記憶がある。――正直流行らないだろうな、とは思ったけど。弓と違って、弩という武器は比較的扱いやすい武器だ。極端に言えば、トリガーを引けば使えてしまう。VRというジャンルにおいて、扱いやすいというのは長所であり、短所である。少なくない人間が自分だけのオンリーワンを、思い描く自分を求めている。プレイヤースキルという一点で誇りを持った人間が沢山居る。それ故に、弩は流行り難い。見た目の派手さに欠ける、装填に時間が掛かる。これらの要素もあるかもしれない。派手さを求めるなら長弓に、連射を求めるなら短弓に流れるだろう。だからといって、だからといって、だ。……コレはないだろう。コレは。

 

 破撃弩試作型十八式 Rank3 一撃必殺にロマンを見出した木工師が生み出した設置型の弩。非常に強力な代物だが、発射の反動に耐えきれず、耐久力が非常に低い。 耐久:30/30

 

 ――なんだこの異常に低い耐久度は。

 

 ボクの背筋を冷たいものが伝う。

 例外こそあれ、武器種や扱いにも依るが基本的に耐久度とは上限が高ければ高いほど耐久度自体の減り自体が少なくなる。つまり、最大耐久30とは運用出来るレベルの装備ではない。

 

「やっほー! 巫女っちゃん!」

 

 天真爛漫、そんな言葉が似合うような少女がそこに居た。

 肩まで伸ばした黒の髪になぜか青のベレー帽。なぜにベレー帽。

 しかも、両手一杯に小瓶やボトルを抱えている。でもこの子、どこかで見たような……。

 

「あっ、ワールドゲートの前で会った人」

「私のことを忘れるなんて酷いなぁ、巫女っちゃん」

 

 おどけて笑っている辺り冗談で言っているのだろう。

 どこか、気まぐれな猫のような印象をボクに与えた。

 

「巫女っちゃん、巫女っちゃん、ところで黒アリスちゃんは引っ張ってきてくれた?」

 

 やはり、この少女があの矢文を書いたのだろう。

 そうか、あの特徴的な矢は長弓でも短弓でもなく、弩の矢か!

 

「まぁ、引っ張ってきちゃいましたね」

「流石巫女っちゃん! んふふー、巫女っちゃんに申請送ったよー!」

 

 スイからパーティーに誘われました。

 参加しますか? 現在人数1/6 Y/N

 

 人からパーティーに誘われるのはなんだかんだで始めてだ。

 なんかちょっと嬉しい。ボクはリジェネレーションポーションで自身を癒しながら、勧誘を承諾し、少女、いや、スイさんに視線を向ける。

 

 スイ Lv16 性別:女 称号:なし

 

 レベルが低いのか高いのかはちょっと分からない。

 カツカツ、と洞穴を踏み鳴らす音がする。どうやらクロが追いついてきたらしい。

 

「ふふん、巫女っちゃんは見てて。後は私のターンだよ!」

 

 スイさんは床に小瓶やらボトルやらを並べて、一本一本それらを煽り出した。

 

 アタックポーション Rank3 錬金術によって生み出された一定時間物理攻撃力を引き上げることが出来るポーション。 

 射手の秘薬 Rank4 迷宮で稀に発見される秘薬。一定時間、射手としての技能を引き上げる効果があるという。

 竜泉の清酒 Rank4 とある酒に目がない竜がドワーフに作らせた、特殊な泉の水から作られた飲めば力が沸きあがるという清酒。

 魔毒の水薬 Rank2 潜在能力を引き上げ、最大MPを一定時間、十分の一まで引き下げる毒薬。

 

 がぷがぷとスイさんは大量の薬品とお酒を飲み込んでいく。なんか毒薬が混じってるんですがそれは。

 

「キタキタキター! うわーはっはっは! 私のSWOにおける全資産がこの強化時間に掛かっているぅ! バフアイテム高すぎるんだよこーんちーくしょー!」

 

 ケラケラと楽し気に笑うスイさんがバリスタを構えながら高笑いをかましている。やだ、この人怖い。

 ボクが密かに洞穴の隅っこで怯えていると、奥から黒い影がゆっくりと現れる。

 

「……ユラ、見つけた。今度こそ、勝負」

 

 やはりクロだった。だが、駄目だ。――今来ちゃ駄目だ。

 思わずクロにそんな情けを掛けてしまいそうな程、今のスイさんは恐ろしかった。そして、悪魔スイさんがクロを完全にロックオンした。

 

 悪魔スイさんは笑いながらトリガーを引いた。

 

「私の財布の中身と武器を生贄に捧げて、いっけー! 一撃必殺! オーバーズブロー!」

 

 結果として、轟音が響き、弾け飛んだ。

 なにがって、クロが。そして破城弩試作型十八式がバラバラに部品を四散させながら。耐久度を生贄に生み出された決戦兵器に大量のドーピングアイテム。これは、逃げ場のない洞穴という空間が生み出した新たな悲劇である。

 

――あぁ、コレット早く帰ってこないかな。


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