クエストだらけのVRMMOはお好きですか?   作:薄いの

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Quest30

 漆黒のドレスが舞う。

 クロの踵が捻じ曲がった樹木の幹を蹴り、クロ自身が物凄いスピードで跳ね飛んでくる。なんだその気持ち悪い動き。

 

 一歩足を引く。背後に引いた大盾の表面にトランプの剣が斜めに斬撃を加えた。

 

「……ループスラッシュ」

 

 上段に飛んできた横薙ぎの一撃を体を沈めて避ける。次に飛んでくるのは中段への斬撃だろう。一度この武技は見た。だからこそ、ゴリ押しが通じる。

 

「アサルトストライク!」

 

 中段の一撃に割り込むように盾を滑り込ませ、一撃を加える。――ボクはこれが正解だと思っていた。クロは頭上で構えたままのトランプに変化が現れた。何枚ものトランプが飛び交い、張り付き、一瞬にして形を変える。トランプで構成された大槌を見上げたボクの背に氷柱を差し込まれたかのように冷たいものが走った。

 

「……ヘブンズスマッシュ」

 

 咄嗟に大盾の底を蹴る。強引に上方へと軌道を修正させられた大盾がボクを庇う形でトランプの大槌と衝突した。力負けしているボクは盾を引きながら背後に大きくステップ、同時にクロが大槌を振りぬいた衝撃でガッツリと弾き飛ばされた。ボクはそのまま逃走すべく、背を向けて駆け出した。

 

 無茶苦茶だ。なにが無茶苦茶かって先ほどの武技が、だ。あの千変万化のトランプもズルいし、一体何種類の武技が使えるのかも分かったものではない。しかも、ボクの攻め手は相手が武技慣れしていないという前提だったはずだ。だが、実際はFSAにはない武技すら使いこなしている。

 

 一枚、二枚。

 一枚は左足の膝、二枚目は真っ直ぐに首へと向けて宙を駆けるトランプが静かにボクへと牙を剥いた。駆けながら跳躍、体を捻り、ナイフの腹で首を狙ったトランプを流す。流れのままに握ったままのナイフをクロへと投げつける。

 

「……逃がさない」

 

 ボクの雑な走りとは違って、流麗な動きでクロがボクを追い始める。

 わざと背の高い草木の茂る場所に飛び込めば、周囲の樹木を蹴り、くねる枝を渡るような動きまで見せている。

 

 あぁ、もうっ! これだから黒アリスは嫌なんだ!

 

 これもまた、誰かから学習してきたことなのだろう。

 戦いを繰り返すたびに、自身を最適化していく化け物。恐らくはステータスだけでも恐らく通常の30レベルヒューマンの数字よりも高いのだろう。打ち合った感触的に間違いないと思う。というか最近のボク、力負けしてばっかだな。どいつもこいつの素の能力が高いせいだ。

 

「……いく」

 

 ――猛烈に嫌な予感がした。

 

 振り返ってみるとクロが縦のサイズが成人男性一人分ほどはありそうな程に巨大なトランプを腰だめに構えている。あのモーションは……。

 ボクが慌てて地面に転がる。同時に放たれたトランプがつい先ほどまでボクの胴体があった場所を暴風を撒き散らし、木々を切り刻みながら蹂躙していく。

 

――どんな投擲だこれ!

 

 理不尽だ。フィクションに出てくるようなでっかい風魔手裏剣じゃないんだぞ、それ。――それに、だ。

 

「投擲っていうのは小回りの利くアイテムでクリティカルポイントを狙わないと高得点が出ないんだから無駄に当たり判定の大きいソレはボクたちハイスコアを狙うスコアラーとしては邪道だよ!」

「……それは、ゲームが違う。……やっぱり、貴方は「Alice」。とても、久しい」

 

 ここで、初めてクロが困惑の表情を浮かべた。

 

「……「Alice」、少し下手くそになった?」

 

 もしかして、ボクは喧嘩を売られているのだろうか。

 確かに何年も盾なんて使ってなかったし、得物も昔と比べて大分感触が違ってしまっているが、もしかしてボクは本当に弱くなったのだろうか。

 

「まさか、そんな……確かに一分一秒、少しでもポイントを上げるために試行錯誤してた頃よりは必死さが足りないような気がしないでもないような……」

 

 どうしよう。思い当たる節が結構ある。

 

「……今の「Alice」には根性、根性が足りない」

「そうか、根性……根性が……ってなんでさ!」

 

 なんでAIに根性論を語られねばならんのだ。もっとキミはシステマチックな存在だろうに。

 

「……だから、「Alice」はクロと正面から戦うべき」

「――お断りだよ。それにボクは「Alice」じゃなくてユラだっ!」

 

 クロに背を向けて走る。ショートダッシュからの跳躍で先ほどの巨大なトランプの傷跡残る木々を駆け抜けていく。

 

 シャドウウルフ Lv13 状態:警戒

 シャドウホーク Lv16 状態:警戒

 シャドウスネーク Lv11 状態:警戒

 

 全身を影で構成しているかのような珍妙な魔物が三体。

 背後から飛来するトランプを大盾を僅かに掲げて防ぐ。ボクは大木に突き刺さっていた目的のモノを回収し、三体の影の魔物を引き付ける。

 上空の木の枝からバネのように飛び出してきた【シャドウスネーク】をハイキックで跳ねのけ、狙いを定めて急降下してきた【シャドウホーク】を転がって避ける。草と土で汚れたボクへと【シャドウウルフ】が飛び掛かってくる。

 

「……今っ!」

 

 【シャドウウルフ】、【シャドウホーク】、【シャドウスネーク】の影が一直線に繋がる。その直線をなぞるようにして、ボクは大木に突き刺さっていたソレ――クロが投擲したアホみたいに巨大なトランプをぶん投げる。ボクの体が反動でよろめいた。トランプではあり得ない重量だ。本当になんだこれ。

 狙い過たずに放たれたソレは三体の魔物を両断し、背後の木々を再び蹂躙しだした。うむうむ、広範囲投擲を使うならやっぱり連続撃破ボーナスを狙っていきたいところ。いや、そんなものこの世界にはないけど。

 

 ふと、一瞬視界の端の樹上からなにかが見えた。多分、黒のミディアムヘア。それと同時にボクの足元に高速で飛来したなにかが突き立った。――矢だ。弓矢だろうか。だが、それにしては短い矢な気がするし、矢羽の形も奇妙だ。ボクは弓矢に詳しくないのでなんとも言えないけど。矢羽に絡める形で紙がくっついていたので広げてみる。

 

――直進1kmほど、灰の岩壁、横穴まで。

 

 ざっくりすぎて意味が分からない。あと字が汚い。


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