クエストだらけのVRMMOはお好きですか?   作:薄いの

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Quest27

 翌日、ログインしてギルドに向かうとなんだかどこか慌ただしい空気。

 血気盛んな、というか、ちょっと怯んでしまう程度に人々、特にプレイヤーの人たちが盛り上がっている。

 

「なんです、これ?」

「……いえ、昨日から堰を切ったように大量にルーキーが流れてきまして。ちょっとしたお祭り騒ぎになってるんです」

 

 ミーアさんはそう言いながらカウンターに肘を突いて溜息を吐いた。

 まさかこの街のワールドゲートが解放されたのだろうか。うぅん、まだこの街にプレイヤーの波が来るには早いと思ったけど予想以上かな。だとしたら、解放されたのはトルスの村、初期スタート地点のカルリアの街、そしてここ、リデアの街の三ヶ所かな? もっと解放されてるかもしれないけど。

 まぁ、ランダムとはいえ、カルリアの街から利用したなら予想が合ってれば二分の一の確立でこの場所に飛ぶことも出来るだろうし仕方ないかな。むしろ稼ぎ場のトルスの村を狙ってこっちに飛ばされちゃった人も居るかもしれない。

 ギルドの端では刀を腰だめに構えたプレイヤーと二本の剣を握ったプレイヤーが獰猛な視線を交わしている。

 

「なんか今にも殺し合いしかねない空気なんですけど」

「依頼の奪い合いとは過酷なものなんです」

「……ちなみに今手元でなに書いてるんです?」

「修繕費の名目であのお二人からどれだけ搾り取れるか……というただの皮算用ですね」

 

 仲裁する方向には努力しないのか。

 うーん、バイオレンス。

 

「ところでなにか丁度いい依頼ってありますか?」

「さっきまでの話の流れをサラっと流せるあたり、ユラさんも大物ですよね」

 

 だって興味ないし。コレットボクと同じ感想を持っていたようで、気だるげに一瞬プレイヤーに視線をやっただけだ。

 

「――不味そうだ」

 

 訂正。ボクと同じ感想ではなかったらしい。コレットはヒューマンを美味しそうか不味そうかの二択でしか見ていないのだろうか。少しコレットの将来が不安になる。

 

「それで、依頼なんですが、こちらも少々厳しいですね。下位の依頼を取れなかった渡りびとの冒険者がそちらを取ってしまったので……」

「……取れなかった冒険者がって……大丈夫なんですかね、それ」

「大丈夫では……ないですね。ギリギリ行けるかどうか、渡りびとは死に瀕するダメージを負うと近場の街に転送されるということで、そちらの方向では心配はしていないんですが」

 

 ボクの認識と齟齬があるな。死んだから転送されたのか、死にそうだから転送されたのか。まぁ、後者の方が受け入れやすいのは確かかもしれない。死んだけど蘇ったよりも死にそうだから飛ばされたの方がまぁ、受け入れられるだろう。

 

「結局のところ、彼らの信用の問題ですからね。依頼の達成率の低い冒険者にはとてもじゃありませんが護衛の依頼なんて出せませんから。その点、依頼からの逃走をするような渡りびとを護衛に出したリデアの支部では暫くは護衛の依頼は閑古鳥でしょうね。こちらも煽りを受けて依頼に指定が多く付くようになりました。指定って多く付くほどこっちのマージンが多く入るんですけどね。とても美味しいです」

 

 ミーアさんはどことなく邪悪な微笑みを向けてくる。

 

「な、なんだか少しだけミーアさんが怖いです」

「安心してください。私はいつだって結果を出す人の味方ですよ」

 

――結果を出さねば……結果を出さねば首が切られる……!

 

 ってなんでこんな成績最下位崖っぷちの営業マンみたいなことをボクが考えなくちゃいけないのさ。

 

「はぁ、分かりました。今日は……どうしようかな。どこか情報を集められるような場所ってあります?」

「情報ですか、そうですね。ギルド二階の一室でもお貸ししましょうか?」

「えと、貸して貰ってもどうしようもないというか」

「あぁ、言葉が足りませんでした。うちは二階が職員用の執務室だったり応接室になっているんですけど、その中の一室がちょっとした図書館みたいになっているんですよね。元々はギルド職員に正しい知識を付けるという名目で設置されたものなんですが最近は放置されがちで。使うならついでにちょっとした片付けでもしておいてくれると有り難いです」

「そうなんですか。じゃあ有り難くお借りします」

 

 ミーアさんから鍵を受け取り、二階へと昇る。このきしきしと軋む音を立てる階段、ちょっと好きだ。

 

「おっ!」

「……げっ」

 

 ギルド階段を上り切れば正面にはクロトさん。

 続いてアマリエさんとココノハさんが奥の扉から出てくる。

 

「つうか、「げっ」って酷くないか!? 俺、結構お前のこと買ってるだろ! 邪険にされるような対応してないだろ!?」

「なんんででしょうか、クロトさんを見るとなんとなくからかいたくなるんですよね」

 

 本当になんでだろう。割りと本気で分からない。

 

「クロトは玩具だからな」

「クロトくん、クロトくん、玩具パーティーってとっても楽しそうですよね」

「玩具じゃねーよ! 勇者、勇者パーティーだよ!」

 

 アマリエさん、以外とボケるな。天然かそれとも演技か。

 

「勇者様、勇者様。勇者様は一体どうしてこんなところにいらっしゃるんですか?」

「背筋がむず痒くなるからいつも通りに会話しろよ」

「いえ、勇者様の御威光が眩しくてつい」

「この間まで自分の居る国の名前すら知らなかったヤツの台詞じゃなくね!?」

 

 まぁ、そうなんですけどね。

 

「というか本気で奇遇ですね」

「……まぁ、こう見えても面倒な立場だ。津々浦々悪魔もどきを狩って回ってるが、俺は冒険者じゃないからな。根回しが要るんだよ」

「えっ、冒険者じゃなかったんですか」

「俺が十五の時に聖剣に選ばれたからな。冒険者登録する前だったんだよ」

「へー、十五って今のボクと同い年ですね」

「……お前、十五だったのか俺はてっきり……」

「てっきり、なんですか?」

「なんでもない、なんでもないから俺の膝に蹴りを叩き込もうとするのはやめろ!」

 

 別にこれは木造建築の軋みを足踏みして堪能しているだけで蹴りの予備動作じゃない。断じて違うのだ。

 

「で、お前はどうしてこんなところに居るんだよ。ここ、関係者以外立ち入り禁止だぞ」

「本が一杯あるらしいんで見に来ました」

「へー、知らなかったな。お前は常識がないしいいんじゃないか。例えば、そうだな。ユラ、お前は悪魔もどきと戦ったんだ、悪魔どもが一体なんなのか知っておくのもいいだろう」

「まぁ、そうですね」

「悪魔もどきの強さは年々上がってる。そろそろ限界に近い。そしてこのタイミングで渡りびとが世界中に現れた、これがどういうことだか分かるだろ?」

「……渡りびとが悪魔の勢力に対抗するための女神側の戦力ってことですよね」

「おうよ。――例えば、トルス村って小さな村に女神の祝福を降らせた渡りびと、ユラって名乗ってたらしいぜ?」

「……知ってたんですか」

「知ったのはマルリア森林の件からちょっと後だけどな。まぁ、祝福自体は過去のものと比べると弱いもんだったみたいだけどな。何百年か前は不死の祝福なんてものまで降り注いでたらしいぜ」

「不死って……なんでもありですね」

「正確には死ぬ前に時間を巻き戻しているだとかなんとか、正直今となっては分からねーけどな」

 

 死ぬ前に時間を巻き戻す、そして、不死……。渡りびとの死に戻りに近いものがあるのか。

 

「まっ、そういうこと含めて勉強するのは無駄じゃないだろうな」

「――すみません、クロトさん」

「おっ、ちょっとは俺のことを敬う気が起きたか?」

「ボクはてっきりクロトさんは脳まで筋肉な脳筋だと思ってました」

「やっぱりお前、俺のこと馬鹿にしてんだろっ!」

 

 別にそんなことはない。

 凄いとは思っているし、ちょっとだけ、ちょっとだけ尊敬してるけど口に出す気がないだけだ。


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