大事なことにボクは気づきました。割と切実なことです。というかどういうことなの。
「プレイヤー、いや渡りびとが一人も居ない」
家屋の並び立つ一角をラティアと並んで歩く。
だが居ないのだ、プレイヤーは頭上にアイコンが現れるらしい。何人かの村人とはすれ違ったり村長さんと軽く世間話をしたりしてみるが、アイコン付きの人は居ない。おかしい、サービス開始直後なのにネットゲーム黎明期みたいなことになってる。もしかしてここに飛ばされたのってボクだけ? そんな馬鹿な。
『トルス村と異界の少年』内包クエスト、『挨拶回り』達成!
よし終わった。
終わったのはいいんだがこれといった報酬が手に入らないのが謎だ。
もしかしたらボクが知らないだけでなにかが上昇したり下降したりしてるのかもしれないけど。
「なんと! マリオネットが村のすぐ近くまで!」
「マリオネットですか。やはり危険なのですか?」
どうやらあの魔物はマリオネットというらしい。
村長さんは大仰に頷くと長い髭を擦る。
「いえ、あれ自体は村の男衆でもなんとかなるのです。ヤツは動きも遅く、脆い。あげく武器すら持たない個体も珍しくない。知性が低いのですな」
「珍しい……というか奇妙な魔物ですね」
こう、もうちょっとファンタジーらしい魔物が出てくるのかと思ってたし。こういっちゃなんだが畑の近くを放浪するマリオネットってどうなんだろう。
「おぉ。渡りびと……いえ、ユラさんはご存知ないのでしたな。この村から少し離れたところにはとあるお屋敷がありましてな。そこには邪悪な人形遣いが潜んでいたというのです」
「……潜んで"いた"?」
ならば、もう人形遣いは居ないのだろうか。
「えぇ、えぇ。ご想像の通り人形遣いは逃げ出した。逃げ出した先で討伐されている。館へ訪れた冒険者との死闘によって死亡した。などと我々の間では長きに渡って言われているのですな。他にもその屋敷には無数の人形たちが残されており、曰くつき、呪われた品、外法で生み出されたものまで、それらはいつしか屋敷を小さな"ダンジョン"に変えてしまったなどという話まで。まぁ、そこにダンジョンがあるという事実は変わりないのですがね」
「屋敷を焼き払えば……」
「我々は遅かったのですよ。一度ダンジョンと化してしまえば外部からの攻撃など意味がありません。ダンジョンに対処するには攻略しかないのですな」
「本当に攻略しか対処法はないんですか?」
「今回の出来事はダンジョンから魔物が溢れたからではないのか。そういった状態ならば内部の魔物を減らすだけでも有効でしょう。ですが、追い出されたマリオネットの比ではない魔物が内部に居るのは間違いないのです」
ふむ。問題はボクがレベル1初期ステータスのまんまで……あっ、1上がって2になってる。マリオネット倒した時に上がったのかな。あの時はパニクってたからなぁ。ゆっくりやってみるしかないかな。
『トルス村と異界の少年』内包クエスト、『邪悪な人形遣いのダンジョン』開始。
なになにしろとまではクエストで言われてないな。変なところで自由度高いけど、逆になにをすればいいのか分からない。自分で考えろってことかな。
「ならばボクが様子を見てきましょう」
「……おぉ。女神の加護を受けた渡りびとに手を貸して頂けるのならば力強い。ですがよろしいのですかな? 不躾ながら申し上げれば少々装備や道具類が足りていないのでは?」
村長さんがボクを上から下まで一通り視線を向けながら言った。
確かに今のボクは簡素な布の服に申し訳程度に腰に下げたナイフ一本。心もとないのは確かかもしれない。陣術もテイミングもまだ一度もお仕事してないしなぁ。
「た、足りないところは気合と根気でカバーで!」
村長の隣に座っていた奥さんらしき女性が小さくぷふっと噴きだした。
「ご、ごめんなさいね。うふふ。若い頃のあなたにそっくり。気合だけは十分でぼろぼろの剣を背負って「俺は冒険者になるんだ」って村を飛び出したものよね。結局街の空気は肌に合わなかったとか言って不機嫌そうに帰ってきて、ふふふふふ」
「いやはや恥ずかしい話ですな。ははは」
どうでもいいけど、ボクの前で惚気るのやめてください。
というかなんかボク、遠回しに考えなしって言われているみたいだ。いや、全然間違ってないか。まずは情報収集からかな。やれることは沢山あるんだからひとっとびに段階を飛ばしちゃうのは少し勿体ないよね。