クエストだらけのVRMMOはお好きですか?   作:薄いの

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Quest25

 すいとんという郷土料理がある。

 ざっくりというなら具だくさんの汁に小麦粉の塊を投下したものだ。木の器に盛られたそれは野菜の彩りもあって、非常に食欲をそそる。

 歯を立てれば表面はもちもち、中央はやや粉っぽい小麦粉が素晴らしい。

 

「おばさん、これ美味しいです」

「だろう? アタシの自信作だからね。たっぷりお食べ!」

 

 串肉の出店をしていたおじさんと入れ替わるように入ってきたおばさんの持ってきたすいとんらしきものを三つ頼む。どうやら串肉のおじさんとは夫婦らしい。子供は美味しいものが毎日食べられて幸せだろうな。

 

「これは確かに美味いな。個人的にはこっちのが好み……って喰ってんじゃねぇよ! 俺、勇者だって言ったじゃねーか! ちょっとはそっちに反応しろよ!」

「奢ってるんだから文句言わないでくださいよ」

 

 それにしてもこの辺りの屋台はレベルが高いな。素晴らしい。

 

「そういえばコレット、勇者って知ってる?」

「知っている……といえば知っているが、何人も居るな。特に聖剣の勇者なんて両手の指じゃ足りないくらいには居たな。光属性を付与された剣なら大体聖剣と言えないこともないからな。後は銘だけ聖剣で本体はナマクラな剣、なんてものも出回っていた時期があった。あれは思い出しても酷かったな。最終的に聖剣っぽい名前が尽きて類似品が蔓延っていた」

 

 コレットが明後日の方向を向いてぼやいている。

 銘だけ聖剣か。その発想は要らなかったな。と

 

「クロトさん……」

「に、偽物じゃねぇしレプリカでもねぇから! これが正真正銘の聖剣ティーリアだっての!」

 

 別にそんなこと言ってない。というか少なくともその剣はトクベツだ。

 コレットはうんうんと唸りながらこめかみを押さえている。なにせ二百年以上前の記憶だ。とっくに色あせた記憶になっているだろう。

 

「聖剣ティーリア……そんな剣を使っていた勇者も居たような気がするんだが記憶が曖昧だ。なにせ私の時代は四大巫女姫全盛期だったからな。あの方たちは勇者が一体悪魔を斬る間に手をかざすだけで周囲が火の海になり、大地を水没させ、竜巻を巻き起こし、荒野を森にするような方々だったからな。……ちょっとした村英雄や街英雄辺りはリリア様が食後の運動も兼ねて自信をへし折って回っていたしな……。その中に聖剣ティーリアの所有者も居たような。……あぁ、思い出した! 確か、「なんだ、自分の持っているものの価値に気付いてないくず石じゃない。もはや、ちょっとした宝石の原石ですらないわね」とかなんとか言って引退まで追い込んでいたな!」

 

 二百年前の勇者さんかわいそうすぎるわ。

 というかコレットは記憶が曖昧って言ってたのになんでそんな完璧に思い出せるのだろうか。言ったのがリリアだからなのだろうか。

 それにしても、くず石呼ばわりか。でもやっぱりリリアは気づいてたんだ。

 確かに二百年前の段階では聖剣ティーリアの存在はリリアにとってはたいしたものではなかったのかもしれない。だが、今となっては聖剣ティーリアの存在は間違いなく特殊だろうね。

 

「しかし、なにやってんのさリリア……」

「リリア様は英雄を探して回っていたからな。そういえば、中には勇者を軽く凌ぐ自称ただの旅人も混じっていたな。彼らはレベルで言えば60は上回っていたんじゃないだろうか……。悪魔が跋扈する荒れた時代だったんだ。それを討伐する人々も強かった」

 

 レベルで言えば60ってそれをあしらってたリリアって何レベルだったんだろうか。心がポッキリ折れそうだから聞かないけど。というか人形遣いアルクスはよくそんなの殺せたな。

 

「……お、おい……コレットさんってもしかして……」

「気にすることはないぞ、勇者。私は昔は少々ヴァンパイアをやっていてな。ヒューマンよりは少しだけ長生きなんだ」

「……ヴァンパイアってやたらとプライドが高い種族じゃねーか……なんでユラの従者みたいなことしてるんだよ」

「主は逸材だからな」

 

 一体なにが逸材なのかは分からないが褒められているのだろう。照れくさいので追及しないでおく。

 

「はぁ。俺にはユラが余計分からなくなった。まぁ、単刀直入に言うならユラ、お前、俺のパーティーに入らないか?」

「……なんでボクなんです?」

「それはお前たち渡りびとが約束された強者だからだ」

「なんです、その無駄にわくわくする単語」

「……誰もがそうだ、成長限界を抱えている。ある段階から壁にぶつかる。一生そこからベースレベルもスキルレベルも上昇しないなんてこともざらだ。女神は明確に強者と弱者を用意している。お前は俺が言うのもなんだが強者の側に回るだろう」

 

 確かにボクたちは用意された経験値テーブルをこなすことでレベルが上昇する。それはシステマチックなもので、誰かの意思が介在するものではない。リリアがボクを好き勝手弄繰り回してた気がするけどあれは例外で。

 

「残念ながら目的が噛み合いませんね。ボクは風の巫女姫に会いに行こうと思ってたので」

「……そうか、残念だ」

「ボクが言うのもなんですが、以外とあっさりしてて驚きました」

「はっ! 元々俺たちが探していたのは遠距離攻撃の出来る術式使いだからな。お前はついでだ、ついで! そもそも前衛はこれ以上いらねーしな!」

「かっちーんと来ました! いい度胸です、表に出やがれです!」

「なんだよその似非敬語! そのポニテ引っこ抜くぞ!」

 

 その瞬間、ボクの後ろで背筋がぞわぞわするような気配が沸き立った。

 

「―――殺すか」

「すいません、嘘です。引っこ抜きません! ごめんなさい、ごめんなさい!」

 

 なんだかやたらとクロトさんがコレットに対して腰が低い。リリアの関係者は勇者に対して特攻属性でも持っているのだろうか。それとも今のコレットがそれほど恐いのか、……見たいような、見たくないような。


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