「お疲れ様ですユラさん。これだけ狩れれば明日の午前中頃には粗方の魔素溜まりの影響を受けた強化個体は殲滅出来そうです」
「そうですか。良かったです」
ギルドにて依頼達成の報告をする。なんだかんだで激動の一日だった気がする。街ではしゃぎ回る気力すら湧かない。ついでに要らなそうな素材をゴッソリ売却すると中々の金額になった。
「なぁなぁ、飯食いに行こうぜ、飯」
さて、次にどうするかと考えてるとクロトさんから声を掛けられる。
ボク、この人とそんなに仲良くなるほどなんかあったっけ。
「まぁ、ユラくん。クロトに目を付けられたのが運の尽きだ。諦めてくれ」
ココノハさんがボクの肩を叩く。
まぁ、そもそも別に嫌って訳じゃないしね。ボクが勝手にぐぬぬしてるだけだから。
「じゃあ、コレット行こうか」
「いや、私は羞恥と確かに登りつめてくるヴァンパイアに吸血される者特有の快楽を理性で抑え込もうとする主の横顔を背中からじっくり眺めながら首筋から三時間ほど掛けて血を――」
ボクは即座にコレットの靴に踵を沈めた。コレットが痛みに僅かにぷるぷると震えだす。女の人に物理的制裁を加えたのに罪悪感が沸かなくてつらい。
「コレットはお肉が食べたいって言ってます」
「お、おう」
状況が飲み込めてないないらしいクロトさんが困惑している。
なにはともあれ、食事だ。脂っこいもの、脂っこいものが食べたい!
「しかしユラ、お前やたらすっきりした装備してるよな。実力から考えるともうちょい上目指してもいいんじゃねぇか?」
「……そうですかね?」
「見たところ、防具はそれ、下位のウルフ系統だろ? というか盾使いなのに軽装すぎるだろ……」
ボクが軽装なのはこっちの方が慣れているからだ。というかコレよりももっと軽装というかなんというか。
強いてボクがなにか言うことがあるならば、ボクが良くプレイしていたVRゲームには金属鎧などはなく、そして、盾やナイフのようなものは存在した。当時、ボクが小学生で、上等なVR機器が一千万円以上した時代だ。当時は反抗期で今よりもずっと負けず嫌いだったな。ただひたすらに懐かしい。
「うぅん。こないだまでレベル一桁だったから丁度良かったんですけどね」
「は? お前、レベル一桁って冗談だろ?」
「マジです、マジ。大マジです」
「で、お前今いくつよ? あー、すまん、これはマナー違反だった」
「構いませんけど、やっとレベル22になりました」
「……お前、俺が22まで成長するのにどのくらい……いや、ユラ、お前、もしかして渡りびとか?」
「当たりです」
「……コレットさんもか?」
「コレットはただの従者です」
「なんで異界から渡ってくるやつがこっちの従者連れなんだよ! 意味分かんねーよ!」
ボクだって意味分かんないよ。粗だらけの作戦と意地で勝ち取ったようなもんだし。でも、まぁ――。
「ふふん、羨ましいでしょう。あげないですよ」
なんだかんだでコレットはボクの自慢の従者なのだ。本人がどう思ってるかは知らないけど。
「……ハッ! 見ろ! 俺にはなんと美少女従者が二人も……いや、少女と言うにはちょっと歳が――」
「今までありがとう、クロト。そう悪くはないパーティーだった」
「お疲れ様でした。クロト君」
「ごめんなさい、調子乗っちゃっただけだからちょっと待って……俺を捨てないでぇ!?」
ツカツカと歩いていくアマリエさんとココノハさん。
それに向けて地面に膝を突いて、手を伸ばすクロトさん。意外と演技派だこの人。
しかし、少女。少女という言葉は一体幾つまで許されるのだろうか。人類の永遠の課題だと思う。
「なんだあれ」
「さぁ、分っかんねぇ」
「二股を掛けたあげく両方に捨てられる高身長イケメンの図です」
「マジか。スクショ撮っとこ」
「イケメン爆発しろ」
親切なボクはひそひそと喋っていた男性プレイヤー二人組にないことないこと吹き込むとアマリエさんとココノハさん、そしてコレットの背を追った。
追いつくと同時にココノハさんが唐突にボクの両頬を掴み、右へ左へとこねくり回す。
「いや、まぁ、言いたいことは沢山あるんだが、クロトを苛めるのに私たちを巻き込むのはやめようか、ユラくん」
「……きこえへ、はんれふか」
もごもごと言葉になっていないなにごとかを吐くボクの口。
「授業だ、ユラくん。遠聞きの心得というスキルがある。これは私がソロだった時に取得したスキルなんだが、遠くの魔物の揺らす葉擦れの音まで聞こえて便利だぞ。そして、これに近い技能を持つ魔物も多い。大きな音を立てて大量の魔物を誘き寄せてしまうこともあるから気を付けることだ」
この人一体どんなスキル構成してるんだ。そもそも何個スキル持ってるんだろう。コレットですらスキルの数は四つなのに。テイミング、遠聞きの心得、そして恐らくは刀スキルとそれを補助するスキルまで持っていそうだ。明らかにスキル取得のし易さもレベルの上昇も早いプレイヤーでも、現時点ではまだこの世界の強者から見たら全然なのかもしれない。そもそも冒険者の平均的なレベルが分からない。コレット級は一体どこの層に入るのかとかも気になる。
ココノハさんのお勧めで入ったお店はうどん屋だった。――なぜにうどん。ヒノモト風のお店は少ないらしく、ココノハさんが行ってみたかったらしい。ヒノモトって完全に日本だよね、これ。ヒノモトはやっぱり島国というのがネックなようで、人の出入り自体がそれほどないようだ。なんとなく、魚が食べたいと言ったらなぜかココノハさんに強く同意された。輸送の問題でこの辺では魚が入手しづらいらしい。機会があったら魚を大量に買い込んでストレージに放り込んでおきたいところだ。……ウルフの肉も放り込んでて腐ってないし保存については大丈夫だって信じたい。
明日は溜まりに溜まっている屋敷の掃除と消耗品の補充とかやらなくちゃなぁ。ストレージにはもはや一欠けらのパンすらも存在しないし、リジェネレーションポーションも纏めて作っておきたい。巧妙の陣とリジェネレーションポーションの組み合わせが中々使い勝手がいいのだ。量はあるしちょっとした怪我でも遠慮なく使えるし。勿体なくて最上級ポーションをいつも溜めこんだままゲームクリアしてしまう性格のボクにはとても便利だ。