キングツノウサギ Lv25 状態:敵対
キングツノウサギ Lv23 状態:敵対
キミたちキング同士で縄張り争いとかしないのか。
思わずそんなツッコミが出そうな【キングツノウサギ】ペア。
「さて、行くか」
「頑張ってください」
「はい、クロト君なら出来ます!」
「あぁ、クロト。私たちはいつだってお前を応援している」
「……」
クロトさんが腰から真っ白な長剣を抜いて空へと掲げる。なんかすっごい業物っぽい。装備中のアイテムだから能力覗けないけど。
彼の顔はどこか誇らしげだ。しかし、コレットは割と本気で興味がないようで無言だ。
「あぁ、俺は――やれる! じゃねーよ! お前らなんで完全に観戦する体勢に入ってんだよ! アマリエェ! ココノハァ! お前ら俺のパーティーだろうが! 辛い時も悲しい時も共に乗り越えてきた仲間だろうがァ!」
「あの、突進されてますよ」
【キングツノウサギ】の鋭い角を掲げた突進がクロトさんに突き刺さるが、装備している鎧が結構高位のもののようで角を易々と弾いた。だが、当然突進の衝撃は殺せなかったみたいでクロトさんが吹き飛んだ。
ココノハさんが和服の袖を軽く手で払うと悲し気に目を伏せた。
「クロト、お前はこんな所でやられるヤツじゃなかったはずだ……なのに……なんで……!」
「死んでねーよ! 勝手に殺すな!」
この人たちノリがいいな。
というか割りと本気で命掛かってるのにこのノリでいいのか。さっきのも当たり所が悪ければ普通に死ねる気がする。というかボクみたいな軽装だと当たり所が良くてもヤバい。
もう一体の【キングツノウサギ】が観戦モードのボクたちの元に向かってきたので冗談はやめて、本気で掛かる。直線に走る【キングツノウサギ】にナイフを投擲。同時に【キングツノウサギ】が跳躍する。やっぱり小回りは効かないタイプの魔物だね、この子。最初の数回は強敵だけど慣れれば割と余裕が出るタイプの魔物だ。空中の【キングツノウサギ】に投げられるだけのナイフを投擲しながら前回の【キングツノウサギ】と同様に着地点に泥濘の陣を設置。
「コレット!」
【キングツノウサギ】が陣にハマり、もがきだすと同時にその横面にアサルトストライクを叩きこむ。大きく怯んだ【キングツノウサギ】のやたらと太い首をコレットの大剣が斬り落とした。
うむうむ。いい感じ。結構疲れてるけど動きはそんなに落ちていないと思う。というか泥濘の陣とアサルトストライクの使い勝手が凄い良い。アサルトストライクに関しては叩き付けた時の爽快感が癖になっている節もある。
一人、結果に密かに満足しているとボンと背後でよく分からない音がした。
――白い閃光が【キングツノウサギ】を両断していた。
「よっと!」
閃光を放った真っ白な長剣はどこか神聖な光を放っていて、それに呼応するようにボクの中の灯火がナニカを訴える。――分かる。分かるよアレは――。
「主。大丈夫か? ヤツの男臭さに当てられてしまったか?」
「ううん。大丈夫だよ」
何気なくスルーしたけど男臭さに当てられるってなんだ。一生ボクには理解できそうにない単語だよねこれ。
「コレット」
「どうした?」
「この世界に残っている精霊、思ったよりも居るかもしれない」
「なっ!」
「……コレット、今はしー、だよ?」
唇に指先を当てて静かにするように言うと、コレットはなぜか頬を赤らめた。相変わらずキミの反応は読めないね。
「ユラ、たいしたもんじゃないか! というか盾で殴りかかるなんて戦闘スタイル、初めて見たぞ」
「正面からキングツノウサギをぶった斬って見せた人に言われると嫌味にしか聞こえないです」
劣等感というよりも、焦りを感じた。少なくとも、ボクは早く強くなってコレットの枷を外してあげなくちゃいけない。じゃなくちゃ世界はボクをコレットのオマケとして見る。ゲーマーだからこそ、ボクにはそれが分かる。だけど、焦れば焦るほどボクはきっと、この世界を楽しめなくなっちゃう気がする。それだけは嫌なんだ。
「……俺は、あれだ、ちょっとトクベツだからな」
クロトさんが口をもごもごとさせながら答える。
「うわぁ、この人自分のことトクベツとか言っちゃってる……」
「見ての通り、クロトは少し患っていてな……」
わざわざ聞こえるようにして呟いた言葉にココノハさんが追従する。なんだろう、この人とは仲良く出来る気がする。
「やめろよ! 俺をちょっと調子乗っちゃって自分を客観視出来ない若者みたいに言うの!」
「クロト!」
「な、なんだよ……」
ココノハさんがクロトさんを鋭く睨む。あぁ、これ絶対ロクなこと言わないわ。だってボクだったら言わないもん。
「……お前がそんな様だから妹さんのマシロちゃんは亡くなったんだろう」
「マシロ……済まない、お兄ちゃんが不甲斐なかったから……って妹なんて居ねぇよ! 俺一人っ子だよ! マシロって誰だよ!」
「私がこの大陸に来る時に乗せてもらった飛竜の名前だな。私が勝手に付けただけだが」
「へぇ、ココノハさん、別の大陸から渡ってきたんですか? というか飛竜に乗せてもらったってくだりが気になります」
「あぁ、出身がヒノモトという島国なんだがまぁ、海を渡るのに苦戦してな、テイミングで翼竜と意思疎通をして、幾ばくかの宝石と引き換えに乗せてもらったんだ」
「……テイミングってそんな使い方が出来るんですか? ボクも多少心得があるんですけど初耳です」
「なるほど。なら、テイミングの先輩として教えておこう。いいかい? 現に私がそうであるように、魔物を従えるだけがテイミングの使い方ではない。知性持つ一部の魔物は条件を提示して盟約を結ぶことが出来る。もっとも、コレはテイミング持ちに限ったことではないが、テイミング持ちだと成功し易いな。そして、テイミングのリスクを下げるコツは使役する魔物の数を極力少なくすることだ」
テイミングの説明文は「魔物を仲間にすることが出来るイベントが発生する可能性が生まれる」だっけ。説明文だけが全てじゃないのは分かってたけどなるほど、ちょっとこれは盲点だったかも。仲間にすることが出来るイベントっていうのも確かに仲間にするという言葉だけでも様々な仲間がある。雇用契約に旅の道連れ、――使役魔物も仲間の形の一つに過ぎないということなのだろうか。
しかし、使役する魔物の数を減らすというのは理解出来ない。定石としては、システムの制限一杯まで仲間を増やすのが正解のはずだ。
「少ないほうがいいんですか? 状況に応じて沢山の種類の使役魔物が居るのも悪くないと思うんですが」
「悪くはないが、デメリットが大きい。どこに行くにも大量の魔物を連れて歩くのでは大変だろう? 宿だって取れないしな。それにそれぞれが平等に強さを持つわけではないからな。お気に入りの魔物が出るかもしれない、相性の良い魔物が出るかもしれない。その時、他の魔物はどう思うだろうな」
「……そう考えると難しいですね」
「得られる力が使役魔物の分、減少するというのも痛いしな。だが、非常事態が発生した際にテイミングを最大限に駆使すれば、魔物の一種族を丸ごと味方に付けることも出来る可能性もある。まぁ、可能性があるだけだが」
非常にためになる話だ。
ふと視線をコトノハさんから外すとクロトさんが剣の柄で地面に"の"の字を書いていた。その剣、割ととんでもない代物だと思うので雑に扱わないであげてください。