クエストだらけのVRMMOはお好きですか?   作:薄いの

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Quest20

 抉るように突き込まれた長剣を大盾の表面で滑らせる。そのまま一歩後退して影の目に向かってナイフを投擲した。

 

「ショックウェイブ!」

 

 首を背後に逸らすようにしてナイフを避けた影が衝撃波に吹き飛ぶ。追いすがるように走るコレットの大剣が影を袈裟切りにしたが、浅い。

 それは見ていたボクよりもコレットの方が気づいていたようで苦い顔をしている。ボクはすかさずコレットの前に躍り出る。

 

「アサルトストライク!」

 

 再び黒剣に炎を宿らせた影と大盾が衝突する。本当に、無駄にカッコいいなそれ。すかさず両手持ちしていた大盾を左手に持ち替え、右手で握ったナイフで影の手首を掻き切る。影は傷口から真っ黒な血を噴き出している。力の緩んだ影を両手に持ち直した大盾で押し返すと、影がバランスを崩したので大盾で殴打。そして、倒れた所に顔面への殴打を繰り返すと十五回辺りで影はどろりと形を崩すと消滅した。

 

「勝利!」

 

 ボクがなんとなくやりきった感覚を満喫しているとクラウスさんの顔がなんだか青い。しかも、なぜか口元に手を当てている。

 

「華奢な見た目でやることは結構えげつないんだね」

 

 そんな馬鹿な。

 今回は泥濘の陣にもハメてないし歴戦の戦士みたいな勇敢な戦い方のはず。

 そんなことよりドロップですよ。ドロップ。影の使っていた黒剣が落ちている。

 

 黒ノ長剣 Rank4 その大部分を魔素で構成された魔剣。人の手では創造することは出来そうにない。 耐久:220/220

 

 Rank4! 念願のRank4武器が来た!

 でも長剣なんだよね。ボクは残念ながら、非常に残念ながらちっこい自覚はあるので肩幅の関係で大盾と頑張ればナイフというか短剣が使えるくらいだからなぁ。

 しかもコレットは紅の精霊大剣持ってるし要らないよね。というかコレットの紅の精霊大剣にも力を戻してあげたいんだけどどうすればいいか分からないんだよなぁ。

 

「まぁ、いっか。この長剣があればこの場所に魔素溜まりがあった証拠くらいにはなるかな」

 

 Quest『マルリア森林の異変』。達成!

 

 報酬はやっぱりないね。でも得るものはかなりあったし、全然構わないんだけど。というか風の巫女姫の情報だけでもおつりがくるな。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 足を踏み出す。行き交う複数の馬車と人のざわめきが広がっている。

 ――そう、ボクは。

 

「コレット、コレット! やっと街に着いたよ!」

 

 石の壁が街を囲うようにぐるりと広がっており、巨大な門の下には詰所らしきものがあり、周囲を重装備の衛兵が辺りをうろうろしている。

 少々昂奮していたようで気づけばコレットの手を握り、上下にぶんぶんと振っていた。駄目だな、ちょっと興奮するとすぐこれだ。

 

「や、その。ごめんね」

「いや、構わない。いいな、こういうのも全然アリだ。グッと来るものがある」

 

 全く同意見だ。現実世界じゃ一生お目に掛かれないような光景にボクは楽しくて楽しくてしょうがない。

 

「こっちだよ二人とも」

 

 門の前に並んでいたクラウスさんが手招きする。

 クラウスのさんの元へ、小走りで向かうと、衛兵がクラウスさんと話をしていた。

 

「マルリア森林に魔素溜まりが出来ていたとは本当かい?」

 

 衛兵は顔に若干の疑いを乗せてボクに尋ねる。こんな子供が……と今にも言いそうだったので黒ノ長剣をインベントリから取り出して見せる。

 

「いや、すまない。なるほど、渡りびとか。ちなみにこの剣は?」

「魔素溜まりの番人からドロップしたものです」

「……ちなみにキミの予想では魔素溜まりの影響を受けたモンスターはどのくらいだと思う?」

「残っているものでも十や二十じゃ効かないと思います」

「キミたちは魔物の強さを見切る女神の瞳を持っているね? 影響を受けたモンスターのレベルはどの程度だい?」

「下が20から上が26程度ですかね」

「了解した。これは急いだ方がいいな。この街の冒険者ギルドへ案内しよう」

 

 ボクとコレットが衛兵の後を着いていこうとした時だった。ボクの肩がポンと叩かれる。

 

「こらこら、まだ正式な冒険者ではないとはいえ、依頼を受けたからには報酬を貰わないとね?」

 

 クラウスさんが皮袋をボクの掌に押し付ける。え、なにこれ。ずっしりしてる。

 

「これちょっと多い……」

「トラブルこそあったが久々に心の踊る冒険を見ることが出来た。これは……そうだね、青田買い、というやつだ。どうぞフラウリード商会をご贔屓に」

「なにをしている、急ぐぞ」

「あっ、はい!」

 

 ボクはクラウスさんが借りてきたレンタルの馬車に預かっていた荷物を返却すると、コレットと共に軽く会釈をして駆け出す。

 

「話していて気持ちのいい人だったね」

「そうだな。人間が出来ているとはああいうのを言うんだろう。最初に叫んでいるのを見た時は何事かと思ったが」

 

 走っている途中に街中に気になる光景はいくつかあったが残念ながら余裕なんてなかったのでじっくり見れないのが残念だ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「確認しました。この長剣が魔素で構成されており、当ギルドでは悪魔もどきが出現していたこと、そして魔素溜まりの発生を組員に連絡、これよりマルリア森林に残っている魔素溜まりの影響を受けたモンスターの討伐依頼を出します。この度はありがとうございます。貴方のお蔭で何人もの命が救われるでしょう」

 

 少し薄らとした青の髪を肩まで伸ばした女性が丁寧に頭を下げる。

 此処はリデアの街の冒険者ギルド。よく見ればギルド内を見れば何人かの頭上にプレイヤーアイコンが光っていた。ボクと一瞬目が合ったプレイヤーの青年が口に含んでいた飲み物を噴出し、彼の前に居た両手斧を背負った中年へと吹きかけた。

 

「……あ゛ぁ? テメェ俺に喧嘩売ってんのか? あぁ、いいぜ。対人戦の修練にはなんだろ。テメェ、最近来たひよっこだろ? 対人戦技能は磨いて損はねぇ。しごいてやるよ。ミーアの嬢ちゃん、ちょいと裏の修練場借りんぜ」

「構いません。しかし、汚した分は自分で片づけてくださいね。それがマナーです」

「おうよ。任せな」

「……えっ、ちょっ……違っ!」

 

 プレイヤーの青年が斧を背負った中年に引きずられていく。

 確かに対人戦技能は大事だな。というかボクの場合はマリオネットとか影とか人型に近い魔物との戦闘が多かったしな。

 

「あ、そうだ。冒険者として登録って出来ますか」

「……登録、されていなかったんですか?」

 

 ミーアの嬢ちゃんと呼ばれていた受付嬢が冷静だった表情を少し崩した。

 

「はい。村にはギルドがなかったので」

「……なるほど。いえ、こちらの思い違いでした。どちらにせよ懸賞金を出す際に登録がないと手間ですし、それが宜しいかと。そちらのお連れさんはどうしますか?」

「……一応聞いておきたいんですけど使役魔物ってギルドに登録出来ますか?」

「……むしろなんで登録出来ると思ったんですか?」

「……いや、あの……彼女、使役魔物です」

 

 凄い。これが百面相か。彼女の表情がくるくると変わる。

 

「なるほど、そういうプレイですか? それともそれをあちらの彼女にそれを強いられている?」

「とりあえず落ち着いて深呼吸した方がいいと思います」

 

 この人はボクにどんな着地点を見出したんだろうか。全然知りたくならないんだけど。彼女はボクの言う通りに数回深呼吸すると表情を冷静なそれに戻した。

 

「失礼しました。いえ、本当に珍しいことでしたから。確かに聞いたことはありますが、非常に珍しいことです。生まれながらの人型の魔物なのか後天的なものなのか、後者となりますと……言いにくいですが、こういったパターンの場合は魔物に堕ちるには堕ちる理由があり、その……大半は討伐されてしまうので」

「そう……ですか」

 

 ……ぞっとする話だ。あの館の最奥に辿り着いた人にテイミングスキルがなければ自分が死ぬか、コレットを殺すかの二択しかなかったのだから。

 

「主。私は大丈夫だ」

「……別に、心配してないし」

 

 ボクはあの館でコレットを拾ってラッキーだった。そうだ。それでいいのだ。

 

「さて、ではこちらにカードに触れてください」

 

 手渡されたのは真っ白な長方形のカードだった。ボクがそれに触れた瞬間、カードの表裏に無数の文字が浮かび上がる。

 

「ギルドに伝えたくない情報はカードの表面を擦れば消えます」

 

ユラ Lv19 性別:男 称号:灯火の巫女姫 

【陣術】Lv16 【テイミング】Lv8 【自衛の心得】 Lv11 【盾】Lv14 【投擲】Lv9 【精霊術:灯火の巫女姫】Lv1 【調薬】Lv1

使役魔物:リビングドール:ヴァンパイア

 

 まんま簡易ステータスだこれ。

 というかボクの知られて困る情報なんて……あるね。普通にあるね。ボクは迷わずに称号:灯火の巫女姫と【精霊術:灯火の巫女姫】を消す。使役魔物は分からないと逆に面倒かもしれないので残しておく。

 

「これでお願いします」

 

 カードを返却するとミーアさんはそれを見て、なにごとかの作業をしている。

 

「……八級、いえ、使役魔物の存在も入れると七級でも余裕はありますかね。しかし、これから経験を積ませることを考えるとこのくらいが妥当……ですかね」

 

 暫くよく分からない言葉をぶつぶつと呟いていたミーアさんが顔を上げる。

 

「これよりユラさんは八級冒険者になります。おめでとうございます。そしてようこそ、冒険者ギルドへ」

「……えっと、ありがとうございます? 八級冒険者ってなんなんですか?」

「はい。冒険者は登録時の十級、九級、八級と順繰りに級を上げていきます。級が上がれば上がるほど難しい依頼を受けることが出来ます。この辺りはそれほど危険な場所ではないので高くても六級くらいの人が多いですけどね」

「なんでボク八級になっているんです?」

「ユラさんは十級から始めるには強すぎるんですよね。最近来る渡りびとさんなんかは能力の割りにそれほど実戦能力が高くなかったりするので、本部からは繰り上げは控えろって言われてるんですけど、今回のような場合、使役魔物は数に含まれないので、ユラさんなんて魔素溜まりが出来ている森で冒険者に逃げられた商人を救出してそのまま魔素溜まりに居た悪魔もどきをたった一人で討伐した上に、商人を無事に送り届けたってことになるんですよね」

「なんかボク、ちょっと凄い気がします」

 

 なにそれ凄くカッコいい。……どうやらボクの時代が来てしまったようだ。

 

「はい、凄いですね。流石です。その凄いユラさんならマルリア森林の魔素溜まりの影響を受けた魔物の残党もサクサク狩ってしまうことでしょう。丁度困っていたんですよ。あそこが使えなくては輸送が滞ると今衛兵たちも商人たちに詰め寄られて困っていることでしょう。ですが、魔素溜まりの番人を討伐したユラさんならばきっとやってくれると信じています。偶然にもこの依頼も八級から受注可能なんです」

「任せてください! よぅし、コレット、サクサク倒してこよー!」

「はい。依頼の成功をお祈りしています。こちらのギルドカードはお持ちください」

 

 待っていろマルリア森林! ボクが今戻るぞ!


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