クエストだらけのVRMMOはお好きですか?   作:薄いの

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Quest19

ツノウサギ Lv7 状態:敵対

ツノウサギ Lv8 状態:敵対

キングツノウサギ Lv24 状態:敵対

 

 ――でかい。

 ざっと見た感じだけれど体長二メートル程度は余裕であるんじゃないだろうか。そもそも【ツノウサギ】という魔物自体が額に鋭い角が生えているだけの兎だ。普通に可愛い。角さえなければ抱き上げて頬ずりしたい。だというのにこの【キングツノウサギ】のサイズを見ただけで全然そんな気持ちが沸かない。なぜか真っ赤な瞳からは無限の闘志を感じるし、捻じれた角からは言い知れない凶悪な印象を受ける。やっぱり適切なサイズってあると思う。

 

「コレット、あのでっかいのは全然可愛くない! 全然可愛くないよ!」

「主。そもそも私は魔物に可愛いもなにも感じないぞ」

 

 【ツノウサギ】で死者続出するような世界観ではやはりアレを可愛いとは思えないらしい。というか魔素溜まりの影響を受けた個体は分かりやすいな。突き抜けてレベルが高い。

 

 後ろ脚を踏みしめて【ツノウサギ】が鋭い角をこちらに向けて駆け出す。

 

「……はっ!」

 

 瞬間、コレットの大剣の閃きが【ツノウサギ】を両断した。

 流石コレット、この程度はものの数じゃない。だが、どうやらその行動は【キングツノウサギ】の怒りに触れたようでゴム毬のように【キングツノウサギ】が大きく跳ねた。

 

「泥濘の陣!」

 

 ボクは眼前に泥濘の陣を設置。盾を構えて【キングツノウサギ】の着地を待つ。ボクへと空中から襲い掛かる【キングツノウサギ】の角に盾を擦り合わせて背後へと流す。同時に大盾と角が擦れあった場所から赤黒い閃光が舞う。危なっ、なんかスキル発動してるし。

 ボクの前へと着地した【キングツノウサギ】の前脚と後ろ脚が陣へと沈んだ。やっぱり陣術強いと思う。陣術はもっと流行れ。もう流行ってるかもしれないけど。

 

「アサルトストライク! ショックウェイブ!」

 

 そのやたらと無骨な角をへし折るべく、【キングツノウサギ】の角へと総攻撃を仕掛けた。二つの武技を叩き付け、追加で盾の底部を叩き付けた瞬間、【キングツノウサギ】の角が根本から折れて吹き飛んで、近くに生えていた木の幹に突き刺さった。

 こうなってしまってはもうただのでかい兎だ。もう一体の【ツノウサギ】を仕留めたコレットによる止めの一撃を受けて消えていった。木の幹に突き刺さっていた角が消えていないので、アレがドロップなのだろう。

 

 キングツノウサギの王角 Rank3 キングツノウサギの鋭い角。長槍や短槍を作成するのに用いられることが多い。

 

 槍か……。というか装備直接落とさないな。

 そう考えるとマリオネットたちは美味しい魔物だったのかもしれない。疾風の大盾とナイフは今も現役だしなぁ。

 

「……いやはや、これは失敗したな。魔素溜まりに遭遇したのは久しぶりですが、これは確かに低位の冒険者では力不足ですな。雇う冒険者の質は大事だと久々に実感しましたよ。ふむ、近場でも護衛にはそれなりの実力者を一人は入れておくべきかな。費用は高くつくが命には代えられん」

 

 クラウスさんが【キングツノウサギ】の角を見ながらぼやく。

 商人にも色々と事情があるようだ。陣術のレベルが15になったので詳細を見てみると新しい術式が増えていた。

 

ユラ Lv18 性別:男 称号:灯火の巫女姫 

【陣術】Lv15 【テイミング】Lv7 【自衛の心得】 Lv10 【盾】Lv13 【投擲】Lv8 【精霊術:灯火の巫女姫】Lv1 【調薬】Lv1

使役魔物:リビングドール:ヴァンパイア

 

陣術Lv15:敵味方に様々な効力を及ぼす陣を発生させる。取得術理:泥濘の陣 巧妙の陣 衰魔の陣

 衰魔の陣:陣を通して干渉した術式スキルを弱体化させることが出来る。空中設置可能。

 

 睡魔ならぬ衰魔か、これは中々便利そうだ。

 でも飛んでくる術式に対して使うなら今よりもうちょっと早く陣敷けるようにしなくちゃかな。

 

 時折出てくる魔物を蹴散らしながら進む。魔素溜まりの影響を受けたモンスターの多い方向へ。

 そして、見つけた。……これが魔素溜まり。

 宙空を漂う黒い靄。それが集まり、凝縮し、奇妙な空間を形作る。そこから這い出て来たのは黒い影だった。影は真っ黒な長剣を握り、見た目だけなら人の形をしていた。

 

シャドウデーモン Lv34 状態:敵対

 

 これまで見たことがある魔物とはまた違った印象の魔物だ。

 

「主……これは……。やはり主は正しかった」

 

 コレットが影を見ながら呻くように呟いた。

 

「どういうこと?」

「この影は悪魔の出来損ない。現界出来なかった悪魔なんだよ。放っておけば魔素を吸収し、悪魔に近づいてしまう。その前の影の段階で討伐出来るとは幸運だ」

「……まだ強くなるんだ、コイツ」

 

 とんでもないな。少なくとも現時点でこの森に出ていい魔物じゃない。

 

「まぁ、うん。行こうか」

 

 ボクは駆け出す。そして、長剣を構えた影へと大盾を突き出した。

 慎重に、慎重に。まずは普通の攻撃でこの影の戦闘パターンを割り出す。

 獣じみた動きで影は左に飛んで大盾を避ける。そして、影は長剣を振り上げる。振り上げた黒の長剣は炎を纏い、燃え上がった。なんだそのやたらカッコいいスキルは!

 

「アサルトストライク!」

 

 炎を纏った黒剣と大盾が衝突する。大盾が僅かに沈む。駄目だなこれ、ボクじゃ完全に力負けしてる。

 

「……っ! ショックウェイブ!」

 

 追加の武技で黒剣を払い、ボクは後退する。追撃を入れるべくボクに突進を仕掛けてきた影へとコレットが立ち塞がった。

 

「どうだった主?」

「コレットと戦った時ほど絶望的な差じゃないよ」

「それは光栄だ」

 

 コレットはそう言うと影の黒剣へと精霊大剣を叩き付けた。

 強がってはみたけれどコレットと戦った時ほど絶望的な差ではないけれどまぁ、ボク一人じゃ微妙って意味だけれどね! ぐぬぬ。

 まず第一に早い、そして力が強い、あげくの果てにこれまでの魔物に見られた、攻撃直後の僅かな硬直が見受けられない。早いだけなら硬直の合間に泥濘の陣を仕掛ければいいけど、それがないのは辛いかな。ちょっとわくわくしてきた。


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