クエストだらけのVRMMOはお好きですか?   作:薄いの

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Quest17

「構わないよね、コレット」 

「そうだな。私は主に従おう」

「分かった。――受けましょう。その前に少し馬車を見せてもらっていいですか?」

 

 クラウスさんの了解を得て、【クレイゴーレム】が粉砕して進んだ道を少し辿ると屋根から粉砕された馬車だったものがそこにはあった。

 半ば瓦礫の山のようになっているそれを少しずつ仕分け、処理していく。割れた食器やちぎれた薬草などの道具や素材、小瓶に入ったポーションなどの見たことのないものも多い。

 

 レッドポーションEX Rank5 希少な薬草を複数用いたポーション。HPを即時に回復し、一定時間HPの最大値を引き上げる効果がある。

 

 凄いなこれ。ちょっと今のボクでは価値が分からないレベルだ。なにより一定時間HPの上限を引き上げる効果というのは大体どんなゲームでも一定の評価というか価値がある。

 見つけたものから、状態の良いものだけをストレージに別のタブを作って放り込んでおく。屋敷に邪魔なアイテムを置いて空きを作ってきて良かった。

 

「……これは……渡りびとだったのか。二人ともそうだったのかい?」

「いや、私は渡りびとなる存在ではないな」

「渡りびとは同じ渡りびとで固まることが多いと聞いたんだが……いやはや、何事も例外はあるということか」

 

 駄目になってたのは全体の四割といったところだろうか。どうやら価値の高いものの多くは馬車の方に積んでいたようだ。

 

「思ったよりも無事なものは少なかったです」

「いやいや、とんでもない! 殆ど諦めていたようなものだからね! いやぁ、良かった! 今回運ぶ荷には貴重なものが多くてね、護衛を頼むにも持てるだけは持とうと思っていたんだ!」

「……ですよね。なんかすっごいポーションとか混じってましたもん」

「はっは。だろう? というか割れてなかったんだねアレ。アレは薬師ギルドでもかなり吹っかけられる代物だからね。素材が貴重らしい上にレシピも秘匿されているしね」

「レ、レシピ秘匿って凄いですね……」

「調薬レシピは土着のものも多いから村から来たならあまり馴染みがないかもしれないな」

 

 改めて考えると土着のレシピが存在するって凄くプレイヤー泣かせだ。値段も付けにくいし、レシピ自体が無尽蔵に存在する。まぁ、ボクもリジェネレーションポーションと毒消しポーションのレシピしか知らないし、これがクラウスさんの言う土着のものってことで合ってるし。そもそもボクのポーションは木筒に入れるのが前提のレシピだから配合が目分量の直観重視なんだよね。上等な道具なんてなかったし。こう、ポーションと言うよりは元気ドリンクというか。

 

「ポーションのレシピに興味があるのかい?」

「素人ですけど自分たちで使う分は作ってるんです」

「数は足りているのかい?」

「数は足りているんですけど種類が足りないかもしれません。手持ちのものでは効果が出るまでに時間が掛かるんです」

「……なるほど。拾ってきたポーションを出してもらえるかな?」

 

 ボクは瓦礫から回収したポーションを何十本も並べていく。スタンダードな赤、青といったものから無色透明なものまで様々なものがある。

 

「これとこれ……あと、これかな?」

 

 クラウスさんが瓶をいくつか摘み上げてボクに手渡す。

 

 レッドポーションⅢ Rank3 希少な薬草を混ぜることで効力を増強したレッドポーション。HPを即時に回復することが出来る。

 ブルーポーションⅢ Rank3 希少な薬草を混ぜることで効力を増強したブルーポーション。MPを即時に回復することが出来る。

 ホワイトポーションⅡ Rank3 毒の状態異常を回復することが出来る。短期間の間、毒に対する耐性を得る。

 

「これを二人に一本ずつあげよう。なに、余った分は回収しないしちょっとした支給品だね。いいかい? こういった少し値は張るが効果が高く、即効性のあるポーションはいざという時に命綱になるんだ。ちょっとしたお守りさ」

「……いいんですか?」

「この程度なら全然構わないさ。キミが凄いといったポーションなんて本当に馬鹿みたいな値段で売れるからね。アレを冒険者に憧れた金持ちのボンボンがかすり傷程度でがぶがぶ飲むんだから笑いが止まらないよ。……高位の冒険者が命がけで魔物と戦う際の命綱や決戦前の体力増強にも使うってのに……」

 

 クラウスさんが吐き捨てるように言う。この人優しい人だけど時々黒いな。

 でも、やっぱHP増強効果だけでそれだけの価値はあるなぁ。

 

「あー、申し訳ない。少々愚痴が出てしまったようだ」

「……気にしないでください」

 

 この人も苦労してるんだなぁ、なんて安直な感想しか出ない。

 

「しかし、不自然だな。この辺りの魔物のレベルはそう高くなかった。高くても十前後……ゴーレムのようないきなり離れた力を持つ魔物が現れるような場所ではなかったと思うんだが」

 

 コレット、レベル20までの魔物しか出なかったようなダンジョンの最奥でレベル58のキミが待ち構えていた時点でこの世界、割りとなにが起こってもおかしくないと――。

 

Questが発生しました。

『マルリア森林の異変』

このクエストを受諾しますか? Y/N。

 

 やっぱり出たなクエスト! というかここ、マルリア森林っていうんだ。

 村で貰った地図というかざっくり道のりだけ示した紙には書いてなかったな。というかこの世界、コレットが手帳を持ってたことから考えても二百年以上前からかなり上等な製紙技術があるんだよね。意味が分からない。

 

 

 

 

 

 

 ぱちぱちと焚き火が音を立てて燃え上がっている。

 辺りは夜の空気に包まれ、空には満点の星空が広がっている。

 まぁ、そんなことはどうでもいい。ご飯です。野菜のぶつ切りと村で教わった食べられる野草と狼肉のごった煮スープがやたらと美味しい。館に戻ればもうちょっとマトモなものが食べられるけど、今のボクはしがない護衛なので却下。ふと、思い立ってクラウスさんに旅の扉を潜ってもらったが駄目だった。恐らく旅の扉はボク、そして所属がボクになっている使役魔物のコレットしか通れないのだろう。

 まぁ、結局最後にはコレットに護衛を任せてログアウトしてしまうボクは割りかし酷いと思う。正直に言えばなんでコレットがボクを主にして着いてきてくれるのかが分からない。自分で言うのもなんだけど、ボクは割りと好き勝手やってるし。なんとなく気になったのでそれとなく、本当にそれとなく聞いてみると凛々しかった表情をにへら、と締まりのない顔に崩したのでなんとなくムカついて額を軽く小突いた。

 まったく、キミはどうして時々そうなんだ。


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