クエストだらけのVRMMOはお好きですか?   作:薄いの

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旅する主従と変容した世界
Quest15


グレイウルフリーダー Lv10 状態:敵対

グレイウルフ Lv5 状態:敵対

グレイウルフ Lv6 状態:敵対

グレイウルフ Lv8 状態:敵対

 

 左から突撃してきた【グレイウルフ】を大盾で強打する。そして、こちらの様子見に徹していた【グレイウルフリーダー】に不意打ち気味にナイフを投擲。横腹を薙ぐ程度にナイフが【グレイウルフリーダー】に傷を与えた。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

 そして、コレットが動きの鈍ったグレイウルフリーダーへと一瞬で迫り、首を落とした。やっぱり瞬身の心得は強いな。欲しい……けど高速移動する盾使いってどうなんだろうか。こういうのはビジュアル的なこだわりも大事だと思う。

 リーダーを失ったグレイウルフたちが散り散りになって逃げていく。それを投擲で仕留める。やっぱり手間が掛からない分、術式よりも投擲は扱いやすいかもしれない。陣術なんて焦ると滅茶苦茶な陣描いて失敗しそうになるし。

 

「お疲れ様」

「主こそ。それにしても見事な手際だな。お蔭さまで私も弱体化した自分の能力が大分把握出来ている」

 

 早いな。コレットには自身の能力を把握して貰っている。

 使役魔物になったことでかなりの能力の弱体化をさせてしまっているのがちょっとだけ、ちょっとだけ心苦しい。

 

 ボクはストレージから干し肉を取り出して齧る。この塩っ辛いのが好き。ちょっとだけ齧ってそれをストレージに戻す。あんまり大量に食べると飽きが来るのが早くなるからね。勿体ない。

 ふと、コレットがこちらをぼうっと眺めているのに気付いた。

 

「どうしたの?」

「主よ。少しだけ、少しだけ血を吸わせては貰えないか?」

「……吸わなくても二百年大丈夫だったんでしょ?」

「逆に言えば二百年も吸えていないんだ。人形という側面があったからこそ耐えられてはいたが好ましい感覚ではないな」

 

 吸血鬼の餓えについてはよく分からないが、決して良いものではないのだろう。

 これは、仕方ないかな。

 

「あー。うん、分かった」

 

 ボクは背後で一つに結われた髪、一般的にはポニーテールと言われているそれを首筋から除けようとして、やめた。

 

「い、いや後で帰ってからにしようか、うん」

「な、なぜだ!」

「なんでってそりゃ……アレだよ……」

 

 ぽつぽつと現れる魔物を撃退したせいでそれなりにボクも汗とかで汚れてしまっているだろう。それをゲームだから大丈夫とかいって割り切れない。

 せめて館に帰ってから水浴びをしないと気になる。汗とか、臭いとか。

 

「主がちらちらと首筋を見せているというのに私は……私は……!」

 

 ちらちらと首筋が見えるように結ったのはコレットじゃないの?

 内心そんな疑問が芽生えるが、コレットが心底悔しそうに地面を叩くのを見て少しだけ可愛そうになる。

 

「いつだって私たちは理解されない! だからこそ、だからこそ私は……!」

「あー、分かった。今から館に戻る旅の扉設置するから。そこでちょっと水浴びだけしてからならいいから……」

「……なぜ水浴びなんだ?」

「だから、アレだよ……。汗かいてるから……ほら、気になるし」

 

 なんでボクが女の人にこんな台詞を言わなければならないのか。

 恥ずかしいわ言いづらいわで目を伏せていると、なぜか両肩をがっしりと掴まれた。

 

「私は、別にそんなことは構わない」

 

 穏やかな笑顔のはずなのになぜか一瞬悪寒がした。それほどまでに血に飢えていたのだろうか。まぁ、どうせあげようとは思っていたから状況に関しては我慢しよう。

 

「……分かった。良いけどよく考えたら吸血鬼って首からじゃなくても」

「駄目だ」

「いや、でも」

「駄目だ」

 

 駄目らしい。まぁ、駄目なら仕方ないか。

 ボクは溜息を吐いて首筋を晒すとコレットは蛇のような動きでボクの元に近寄ると小さく口を開いた。鋭い牙がちらりと見えて怖い。

 子供の頃に受けたはじめての注射のような得体の知れない恐怖はこんな感じだっただろうか。牙がゆっくりとボクの首筋に触れ、皮を貫いた。首筋に僅かな痺れを感じる。

 傷口から零れ出た血液が一筋。首筋を伝ってソレが流れていく。

 

「……っ……ぅ」

 

 背筋が震える。ざらりとした感触を首筋に感じた。舌だ、舐めあげられたのだ。

 

「……やめ……ちょ……」

 

 吸い上げられる。血液が、HPが視界の端でじりじりと減少していく。くすぐるような甘美な痺れが連続して訪れる。全体HPの四分の一が消えた。それでもまだ終わらない。

 

「……お、終わりっ!」

 

 我慢できなくってコレットの押さえつける腕を掴んだがびくともしない。LvとスキルLvに制限が掛かっているはずなのに。

 

「終わりだって……ばっ! あ、アホコウモリ!」

 

 アホコウモリ言った瞬間になぜか蕩けるコレットの表情。なんなの! なんなのこのアホコウモリ! それどころかより深く牙を突き立てて吸い上げる血液とHPの量を増やす。 こんの、ドアホコウモリ!

 

「……泥濘のっ、陣」

 

 ボクの足元に小さな泥濘の陣を広げる。少し時間を置いて地面、魔法陣が軟化

する。軟化したそれにボクは背中から倒れ込む。

――当然背中にアホコウモリをひっ付けたままで。

 

「がぼっ、がごぼぼぼ!?」

 

 陣の中に全身を沈めて陣の中で溺れ始めるアホコウモリ。当然ボクは倒れ込んだままで浮上することが出来ない。たっぷり十秒ほどアホコウモリを陣に沈めて満足したボクは陣から外に手を付いてもがくアホコウモリを蹴落とす。蹴落とす。

 

「……リリ…ァしゃま……ゅ……して……」

「こんの、アホコウモリ! アホコウモリ!」

 

 なぜか恍惚とした表情で許しを請うアホコウモリ。ボクはアホコウモリにいいようにされたのが悔しいやら情けないやらで顔を真っ赤にしながら蹴落とし続ける。あと誰がリリアだ。ボクはユラだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 人一人がぎりぎり入れる程度の陣の上でボクは木筒の中身、リジェネレーションポーションを啜る。四分の一まで削れたHPがじりじりと回復していく。

 

「いや、その……済まなかった。少々昂奮していたんだ」

 

 言い訳をしているアホコウモリ、地面に横たわっているコレットの背中を素足で踏みつける。ちなみに素足なのは流石に肉体的に頑強とはいえ女性を土足で蹴り続けるのは抵抗があったからだ。

 なにかを訴えるように見上げてきたコレットへとジトっとした目を向けるとなぜかコレットは頬を赤らめた。

 

「……はぁ。最高だ、最高だよ主。……私……啜ること……だが、一番……美少……血を啜る……表情と反応こそ……羞恥……はぁ……至高……」

 

 よく分からないがコレットを追加で一回蹴っておく。

 コレットがまだなにかをもごもごととなにかを言っているがよく聞こえなかった。

 ヴァンパイアってみんなこんな感じなのだろうか。

 

「はい。これでおしまいっ!」

 

 パンパンと手を叩き宣言。

 あんまりこういうのを長く引きずるのは好きじゃない。性分じゃないっていのが正しいのかもしれないけど。コレットが目を丸くして驚いているが無視。

 

「誰かさんのせいで余計な時間取っちゃったよ。まぁ、急いでないからいいんだけどさ」

 

 そう言って溜息を吐こうとした時だった。硬質な破砕音が複数響き渡ったのは。

 

「コレット!」

「ああ!」

 

 視界の端に生えていた大木が木端を撒き散らしながら吹き飛ぶ。同時に撒き散らされた小さな破片と木片がボクたちに牙を剥く。

 

「ショックウェイブ!」

 

 薙ぐようにして払った大盾から発生した衝撃波が障害物を纏めて吹き飛ばす。吹き飛ばされた木々の合間からなにかが這い出してくる。

 全身から粘つく泥を滴らせる巨体がこちらへと瞳らしき鉱石の球体を向けた。

 

マッドゴーレム Lv26 状態:敵対

 

「あー、これは……アレだよね」

「言いたいことは分かるぞ、主」

 

 コレットは無言で頷いた。やっぱりコレット有能。ちょっと変なところはあるけれど。

 ボクとコレットは【マッドゴーレム】に背中を向けて走り出した。言うまでもないけどやっぱり相性がある。そして、コイツは相性で言えば最悪だ。火、水、風、土辺り術式スキルがないとコイツは正直厳しいというか倒せても面倒な気がする。

 なぜならボクたちの攻撃は大盾で殴るか大剣でぶった斬るかの大味の戦闘がメインだからだ。盾で粘土をこねる羽目になるのは勘弁して欲しい。

 

「ちょぉっ!?」

 

 絶賛逃走中のボクの眼前に回り込むようにしてでろりとした拳が突き刺さった。このゴーレムの体表を伝っている泥が絶妙に気持ち悪い。

 振り返れば【マッドゴーレム】の両足はキャタピラのような形状へと変化していて無駄に機敏な動きをしていた。

 

「これは逃げられんな」

「初めて見たゴーレムがゲテモノでつらい」

 

 コレットは覚悟を決めたようで紅の精霊大剣を構えている。

 渋々、ボクも盾を構える。鈍重な動き拳を振りかぶる【マッドゴーレム】と拳を合わせる形でボクも盾を構える。

 

「ア、アサルトストライク!」

 

 盾を通して伝わるべちゃりという背筋の泡立つような感覚。いやぁー、泥が撥ねるぅ! 生理的嫌悪と戦うボクを他所にコレットはボクの盾と拮抗してる【マッドゴーレム】の腕を全力で力を溜めた一撃で根本からざっくりと斬り落とした。

 

 どちゃり、とこれまた嫌な音を立てた【マッドゴーレム】の腕を無視してナイフを腰から抜き、投擲。【マッドゴーレム】の右目の鉱石から少し離れた場所に突き刺さった。外した。続いてストレージから取り出したナイフを投げ続ける。五本目にしてナイフは右目の鉱石を砕き、七本目が左目の鉱石を砕いた。

 

 やはりあの鉱石は瞳の代替だったのだろう。無茶苦茶に片手を振り回す【マッドゴーレム】を上手く避けながら近づき、コレットによって切断された【マッドゴーレム】の腕の断面へとショックウェイブを連発して泥を削っていると丁度心臓に該当する辺りに紫の鉱石が埋まっているのを見つけた。

 

「コレット! それっぽい弱点見つけた!」

「もう核を見つけたのか!」

 

 【マッドゴーレム】を攪乱しては攻撃を繰り返していたコレットが持前の瞬発力で跳ねるようにして紫の鉱石の位置へと跳躍すると、それを切り裂いた。

 コレットが核と呼んでいた鉱石が真っ二つになるのと同時に【マッドゴーレム】が苦悶の声を上げながら消滅していく。

 残されたのは【マッドゴーレム】の核と同じ色の鉱石だった。

 

マナリスト鉱石 Rank3 魔力と非常に親和性の高い鉱石。アクセサリーや装備の装飾、粉末状にしてポーションとして用いられる。

 

 おぉ、中々汎用性の高そうな素材だ。

 もはや駄々余りしてる上に寝具にするぐらいしか使い道のない【グレイウルフ】素材も見習ってほしい。

 

ユラ Lv17 性別:男 称号:灯火の巫女姫 

【陣術】Lv14 【テイミング】Lv6 【自衛の心得】 Lv10 【盾】Lv12 【投擲】Lv8 【精霊術:灯火の巫女姫】Lv1

使役魔物:リビングドール:ヴァンパイア

 

 あとちょっとで陣術がレベル15になるね。

 そろそろ新しい術理が欲しいな。すっごい欲しいな。


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