クエストだらけのVRMMOはお好きですか?   作:薄いの

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Quest13

精霊術:灯火の巫女姫 内に精霊を秘めた巫女姫の用いる精霊術。秘めた精霊の力を最大効率で用いることが出来るが、秘めた精霊以外の精霊の力を借りることが出来ない。現在精霊は眠りに就いている。

 

――現在精霊は眠りに就いている。

 

 どうやらボクの中に残された精霊は暫くは力を発揮できなそうだ。不思議と今のボクにはそれが実感を伴って感じられた。精霊術、いや、精霊術:灯火の巫女姫のスキル効果か、それともつい先ほどまでボクの中に居た奔放な少女の残滓によるものかは分からないが。だが、少なくとも感じられるのだ。火精霊クルゥナクの居た場所に小さな灯火が残っている。クルゥナクのような大火ではないが確かにそれは灯っているのだ。

 

「ありがとう。貴方のお蔭でリリア様は無事に旅立てた」

「……別に、ボクはただダンジョンを攻略したかっただけです」

「あ、分かっている。ただ、図々しいかもしれないが私の願いをどうか聞いて欲しい」

「断ります。ボクはリリア・エルアリアの代替じゃない」

 

 口の中に苦いものを感じた。コレットの言いたいことは分かる。分かってしまう。

 

――着いてくるつもりなのだろう。ボクに。

 

 そして、コレットは重ねている。リリア・エルアリアとボクの姿を。だからこそ、言っておかなければならない。多少キツイ言い方になってもだ。

 ボクはどこまで行ってもユラであり、決してリリアではないからだ。

 

「そう見てしまっていることは否定しない。だがな、困ったことにだな」

「……?」

 

 コレットは視線をうろうろと彷徨わせながら口ごもった。

 

「行く場所がないんだ。キミだったら分かるだろう? 今の私は魔物だ、淘汰されるべき、な。このまま使役魔物を解除されると私は野良魔物なんだ」

「……あ」

 

 忘れてた。完全に忘れてた。この人普通に喋ってるけどシステム的には魔物扱いされてるんだっけ。

 

「いや、なに。キミが駄目だと言うならば仕方ない。例え私が討伐されたり捕まり、売り飛ばされたあげくに下劣な男に好き勝手されても私はキミを恨まないと約束しよう」

 

 おかしい。なんでボク、遠回しに脅されてるんだろう。

 コレットは目を伏せて「くっ」と悲しげな声を出すが十中八九演技だ。

 どうして、なんでこんなことに。

 正直に言えば制限こそ掛かっているみたいだが、明らかにボクより強いであろうコレットを連れ歩くのはボクの好みじゃない。誰かに引っ張りあげられるようなプレイよりも手探りで一喜一憂するようなプレイの方が趣味なんだけどな……ぐぬぬ。

 

「……コレット、行くよ。外の様子がどうなっているのかも気になるし」

「……あぁ! あぁ! 行こうじゃないか主よ!」

 

 瞳を輝かせてボクに追従するコレット。これはもう仕方ないんだ。

 旅先で出会う仲間。うむうむ。これはこれでそれっぽいかもしれない。よし、ポジティブに行こう。

 パーティーメンバーよりもテイミングよりも先に従者拾った気分だけどこれはもう仕方ないんだって。本当に。

 

 ボクは歩きながらシステムウインドウを操り、コレットのステータスを展開する。

 

コレット・テスタリア リビングドール:ヴァンパイア Lv13(58) 性別:♀

【エルダーヴァンパイア】 Lv13(55) 【瞬身の心得】 Lv13(45) 【重撃の心得】 Lv13(39) 精霊剣 Lv13(29)

 

エルダーヴァンパイア【種族スキル】:上位のヴァンパイアの持つ固有スキル。吸血による特殊能力や身体能力の向上など基本的な能力を司る。

 

瞬身の心得:設定した対象との距離を詰める際に敏捷力に特殊な補正を加える。発動時間に応じてHPを消費する。

 

重撃の心得:武器による全力の一撃を与える際に攻撃力に特殊な補正を加える。保有者のコンディションや戦闘環境によっては発動することが出来ない。

 

精霊剣:紅の精霊大剣を用いた武技を使用出来る。現在使用不可。

 

 レベルもスキルもロックが掛かってるけどやっぱり強いわ。そして、なんでボクがコレットに多少とはいえ張り合えたのかが分かった。

 瞬身の心得はともかく、重撃の心得の環境という部分には恐らく足場や天候が含まれるのだろう。そしてボクの主戦力の一つが泥濘の陣。瞬身の心得でスピードを乗せても陣のせいで迂回せざるを得なくて、結果的に重撃の心得のスキルが乗らない。そういった事情があったのだろう。そして、精霊剣。なんだかやたらとレアっぽいスキルだが、今は使用出来ないようだ。というか紅の精霊大剣でしか適用されないって凄い縛りだな。コレットが武技を用いたように見えなかったのは、コレットの用いていた紅の精霊大剣からは力が失われていたことと関連していたのだろう。普通に武技使われてたら多分負けてた。ボクにとって幸運だったのはコレットが持っていたのが汎用性の高そうな大剣スキルではなく、酷く制限の多い精霊剣スキルだったということなのだろう。

 

「コレット、紅の精霊大剣ってさ、元は精霊の力が宿ってたんでしょ?」

「あぁ、そうだ。正直に言えば、私には才能がなかった。武器を用いる心得もなく、スキル得ることも出来ず、ヴァンパイアの身体能力でのゴリ押し。それでもまかり通ってしまった。だが、私に精霊剣の適正があることに気付いたリリア様がこの大剣を譲ってくださったんだ。かつてはこの大剣は頑強の大剣という丈夫なだけの魔剣だったらしい。――だが、もう二百年も経った。大剣から力が失われたのも仕方がないことだ」

 

 なるほど。紅の精霊大剣の「火の精霊の強い力を浴び続けた魔剣が変異したもの」っていう説明文はそういうことか。

 もう二百年――その十分の一も生きてないボクにはその意味は一生理解出来ないだろう。一瞬ボクの口を吐いて禁忌(年齢)の話が飛び出しそうになったが鋼の意思で自重する。誰も得しないな、この話題。

 

「ふぅん」

 

 屋敷内には既に魔物の姿はない。惜しいのはこれが完全攻略の影響なのか女神の祝福の効果なのかが分からないことだろうか。だが、ふと気づくとボクの能力値に全体的にプラスが付いていた。ざっと二割増しといったところだろうか。どうやら女神の祝福の降りた土地ではステータスのボーナスが付くみたいだ。要するにこの辺りはLv上げに最適な地へと変わったということか。まぁ、出現する魔物のレベル自体はそれほどではないから初心者向けだが。やっぱり今のボクではちょっと物足りないかもしれない。次に、ヘルプ。

 

ホーム:ホームに設定された場所にはシステムコマンド、旅の扉を用いると帰還することが出来るようになります。帰還中に旅の扉を使用すると前回旅の扉を用いた場所に戻るすることが出来ます。旅の扉を用いた帰還を行った場合はホームの敷地外に出ることが不可能になります。旅の扉の召喚には発動から十五分の発動時間が必要になります。一部の場所では使用することが出来ません。

 

ダンジョン:様々な要因で発生した異界化した土地の呼び名。異界化が進むほど強力な魔物が出現する。ダンジョンマスターの撃破やその他特殊な条件を満たすことでダンジョンを消失させることが出来る場合がある。

 

ワールドゲート:世界各地と繋がっているという門。利用するためには女神の力を注ぐか、大量のMPを注いで門を活性化させる必要がある。使用すると活性化中の別の門のどこかへと転送される。七十二時間に一度利用可能。

 

 ホーム凄い! というか旅の扉が凄い! これで宿代が浮く!

 でも、なんだかざっくりとした説明だけど旅の扉は大量輸送とかに悪用されそうなシステムだ。まぁ、そんなボクでも思いついちゃうような方法は対策されてるだろうけど。システムの穴を突いたうんたらかんたらは「不適切なプレイ」とかいう非常にざっくりとした規約違反に反していてアカウントが凍結された、という話も珍しくないから探ること自体が不毛だしね。危うい自覚があるなら近寄るべきじゃないのですよ。というかワールドゲートが酷い。どこに飛ばされるか分からないってどういうことさ! いや、でも活性化されているゲートが少ないうちは狙った場所に飛べるかもしれないけど、うーん、これはなんか別の使い方があるのかもしれないな。

 というかよくよく考えたらボク、未だに一文無しだ。いいかげんマズい気がする。

 だが、一文無しでも振り返ればそこにはあるのだ。荒れ果てた庭園、埃まみれの館内、砕かれた食器の散乱する食堂。しかも、未だに人形遣いアルクスの白骨なんてものまで転がってる。

 

――そう、曰くつきなんてレベルじゃない事故物件なマイホームが。

 

 いつか、いつか時間ある時に纏めて片づけるから。多分。


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