クエストだらけのVRMMOはお好きですか?   作:薄いの

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Quest12

 正直に言えば、一回ログの内容を整理したいんだけど、割とそれどころじゃない。なんだこの状況。

 思わず頭を抱えようとして、掌に目が行く。ボクの掌ってこんなに小さくなかったよね。しかも髪も色変わって伸びたままだし。

 しかも、ただでさえ薄かった筋肉が完全にさようならしてしまっている。あとちっこいちっこい言われていた身長がさらに小さく。これ、もう小柄って言葉じゃフォロー出来ない範囲なんだけど。

 

「なんでボクがこんなちんちくりんボディーに……」

 

 なにこれ、誰か助けて。声すっごい高いし。

 

「誰がちんちくりんよ! コラァ!」

 

 ボクの口が勝手に動き、喋り出す。……恐らくはリリア・エルアリアだろう。そもそもコレットを脅したのも厳密にはボクではないし。いやでも、なんだか段々と手足の感覚が薄れている。あれ、これ乗っ取られてない!?

 

「ふふん。アンタの想像通りよ。この稀代の天才巫女姫、焔蛇のリリア様の魂を取り込んだのよ? アンタの矮小な体で何事もなく納まるわけないじゃない。元はアンタの体だけど今は殆どアタシみたいなもんね。ちなみに元のアタシの体よりはちょっと身長が大きいわね。やったわ!」

 

 うわぁ。心を読んでくるとかキモイ。

 というか、これよりももっと小さかったのかこの人、何歳児だったんだ。

 

「キ、キモイ言うなぁ! 意識の表層に出てるところしか伝わんないから安心しなさいよ! そもそも、今はアンタがアタシ、アタシがアンタなんだから当然でしょうが! それにね! アタシはこれでもとっくに成人してたのよ!」

 

 この世界は幼児でも成人出来るのか。驚愕の事実だ。

 

「誰が幼児だ! いーい? 聞きなさい。私ほどの超絶天才巫女姫ともなると精霊と近すぎて半精霊化して容姿が固定化するの! 幼少にてパーフェクトで天才だったアタシはちょっと失敗しちゃったの! 調子乗って頑張りすぎちゃったの! 半分精霊に至っちゃったの!」

 

 なんだろう。親近感。

 なんとなく、キミの気にしていることとボクが気にしているところは大分被ってる気がする。

 いや、うん、わかるわかる。キミとは仲良くやっていけそうな気がする。気がするだけだけど。

 

「……仲良く、ねぇ。まぁ、残念ながらそれは無理ね。アンタ、相当無茶してアタシを入れたわね。そう長く保たないのよ、これ。長くて十分ってところ?」

「ちょ、ちょっと待ってくださいリリア様。保たないとはどういうことですか!」

「コレット、分かっているでしょう? アタシは死人。二百年も昔にくたばった亡霊なのよ。あとは女神の場所に昇っていくだけ」

「ですが、現にこうして!」

「魔道魂核っていうのはそういう代物なのよ。人形に意思は要らないの。必要なのは力だけで魂は要らない。だけれど巫女姫の力は魂に宿る。だから今のアタシはリリア・エルアリアの搾りかすみたいなものよ。放っておけば消えるもの。会話出来てるのが奇跡ね。いえ、この場が女神の祝福を直に受けてるからでしょうね。力の譲渡だけをして消えていくはずの意識がこうして強く残ってるのは」

「……そんな」

「ま、少年。アンタの勝ちよ。まさか陣術なんて芋臭い術式でやってみせるとは思わなかったけどね。だけど、――巫女姫舐めすぎよ。アンタのキャパシティーは確かに一級品だったけど、この超絶美少女天才巫女姫の力を納めるには全然足りなかったわね」

 

 ……あれ、ボク失敗した? やらかしちゃった?

 

「んなことないわ。大成功よ。まぁキャパシティーがもうちょっとあればアルクスの頭蓋骨に落書きして下水に沈める時間くらいは出来たのにってのが思い残したことぐらいかしら」

 

 恨みつらみが溜まってるね……。というか貴重な時間浪費してやることがそれ!?

 

「さて、と。少年にはご褒美をあげないとね。 あー、んー。本当ならクルゥナクを譲ってあげたいんだけどアンタじゃ力量的に無理なのよね。百戦錬磨の大精霊と精霊すら感じ取れないアンタじゃバランスが悪すぎるわ。クルゥナク自身はアンタを気に入ってるんだけど……よしっ、アタシがアンタに新しい火を灯してあげるわ」

 

 見た目幼女にご褒美を貰うってだけでなんだかボクがどうしようもなく情けなくなった気がする。というか火を灯すってなに?

 

「アンタ、アタシに喧嘩売ってんでしょう! ……はぁ、精霊術師と巫女姫の違いは「精霊と共に生きる」か「精霊と共に在るか」なのよ。精霊と短期間の契約をして力を貸してもらうのが精霊術師。生まれながらに体内に精霊が存在するのが巫女姫ね。そして、――アンタには巫女姫になってもらうわ!」

 

 ……いやいや、残念ながらボクの体には精霊なんて居ないと思うんですが。というか巫女姫って巫女なの? 姫なの? というかボク男、男だったはず。男だよね?

 

「自分の体見れば分かるでしょうが。超絶美少女じゃない。それと、少なくともアタシの時代では巫女姫はすっごく珍しかったわ。世界に溢れるのは遥か昔に女神が生み出した精霊たち、だけれどアタシたち巫女姫だけは女神が生み出したものではない精霊と共に在る。精霊と共に在る最も女神に近い巫女。そして、巫女姫の大半が幼少の頃に力に目覚めていて、例外なく女性だったから姫なんて呼ばれていたの」

 

 考えるな、考えるなボク。ボクは幼女じゃない。幼女じゃない! 戻るよね? 戻るんだよねこれ!?

 駄目だ、リリアが物凄くボクの興味を引く話をしているのに頭に入んない。いや、入るな。こういう話好き! 大好き!

 

「むしろ戻んなかったらアンタどうするつもりだったの……。というか落ち着きなさいよ」

 

 ただ、なにもせずに負けるのだけは嫌だったし、自分がどうなるとか考えてなかった。

 それに、男でも女でも幼女でもTS幼女でも二重人格でも冒険は出来るし。なんの問題もない。ただ、幼女だと盾が持てなそうでつらい。

 防具は勝手に縮んだり大きくなったりしてサイズ調整してくれるからいいけど。特に考えずに利用してたけどよくよく考えるとこれも凄いな。

 

「……火の精霊は情熱の精霊。なんでアンタがクルゥナクに好かれてるのか分かった。アンタ、変人だし、負けず嫌いだわ。後、もう一回言うけど落ち着きなさい。落ち着いたら続きを話してあげる」

 

 ――はい。

 

「……気持ち悪い素直さね。まぁ、いいわ。それとね、アンタの中には精霊が居ないなんて有り得ないの。今、アンタの中にはとんでもない精霊が居るじゃない。それも二体」

 

 ……いや、それってまさか。

 

「そーよ。アタシ、そしてクルゥナク。でも、クルゥナクの力はアンタには重たすぎるわ。だから、ちょっとだけアタシの力を残しておいてあげる。……ま、あれよ。二百年も待たされたあげく何も残さず消えるだけ、なんてのは癪だからね、この世界にアカシを残してやるのよ。アンタに灯す火はアタシの火。……アタシが消えてもいつかアンタがくだばるその日まで火は灯り続けるわ」

 

 ……リリア。

 

「誰が名前で呼んでいいって……まぁ、いいわ。アンタは思い知らせてやりなさい。火の精霊姫の再臨を、うすのろな今の時代のヤツラに本物の火を見せてやるのよ! 雑魚共が恐怖に怯え、ひれ伏す姿が目に見えるわ! あーっはっはっはっ!」

 

 やだ、この人魔王じみてる。

 なんでこんな人に力与えちゃったんですか女神様。

 ラティナのご先祖様へと思いをはせているとボクの、いや、リリアの全身から黄金の粒子が少し零れだし始めた。

 

「っとと、時間みたいね。思ったよりは保ったわ。まぁ、最後になるけどコレット」

「……はい、ここに」

 

 瞳に涙を湛えたコレットが一歩ずつ、踏みしめるようにこちらへと歩みを進める。

 彼女たちの歩んできた道のりの重さをボクは知らない。

 だからこそ、この場においてボクこそが異物なの―――

 

「アンタ、ばっかじゃないの!」

 

 ……は?

 コレットがボクの気持ちを代弁するようにあんぐりと口を開けて呆然としている。

 

「この子、レベル13じゃない。こんなのゴブリンよ! ちょっと強いエリートゴブリンレベルよ! ばっかじゃないの! こんなのに良いようにされるとか本当にばっかじゃないの!」

 

 ボクとゴブリンを同列に並べるのはやめろぉ!

 

「こんなのに負けるとかありえないありえないありえない! アンタ何倍レベル差あると思ってるの!? なっさけない! なにより、こんなのを護衛にしたアタシがなっさけない!」

 

 コレットは心に負ったダメージが大きすぎたのか口からエクトプラズマを吐き出している……気がした。

 

「ふぅ。まっ、そんなもんかしらね。アンタは解雇よ。もう要らないから好きに生きればいいわ」

「……えっ?」

 

 コレットは呆けた顔のまま、一言だけ疑問を漏らした。

 

「役立たずはお払い箱よ。アンタと昔交わした血の盟約も解消するわ。くたばったアタシのことなんて忘れてしまいなさいな」

「……忘れません。今の私は魔物です。身勝手な魔物。好き勝手やらせてもらいます」

「アンタ、アタシみたいにもうちょっと人生適当に生きたほうがいいと思うわよ」

「魔物なので、人生という言葉には当てはまらないかと」

「……勝手になさい」

 

 金色の光が抜けていく。リリアが消えていく、ボクの体から。

 コレットに背中を向け、顔を伏せる。

 

「ま、短い間だったけどそれほど悪くなかったわ」

 

 体の感覚が戻ってくる。そして、視界が高くなる。試しに掌を軽く握ってみたが問題はなかった。だが、くすんだ赤に設定していたボクの髪は未だに背中まで掛かるほどに長く、いつの間にかコレットの瞳と同じ、リリアの髪と同じ鮮やかな真紅のままだった。

 

――あぁ、アンタ、やっぱり。そりゃ会えない訳よね。知らないのか、知っているのかすらとても中途半端。なるほど、そういうことなのね。リリア・エルアリアは終わっていない。まだ未完成だったのね。

 

 小さな囁きをボクの耳が捉えた。

 だけど、内容は全く理解出来なくて、ボクは首を傾げるしかない。

 

――少年。アンタとはまた出会うかもしれないわ。そして、出会わないかもしれない。出会った時は、そうね。―――名前を聞かせてね。

 

スキル「精霊術」を取得可能です。リリア・エルアリアの干渉を確認。取得しました。

プレイヤー:ユラの構成に精霊を確認しました。スキル「精霊術」を「精霊術:灯火の巫女姫」に派生します。

プレイヤー:ユラに称号「灯火の巫女姫」を付与します。リリア・エルアリアの干渉を確認。称号がロックされました。

 

 ウインドウが大量の情報を吐き出すが、ボクはそれを今だけは無視する。

 金色が空いっぱいに広がり、霧散するかと思われたその時、光が膨らみ、集い、焔を上げて、蛇を司った。巨大な、巨大な焔の蛇。それが空を昇っていく、雲を貫いてずっとずっと高く。

 

 やがて完全に蛇の姿が消えてもボクはぼんやりと空を見上げていた。

 

「派手好きなお方だったんだ」

 

 いつの間にやらボクの隣にはコレットが立っていた。笑っている。どうしてコレットが笑っていられるのか、ボクには分からなかった。

 

「リリア様がまだここに残ってらっしゃるからな」

 

 ボクの言いたいことが伝わったのか、コレットはボクの背中を彩る真紅を一房掬って、優しくなでた。少しだけくすぐったい。

 なんとなく、このくらいの置き土産なら許してやろう。そう思えた。

 

ユラ Lv13 性別:男 称号:灯火の巫女姫 

【陣術】Lv11 【テイミング】Lv3 【自衛の心得】 Lv9 【盾】Lv8 【投擲】Lv3 【精霊術:灯火の巫女姫】Lv1

使役魔物:リビングドール:ヴァンパイア

 

 許して……あげようと思ったんだけどさぁ!

 この「灯火の巫女姫」の称号取れないんだけど! 変更出来ないんだけど!

 称号をロックしましたってなんなのさ、リリアのアホォォォ!


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