艦これ Side.S   作:藍川 悠山

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 AL方面で激闘が繰り広げられている時、棲地MIでも激戦が行われていた。第一機動部隊及び、中途から参戦した大和率いる主力艦隊。そして支援として送られた五航戦──翔鶴・瑞鶴が棲地MIに展開されていた深海棲艦の軍勢と交戦している。

 

 数は多いものの敵に戦艦級は少なく、主力艦隊等と合流してからは優勢に戦いを進められていた。やがて、大和の一撃が炸裂し、中核である飛行場姫の破壊に成功する。

 

「シズメ……、ミナ、シズメェェェ!!」

 

 そんな断末魔を残しながら飛行場姫は砲撃の前に倒れた。炎上する島を見つめながら吹雪・加賀・赤城の第一機動部隊の面々は勝利を予感した。

 

「やった……?」

 

「倒したの?」

 

「はい……、これであの夢は──!」

 

 その幻想を打ち砕く爆音が響く。誰よりも前にいた大和へと雷撃が命中。強固な『装甲』に守られ、彼女自身に目立った損傷はなかったが、戦いが終わった訳ではない事を全艦娘へ知らせる証となった。

 

「新たな敵空母です!」

 

 榛名が注意を促す。空母だけではない。多くの軽巡洋艦級と駆逐艦級の深海棲艦も浮上し、進行してきている。

 

「ひー、ふー、みー……ひえぇぇぇ!」

 

「いつのまに!」

 

 比叡と飛龍は敵の数を数え、その多さに悲鳴を上げる。そして再び大和を雷撃が襲った。

 

「くっ」

 

「大和さん!」

 

 大和を心配して吹雪以下第一機動部隊が駆け寄る。

 

「敵の拠点は既に叩いたわ。一度退却して体勢を立て直してからでも──」

 

「──駄目です」

 

「……大和さん?」

 

 もっともな正論を大和は否定する。彼女は目を閉じ、戦場の空気を肌で感じた。暗雲が広がる空。絡み付くような空気は心をざわつかせる。その時、『運命』を確かに感じ取った。

 

「感じませんか? まだ何か強い力が働いている事に……」

 

「強い……力?」

 

「そうです。ワタシがここに遅れてしまったのも、新たな敵が現れたのも、まるでかつてあったものを、あった通りにしておこうとする力。退却したら、その力はより強くなるような気がするんです」

 

「でも……」

 

「ここで打ち破らなくてはいけない。ワタシ達を縛り付ける何かを」

 

 大和の言葉に赤城だけが理解を示す。彼女が言う事は身を持って理解できた。「その通りです」と赤城が賛同する意見を口にした時、赤ん坊の泣き声がこだまする。まるで産声。新たに生まれる生命の息吹。けれど、それはどこまでも禍々しかった。 

 

 声の方をその場にいた全員が見る。発せられた位置は飛行場姫が存在した島。否。倒れたはずの飛行場姫そのものから発せられていた。

 

「──ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ──」

 

 弾けた身体が治る。砕けた艤装が直る。そして全てが変貌を遂げる。再生ではなく再誕。故の産声。新たな生を受けて飛行場姫は中間棲姫と呼称される別個体へと変質した。

 

 それを目の当たりにして艦娘達に衝撃が走る。

 

「なんじゃあ!?」

 

「そんな……」

 

「また最初に戻っただけっぽい?」

 

「今までの攻撃は全て無駄だったというのですか!?」

 

 その誕生に呼応するように次々と深海棲艦が浮上した。数はもう数え切れないほどに展開されている。その絶望的な状況に誰もが息を呑んだ。

 

「これが……力……!」

 

「どうやっても……」

 

「……逃げられないと言うのですか」

 

 恐怖は伝染し、心は諦めに支配される。それを口にすれば尚更絶望は深まった。その雰囲気に大和は「このままではいけない」と奥歯を噛み締める。全てはここから始まる。みんなの未来も、自分の生き方も、全てはここから始まっていくのだ。怖気づいて踏み出すのを諦めてはならない。憧れたあの眩しい二人のように格好良く生きる為に、大和は激励の言葉を発しようとして──先を越された。

 

「──ダメです!!」

 

 突如懸命な声が響き渡った。それは駆逐艦 吹雪のもの。諦めに支配されかかっていた空気を吹き飛ばすような必死な声だった。

 

「吹雪ちゃん……?」

 

「そんなものに負けちゃダメです!! みんながわたし達の勝利を信じて待ってるんです!! わたし、司令官に初めて会った時に言われたんです!! 『ここから始めよう』って……。何もない所から全ては始まるんです!! 何にも囚われず立ち向かわなきゃダメです!! それが……全てを変えるんです!!」

 

「吹雪さん……」

 

 その言葉に赤城が感心を抱く中、大和もまた驚いていた。吹雪の言葉は大和が思っていた事を代弁していたからだ。そして恐らく彼女は自分とは異なり、『運命』の事を認識してはいない。提督の言葉に共感し、自らもそう思ったから発せられた言葉。自分で感じ、自分で選んだ発言。『運命』を認知しない特別ではない彼女が、自分の意思で選び取った言葉だからこそ、それは皆の心に反響した。

 

「──その通りだ!!」

 

 吹雪の言葉を後押しするように凛とした声が届けられ、同時に砲撃音が轟く。数多の砲弾が弧を描き、敵陣の只中へと着弾した。その一声で我を返った艦娘達は背後を振り返る。そこには本来前線に出てくる予定になかった戦艦 長門の姿があった。

 

「怯むな! 運命に抗うという事は簡単な事ではない! しかし、だからこそ価値がある! 成し遂げる意義がある! ──艦隊、この長門に続け!!」

 

 長門だけではない。援軍として川内型を筆頭にした鎮守府近海を警戒していた数人の艦娘と、そしてAL方面から那智率いる陽動部隊改め急襲部隊もこの時に参戦を果たした。

 

「満潮達が繋いでくれたおかげで辿り着いた。その想いに報いる為、那智艦隊──全力を出し切れ!!」

 

「クマー!!」

 

「にゃー!!」

 

 援軍の到着により下がっていた士気は再び高まりを見せる。

 棲地MIでの戦い。終わりは見えずとも、彼女達は奮い上がり、身を投じた。──激戦は続く。

 

 


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