セイギのミカタ   作:猫毛布

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オリキャラ三人目の序章。
二人目? ああ、いいやつだったよ……。


投稿の仕方に関して、チラ裏だから許されると思っていることもあります。
まあ、アレです。二作を一緒くたにしてる、と思っていただければ……たぶん想像しやすいと想います。


2015/06/04
誤字修正


ギータ・アコニト編
ギータ 序章


 世界は希望で溢れている。

 生まれたばかりの名づけすらされていない赤子は涙を流しながらもそう感じた。

 ギータと名付けられた男の子は散々泣いた後に希望を抱き締めながらもその瞼を閉じた。

 

 

 ギータは自身が稀な存在であると理解出来ていた。生まれたばかりの赤子が、である。

 ソレは彼の脳内に鮮明に残っている前世と呼べる記憶が原因だ。

 彼の前世というのは正義の味方でも、悪の幹部でも、ましてや救世主や勇者でも魔王でも僧侶でも騎士でもお姫様でも王様でも歌姫でもパイロットでもアイドルでも何でもない。

 単なる村人。もっと言うならばサラリーマンだ。戦士は戦士であっても企業戦士であり、度重なる重圧と疲労により彼は戦死したのだ。

 ギータはそんな前世をツマラナク思っていた訳でもない。所詮は人生なのだから、とドコか割り切っていたと言ってもよかった。

 幸いにして、日本という国に住んでいた彼はその特異な文化を楽しむ一般人であった。だからこそ、こうして前世から見れば転生という事象に遭ってもそれほど混乱はしなかった。

 漫画や、アニメ、ライトノベル。俗に言えばギータとなる前の彼は"オタク"という人種に他ならなかった。

 "オタク"は人種である、と以前の彼は豪語しており、国を越えてもオタクはオタクと一定の仲を保てる事も彼は知っていた。些細な争いがあったとしても、現実に置き換えれば理想恋人の良い所の言い合いであったりするのだから惚気話に他ならない。尤も、その理想恋人はあくまで理想恋人だからこその争いだったのだが。

 国を飛び越えてもオタクはオタク。そんな事を言えたギータは幼い声を唸らせて、今はない無精髭を撫でる様に顎を擦った。

 

「よもや国どころか時空を越えるとは思わなんだ」

 

 既に彼が生まれて五年が経過している。その間に彼は淡々と情報をかき集めた。そしてわかった事は自身が居た時代でもなく、更に言えばまったく別の時空、次元なのかも知れない事。

 ギータ自身、詳しい事をいまいち理解しきれていないが、彼にとって別次元だか別時空だかはどうでもよかった。

 それよりも惹かれる単語が目に入ったのだ。

 "魔法"と呼ばれる技術。体内に含まれたリンカーコアから魔力を取り出して行使する奇跡。実際の所は魔力を含めた物理数学で証明できるのだが、これまた詳しい事などギータにはどうでもよかった。石が落下するのは重力が働くからであり、その詳しい原理を理解しなくても現在は何の問題も無い。

 この"魔法"という技術こそ、ギータが前世とは別の世界だと理解した所以だ。尤も、前世の世界でも知らない所で"魔法"は使われていたかも知れないが。

 

 先ほども述べた様に魔法とは学術である。

 理論を理解し、然るべき時に然るべき力を然るべき式に代入する事が出来ればソレは機能する。

 故にギータは本を読み漁った。理解出来ない部分は別の本を開き要領を得て、理解を深めていった。知れば知るほどにギータは魔法にのめり込んだ。

 齢五歳にして本を嬉々として読み漁るその姿を見た他人達は彼の事を神童などと持て囃した。

 ギータは自身の特異さを知っているからこそ、その声に苦笑して、否定もしなければ肯定もしなかった。褒められる事はそれなりに嬉しい事であるのだ。

 

 そんな神童と呼ばれているギータにはちょっとした野望めいたモノがあった。

 読書中にに出てきた単語。ベルカ、魔導士、デバイス、魔法、ミッドチルダ。世界を知る為に歴史書を読み漁っていた時に嵌っていくピース達。

 頭に思い描いたのは前世での彼がサブカルチャーにはまり込んだ由縁。白い悪魔と敬意と畏怖とちょっとしたお茶目が込められた俗称で呼ばれる主人公。同時に声高々に聞こえる「完売しました!」という宣言。

 ギータ・アコニトには野望がある。

 ソレはただ単純なファンとして、そしてドチラかと言えば幸福論者であり、そして運命論者ではない為。

 

 主人公と出会い、そして未来を改変する。

 

 これが神童、ギータ・アコニトの野望だった。

 

 

 

 

 

 

 ギータ・アコニトは恵まれていた。

 

 両親は時空管理局内にてそれなりの地位についており、それなりの生活も確約されていた。

 故にまだ小さなギータが通っていたのは共働きである両親のいる管理局内で、ソコでも様々なモノを調べる事の出来る場所だった。

 押し込められていた、と言われてもギータはそれで納得をしただろう。ギータ自身は両親に嫌われていると思っているからだ。

 神童。そう呼ばれた弊害。ギータはそう感じていた。愛が無い訳ではない。それこそ愛が無ければギータ自身がココにいる事はなかっただろう。

 愛はある。けれどもその裏には畏怖があった。子供らしかぬ子供。神童、いいや、化け物と陰で言われ続けている事はギータも知ってる事だ。

 

「まったく、めんどうだな」

 

 神童らしからぬ舌足らずな声で、神童らしく事態を理解した発言。

 ギータからすれば勝手にしてくれ、というのが本心であった。彼は彼自身の野望の為に動いているのだから、他の事は些事である事に変わりは無い。

 未来の改変。誰かが確定されていた未来よりも幸せになる為に。第三者が手を加える。

 ギータはそれが使命だと感じていた。ソレはよくある転生者がしていたからに他ならない。

 使命だから、義務だから、ギータは行動をするのだ。

 頭の中で夢想する未来。全てが笑顔で、全てが十全で、悲しい事など何も無い未来。

 その為にギータは行動しなくてはいけない。

 ともあれ、幼い彼に出来る事など少ない。

 けれど同時に今出来る事が限定的で分かりやすいという事だ。

 

 神童という肩書き。両親の立ち位置による閲覧可能の資料室に押し込まれている事。良し悪し含めた噂話。

 全てを考えていた訳でもなく、偶然の産物。

 幾本も伸びた線が交わっただけ。

 

「君が噂の神童君かね?」

 

 低い声がギータの鼓膜を揺らした。ようやくギータは珍しい紙媒体の本から目を上げてその人物を見やる。

 釣れた、という感想を抱く。

 

「こんにちは、グレアム提督殿」

 

 ギータは聖遺物(ロストロギア)関係の資料を閉じてニッコリと笑ってみせた。

 

「はっはっ、噂の君に名前を覚えられているなんて光栄だね」

「しっかり俺の事を調べて、随分な言い様ですね」

「なんだ知っていたのか」

「紙媒体の資料を読んでいる事はわかっても、ドコを読んでいるかは実際に見てみないとわからないでしょう? そういう事です」

「噂に違わぬ、と言った所かな?」

「いいや、或いは俺を調べた人が幼稚だったのかも」

「なるほどそうかも知れないね」

 

 苦笑を交えながらもギータの前に座ったグレアムは変わらぬ笑顔を浮かべながらギータを見ていた。

 その笑顔がギータにとって胡散臭く感じてしまう。

 

「それで、どうして君はソレを読んでいたのかな?」

「……来るべく未来の為に」

「ほう?」

「闇の書、今は地球ですか?」

「…………なるほどもう一つの噂もどうやら正しいようだ」

「生憎、両方とも過分ですがね」

「謙遜は止めたまえ。けれど、それでも君は実に愚かだ」

 

 驚いた様子だったグレアムは真面目な顔つきへと変化してギータを咎める。

 ギータは口を尖らせて不機嫌を表す。咎められた事を否定する事もなく、けれど肯定する事も無い。

 グレアムは苦笑をして、立ち上がった。

 

「君はまだ大局を見れていないようだ」

「小事を捨てる事で見える大局は知りませんよ」

「いいや、そうではない。そうではないよ神童よ」

「……俺が邪魔で殺すとか?」

「それもまたいいだろう。けれど、ソレはしない。人道的にも問題であるからね」

「なら」

「君ではない。扱い辛いことは確かだが、それでも君は子供だ。子供なのだよ」

 

 そう言い残したグレアムが資料室から立ち去る。

 ギータは疑問を抱えながら、グレアムの言葉を脳内で反芻した。反芻したけれど、意味はわからなかった。

 疑問を抱えていても仕方が無い、そう感じたギータは資料室から立ち去り、帰路に着く。

 

 

 

 変わらずも毎日迎えに来ない両親は既に家に戻っているだろう。

 鍵の開いている自宅の扉を開き、ギータは慣れた様に声を出す。

 

「ただいま」

 

 いつもは返ってくる応えは返ってこない。

 新しく疑問を浮かべて、残業という文字でその疑問が掻き消えた。

 肩を落として、廊下を歩く。リビングの扉を開き、瞬きをした。

 赤。赤である。まるでペンキでも撒き散らせたように飛び散った赤。

 喉が竦む。息を飲み込むことすら出来ない。

 途端に鼻腔に入り込む鉄臭さ。

 赤の中心にいる人物が二人。

 テレビに映されたニュースだけが鼓膜を揺らし、ギータにとっての非日常が日常に溶け込んでいく。

 溢れ出たのは涙などではない。叫びでもなく、嘔吐であった。

 

「オ゛オ゛ォ゛ェェ」

 

 ビチャビチャと床に撒き散らされる液体。赤の上に散り、僅かに赤が混ざる。

 喉の痛みと舌に伝わる酸っぱさで涙が溢れ、目尻から流れ落ちた。

 

「母さん、とお、さん?」

 

 間違いである筈がない。

 何度も見た。尊敬も出来た。たとえ自分が怖れられていたとしても、それでも自分は好きでいた両親。

 その両親がギータの前で倒れていた。真っ赤に染まり、倒れていた。

 倒れていた、という表現は正しくは無い。腹部から下を失った人間が倒れるのは道理であるのだから。

 

「オイオイ。随分と早い帰宅じゃねぇか」

 

 ギータの背後から声が聞こえた。

 その人物は身体を真っ赤に染め、イヤらしく口を歪めていた。

 

「確か、ガキは対象外だったか?」

「お、前、」

「あん? ああ、殺したのは俺だぜ?」

「アアアアアアアア!」

「おっと」

 

 振り上げた拳は容易くいなされギータは蹴り飛ばされて少しだけ豪華な料理の乗ったテーブルにぶつかる。

 

「コッチも仕事だ。悪く思うんじゃねぇよ。っても無理か」

「なん、で?」

「あ? 知るかよ。良くも悪くもお前の両親が何かを知ったんじゃね? 俺の仕事なんて大体そんなだし」

「あぁあああ…………」

 

 違う。きっと違うのだ。

 ギータはどこかで悟ってしまった。転生者である自分が覆してしまったのだ。

 普通の子供だったならば、きっと両親は変わらぬ人生を歩んだ。未来は不偏であった。

 ソレを自分が覆し、そして不幸へと誘った。グレアムの言葉を思い出し、目頭が熱くなる。

 漏れ出した力の無い声。

 

「しかし、依頼主様も乙だな。ガキの誕生日を決行日にするなんて」

「…………」

 

 その言葉がギータに届く事はない。

 悄然。蒼然。まるで彼の意思がココには無い様に。言葉も反応も無い。

 ソレを見た襲撃者はツマラナさそうに口を尖らせ、息を吐き出した。

 

 ギータは思考を巡らせていた。これまでとは決定的に違うほど深く。速く。ただ利己的に。ただ心のままに。

 自己否定をした。

 自己弁論もなく、自己肯定もなく、ただただ否定を続けた。そして謝り続けた。

 同時に夢であれと願った。願った端から、否定された。

 そして、ようやく、ギータは感謝をした。

 両親は決して自分を愛していなかった訳ではなかった。不器用だとも言えはしたけれど、それでもギータは愛を感じる事が出来た。

 偶然にも机に乗っていた一つの石がソレを伝えてくれた。

 石はそれだけをギータに伝えて、本来の役割へと戻った。

 

「じゃあな、ガキ。余生を過ごす為に、復讐なんざ、考えるんじゃァねぇぜ?」

「…………ああ」

 

 魔力が溢れ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目が覚めたようだね」

「…………」

 

 目が覚めたギータの目の前にはグレアムが座っていた。

 変わらぬも厳しい顔で、目に光を失ったギータを見ている。

 そんなギータが何かを思ったように口を開いた。

 

「……アンタか?」

「そうだ。君の両親の命を奪ったのは、私だ」

 

 グレアムはギータの問いに対して驚く程早く返す。それに激昂したギータは拳を握り締め、グレアムに殴りかかる。

 その拳はグレアムの胸板に当たり、力なく落ちた。

 嗚咽を吐き出す訳でもなく、ギータは俯いた。

 

「君には二つの道が用意されている。服従か、それとも降伏か」

「復讐だ」

「……そうか。悲劇の神童よ、学べ、経験し、思考しろ、ギータ・アコニト」

 

 グレアムが退室し、数分経過して、ようやく病室の中に嗚咽が漏れ出した。

 

 世界は絶望で満たされている。




>>複数のオリキャラに関して。
 猫毛です。
 この度は『セイギのミカタ』と読んでいただきありがとうございます。
 どうしてオリキャラが複数なの?という事を言われそうなので、少しばかり。

 今回書きたい事の都合、というのが一番強いです。決して『一人目』であるアキラさんの踏み台にする為に書いている訳でない、という事は確かです。
 対抗馬として出現させた、という事もありますが……まあ、ソレはソレという事で。

 前書きにも書きましたが、二作を一緒くたにしています。
 なんでそんなヤヤコシイ事を……という事なんですが、書きたい事がこうしないと書けないんです。許してください。

 一応、全部書き終わって、というかたぶんプレシア事件中にはどうにかコレがどういう物語なのか、というのを感じてほしいなぁ、と思う次第であります。頑張ります。ハイ。

 主人公が二人だからこそ、書ける物語もあるそうです。まあ、そういう事を書きたいので……ややこしいながら、こうした書き方にしております。
 後々、話数が増えれば章分けか若しくは二作品にしたいなぁ、とかなんとか。

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