ちなみに今回は初の戦闘シーンがあります!
さあ、主人公のかっこいい勇姿をとくとご覧あれ!!
・・・・・・あ、ども単福です。姓が単、名が福です。字はまだありません。
今更ながら実感しますが、学院での生活というものはとても恵まれていたのですね。
衣食住に窮する事はないですし、なんだかんだ警備の人もいますので賊などに襲われる心配とか基本的にないのですから。
しかし悲しい事なのですが、こういった当たり前の幸せというものは実際に不幸になってみないと中々気付けないものなのです。
そう・・・
「おいてめえら、このガキの顔を疵物にさせたくなければそこを動くんじゃねえぞ!」
「へ、へへ、うっかり手を滑らせても知らないんだな!」
「あ、あわわ・・・」
「雛里ちゃん!!」
例えば、こんな状況みたいにですね。
こういう非日常こそが日常を謳歌出来るスパイスとなるわけですよ。
・・・ええ、はい、分かってますよ、現実逃避している場合ではないことぐらい。
事の発端はというと、三才図会の草植物分野を充実させるために、近場の森まで草木を探しに行こうと思ったのですが、途中で諸葛亮らに見つかってしまい、是非連れてって欲しい、と五体投地してきたので、それならばと連れて行って、とりあえず目的の植物はたくさんあるから手分けして探した方が効率が良いだろう、と思って、それぞれの場所に分かれて探していたんですけど、暫くしたら鳳統の悲鳴が聞こえてきたので、何事かと駆けつけてみたらご覧の通り賊が現れて鳳統が囚われてしまっていました。
賊の数は三人、向かって一番右には背の高いリーダー格の男がおり、右手に持った剣をチラつかせており、中央には太めの男が捕まえた鳳統の事を逃がさんと、羽交い絞めで抑え込み、そして一番左には背の低い男が手を頭の後ろに組んで余裕な表情を浮かべていると言ったところでしょうか。
うん、分かり易いほどにピンチですね。
「ひひ、しかしこいつらべっぴん揃いっすぜ兄貴!ガキっぽいのが二人ほど居るのが残念っすがね!」
「バーカ、こういう奴の方が逆に高く売れたりするんだよ!」
状況を整理していると、賊たちから話し声が聞こえます。
なるほど、彼らの目的はどうやら人売りのようですね。
だからどうしたと言われればそれまでなんですけど。
「朱里ちゃん福さん!わ、私に構わず逃げてくだしゃい!!」
「チッ!うるせえんだよ!」
「きゃ!?」
僕たちに逃げることを促した鳳統ですが、それが癪に障ったのかリーダー格の賊が鳳統をひっぱたきます。
「おいてめえら、大人しくこっちにこい!妙な真似をするんじゃねえぞ!?」
リーダー格の賊は、そう言って僕たちの事を恫喝します。
このまま膠着状態を続けるわけにもいかず、かといって奴らの指示に素直に従っては状況が悪くなる一方ですし・・・どうしたものでしょうね。
・・・なんてね!心配はありませんよ!
何故なら此方には神算鬼謀の諸葛さんがここに居るんですから!
彼女ならきっとこの程度のピンチなど簡単に解決してくれるでしょうよ!
さあ伏龍殿!あなたの策であの賊たちをやっちゃってください!
・・・・・・。
・・・あの伏龍殿?
先程からあわあわしているのはもちろん演技ですよね?
そうですよね?
・・・ああ、流石の未来の天才軍師様でも兵すら居ないこの状況で策を巡らすは難しいですよね。
そうですよね。無茶振りしてすみませんでした、はい。
あれ!?これもしかして本格的にピンチって奴ではないですか!?
「おい!シカトこいてんじゃねえぞ!それともこいつがどうなってもいいってか!?」
「ひっ!」
一向に動こうとしない僕たちにリーダー格の賊がしびれを切らし、鳳統の頬の辺りに刃を近づけます。
まずいまずい!
これ、sYレにならないくらい非常にまずいですよ!
まさか天才軍師諸葛亮に丸投げ大作戦という崇高で完璧な策が早くも崩れ去るとは!
このままでは鳳統が危ういですし、かといって無策に奴らに従ったところで危険が広がるのは明確!
考えましょう・・・何か策を・・・落ち着いて・・・KOOLなって・・・。
・・・・・・。
・・・もはや仕方がありません。
僕は、そちらの言い分を聞き入れるのでそれ以上彼女に乱暴しないでほしい、という旨を賊たちに伝えました。
「へッ!物分かりの良い女は嫌いじゃねえぜ!」
「ふ、福さん・・・駄目です・・・」
僕たちの事を案ずる鳳統に、僕は安心してもらうように微笑みかけました。
ええ、やせ我慢です。
こういう、状況が不利な時ほど笑っておけと師匠も言ってましたしね。
ふと諸葛亮の様子を見ると、彼女もやはり不安そうな顔で僕を見つめています。
ふむ、ここは彼女にも何か一言言っておくべきでしょうか?
彼女が落ち着いてくれさえいれば、何か良策をしてくれるかもしれませんし。
僕は、地に足がついていない彼女に、しっかりと意思を持って落ち着くように言い含めました。
「・・・え?」
うん、急に話しかけたせいか、ちゃんと聞こえなかったようです。
かといって態々言い直すのも恥ずかしかったので、賊たちに向かって、僕が最初にそちらに向かうと言い放ち、そのまま歩き始めました。
賊たちの様子を確認すると、僕を見てニヤニヤと下衆な笑みを浮かべているのが分かりました。
恐らく、若い女性三人(厳密には僕は男ですけど)が簡単に手元に転がり込んでくると完全に油断しきっているのでしょう。
僕は歩きながら、奴らに気づかれないようにさり気無く袖口の辺りを弄り、
そう、別に僕は無策に奴らの言うことを従うつもりはありません。
こういった時のために袖口に仕込んでおいた得物を使って、油断しきっている彼らに奇襲を行う算段が僕の頭の中で出来上がっていました。
ですが、如何せん実践はこれが初めてなわけでして、奇襲を付くとはいえ賊たち相手に通用するかどうかが問題です。
最悪の場合、僕自身が鉄砲玉となってでも・・・鳳統の救出を優先すべきでしょう。
あれこれ考えているうちに賊たちのところまでだいぶ近いの距離まで接近しました。
僕は、奴らに小刀が届く位置・・・後五歩歩いたところで得物を抜く、そう強く心に決めました。
「福さんごめんなさい・・・私が・・・捕まってしまったばかりに・・・」
未だ彼らに囚われている鳳統は震えた声で僕に謝罪し、その頬には大粒の涙が伝っているのが分かりました。
僕は小刀の柄をより一層強く握りました。
―――後四歩・・・。
頬に汗がつーっと流れるのを感じました。
―――後三歩・・・。
心臓が激しく高鳴っているのが分かりました。
―――後二歩・・・。
失敗は・・・絶対に許されません。
―――後一歩・・・。
・・・って思ってたんですけどね。
―――ガッ!・・・と。
今にも刀を抜こうとした瞬間、足元に違和感を感じました。
丁度、
先ほどまで歩いていたところに意図せぬ足元への阻害を受けたことにより、僕の体は慣性に従って前のめりな状態・・・より分かり易い言葉で表すならば、僕は今「転倒しかけている」のでした。
慌てて僕は、人間の反射行動に従って受け身を取ろうとしましたが、ここに来て僕は重大な過ちを犯していることに気づいたのです。
そう、未だ僕の右手には袖口に隠しておいた
この状況で小刀など抜いてしまえば賊たちの警戒が跳ね上がるでしょうし、最悪捕まっている鳳統にまで危険が及ぶ可能性だってあります。
それ故に、賊たちに得物の存在をバラすのだけは絶対に避けるべき行動でした。
にも拘らず、突然の事態に動揺していた僕は、大した行動を起こすことが出来ず、ただ転倒に備えて両腕を前に突き出すことしか出来ませんでした。
ドスッ!という音とともに左手に
もう駄目だ、と思った僕は顔を伏せ、そして・・・。
金属が打ち合うキーンッ!という甲高い音が耳に入りました。
・・・・・・。
時間にしてどれくらい経ったでしょうか?
正直、顔を上げるのが怖いと思いつつも、このまま徒に時間を無駄にしていても事態は好転しないと思った僕は、思い切って伏せていた顔を、くっと上げました。
そして、
先ほどまで泣いていたせいか目に涙を溜めつつも、きょとんとした顔をしている鳳統が抱き寄せられるほどに近くに居ることに。
より厳密に言えば、その鳳統の拘束は既に
更に更に厳密に言えば、何故か先ほどまで鳳統を捕まえていた太った賊が右横腹辺りを抑えて
・・・何が起きたんでしょう?
とはいえ一応チャンスには変わりないですので、予想外の状況に戸惑いつつも、とりあえず鳳統を抱き寄せて逃げることにしました。
「きゃ!?」
「ッ!?こ、このやろ!!」
急に抱き寄せたせいで鳳統が少しよろけましたが、体重の軽い彼女を支えるのはそれほど苦ではありませんでした。
近くにいた背の低い賊が鳳統の声で我に返り、腰に差した剣を抜きこちらに向かって振るいましたが、既にこちらは鳳統を抱えたまま後ろに跳んで距離を空けていたため、相手の剣は空を切りました。
なんとか初撃は避けることが出来たものの、賊は最初の勢いそのままに何度も僕たちを切りつけようとしてきます。
こちらは鳳統を抱えているため満足に回避が出来ず、小刀で受け流してはいますものの、このままではジリ貧になりそうです。
しかし・・・。
「え、えいっ!!」
「い、いってぇ!!?」
なんと賊の方に向かって石が飛んできました。
どうやら諸葛亮が、そこら辺に落ちてた石を使って援護してくれたようです。
うおおお、流石伏龍様!お蔭で助かりました!
諸葛亮のとっさの機転で賊たちに隙が出来たため、僕は鳳統と一緒に諸葛亮が居る場所まで戻ることが出来ました。
うん、色々腑に落ちない点が有ったものの、結果オーライです。
僕は二人の手を引き、走って逃げる旨を伝えます。
「「は、はいでしゅッ!!」」
二人は了承を返し、一緒に走りだしました。
「畜生!あいつらぜってー許さねえぞ!?」
「お、おいチビ!?クソッ!仕方ねえ!」
「う、ぐぐ・・・ま、待ってほしいんだな!」
後ろからは賊たちが追いかけてきました。
僕たちも木々の間を縫うように逃げましたが、諸葛亮と鳳統のペースに合わせて走っているため、少しずつ賊との距離が近づいてきているのが分かりました。
「こ、このままでは・・・追い付かれてしまいましゅ!」
「あわわ!どどど、どうしましょう!?」
二人の慌て声を聞きながら僕は、なにか使えるものは無いか、と体中を弄ってみたところ、懐に三本ほど仕込んだ短剣の事を思い出しました。
数が少ないとはいえ、これを奴らに投げつければ、多少の牽制にはなるでしょう。
そう考え、懐から一本の短剣を取り出すと、振り向き様に奴らに向かって投げつけました。
ヒュッ・・・カキンッ!
しかし、投げた短剣は賊のもとまで届かず、途中で何かに当たりポトリと落ちました。
あれ?と不思議に思いつつも気を取り直してもう一本短剣を取り出し投げつけましたが・・・
ヒュッ・・・カキンッ!
やはり途中で落ちてしまい賊まで届きません。
何で当たらないんだ!と完全にムキになった僕は、最後の一本取り出し投げつけようとしました。
が、変に力を込めて投げてしまったせいか・・・
ポーン!と。
短剣が途中でスッポ抜け、明後日の方角へと飛んでいってしまいました。
・・・・・・。
なんでしょうね、この気持ちは。
短剣を三本も投げて一回も成功させれなかったとか撃剣使い(笑)もいいとこと言いますか、これ師匠に知られでもしたらぶちギレ確定と言いますか、あの短剣貴重な鋼を使ってて高かったのにと言いますか、正直恥ずかしくて死にたいです、はい。
「「「ぎゃあああああああ!?」」」
なんて自己嫌悪に陥っていると、何やら賊たちが悲鳴をあげているのが聞こえました。
その声に振り返ると、なんと大量の蜂が彼らを襲っているのが見てとれました。
彼らの足元に壊れた蜂の巣が転がって居ることから、恐らく追いかけてる途中で誤ってぶつかって蜂を怒らせてしまったのでしょう。
・・・なんとも間抜けな話ですね。
思わず笑いが込み上げてきてしまいました。
ふと諸葛亮達の方を見ると、彼女たちも走りながら賊たちの間抜けな様子を確認しているのが分かりました。
だが、こちらの視線に気づいたのか、驚いた顔を浮かべながら僕の方を向いてきたので、とりあえず、あいつらアホだね、という意味合いを込めてニヤリと笑みを返しておきました。
そんなこんなで賊たちが蜂と戯れている間に僕たちは逃げ切り、なんとか街までたどり着くことが出来ました。
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学院の自室へと戻った僕は、ふう、と溜め息を吐きつつ今日一日を振り返ります。
あの後、街の警羅の人に賊の存在を報告して警戒を求めたり、学院に戻って司馬徽先生に説教を貰ったり、何故か師匠に即バレしてて、賊ごときに逃げ帰るとは何事だ!と愛の扱きを頂いたりして、解放された時には既に外がほの暗い時間になってしまいました。
いやもう、師匠の鍛錬ももう少し加減して欲しいものです。
丈単位で人間が吹っ飛んでいいのは漫画の世界だけですからね?現実では下手したら死にますからね?
今日はいつも以上に暑かったせいもあり、お蔭で服も汗と泥でびしょびしょのボロボロになってしまいましたし。
とりあえず気持ち悪いので、着替えようと思い、服を脱ぎました。
ですが、引き出しにしまっておいた替えの服がうまく取れず、少々手間取ってしまいましたが・・・
「ふ、福さん、ちょっと失礼します!」
その時、自室の戸の外から何やら鳳統の声が聞こえてきました。
どうやら僕になにか用があるようです。
僕はとりあえず入室を促そうとしましたが、それが非常にまずいことに気づきました。
何故なら今僕は着替えの途中であり、おまけに上半身裸であるのですから。
つまり・・・
上半身裸+僕は男=バレる!?
ちょっと待って!と慌てて彼女の侵入を止めようとしましたが・・・
ガラッ!
「あ、あの、福さん!今日は・・・え!?」
僕の制止は間に合わず、鳳統が戸を開け僕を見ます。
着替え途中の僕を。
上半身裸の僕を。
明らかに女性のそれとは違う身体つきをした僕を。
世界が止まったかのような静寂がおきました。
「お、おお、おおお・・・!?」
やがて、その静寂を破るかのように、鳳統が再起動します。
・・・ああ、ついにバレてしまいました。
長いようで短い学院生活でしたね
とりあえず司馬徽先生に報告してそれから・・・どうしたものですかね?
最悪な状況の中、僕は現実逃避するように遠い目をしましたが、やがて彼女の叫び声が学院内に響き渡ります。
「おちょこ~~~~~~~~~ッ!!?」
誰がお猪口ですか・・・。
っべーわ、賊三人を完封とかこれ完全に最強物オリ主だわー
今からタグ追加しねえとまずいわー
・・・勘違い物における戦闘って、こんな感じで良いんですかね?
とにかく、次は裏の賊視点という名の答え合わせとなっております。どうぞ。