真・恋姫†無双~徐庶っぽいのに転生しました~   作:キアズマ

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第二話・裏その2 とある退役武官の話

あれは今から二年ほど前の事だったか、旧知の仲だった水鏡(司馬徽)殿から一通の報せが届いた。

何でも、武術の才ある者が居るらしく、私に鍛錬を付けてもらいたいそうだ。無論報酬も出すという。

 

武官を退役してからというもの、やる事と言えば酒場で管を巻いているだけの生活だった私は、喜んでその話を引き受けた。

根っからの武人気質な私は、退役した今でも武に関わっていたいと思っていたので、水鏡殿の話は正に渡りに船だったのだ。

 

彼女たちが居る荊州に向かう途中、私はあれこれ想像を巡らせていた。

 

その者は一体どれほど優秀なのだろうか?

その者にどのような鍛錬を仕込もうか?

得物は何か?背は幾ばかりか?歳はいくつなのか?

 

その時の私は未だ見ぬ「才ある者」の人物像に過剰なまでに期待していたのだった。

 

だが、実際にその者と対面して私は一気に興が冷めた。

それどころか、憤りすら感じていた。

あの水鏡殿が言うほどだから一体どんな奴かと思ってみれば、そいつは年若い男だというではないか。

 

やれやれ、水鏡殿自慢の人物眼も寄る年で曇りが出たか。

闘気も練れない男に武術の才などある訳ないだろう。

 

確かに私は昔、武官として兵卒の男どもの鍛錬を付けてやったことはあるが、大体男というものは、私が相対すれば直ぐ及び腰になり、競り合えば簡単に押し倒され、獲物を振り回せば木端のように吹き飛ばされるような軟弱な者達ばかりだったのだから。

それ故に私は、どうせこやつもそこら辺の軟弱な男どもと同じだろうと高を括っていた。

 

とは言え、一度鍛錬を引き受けてしまった手前、流石に何もせずに去るのも体裁が悪いと思い、とりあえず適当に鍛錬して、適当な時間で才能なしと伝え、適当に切り上げようと考えた。

挨拶もそこそこにして、手始めに私は近くにあった人ひとり程の大きさの岩を闘気を練った拳で粉砕して見せた。

これくらいの業など闘気を練れる者にとっては朝飯前なことではあるが、そうでない者にとっては腰を抜かすほど衝撃的なことであろう。

 

無論、この程度の事で萎縮するような者であれば、私の鍛錬についていくことなど到底無理な話だ。

もしそうであれば、この事を理由に水鏡殿にこの話はなかったことにしてもらうつもりだった。

 

しかし、彼は私が目の前で大岩を砕いて見せようと身じろぎ一つせず、私のことをじっと見つめていた。

まるで私の一挙一動を見逃さずに物にしてやろうとしてるかのように。

 

その瞳は、今までの男どもから腐るほど見てきた怯えを込めた目ではなく、驚きはあれど、どこか挑戦を含むような凄みのある目であったのが印象的であった。

 

私は彼の目に注目するあまり、つい言葉を忘れ何とも言えない空気が流れかけたが、私が口を開く前におもむろに彼は私に話かけた。

 

 

「・・・その(わざ)は武人であれば誰でも出来るのでしょうか?」

 

 

それは暗に、自分もいつかそれが出来るようになれるのかと語りかけていたのだろう。

 

素手で岩を砕くなど、闘気を練ることが出来なければまず不可能だ。

岩の前に拳が壊れるだろう。

無論、男である彼とて例外はない。

 

そんな事、口にしてしまえば当たり前の事だった。

 

 

「ああ・・・大抵の武人ならば出来るだろうな」

 

 

だが、私は彼に不可能だと伝えることが出来なかった。

 

闘気が練れない軟弱な男にこのような事が出来る訳がない。

そう思いつつも、もしかしてこの男なら・・・そう思わせられるような何かが、この男から感じられたからだった。

 

その時の私は、既に先ほどのやる気のなさは無く、この者に鍛錬を付けてやりたい、この者がどのような武人になるか、あるいはならないのか見極めてみたい、と当初にあった意気込みがふつふつと湧き上がり返してきたのだ。

 

そう、その時私は男である彼の師になる事を心に誓ったのだ。

 

 

 

あれから二年の歳月が経ち、彼は私の鍛錬に音を上げることなく次々と私の業を学び、立派な武人として成長していた。

 

彼の扱う撃剣術は、回避や受け流しを多用しつつ飛刀のけん制で常に中距離を維持し、ここぞという場面では鋭い一撃を加えるという型となり、その動きは闘気が練れないという不利など全く感じられないほど機敏なものであった。

 

流石に大岩を砕くほどの怪力を得る事には至らなかったが、彼のその腕は「そこら辺の武人(もの)」には決して負けはしないだろう。

 

無論、その成長はいまだ留まる事を知らない。

もはや私が教える事など数えるほどしかないが、例え私の下を離れようとも彼は自らの手で鍛え、その武を伸ばし続けるだろう。

 

それは少し寂しくもあり、同時にとても誇らしいものでもあった。

誰かに武を教え、少しでもその成長を促す手助けになれたのであれば、それは武の師として冥利に尽きることなのだから。

 

これから先、彼には多くの困難が待ち受けていることだろう。

男というだけで、実力を発揮できない場面が多々あるだろう。

 

だが彼の武は必ずや大陸に轟かす事だろう。

 

 

「頑張れよ、単福・・・私の一番弟子よ。」

 

 

私はそう密かに、彼に激励を送った。

 




退役武官「そこら辺の武人(もの)には決して負けはしないだろうな」

単福「そっかー、そこら辺の一般人(もの)には負けないくらいかー」


果たしてこの勘違いが今後どのように影響していくのかは、まだ誰も知らない。
作者も知らない。


退役武官さんの名前適当にでっち上げようかと思ったけど、良い名前が思いつかなかったのでそのまま名も無き退役武官さんで。
場合によってはまた修正加えるかも。

ところで、そこら辺の武人に負けないと言ってますが、単純な主人公の強さは大体楽進と五分五分くらいと予定しています。
K○EI的に言えば武力80台くらい?そこそこ強いけど決して最強ではないって感じです。

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