真・恋姫†無双~徐庶っぽいのに転生しました~   作:キアズマ

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第二話・裏その1 諸葛亮(朱里)の話

「はぁ、はぁ、はぁ・・・す、すごかったね雛里ちゃん・・・」

 

「はぁ、はぁ・・・そ、そうだね、朱里ちゃん・・・」

 

 

彼女から頂いた例の本を読了した私たちは、その本の感想を互いに言い合った。

 

息も絶え絶えなのは、その本にのめり込むあまりに呼吸すら忘れてしまったからだ。

断じて本の内容に興奮していたからではない。断じて、ない。

 

 

「はぁぁ・・・」

 

「どうしたの朱里ちゃん?ため息なんてついちゃったりして?」

 

「福さんって私たちと一つしか違わないのに、この本の文章といい、三才図会の知識といい、どうやって考えているんだろうって思って・・・」

 

 

そう、彼女が書くものはどれもこれも今までにないような革新的なものが多い。

これでも女学院で一、二を争う才女だと評価を貰っている私たちだが、彼女の考えには理解が及ばないことが多い。

彼女とは何度か議論を交わしたこともあるが、彼女が出す意見にこちらがついていくのにやっとなくらいである。

燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんやとはよく言ったもので、本当の才女と言うのは私たちの事ではなく彼女の事なのだろう。

 

思えば最初に会った時から変わった人だと思った。

当初の頃の彼女は、授業中は筆も取らずに無表情でただじっと前だけを見つめ、授業が終わったら誰とも会話もせずにそそくさと部屋に戻るという、何とも取っ付き辛そうな毎日を繰り返していた。

そんな日々をしばらく続けていたと思ったら、ある日を境に授業中に熱心に何かを書き連ね始めたのだ。

その時は、きっと真面目に授業を受け始めたのだろう、とあまり気に留めなかったのだが、またある日、たまたま彼女の隣に座った時、彼女が書いたものがちらっと目に入り、そして驚愕した。

 

そう、彼女が書いていたのは、授業で教えているそれなどではなく、今までに見たことも聞いたこともない技術や思想や知識を絵を交えて分かりやすく説明した辞典らしきものだったのだ。

 

その時私は、思わず声を挙げそうになったが授業中であることを思い出し、なんとか自制した。

・・・実際には「はわっ!?」っと少し声を上げてしまい、先生に不審がられてしまったのだけど。

 

と、とにかく、その日の授業が終わると即座に雛里ちゃんを呼び寄せ、そそくさと部屋に戻ろうとしていた彼女を呼び止めた。

相変わらずの無表情で振り返った彼女だが、授業中に書いていたものについて質問してみると、眉が僅かにピクリと動いたのが見えた。

 

僅かな沈黙が流れ、答えて貰えないかと思ったが、やがて彼女はおもむろに口を開いた。

彼女が言うには、授業中に書いていた物の正体は三才図会と言う自作の辞典だそうだ。

それを聞いた時、私たちは言葉を失ってしまった。

 

三才とは天、地、人の三つの事で、この世の理全てと同じ意であり、すなわち彼女が行っている事というのは、この世のすべてを解き明かし、図にして纏めてみせようとしているのだから。

 

この世のすべてを解き明かす、言葉にしてみれば簡単なことだが、それを可能にするにはどれほどの莫大なる知識が必要となるか想像すらつかない。

そんな神に等しき偉業を、誰もが考え付こうとも挑戦しようとは思わない事を彼女はたった一人で行おうとしていたのだ。

 

馬鹿げた話だと普通なら思うだろう。

そんなこと到底できるはずがないと、気にもかけないであろう。

 

だが、彼女が醸し出す独特の雰囲気と先ほど一瞬だけ見えた彼女の書く未知なる知識が、もしかしたら・・・と想像してしまった。

 

 

それ故に私は思った。

 

 

知りたい、と。

 

 

彼女がどんな事を書いているのか?どのように世界を捉えているのか?

 

 

その辞典を、知識を、私たちに見せてほしいと。

 

 

 

 

「それを・・・その三才図会を私たちに拝見させて貰えませんでしょうか!?」

 

 

気づいたら、私は既にソレを口にしていた。

隣に居た雛里ちゃんも、私の発言にびっくりしているのが分かった。

 

しまった、と思った時にはもう遅い。私は口に出してしまったことをひどく恥じた。

 

私たちは文官の卵だ。文官にとって知識とはそのまま武器であり、私と雛里ちゃんのような仲ならともかく、同じ学院の生徒とはいえむやみやたらにひけらかすようなものではない。

ましてや私と彼女は今日初めて会話したような仲だ。級友とすら呼べないまったくの知らない仲なのである。

そんな彼女に対して、彼女の大事な知識を見せてほしいなどと、厚顔無恥も良いところだ。

 

彼女の顔を見た。

普段と変わらない無表情からは彼女の気持ちが読む事が出来なかったが、私には、この人はいきなり何言ってるのだろう、と不審がっているか、大切な知識を見せろなど無礼な人だ、と軽蔑してるかのように見えた。

 

だがその直後、それが間違っていることを思い知らされた。

 

 

「・・・清書はしていませんが、それで宜しければ。汚さないようにしてくださいね」

 

 

そう言って彼女は、私たちに見せてくれたのだ。

 

三才図会を。彼女の知識を。

 

私は一瞬度惑ったのち、直ぐに我に返り慌てて彼女から差し出された三才図会を受け取った。

そして何度も彼女にお礼を言った。雛里ちゃんも私と同じようにお礼を言っていた。

 

そんな中彼女は、私たちに軽く口角を上げると、そのまま踵を返して部屋へと戻っていった。

あの表情が彼女なりの笑顔だと分かるようになるのは、もう少しあとの事だった。

 

 

その日の就寝前の自由時間の間に雛里ちゃんと一緒に三才図会を読み解いてみたが、最初のうちは戸惑いの連続であった。

その辞典に書かれていることと言えば、曰く、この世界は球体で出来ていて、球の下の方にいる人々が空に落ちて行かないのは地面に引っ張られる力が生じているからだとか、曰く、太陽や星はこの世界の周りをまわっているのではなく、我々の世界が自転しているのでそう見えるだけだとか、信じがたい事ばかりで、適当な法螺話を辞典として纏めているだけではないかと恥ずかしながらその時は疑ってしまった。

 

だが、それらの説明には必ず注釈がつけられていて、そこにはそれらの裏付けとなる理由が書かれており、それが驚くほどに理に適っていることばかりであった。

それは誰でも簡単にできる証明方法であったり、いくつかの事象から多角的に見ることで分かる考察であったりで、最初は疑わしかった事でも、それを見るだけで事実なのではないかと納得したくなる、妙な説得力があったのだ。

 

無論、注釈の説明だけでは到底納得できないものもいくつかあったため、私たちはそれらを彼女のもとに行って直接質問した。

その度に彼女は、僕の憶測も含んでいますが・・・と前置きしつつも、多くは語らない、それでいて的確な言葉でもって解説してくれました。

 

辞典に関する質問をし、彼女がそれに答える。

そんなやり取りを何度か繰り返すと、ある日彼女からあるお願いをされた。

そのお願いとは、彼女が書いた物語を私たちに読んでもらい批評してほしいそうだ。

 

彼女の方から話題を振るのは、これが初めてだったが、私たちは快くそのお願いを引き受けた。

三才図会の作者である天才的な彼女が書く物語とは一体どのようなものなのか非常に興味があったからだ。

 

その日は既に授業が終わっていたため、彼女から本を受け取ると、直ぐに私の部屋で雛里ちゃんと一緒に読み始めた。

 

 

それは本の中に存在する一つの世界だった。

 

 

この本のあらすじを言うと、祟り神から死の呪いを受け、それを治すために旅立ったとある青年が、その旅の先で山犬に育てられた少女や森を切り開き鉄を作る太守らと出会い、彼女達の戦いや自らの呪いの元凶を知り、皆が救われる道を模索する、というお話だった。

 

どの登場人物も魅力的で、まるで生きてるかのようにそれぞれの思想で考え、悩み、話し、そして動くその描写は、空想の話にもかかわらず非常に現実味を帯びていた。

 

私たちはその本の世界に、瞬く間にのめり込まれしまった。

 

この本を読了した後も、私たちは言葉を発せずにいた。

今暫くの間、この作品の余韻に浸りたかったからだ。

 

彼女はこの本を娯楽小説だと言っていたが、これは「娯楽」という枠組みには収まり切らない、一種の芸術であるとさえ思えた。

 

 

次の日、私たちは朝早くに彼女のもとに赴き、作品の感想を伝えた。

何々が素晴らしかっただの、何処何処が良かっただの、言葉には言い表せないほどの感動を、出来る限りの言葉にして伝えた。

 

彼女も気に入って貰えて安心した、と返答し、今後も娯楽小説をいくつか書く予定なので、その時はまた感想をお願いしてもいいか?と尋ねてきた。

 

もちろん私たちは即座に了承し、彼女を著書を二番目に読める権利を頂いたのだ。

 

 

・・・そして今に至る。

 

 

「ほんと、どうすれば福さんみたいになれるんだろう・・・?」

 

「知識の量もそうだけど、一番すごいのはやっぱりあの発想力じゃないかな?」

 

「発想・・・」

 

 

彼女のその発想力と表現力は彼女が書いた小説の中に顕著に表れていた。

彼女はこの二年の間に何冊もの娯楽小説を書いたが、その系統は様々で、戦争の話だったり、日常の良くある話だったり、時には○○がある・ない世界という何とも不思議な話を書いたりと際限がなかった。

にもかかわらず、どれも物語として遜色なく、とても素晴らしい出来栄えなのだ。

常識にとらわれない発想力とそれを形に出来る表現力、そしてそれを支える多大なる知識ことが彼女の原動力であると言えるだろう。

 

 

「知識は・・・たくさん勉強すればいいとして、発想ってどうやって鍛えればいいのかな?」

 

「うーん・・・色んな人とたくさん議論してみるとか?」

 

「そうすれば福さんみたいになれるかな?」

 

「・・・ちょっと想像がつかないよね」

 

 

雛里ちゃんは私の問いに苦笑いで答える。

それもそうだ。私だってどうすれば彼女に追いつけるか想像すら出来ない。

なにせ彼女は10を過ぎた頃には、既に街に出ては技術を考え人々に教えを広めていたと言うのだから。

表情が希薄であるが故に、周りの人に誤解されがちだが、その顔の裏にはきっと数々の知恵や策謀が渦巻いているのだろう。

 

 

「遠いなぁ・・・」

 

「遠いね・・・」

 

 

そう、遠い。私たちと彼女との距離は。

彼女は既に私たちよりも遥か高みへといる。

何せ彼女は世界を紐解かんとしているのだ。

その志も知識も発想も私達は何一つとして届いていないのだから。

 

 

「・・・それでも」

 

「うん・・・」

 

 

私たちは彼女に近づくことを諦めない。

目指す目標が高ければ高いほど、その景色は広く壮大な物となるのだから。

 

 

「じゃあ雛里ちゃん、そろそろ始めようか!」

 

「そうだね、朱里ちゃん!」

 

 

そう言い合って私と雛里ちゃんは、三才図会を手に取り読み解き始める。

いつか私たちも、彼女と同じ目線に立てる事を期待して。




Q、本のあらすじって、どう見ても「もの○け姫」だよね?

A、黙れ小僧!お前に漢が救えるか!!


ところで、日本ではおよそ十世紀、平安時代に書かれた竹取物語が現存する最古の物語だと言われていますが、果たして二世紀の中国に小説に当たるものがあるのかと気になり色々調べてたんですがよくわからなかったですけど、よくよく考えたら恋姫時空では書店はおろか艶本だってあるみたいですし、娯楽小説とかも普通にあっておかしくないなと思いましたまる。

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