剣を捨てた手に掴むもの   作:ヨイヤサ・リングマスター

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 原作説明のコーナー。

 エヴェンクルガ族とは高地に住む少数部族で、『うたわれるもの』の世界で二大最強種族として有名。

 「義はエヴェンクルガにあり」という言葉も存在するほど高潔な信念を持ち、決して悪を許さない誇り高い民族性からか、戦では相手側にエヴェンクルガ族がいるだけで味方の士気が下がるほど(兵士は自分らの主君が悪だと思うから)。

 そして二大最強種のもう一つがカルラなど大国ラルマニオヌのギリヤギナ族です。
 バトルメインではありませんが書いておきます。





第八話:蜂起

 それは、シャクコポル族の村でサクヤ達の休暇を過ごして城に帰ってきてすぐのことだった。

 

 シャクコポル族が奴隷身分解放のためにエヴェンクルガ族の協力の元に、大国ラルマニオヌのギリヤギナ族と存亡を賭けた大戦が始まったのだ。

 

 

「……お父様は最強と名高いエヴェンクルガ族の英雄ゲンジマルと一騎打ちをしたらしいけど、かなりの手練だったそうよ。

 自分と互角に戦える戦士が敵にいることを喜んでいるようだけど……このままじゃ私たちの夢が遠のいてしまうわね」

 

 

「まさかゲンジマル様がこのような手段に出るとはな。

 義は確かに向こう側にあるし、ラルマニオヌのギリヤギナ族の大半は、大陸最強の地位を確立して戦の場が少なくなった昨今、自分達が暴れる理由が出来たと、単純に喜んでいる連中が大半だからな。

 だがこの戦、想像以上に面倒なことだな」

 

 

 シャクコポル族で戦士としての素養があるものは少なく、俺のように戦えるものは極少数しかいない。

 

 エヴェンクルガ族も、もともと遠く険しい高地に暮らす少数民族である。

 助けとしてはエヴェンクルガ族が総出で来るわけでもない。

 

 それでも戦を仕掛けてきたからには何かしら勝算があるのだろうか?

 

 それとも、かつて俺達の先祖がしたように戦って死ぬつもりでなければ……。

 

 

「正直、シャクコポル族が、自分たちが死ぬために戦っているのだとしたら、この戦が終わったら同じシャクコポル族という理由でレワタウまで処刑されてしまいそうね」

 

 

「そうだろうな。

 ただでさえシャクコポル族の俺が皇女の御側付きだなんて地位に就いているのもカルラや聖上のおかげだが、一族総出で死を覚悟しての戦だろう。

 本当にぶつかりあってしまっては勝ち負けに関係なく、戦後は心情的にも俺一人が生き残ることはできないしな」

 

 

 何よりも一族が滅んでしまっては俺とカルラの夢は現実にすることが出来なくなってしまう。

 

 そうなれば生きる意味もない。

 

 

「レワタウ、死んでは駄目ですわよ。

 私は貴方に生きていてもらいたいのだから」

 

 

「そりゃ俺も死にたくはないさ。

 だがシャクコポル族が反乱を起こしてしまっては、戦が終われば俺の意思に関係なくギリヤギナ族も俺の命を生かすことはするまい」

 

 

「もしもシャクコポル族に勝算があって今回の戦を始め、ギリヤギナ族を倒してラルマニオヌを滅ぼしてしまえば、逆に皇族である私の方が殺されるでしょうからね。

 どの道この戦が終わるまでの間に両種族を何とかしないことには私たちのどちらかが死ぬ可能性は高いわ」

 

 

 カルラも普段の軽い口調ではなく真剣な表情だ。

 

 これまで長い目で見てきたが、虐げられているシャクコポル族はすぐにでも救いが欲しい。

 

 そのための手段を手に入れた、または死ぬ覚悟が出来たというのなら黙ってこれまでのような服従を受け入れるようなことはしない。

 

 この戦が始まってしまったのも俺達の見通しの甘さ故なのかもしれないな。

 

 

「……カルラ、俺は村に戻る」

 

 

「そう……一応理由を聞かせてもらえるかしら?」

 

 

「俺がこの戦を止めたいからだ」

 

 

「シャクコポル族が反乱をやめるとは思えないけど」

 

 

「それでもだ。

 俺は信じている。

 カルラと俺が抱いた夢がこんなことで終わってしまうものではないことを。

 

 俺は信じている。

 同じシャクコポル族の仲間たちがこの反乱を起こしたのと同じだけ『戦いたくない』という感情を持っていることを

 

 俺は信じている。

 シャクコポルとギリヤギナが共存出来る未来は必ずあることを」

 

 

 俺一人に何が出来るのか分からない。

 

 正直な話、皇女であるカルラに側近として認められた俺は、同じシャクコポル族の仲間からも、あまりいい感情を持たれていないだろう。

 

 サクヤやヒエン、ハウエンクアなんかは俺のことをシャクコポル族という最弱種族から英雄が生まれたと喜んでくれているし、大人たちも何人かは、俺のことを奴隷身分の一族の中では出世頭だと持て囃す。

 

 だけど駄目なんだ。

 俺はみんなが幸せになれる未来でないと俺自身が幸せになれないんだ。

 

 今回の反乱もエヴェンクルガ族がシャクコポル族に味方しているとはいえ、対するのは大陸最強としてその名を知られるギリヤギナ族の興した大国ラルマニオヌだ。

 

 地の利があり、最強種族でもあるギリヤギナ族の方が圧倒的に有利なんだ。

 

 カルラだって俺を切り捨ててギリヤギナ側として率先して戦えばラルマニオヌの勝利で終わるだろう。

 

 それが夢を捨てる行為だったとしても、奴隷がいなければ大国の農地を耕す者もいなくなり困るのは事実だ。

 反乱後にシャクコポル族の生き残りを全て殺すこともないだろう。

 

 そうして俺以外のシャクコポル族の協力者を得てそこから夢を再び目指すのも出来なくはない。

 

 それでも、

 

「私の夢は貴方と一緒に実現できなければ意味がないのよレワタウ。

 私は道を誤った時に自分の背中をいつでも斬れるように貴方を御側付きに推薦したのよ。

 貴方だから一緒に夢を追える、と思って。

 だから私は私に出来ることをして、貴方が帰ってくる場所であり続けますわ」

 

 

 こう言ってくれるから信じられる。

 かつて牢でくすぶっていた俺に手を差し伸べてくれたカルラだからこそ俺は友として夢を実現させようと思える。

 

 俺の帰るべき場所はカルラの側だけなのだから。

 

 

「俺はシャクコポル族を、カルラはギリヤギナ族を。

 なんとか両種族に交渉の場に立つよう頼みこもう。

 お互いに話し合いの場を設けることさえ出来れば必ず、当たり前の平和と幸せを求める道を選んでくれるはずだ!」

 

 

 別に確信があるわけではない。

 たとえ俺達が両種族に話し合う場を提供出来たとしても、どちらかがその話し合いで互いを尊重出来なければ失敗に終わる。

 

 だが、まだやるべきことは残されているんだ。

 

 俺達の理想を現実にするための努力をする手段はまだ残されている!

 

 

「それでこそ、レワタウですわ。

 私が認めた無二の親友はこの程度で自分の信念を曲げるような柔な男じゃない。

 ただ私も、信じているから……、レワタウが生きて帰ってくることを。

 この戦は止めることが出来ることを」

 

 

「カルラ……」

 

 

「さぁ! 分かったら行ってきなさい私の友!

 私は私でギリヤギナの説得するのに忙しくなるのですから」

 

 

「あぁ、行ってくる。

 俺たちの夢のために!」

 

 

 そうして俺はシャクコポル族の村へと向かう。

 

 反乱軍の本拠地にして俺の家族がいる場所に。

 

 俺が俺で在り続けるために……。

 

 

_______________________________________________

 

 

「……ふぅ、行ったわね」

 

 

 レワタウには、ああ言ったけど、正直怖いわ。

 

 レワタウったら私達の夢のためなら自分の命なんていらないって考えているんですもの。

 

 でもね、レワタウ。

 私は貴方と共に手を取り合って歩む人生が欲しくてギリヤギナとシャクコポルの二種族間の溝を取り払いたいの。

 

 だから本音を言えば命を捨ててまで夢を追ってほしくはない。

 究極的には私とレワタウさえ生きていればいいとさえ考えている。

 

 でもそれじゃ駄目だと分かっているから私は自分の心のままに生きることにする。

 夢を求めて、二つの種族が共存する生き方を。

 

 

「ふふ、相変わらず駄目ね私は。

 この辺りが甘いとか言われる原因かもしれないけど、私は自分のために夢を追いたいのよ」

 

 

 難しいからと言って投げだせないのが私の選んだ道なのだから。

 

 レワタウは、私たち二人だけが生き残るような未来を平和だとは思ってくれないでしょうし、私だって死にたくないだけでこの国を改革したい気持ちは誰にも負けない。

 

 でも私は……、ほんの少しでも彼が幸せに笑う顔が見れればそれで満足なのよ。

 

 

「お父様は戦馬鹿ですけど、少なくとも伊達や酔狂で皇をやっているわけじゃない。

 私が説得すれば、シャクコポル族とも本気で話し合いの場くらい設けてくれるはずですわ。

 そうしてお互いに心があることに気づけば何とかなる」

 

 

 私は皇であるお父様の説得のために部屋を出て、レワタウが開けっぱなしにした扉を閉めながらお父様の元に向かった。

 

 私たちの夢を現実にするために。

 私たちの夢が終わらないことを信じて。




 カルラは段々と友として以上にレワタウに惹かれていく、というのが活かされていく話になればいいと思っておりますがしばらくは甘甘な話はなさそうですね。

 ちなみにエヴェンクルガ族の英雄ゲンジマルとラルマニオヌ皇のカルラの父は七度剣を交わし、七回目の戦いでカルラの父が死んだことでラルマニオヌは滅びたそうです。

 なので今回の戦はまだ一回目、このあと最後の決着がつく前にカルラとレワタウが両種族に互いを信じる心を持たせることで歴史を変えていこうと思います。

 そういえばカルラの弟のデリホウライはまだ出ていませんが、あまり使う予定はありませんので。

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