ネタバレ嫌いな人や知っている人はスルーしちゃってください♪
『うたわれるもの』の世界とは、地球の未来の姿で、細菌兵器だかなんかで「人間にのみ毒性」のあるウイルスが地上にばら撒かれてしまい、地下に逃げ延びた科学者たちが地上に再び戻るためにウイルスが効かない動物のDNAを混ぜた新人類を生み出したのです。
その後何だかんだあって人間は絶滅し、残された獣耳たちが地上で生活を始めたという話です。
これだけじゃ説明不足ですが、興味がある方はアニメから入るのをお勧めします♪ ゲームは長いので。
そして科学者が滅んだ理由も自分の実験材料に「素晴らしい♪」発言という最高の死亡フラグを建てたからですし。まぁ、正確には死んではいませんが。
それで、ギリヤギナ族は虎っぽい耳と尻尾があって大陸最強の戦闘種族なために女性であっても筋肉質な体質である。(だがカルラは胸がでかい。腕は細いのに物凄い怪力)
シャクコポル族は兎の耳を生やし、たぶん兎の尻尾が生えている大陸最弱の種族。(尻尾が短い種族は大抵服の中にいれているため不明)
まぁ、この世界に二つある宗教のうち、シャクコポル族は一般的には悪い神様と言われる「オンヴィタイカヤン」という神様を信仰しているので、奴隷として扱われるのには、それも理由にあるっぽいですけど。
いわゆる邪教崇拝ですね。
事実、作中に登場人物として現れたオンヴィタイカヤンは、争いによって世界を滅ぼそうとしている神様ですし。
後にラルマニオヌ国をシャクコポル族が滅ぼすことが出来たのはもう一つの大陸最強種族のエヴェンクルガ族という種族が手を貸したというのもありますが、彼らの信仰する神様のオンヴィタイカヤンがチートな人型ロボット兵器を貸し与えたからという理由もあります。
この作品では両種族の争いをさせずに終わらせる予定なのでオンヴィタイカヤンの出番はありませんけど。
オンカミヤムカイの第一皇女のウルトはカルラと違って、おしとやかで清純で女性的な魅力に溢れた美しい方だと思っていたのだが違った。
それは話を始めてからすぐに感じていたのだが、あえて確認していなかった。
知るのが怖かったと言うのもあるが、普段見慣れたカルラのいたずらっ子のような笑みではなく、ウルトの天使のような笑みに癒されていたいという気持ちからだったのだろう。
だが、本人がその幻想を否定してしまうのでは俺もその幻想を捨てざるを得ない。
言ってしまえばウルトは大酒呑みだった。
「(こっこっこ)くー♪
やっぱりラルマニオヌのお酒はおいしいですね。
カルラは毎日こんなお酒が飲めるだなんて幸せね」
「美味しいお酒に愛しい従者。
これ以上望むべくもない最高の環境……とはいかないんですけどね」
「それは二種族間の問題ね。
本当に貴方も大変な道を選んだわねぇ……。
まっ、それよりも今はこのお酒を楽しみましょう♪」
「そうね。では久し振りの私たちの再会を祝って」
「「乾杯~♪」」
おしとやかに見えてウルトはカルラに負けないほどの酒飲みだったとは俺も予想していなかった。
ようするにこのために屋根裏からこっそりやってきたのだろう。
城内では突如として消えた訪問中の皇女様を探すためにドタドタと走り回る兵士の足音が聞こえるがカルラもウルトもそれを無視して酒を飲み続ける。
まぁ、いくら皇族とはいえ、まだ幼い子どもが酒を樽ごと飲むというのはよろしくないことだろうな。カルラはともかく。
俺はカルラが止めても聞かない性格なのは知っているし、その友であるウルトも大体そんな感じなのだろうと諦めているが。
「ほら、レワタウも飲みなさい!
私たちだけが飲んでたらあとで見つかった時に樽を勝手に食糧庫から持ってきたことをなすりつけられないじゃないですの」
「レワタウ様、美味しいお酒ありがとうございます♪」
「……一応言っておくが二人とも飲み過ぎだぞ。
それに俺はこれでも御側付きだから昼間っから酒は飲めない。
いくら大国とはいえ、ラルマニオヌに恨みを持つのはシャクコポル族だけではないんだからな。
カルラを狙うかは置いといて、刺客もそれなりに来るからな」
俺も気を抜いているように見えてちゃんと護衛としての職務には忠実だ。
カルラは気づいていないようだが、彼女を狙って、これまでも何度か他国から寄こされた刺客を何度か始末してきた。
カルラ本人は呑気にしているし、知られずに済むならそれでいい。
俺の首に、蛇のように腕を絡めながら、酒を断る俺に酒を勧めてくるこの酔っ払い姫様には本当のことを告げずにいつまでも笑顔でいてほしいからだ。
彼女の夢は俺の夢。そして俺達の夢には困難が多すぎる。
せめてまだ政治に深く関われない子どもの内に彼女が笑顔でいられる時間を増やすことが俺の日常なのだ……。
「ところでウルト、あんたはオンカミヤムカイの皇女様ってことはウィツァルネミテアを信仰しているんだろ?」
カルラもだいぶ酔いがまわて来たからか、口数が減っていたので俺からウルトに話しかけてみる。
「ええ、大神ウィツァルネミテアの教えを広めることでこの国を信仰によって救っています。
ですが、私個人は一般的に禍日神(ヌグィソムカミ)と呼ばれているオンヴィタイカヤンを否定している訳ではありませんよ」
短い会話で俺の言わんとしていることを性格に見抜く洞察力。
さすがは一国の皇女といえるだろう。
「レワタウ様やシャクコポル族の人たちにとっての信仰の対象はオンヴィタイカヤン。
シャクコポル族がその身体的種族的な弱さ以外で隷属化されている理由の一つはやはり宗教でしょう。
それを確認した上で、これからのお話がしたい、と言うわけですね」
「あら? レワタウったらウルトが折角やってきた宴の席でそんな真面目な話するつもりでしたの?
お酒でも飲んでのんびりしたほうが楽しいですわよ」
「いや、俺は最初はオンカミヤリューの第一皇女様が来るって聞いていたからまじめな話をするのかとばかり思っていたから、その反応こそ驚きだな。
それに彼女にも俺達の夢に協力してもらうのなら話を聞いておくべきだろう」
すでに頬を赤く上気させ、年に似合わぬ色香を漂わせているカルラは素面でも真面目な話というのが似合わない気もするが、こういう話は早い方がいいだろう。
「話を続けるぞ、……俺は宗教だなんて正直どうでもいいと思っている。
だがシャクコポル族の年寄り連中は奴隷身分に落とされてもオンヴィタイカヤンに対する信仰だけはやめていない。
カルラも俺もシャクコポル族とギリヤギナ族との関係改善を目指しているが宗教の問題を何とかしないと本当の意味で理解し合える日は来ないと思うんだ」
両種族が手を取り合う未来が来るには宗教の問題は見過ごせない。
俺らの夢が実現して、国の政(まつりごと)に直接関わる官僚にシャクコポル族が加わると、宗教行事などを行う時、信仰する神によってやり方も変わってくる。
かと言ってそういった行事を廃止するようなやり方は両種族から反発が大きい。
宗教を捨てず、かつお互いを認めさせるには並大抵の方法では上手くいかないのだ。
「シャクコポル族にとってはウィツァルネミテアを禍日神として扱っているが、それはそっちからも似たようなもんだろ?
二柱の神は信仰心の熱い連中からは嫌われいてる神様同士だ」
「そうですね。種族間の問題として最も大きな要素に宗教が関係しているのは間違いないはずです」
「俺もそれなりに世界の事を学んできたが解決策はどちらかが消えない限りないと思うんだ。
それでも、異なる宗派の仲を取り持つというのは可能なんだろうか?」
「……その答えは否、と答えるべきでしょう。
異なる宗教を信仰する種族は本当の意味で分かり合える日は来ないと私は思います。
ただ、そう考えていないのが貴方の主なんじゃないでしょうか」
はっきりとした否定の答えを口にしながらもその表情は笑顔で、俺ではないもう一人に視線を向けるウルト。
にやりと覗かせる鋭い歯が肉食獣のように輝きを見せる不遜な笑みのカルラだ。
「まったくレワタウは夢に対する情熱が少しばかり足りないんじゃありませんの?
私たちの夢は可能か不可能かで投げ出すようなチンケなものじゃありませんのに、だらしないですわ」
「いや、俺は現実的な解決策を探る意味でウルトに聞いただけなんだが」
「それでも、ですわ。
確かにシャクコポル族の信仰するオンヴィタイカヤンは私たちの夢にとって、ギリヤギナ族やシャクコポル族がお互いの種族に持っている憎悪や嫌悪といった感情よりも大きな障害かもしれませんけど、それを知ったところで私たちの夢が叶わないということにはならないでしょう?
考える必要のないことは考えなくてもいいんじゃないかしら」
堂々と、酔いを感じさせないしっかりとした口調で俺達の夢を越えに出してくれた俺の友。
その目には力強さがあり、俺はどうやら弱気になっていたのだと気づかされた。
夢を目指すと言いながらも、俺は叶わないと思い、「夢を目指す行為」そのものを目的にしていたのではないか? と。
「レワタウ、私たちはまだ子ども。出来ないことの方が多いですわ。
宗教に関しては大人になっても、どうしようもないかもしれませんけど、私たちの夢はそんな障害に阻まれるほど小さなものじゃないはずですわよ。
ほら、胸を張って美味しいお酒でも飲んじゃいましょう♪」
「カルラ……確かに俺は難しく考え過ぎていたのかもしれない。
だがそれと酒は関係ないんじゃないか?」
新たな酒樽を開けようとしていたカルラの手を止める。
「なによ、ケチですわね」
「いや、お前『いいこと言ったな~』ってなノリで何いけしゃあしゃあと酒樽開けてんだよ!
ここは将来の夢の大きさに困難だと思いつつもがんばろう! って感じで真面目な話へ移る展開だろ」
「それこそ私には関係ありませんわ。
未来は未来、今は今、美味しいお酒と心を許せる友がいる。それだけで私がお酒を飲む理由になりますもの♪」
はぁ~、まったくこの能天気なお姫様は……。自分の夢がどれほど為し難いか分かっているのだろうか。
だが気づけばその場の空気はだいぶ軽くなっていた。
これがカルラのいいところなのだ。
俺は難しく考え過ぎてしまうために必要以上に苦労を背負い込んでしまう性質だが、カルラが側にいるだけで自分を多角的に見ることが出来るようになる。
この包み込むような雰囲気を作り出せるカルラこそ次代の皇に相応しいのだろう。
俺は彼女を皇にし、俺達の夢を現実にするためにもこの命をいつでも投げだせる決意を持っている。
まっ、そんな事言っても死にたいわけではないし、俺達の理想が現実になる日をこの目で見るまでは死ぬわけにはいかないがな。
問題の先延ばしかもしれないが、宗教というのは人が幸せになるために考えられた概念的な存在だ。
その片方の宗教を広める国の皇女様も無理だと言うが、本当に心で会話をすれば分かり合えることは不可能ではないだろう。
俺がカルラの手を取ったように、シャクコポル族やギリヤギナ族が、自分の種族以外の誰かと一人でもいいから信じて手をとることが出来れば相手の宗教に関係なく争いは起きないはずだ。
俺が信じるカルラが、俺を信じてくれているように、誰もが当たり前に望む平和を実現するためなら信仰する神様よりも、目の前の友を優先する。
いや優先することが出来る国を作るために俺達は俺達の夢を現実にしようと努力しているんだ。
それが夢も希望もなかった俺に生きる理由を与えたように、一族の者たちにも希望を持ってほしい。
「……それにしても元剣奴だった俺が皇女様の御側付きとなれたのもカルラのおかげなんだよな~」
「レワタウったら、今更どうしたんですの?」
「いやなに、ちょっと前までは夢を持たず、死ぬまでただ生きるだけだった俺が明確に死にたくない理由を持ち、夢を持ち、友である最高の主に巡り合えたこの数奇な運命に感謝しているのさ」
重くなりすぎたと思った俺は話題を変える意味で口にした言葉だったのだが、俺の言葉にウルトは浮かない顔をしていた。
「…………」
「ウルト……?」
俺達のやり取りを眺めていたウルトが、どこか哀しげに見える。
彼女もカルラの友だけあって、解決策を見出せないこの現状に歯がゆいを思いをしているのだろうか?
カルラはその性格からか、「何とかなる」と心から信じ、また本当に何とかするのだろう。
俺もその友を常に間近で見ているために信じられる。
だがウルトには、俺と違ってカルラが常に側にいるわけじゃない。
俺達と同じ理想を目指しながらも、立場的にも一人離れた場所から出来ることが少ない自分に何か思うところでもあるのかもしれない。
宗教国家オンカミヤムカイの人々は、生まれつき『法術』と呼ばれる不思議な力を持ち、背中から生えた翼で分かるように空を自由に飛びまわることも出来るため、戦への介入をすれば戦力としては敵無しとも言える。
だがオンカミヤリュー族は厳しい戒律によって他国への必要以上の干渉を防ぐ決まりがある。
そんな国に生まれ育った皇女となれば、いくら友であるカルラのためとはいえ同じ夢を見ながらも何も出来ないというのが辛いのだろう。
たとえ解決策が見つかったとしても彼女は実質、俺達の夢に協力することは出来ないのだから。
「……ウルト、俺はすでにお前とも友達だ。
確かに気がるに会える間柄ってわけじゃないが、いつでも相談に乗るしそんなに重く考えるなよ。
カルラを見習え」
主に考えすぎない子どもっぽさをもう少し学べ。
「……私を見習えというレワタウの発言には何かしら含むものがある気がするけど。
まぁ、私も同じ意見ですわ。
ウルト……貴方は少し考えすぎで本質を見失っていますわ」
少し考えるような素振りを見せるウルト。
「……そうかもしれませんね。
私としたことが少し暗くなっていたかもしれません」
「気にしなくてもいいわよウルト。
私たちが友であり、そう簡単に揺るがない友情で結ばれているのですから、貴方は信じればいいですわ。
私たちが目指す理想への道は何通りもある。
そしてその道筋が私たちと貴方では、少しばかりやり方が違うだけ。
貴方には貴方の出来ることをしていただければ共に夢を目指す行為に違いはないんですもの」
さすがはカルラだ、ウルトの表情もみるみる和らいでいく。
俺が同じことを言ってもこうまで上手くはいかなかっただろうな。
そうして俺達三人はウルトの教育係の爺さんが見つけるまでの間、しばらく談笑していた。
結局二人は酒樽を2つも開けてしまい、そのことについても御側付きの俺が叱られる原因となってしまったのだが、それはまぁいいだろう。
俺に対してもラルマニオヌ皇、カルラの父は酒の旨さを分かる娘をむしろ褒めているのでオンカミヤムカイの連中からだけだったわけだしな。
なかなかに腹黒くて、大人しくて、自分に自信を持っていないお姫様だが、ウルトとの出会いは俺にとってもいいものだった。
少しばかり面倒なこともあるが……、だがこれを楽しいと思う自分がいるのが不思議なんだよな。
俺はいま幸せを感じているんだ。
ウルトは立場上、介入が難しいんですよねぇ~。
最大勢力を誇る宗教の教皇みたいな人が治める国の後継者ですから。
それに宗教の問題が絡んでいると書くのも面倒極まりないので熱さでごり押しになるかもです。
まぁ、あえて描写せずに、そういうのはハッピーエンド後にして、両種族が手を結んだあとの出来事は書かないでお茶を濁すという手もありますが。
作中の用語についても説明しますと、禍日神(ヌグィソムカミ)とはいわゆる祟り神の総称です。
原作ではエヴェンクルガ族のトウカという生真面目なうっかり侍が大事にしている人形やアルルゥという少女に手を出されるとヌグィソムカミ化して襲いかかることで有名ですが。
シャクコポル族が信仰するオンヴィタイカヤンも一般的には禍日神扱いです。
あとは変わったところで、厠に入っていると尻を撫でてくるという「エルンガー」という禍日神もいるそうですが何とも珍妙な神様もいたもんですね。