剣を捨てた手に掴むもの   作:ヨイヤサ・リングマスター

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 この作品は『うたわれるもの』の二次創作です。

 熱い話をテーマにしているため、少々暑苦しい描写もあるかもしれませんし、珍しくバトル描写を含むため、至らぬ点があるとは思いますが、徹底して熱さはあります!

 うたわれるものの二次創作で、熱い話ですが良かったら読んで行ってください♪

 全18話。(キャラ設定込みで)


第一話:少年と少女

 俺は剣奴である。

 

 

 

「はぁっ!」

 

 

 気合を込めた一閃。

 

 俺の剣が相手の首に吸い込まれるように食い込み、そして空高くその首を跳ね飛ばす。

 大きく湾曲した俺の剣の軌道は読みにくいからだろう。

 

 相手は馬鹿でかい大斧を使っていたが、その一撃は俺に届くことはなかった。

 

 周囲の歓声と罵声。これも慣れたものだが俺に降りかかるのはいつもこの二つだけだ。

 

 俺を見に来る連中はみんな、この殺し合いに金を賭けていた連中だろう。

 

 

「よくやったレワタウ。

 お前のおかげでワシは大儲けじゃ」

 

 

「……」

 

 

「ちっ、相変わらず無口な野郎だ。

 まぁ、いい。

 ワシを稼がせてくれるのならな」

 

 

 そのあとに続く、「死ぬまで貴様は闘い続けろ」という同じ言葉を毎日繰り返す俺の飼い主である爺さんを無視し、俺は手足に枷を嵌められると再び牢屋に戻される。

 

 

「……俺は剣奴だ」

 

 

 今度は自分に言い聞かせるように小さく呟いた。

 

 まるでそうでも言わなければ自分が潰されてしまいそうだったからだ。

 

 だがこんな俺でも死ねない理由がある。

 

 闘いしかないこの俺にも存在意義はある。

 

 それが剣奴として自由のない生涯だとしても、決して捨てることの出来ない誇りはある。

 

 それさえ守れれば俺は今の自分でいることに文句はない。

 

 そう思っていた……。

 

 

 

 

 

 

 生まれた時から俺は奴隷だった。

 

 ガキの頃は育ての親の元で剣の修行をしながら一族の村で静かに過ごしていた。

 だが俺の一族シャクコポル族は村の属する大国ラルマニオヌの奴隷を育てるための村であり、一定の年齢に達したシャクコポル族は王都へと買われていく。

 

 俺も何人かの仲間と共に数年前に剣奴として買われてからはずっと闘いの毎日が続いている。

 運が良ければ村に帰って農奴として苦しくも仲間と静かに暮らせる人たちもいるがな。

 

 生まれ育った、このラルマニオヌと呼ばれる大国では、ギリヤギナ族と呼ばれる種族が俺みたいなシャクコポル族という種族を虐げており、それが当たり前だとさえ思っていた。

 

 支配がはじまった当初こそ、俺達の先祖は抵抗をしたようだが、圧倒的なまでの強さを誇る最強種族のギリヤギナ族と、圧倒的なまでの弱さを誇る大陸最弱のシャクコポル族では勝負にすらならなかったそうだ。

 

 俺の祖父も、そのまた祖父も最後まで戦いながらも戦の中で死んでしまったそうだ。

 

 すべて聞いた話だがな。

 

 

『レワタウ。争いは必ず終わる。

 だから恨んではいけない。

 愛しなさい。

 全てを』

 

 

 これも育ての親から聞いた話だが、俺の母が俺に残した言葉だと言う。

 

 俺はシャクコポル族、母もシャクコポル族。……だが父はギリヤギナ族だったらしい。

 

 『らしい』と言うのは父と母は種族の違いを越えて愛し合い、その結果として俺が生まれたそうなのだが、俺は両親の顔すら知らないからだ。

 母の言葉も、育ての親から聞いただけで、その言葉も本当に母の言葉なのかも分からないんだがな。

 

 ギリヤギナ族の高官には、そういう目的でシャクコポル族の女を奴隷とする者もいるそうだが、俺の父は母を真剣に愛してしまったために正式に妻にしようとしたらしい。

 

 そのせいでこの国の宰相の側近であった父は地位も財産も全て失い、母と一緒に殺されてしまったそうだが、俺からすればただの馬鹿だとしか思えないな。

 

 その時にすでに生まれていた俺は、幸いなのか不幸なのかは分からないが、俺は母の友人――育ての親が庇ったことで一人生き残ることが出来、その女性の元で剣奴になるまでの間を過ごしていた。

 

 育ての母には感謝しているが、庇ってもらってまで得た俺の命は剣奴として生きる羽目になったのだが。

 

 

「恨んではいけない……か」

 

 

 牢屋で鎖に繋がれながら一人考える。

 

 正直『恨む』という気持ちがいまいち分からない。

 

 10歳まではシャクコポル族の村で割と平穏な環境で育てられてきたが、そこから奴隷としてやってきたこの場所では、見世物として闘いの場に駆り出され続けている。

 

 何度か死にかけたりはしたものの、父親がギリヤギナ族だからだろうか……、これまでの努力があるにしろ、他の同族よりも身体能力に秀でているために何とか勝ち続けてこれた。

 

 戦士としての素質を持ったシャクコポル族は少ないようだ。

 

 普通ならこの状況を恨むのかもしれない。

 

 実際に胸の内を熱く焦がすような黒い感情は確かにある。

 が、その黒い感情にはどこか暖かさも感じている。

 

 もしかしたら、この黒い感情を負の感情として表に出さないことが俺の母が残した唯一のものなのかもしれない。

 

 しかし、これまでは何とか生き残ってこれたが、これからも生き残れるとは限らない。

 

 俺は一生自分の中の気持ちも理解出来ずに、この薄暗い牢屋と逃げ場のない闘技場を往復し、誰かを殺し続け、殺されるまで自由というものを知ることすらなく死んで逝くのだろう。

 

 そう、思っていた。

 

 一人の少女と出会うまでは……

 

「貴方、私の友としてこの国を立て直してみませんこと」

 

 

 誰も寄り付かない剣奴用地下牢に似合わない美しい声が俺の運命を変えた。

 

 俺が剣奴となって三年目、希望も絶望もすべての感情を捨てて戦いの中で生き、そのまま死んで逝くことを諦観していた俺にとって、初めての希望との出会いだった。

 

 

「私の名はカルラゥアツゥレイ。

 皇女としてこの腐った国を改革する者よ」

 

 

 はっきりと、そう宣言する彼女に俺はどう応えていいのか分からなかった。




 主人公は転生者ではないので原作知識はありませんし神様特典もありません。

 ですが、気合いと根性と努力で最強になります!
 バトル描写はメインではないので強さはあまり意味がないですが心の強さをカルラと一緒に磨いていきます。

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