艦娘と銀鷹と【完結済】   作:いかるおにおこ

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ブリーフィング 後

「あー、こいつは『サウザンドナイブズ』だな」

「間違いなくそうだろう。提督、こいつはどこで発見されたんだ?」

 

 昼食を終えた提督は赤城の部屋に行き、そこで談笑していた妖精二人と話をしていた。隣には赤城と加賀もいる。巨大戦艦についての話なら聞いておこうと二人は考えていたのだ。

 畳の上に端末を置き、レッドとブルーがモニターを見ながら提督に問う。それはね、と前置きして提督は話を続けようとした。

 

「別の鎮守府の近海。どちらかって言うとここに近いところみたい」

「ここというと……この鎮守府ってことか?」

「そういうこと。で、今は金剛ちゃんたちに哨戒任務にあたってもらってるんだけど……もし巨大戦艦と遭遇することがあれば迷わず逃げるようにって指示を出してる」

「この近くにいるかもしれないって踏んでるんだな?」

「うん。で、サウザンドナイブズだよね。この戦艦はかなり危険みたいで、遭遇した艦娘は皆大打撃を受けてしまったの。みんななんとか生き残ったけれどもね……だからレッドちゃんとブルーちゃんに、こいつのことを教えてもらいたかったんだ」

 

 分かったよ、とブルーが軽い調子で返す。レッドも頷き返してなにから説明するか考えているようだ。

 

「こいつの厄介なところは、この写真にあるようにヒレ状の分離ユニットがあることが挙げられる。数十にも及ぶ分離ユニットはオールレンジ攻撃のためのものだ。一つの標的に向けて多角的な攻撃を仕掛けることが出来れば命中率は飛躍的に向上する」

「言い換えると、艦娘側から言えば被弾率がどうしても上がってしまう?」

「そうだ。しかも分離ユニットはかなり頑丈で、敵の攻撃から身を守るように展開することも可能だ。攻守ともに優れた能力を持つのが、サウザンドナイブズの強みと呼べるだろう」

 

 レッドはこの戦艦のことをよく知っているようだ、と赤城は感心する。どれだけの時間をベルサーとの戦いに使い、命を危険に晒したのだろう。それはブルーも同じことに違いない。

 

「で、弱点なんだが……分離ユニットは破壊できる。ある程度の数を壊しつつ、本体をボコってくのがいいだろうな」

「全部破壊してもいいんじゃないの?」

「分離ユニットがなくなったら死に物狂いで抵抗するだろってことだよ。それに、内蔵しているバースト機関の暴走がどったらこったらって話も聞いたな、それについてはよく分からんけど」

「なるほどね。他に気をつけるべきことは?」

「こいつの機体上部から緑色をした巨大なビームを撃つことがあるんだ。破壊力が本当に酷くて、不意打ちするように撃つもんだから、分かってても避けられないで死んじまうシルバーホーク乗りが結構いる。正面に立たないことを意識しろ」

「うんうん」

「それと防御態勢をとった時は避けることを意識するんだ。攻撃態勢と同等、それ以上の攻撃能力を持ってる」

 

 ブルーの言葉にレッドが頷いている。嘘がどこにもない本当の情報なのだろうと赤城は確信した。やはり長いことベルサーとの戦いに携わっていた者の言葉には信頼できる重みがあった。

 ポケットからメモ帳を取り出してペンを走らせ終えた提督は礼を述べ、頭を下げる。そうして提督は畳から離れ、赤城の部屋の戸を開けようとした。

 

「あ、そうそう。もうしばらくしたら金剛ちゃんたちが帰ってくると思うんだけどね。帰ってきたら大事な作戦会議をやるから、そこのところよろしくね」

「? 大規模作戦でも展開するのですか?」

「うーん……それについてはお楽しみってところかな。うまいことやれば、人類の反攻作戦は成功すると思う」

「反抗作戦?」

「深海棲艦が巨大戦艦と手を組んでから私たちは苦戦を強いられてたでしょ? でも、今の私たちにはシルバーホークがいる。深海棲艦は簡単に倒せないのだろうけど、巨大戦艦相手にはめっぽう強い。ね、反撃のチャンスはありそうじゃない?」

 

 希望的観測にすぎないのかもしれない。だが――赤城は素直に頷けた。

 この提督は現状をしっかり把握し、次になにをなすべきかをしっかり考えている。同時にそのための要を自分たちに任せてくれている。そのことが赤城の心によく響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 20時30分。既に帰投していた金剛たちが持ち帰った写真数点が、執務室に用意した長机に置かれている。暗澹とした海を深海棲艦とサウザンドナイブズがあわせて六つの編成の艦隊で航行している場面だ。

 

「この写真を見てもらえば分かると思うんだけど、サウザンドナイブズと共に行動しているのはル級戦艦が二、ヲ級空母が二、リ級重巡が一だね。サウザンドナイブズが旗艦のように動いているけど……随伴艦はこれで固定しているのか、よく分からないのが現状だね」

 

 提督は執務室に集めた艦娘らに聞かせるように口を開いた。赤城と加賀と金剛、摩耶と龍驤、雷と電、七人はこの作戦会議が始まってから真剣そのものといった表情で写真と提督の顔を交互に見やる。

 

「他にも深海棲艦の六隻編成の艦隊が二つ確認されてる、と。いいねえよく撮れてる。ナイスショットってことで、龍驤ちゃんと偵察機の妖精さんにはMVPを進呈しようか」

「いやったぁー! って、ウチは偵察機飛ばしただけなんやけどなあ」

「無用な戦闘がないに越したことはないし。みんなも頑張ってくれてありがとうね。でだよ、他の鎮守府の調査報告も合わせると……実はこの鎮守府ってかなりヤバイ状況にあるんだってことがわかったんだ」

 

 提督がタブレット端末を操作し、画面に地図を表示させた。陸地にある青い点がこの鎮守府、海にある赤い点に今日の哨戒活動で確認された敵艦隊が表示されている。写真の裏の白い部分にA、B、Cと提督は油性ペンを走らせていった。

 画面の赤い点にもA、B、Cと表示が添えられている。なるほど、分かりやすいように説明しようと工夫をしているのだと赤城は感心した。

 

「この赤い点と写真の文字が連動しているんだけど……他の鎮守府の哨戒活動で確認された敵艦隊を緑色で映してみるね」

 

 提督が端末を触ると同時に緑の光点が次々に現れる。その数、四、五、六――青い点で表示されたこの鎮守府を包囲するかのように深海棲艦の艦隊が集結しているのが明確に示されていた。

 

「これ、ちょっちピンチすぎやねんな!?」

「間違いなく危ない状況だよ。でも……これはチャンスでもある。なにもいたずらに戦果をあげようとか、そういう話じゃなくてさ」

「じゃあどういう話やねん!」

「この海域でベルサーの巨大戦艦はサウザンドナイブズ以外に発見されなかった。神出鬼没が奴らの取り柄みたいなもんだから、まだ隠れてるのかもしれないけど……サウザンドナイブズを撃破できれば、他の深海棲艦はあまり脅威ではないでしょう?」

「なるほど! つまりこう言いたいんやな、巨大戦艦をぶっ倒せればこの海域を囲んでる奴らに対して有利が取れるって!」

「うんうん。巨大戦艦がいる以外は深海棲艦側はこれといった特色がないから、サウザンドナイブズを倒せるかどうかがこの反攻作戦の要になってくる。みんな、分かった?」

 

 執務室にいる艦娘全員が揃って是はいの声を上げる。笑顔で頷き返した提督は端末を取り上げ、いくつか操作を加えたあとで机の上に戻した。画面には「ミッションプランの提示」と表示され、ふっと消えていく。

 

「ここから寝ないで聞いてね。たぶんこの鎮守府が囲われた理由って、シルバーホークがここにいるからだと思うの」

「なんでそう思うんだよ?」

「摩耶ちゃん、ナイスツッコミ。たぶんこれまでのことで敵方にシルバーホークが地球にいるってことがバレてると思うの。あのアイアンフォスルがなんの情報転送もなく破壊されたとも思えないし」

「だから、なんでシルバーホークがいるってのが狙われる理由になるんだって言ってんだよ。おかしくないか? そんなに脅威に感じられることはないと思うんだけどさ」

「もしかすると巨大戦艦を使った演習やベルサーとの交流で、シルバーホークの危険性をある程度把握してるのかもしれない。通常戦力では艦娘にも深海棲艦にも大きなダメージを与えることは難しい。しかしシルバーホークなら巨大戦艦に対する大きな脅威になりうるかもしれない――そのくらいのことなら推測してると思うんだよね」

「そうかあ?」

「ここ最近で深海棲艦が勢いを増してるのはどう考えたって巨大戦艦が加勢してるせいなんだ。あの分厚い火力は通常兵器だからって艦娘がマトモに受けたらちょっと危ないし。ね?」

 

 うーん、と摩耶は納得しようと唸る。シルバーホークの価値を疑っている彼女にとって、提督の考えはあまり良いものにうつっていないようだ。

 

「……まああたしがうだうだ言っても仕方がないし、提督の考えも一応の筋は通ってる。分かった。あたしはこの反攻作戦に命を賭けるよ」

「摩耶ちゃん……ありがとうね」

「なに、あたしは提督を気に入ってるんだよ。シルバーホークはイマイチ信用ならないが、ホントはそれなり以上に強いってのも分かってる、分かってるんだ。だけど……ああもう、モヤモヤして気持ちが悪いっ!」

 

 ぱんと頬を叩く摩耶。目を見張る周りの艦娘たち。赤城と加賀の頭の上でレッドとブルーが様子をうかがうように摩耶を見つめていた。

 摩耶は提督を認めているらしいが、シルバーホークはあまり信頼出来ないようだ。しかし提督はシルバーホークを重要視している――そのことが摩耶を葛藤させているのだろう。そう判断したレッドは手を上げて口を開いた。

 

「摩耶よ。我々が頼りない、とても情けない戦力であることは自分でも認めている。痛いほどに。歯痒い思いだよ、シルバーホークバーストだけでは制空権をとることも叶わないだろう。だが、それでも。ベルサーの巨大戦艦が現れれば我々は命をかけてあなた方艦娘を守ろう」

「そこは絶対に巨大戦艦をぶっ倒す、じゃないのかよ」

「確かに我々がここに在る意義はベルサーを倒すことにある。だが、それよりもっと大事なことを忘れたつもりはない。我々を迎えてくれたあなた方に恩返しがしたい、というのは気持ち悪いと断ずるか?」

「……いいや。その逆だ。だけどな、あたしはお前らを頼りねえ戦闘機とパイロットだと思ってるってことは断言するぜ。いいな?」

 

 レッドは静かに頷き、ブルーも文句がないように腕を組んで摩耶を見つめている。

 一応の解決はみたらしいと提督は安堵し、プレゼンの用意をしてもらっている端末を触り始めた。

 

「それじゃあ話を戻そうかな。まず、私たちはシルバーホーク隊を囮にサウザンドナイブズを鎮守府側に引っ張っていく。そうして赤点と緑点の深海棲艦たちを、ここからそう離れてない東西の鎮守府と協力して叩くって作戦だよ」

「提督。これはあまりにも危険な作戦では? 一歩間違えば鎮守府が壊滅してしまいます」

 

 すかさず赤城が異議を唱える。これは危険極まりない作戦であるとレッドも直感していた。

 一度敵を鎮守府側に誘い込み、まわりの味方と連携して深海棲艦らを叩く――包囲攻撃が有効であろうとはいえ、これはあまりにも危険すぎる。最初に敵側に「人類側の重要拠点を叩きやすくさせる」という、凄まじい有利を与えてしまっているのだから。

 

「危険な状況っていうなら今も変わりがない。このまま手をこまねいていたら奴らはどんどん数を増やして包囲網を強くしていって、そのうち誰も手がつけられなくなるような酷いことになると思う」

「……確かに、深海棲艦側としてはそんな作戦を行うでしょう。私が敵の立場でも同じことをするかと」

「だから早く味方との連携をとって、できるだけ早く反攻作戦を実施しなければならないの。既に連携を取る鎮守府との密な連絡はとっているから、あとは迅速な作戦行動を起こすだけなんだよ」

「作戦開始時刻は? それならば――」

「今日の深夜二時ちょうどに出撃。第一艦隊と第二艦隊を別々に展開し、赤点と緑点の敵を灰色で示した海域まで引っ張り込むことが第一作戦目標。第二作戦目標は味方との挟撃・包囲攻撃を成功させること。画面の灰色の部分で海戦を行うよ。寝ないで聞いてね」

 

 きっぱりと言い切る提督の姿を赤城はどこかぼうっとした様子で見ていた。規模の大きい作戦の指揮をとることはこれが初めてだったはずだが、振る舞い方がいつもとは違ったように見えたのだ。

 死んでこいと言えない、頼りない提督――それが赤城の持つ印象の一側面であった。だが、真剣味を帯びた提督の表情は、そんな印象を拭い去るほどの迫力がある。

 壊さないように端末を触り、指さして示していく提督の説明に、作戦会議に集まった艦娘らは意識を傾けている。相当なプレッシャーが提督にかかっているはずだが、元データアナリストでカウンセラーまがいの若い女は臆することなく続けていった。

 

「で、赤城ちゃんと加賀ちゃんにはシルバーホークバーストの発艦を引き続きお願いするね。敵の狙いはシルバーホークって推測はあたってるかまだ分からないけれど、シルバーホーク二機を先遣させてサウザンドナイブズがいる敵艦隊のおとりになってもらうわ。シルバーホークで敵艦隊を誘い込むのよ」

「おう! 任せとけ!」

「心強いお返事ね、ブルーちゃん。ありがとう……つらい任務になるけど、頼むわね」

「なーに、宇宙軍にいた頃はもっと死にそうな目に遭ってたさ。ああ分かってる、油断するなっていうんだろ? この世界じゃシルバーホークはあまり役に立てないんだ、そのくらい分かってる」

 

 加賀の頭の上でブルーが軽く笑った。張り詰めた空気をほぐすのにちょうどよかったが、過度に緊張がほぐれることもない。

 提督の告げた作戦はシルバーホークと、これの発着艦を担う赤城と加賀に大きな危険を背負わせるものだった。さらに言えば赤城と加賀の属する艦隊もかなり危険な状態になってしまうのは避けられない。

 艦娘の運用に際して轟沈を極力回避する姿勢の小森提督にとって、この作戦を発動しようとするのは腹を切るに等しい苦痛を伴う作戦であったはずだ――赤城は確信に近い思いを抱く。それでも提督はしっかりした態度で的確に作戦を伝えていく。いったい彼女になにがあったのだろう?

 

「それで、シルバーホークを中心に敵を誘い込んで、画面にある灰色の海域で敵を一気に叩く。作戦の際は私が逐次通達を出すから、それに従ってくれるかな」

「了解ネー! でも提督がこんなにバリバリ作戦について喋るなんて……きっと明日はrainy day雨の日 に違いないデース」

「そーゆーこと言われると傷ついちゃうなあ。とりあえず、今から仮眠をとるなり何なりしてもいいし、とりあえず解散だね。作戦開始の一時間前、23時には執務室に集合すること。編成表は君たちに渡しておくから、それに書いてあるけどいま来られなかった子たちにきちんと伝達しておいてね」

 

 艦娘たちが揃って是の声はいを返す。

 そうして艦娘たちは足早に執務室を出て行き、赤城が最後に去ろうとするが、提督が「ちょっとまってもらっていいかな」と呼び止めた。執務室には提督と赤城と、赤城の頭の上にいるレッドしかいない。

 

「提督、なんでしょうか?」

「えーとさ、いっこ謝らなきゃいけないなって思ったことがあったの」

「謝る? なにをです?」

「言葉責めがうまいねえ。なんてそんな冗談はダメだね。……今まで頼りない上司でいて、本当にごめん。赤城ちゃんが前いたとこのような厳しいに厳しいを上塗りしたような提督にはなれないけど、でも、なんて言えばいいんだろう――」

 

 言ってはいけないようななにか。それが喉を駆け上がっているのであろうことは表情を見ればきちんと理解できる。赤城は提督が話し始めるのを待った。

 

「――死んでこいって言えなくて、ごめんね。こういう職業だもの、時には酷い命令を出さなきゃいけない時だってある。私が望もうが望むまいが。でも、私が未熟だから、こんな立場に就く人間が持つような強い心がなかったから、赤城ちゃんの信用を得られてないんだなって自覚はしていたんだ」

「提督……ええ、確かに私は、小森提督は提督という立場に立つには未熟ではないのかとか、強い覚悟がないのではないかとか、そんなことを考えていました。申し訳ありません。……提督は、そんな私のことを知っていたのですね」

「赤城ちゃんは分かりやすいからね、表情に出るんだよ。いつも隣に加賀ちゃんがいるから余計に分かりやすいんだ」

 

 加賀ほどではないがポーカーフェイスには自信があったのに。心の中で呟いた赤城は、この独白でさえ提督に読まれているのではないかと目を丸くした。

 少しの間だけ提督と目があい、彼女が笑うので赤城は目をそらしてしまった。やはり提督が読心術めいて自分の内側を見ていると確信したのだ。

 

「ホント分かりやすいなあ。……赤城ちゃん。私ね、レッドちゃんや金剛ちゃんが『戦う理由』を話しあっていた時に思ったんだ。大事な何かを守るとか、助けたいとか、敵が憎いとか、そういう話をしていて……それで思い出したの」

「思い出した? なにをです?」

「……提督になろうと思った最初の気持ち。リーダーをやるってガラじゃないけど、でも。深海棲艦から人々を守りたいって艦娘のみんなは言っていた。それなら私は裏方に徹して艦娘を支えなきゃって強く思っていたの。でも、それじゃ提督になるには足りなかった。みんなを守らないといけないって思うばかりじゃダメなんだって、いまはそう思えてるんだ」

 

 赤城の顔をまっすぐに見つめて提督は言う。どこまでもまっすぐで裏表のない、素直な光。小森提督の目にはそんな光が宿っている。赤城はそれに惹かれるのを自覚しながら、提督が言葉を続けるのを待った。

 

「……だから赤城ちゃん。私、もっと強い提督になる。あなた方に頼りないって思わせない……ううん、もっと頼ってもらえるような提督になる。……だから、これからも、力を貸してくれる?」

「もちろんです。……提督の、みんなの役に立てるように。誰かの明日を繋げるために。私は命を預けます。あなた提督に」

 

 清々しいまでの笑顔で赤城は言い切る。提督は心打たれたように黙り、小さく息をついて頷き返す。どちらも穏やかすぎる所作であった。

 

「ありがとう。私は赤城ちゃんたちに死んでこいなんて酷い調子では言えないけど……でも、赤城ちゃんや他のみんなのことを信じてる。こんなに難しい作戦だってきれいに終わらせて帰ってこられる。私はそう信じている」

「……提督」

「赤城ちゃんたちなら勝つって信じてる。それが私なりの『死んでこい』って言い方よ」

「……はいっ!」

 

 差し出された手をとる赤城。今の赤城に提督への不信感を想起させるものはもうなにもない。心から打ち解けられたことに感謝を述べながら提督は赤城を軽く抱き、その温かみを確かめるようにじっとした。

 

「提督、少し、窮屈です」

「ん、ああ、ごめん! つい勢いで……」

「こんなに提督が情熱あふれる方だとは思いませんでした」

「あー、だから、そのー。感極まっちゃってさ、つい、ね?」

「誰も悪いことだなんて言ってませんよ?」

「……んー、あー、そうね? あっそーだ赤城ちゃん、出撃前になんかご飯でも作ろうかい? 食堂はもうアレだろうけど、厨房借りておにぎりくらいなら大丈夫だよ?」

「そうですか! それなら塩おにぎりで……提督と一緒に食べたいです!」

 

 あれよこれよと話が転がっていくのを、赤城の頭の上にいるレッドは黙って眺めていた。一つのわだかまり、とまどいがなくなっていくのを眺めるのはとても心地が良い。

 これなら自分も澄んだ気持ちで作戦に臨めそうだ――執務室で半ば空気と化したレッドは、赤城と提督が仲良くしているのを邪魔しないように静かにすることに決めた。


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