9月7日
昨日の大雨がウソのようないい天気だった。ちょっとたまっていた洗濯物とか片付けちゃって、だいたいそんな感じで過ごして……そう、今日は訓練も軽めに、寮での家事やらなにやらを頑張りましょうね、という日になった。
秘書艦の1日休みをもらって、空母寮の洗濯物を洗ったり、祥鳳姉さんと料理の勉強をしたりしてた。
提督もそんなに仕事がある日じゃなかったみたいで、海の近くを散歩していたりしていた。秋の東北の海ももうじき見納めだし、思い入れもある場所だったもの。そういうことしたくなるの、分かる気がする。
そのことを思い出すと、きまって昔のことを思い出す。昔といっても私が艦娘になったばかりの頃だけど。
人間の体というものにいつまでたっても慣れなくて、おまけにこの体の子の記憶を「処理」して私の船魂を「移植」して「乗っ取っている」ということを聞かされて、なにも喉を通らなかった頃があった。なんの罪のないこの子を殺して生きている。そう思うと、絶対に許されることのない犯罪者になったような気分だった。
提督に相談したのは、いいえ、私が苦しんでいることを提督が気付いて声をかけてくれたのは、私がこの鎮守府に来てから2週間が経った頃だった、と思う。たぶん。そこで苦しんでいることを、悩んでいることを打ち明けると、提督は親身になって受け止めてくれていた。
話に聞いていたところ、提督というのはとても厳しい人が多いってことだったんだけど……たしかに青海提督は公私混同をしない、締めるところはきちっと締める品行方正を地で行くような人だけど、私が弱音を吐いても突っぱねたり怒鳴ったりしなかった。それだけでもとても嬉しかった。
あんなことがあったよねって話しかけに行こうと港に行って、やっぱりそこに提督がいたの。昨日のことも謝りたかったし、呼びかけながら近づいていって……
すまなかったって、提督は最初に切り出してきた。昨日はあんなこと言って軽蔑したろ、失望したろ――確かに驚いたといえば驚いたけど、でも、そんなことあるはずないじゃない。はっきりそう言ったら、瑞鳳はやさしいんだなって。
やさしいのとは違うんだけど。提督に助けてもらった恩があるし、私はそんなことで提督を嫌ったりしないもの。
9月8日
今日の昼には出撃があった。結論からいっちゃえば、万事順調ってとこ。こちら側で轟沈してしまった艦娘はいないし、敵だってきちんと倒せている。
哨戒に出ていた潜水艦のイクさんの報告では、アイアンフォスル一隻が防衛ラインに近づいていた、ということだった。
アインアンフォスルというのは、ベルサーの巨大戦艦の一つ。シーラカンスみたいな形をしてて、爆発するウロコを飛ばす、口から分裂する弾を撃つ、なんて攻撃手段を持ってる。通常兵器のはずなのにその火力が尋常じゃないからか、私たち艦娘にもとてもダメージが通ってしまう……本当、嫌な敵。
一番最悪なのは、船尾にあるバースト砲って武器。大本営から送られてきた報告書では、小森提督のところにいる正規空母の艦娘、赤城さんが一発で即死に限りなく近い状況に陥ったって書いてあった。
普通、海の上の艦娘はその本体っていうか、船魂の加護で目に見えない装甲っていうのかな、それを繰り出すことが出来る。おまけに加護の効果はもうちょっとあって、「海の上での即死を免れる」というのがあるの。
確かに赤城さんは即死していなかったけど、でも死にかけたって……そんなデタラメな威力のある兵器ってことよね、バースト機関っていうのは。だから最初にこれを壊そうとする方針は絶対に正解だと思う。
日記に書いていいことか分からないけど、大本営から送られてきた書類にはアイアンフォスルとの戦い方があったわけで。それは書いたんだけど、中身の問題っていうか。まあ鍵をつけてるし、艦娘の日記だから普通の人の目に触れることはないし、いざとなったら燃やせるから大丈夫かな。
結論から書いちゃえば、最初に全力でアイアンフォスルの尻尾の部分を叩いてしまうのが一番いい方法だってこと。他の巨大戦艦もバースト砲がどこにあるかは解ってるから、最初にそこを叩いて使い物にならなくしてしまえばいいって話よね。
扶桑さんや山城さんが正面から大火力で引きつけている間に、私の九九艦爆が急降下爆撃をきちんと決めて、それでバースト砲を使い物にさせなくしたの。妖精さんの通信でバースト砲が大破したのを聞いて、戦いの途中だったけどやったー! って喜んじゃった。
戻って艤装の補給を終わらせたら、提督が「よくやったぞ!」って褒めてくれた。戦艦の主砲とかじゃないと破壊が難しいって話みたいだけど、軽空母だって活躍できるんだってところ、提督に見てもらえて嬉しかったな。