艦娘と銀鷹と【完結済】   作:いかるおにおこ

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決戦一日前。覚悟のためのやすらぎ。

 第二次反抗作戦で与えられた日数はわずかしかない。急いで作戦を成功に導かねば、上層部からの何らかの「処分」は免れないだろう。

 だが小森提督も秋森提督も連続しての出撃を命じることはなかった。焦りがないわけではない。それよりも大事にしなければならない二つの物事がある、と二人は分かっていたのである。

 

 ひとつは、小森鎮守府と秋森鎮守府とで引き裂かれていた姉妹艦らの交流の場を与えるのが目的だった。似たような理由で、艦娘の間で人気のある長門や陸奥が小森鎮守府で士気高揚のためのトークショーをすることになっている。

 もうひとつは第二次作戦の二番目の出撃に関するブリーフィングの徹底だ。この反攻作戦に携わる多くの者が「囮を使って少数精鋭が敵の最深部まで到達しやすくする」ということは知っているが、その詳細を徹底周知させる必要がある。

 

 まだ正午にもなっていない、朝の九時。近隣の海域の哨戒へ出かけた艦隊を見送り終えた小森提督は、眠そうなため息をついて執務室へと戻っていく。軽い二日酔いがあるがクスリをがばばあっと飲んでしまえば抑えられるだろう。

 そんな不健康なことを考えながら執務室のドアを開け、体の重いように椅子に座る。引き出しからクスリのビンを取り出し、何錠か取り出して流し込む。机の上にある水入りのペットボトルに口をつけて一息つくと。ドアがノックされる音が響いてきた。

 

「はいはいー」

「金剛デース! 失礼シマース!!」

 

 元気よくドアを開けて入っていく金剛。そんな彼女は小森提督の隣に立つとクスリの瓶を見て目を丸くした。

 

「Oh、不健康ですネー」

「秋森提督と呑んでたんだけどさー。あの人、下戸だっていってチューハイしか飲まなかったんだけどね、アレ絶対嘘だよ。下戸ってのはチューハイ程度でもダメになる人のことをいうんだよ」

「その場で進化したんですヨ。バトル漫画とかでもよくあるデス」

「それとは違うと思うけど……」

 

 無邪気に笑う金剛に困ったように微笑み返した小森提督は机の上に視線を向けた。そこには小さくたたまれた海図があり、そばには海洋生物のミニチュアが置いてある。

 

「ところで金剛ちゃん」

Yes(なあに)?」

「ブリーフィングの練習相手、お願いできる?」

Okay(いいよ)! ばっちこーいデース!」

 

 元気よく返事をする金剛に勇気づけられるように小森提督が海図を広げ、その上にクジラとハリセンボンのミニチュアを置く。既に偵察で明かされた敵の巡回海域にのっとってハリセンボンが海図の上をいくつかの針で自立して、敵本拠地と思しきところでクジラは潮をふいていた。

 

「レッドちゃんやブルーちゃんから聞いた情報をまとめると、グレートシングという巨大戦艦は最大級に危険な敵なんだって。半端な戦力では重装甲を破ることが出来ず、逆にみんな皆殺しにされてしまうことが結構あるとも言っていたんだ」

「まさにGreat thing(でかぶつ)ネ……」

「ダライアス宇宙軍でもこれの撃破には相当骨が折れるみたいで、精鋭のシルバーホーク乗りをたくさんつぎ込んでようやく勝てたとか、対グレートシング用の特殊艦艇をつくるとか、いろいろやっていたみたい」

「うーん……」

「で、第二次作戦だけど、今回は秋森提督の長門ちゃんを旗艦にした連合艦隊を組むことにしてる。この編成表はお昼に秋森提督と最終調整をするから、そこは保留ってことで」

 

 頷き返した金剛はハリセンボンのミニチュアをつつきながら言葉の続きを待っていた。こほんと咳払いした小森提督はすこし険しい表情を浮かべて深呼吸をする。

 

「連合艦隊とは別に、敵本拠地を叩く艦隊も用意する。ここには誰を入れるかはまだ未定なんだけど、龍驤ちゃんは絶対に入れるつもりなんだ」

「もしかして、オールドとオリジンの力を期待して? それは無謀ネ……」

「かもしれない。でも、レッドちゃんとブルーちゃんが教えてくれたんだよ。オールドは単機でグレートシングを倒したことがあるって」

Really(うそでしょ)?」

「でもその時の戦闘ってとてもひどかったらしいんだ。だからオールドはそのことをよく思っていないみたいなんだけど……まあ、頑張ってもらうしかないかな」

 

 うーん、と金剛があまり納得していていないように唸る。

 だからといって彼女に代案があるわけではない。黙って聞くことにしようと金剛は思うし、小森提督の言葉も続く。

 

「それで第二次作戦は、少し柔軟に動いてもらうことにするよ」

「柔軟に?」

「もしグレートシングが囮艦隊にやってきたとしたら、龍驤ちゃんのいる本命の艦隊も突っ込ませる。予測通りミラージュキャッスルしか現れないとすれば、本命の艦隊はそのまま敵の本拠地に突っ込ませる」

「確かにグレートシングが最大のThreat(脅威)であるなら……それさえ潰せば敵の本拠地を叩くのは楽になりそうデース」

「まず間違いなく、どんな深海棲艦でもグレートシング以上に脅威になるものはないはずだってレッドちゃんが言ってる。ベルサーとも深海棲艦とも戦ったならその評価は信頼してもいいと思うな。とりあえず、これでブリーフィングが終わりっと。どう、伝わりやすかった?」

「Yes!……でも、どちらにしてもかなり危険な作戦ネ。これじゃ誰か帰らなくな――」

「金剛ちゃん。私は皆のことを信じてる。確かにこれはある種無謀な作戦ではある。囮の方が引きつけた敵を倒して加勢に向かったとしても、それで倒しきれないかもしれない。作戦は失敗に終わるかもしれない。でも、それでも、私は皆のことを信じているんだよ。金剛ちゃんもね」

「――Hey、提督ぅ。そんなに嬉しい言葉をかけてもらえて幸せデース。だから、もっとこの気持ちを大事に抱えるから、私も提督を信じマース!」

 

 小森提督に軽く金剛が抱きつく。軽くても不意をつかれた形なので小森提督がたたらを踏むが、それでもしっかり抱き返した。

 

「……出撃は明日の夕方を予定しているよ。金剛ちゃん、それまではゆっくりしていてね」

「なら提督と一緒に Tea timeを――」

「ごめん、それっだけはできないの。いろいろやらなきゃいけないこともあるし」

「――それなら秘書艦として手伝うのが私の Obligation(義務・義理)ネ! 今日も一日ヨロシクオネガイシマース!!」

 

 そっと小森提督から離れる金剛は満面の笑みを浮かべている。こちらこそ、と小森提督も応え、二人は向かい合わせに椅子に座った。なんともいえぬ幸せそうな空気がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 昨日のうちから、昼の四時にティーパーティーを開くことは決まっていた。主催は金剛であったが、彼女は小森提督の秘書艦としての務めが厳しくなったので欠席している。

 時間が来る前には皆の訓練は終わっていて、金剛が抜けた四姉妹の三人が前もってパーティーの準備をしていた。食堂の一角で着々と準備が進められ、質素な空間が簡素ながらも華やかで心がおどりそうなものに変わっていく。

 

「ふぅ! ねえ榛名、こんなもんでどうかな?」

 

 栗色のショートカットをおどらせながら比叡が妹たちに問う。彼女は最後のテーブルに白のテーブルクロスを用意し終えたところだった。

 榛名は邪魔にならないようにひとつに結んでいた長い黒髪を解き、白い頭巾も取り外しながら比叡に向き直る。

 

「いいんじゃないでしょうか? よれていたりしわになったりなんてのはないみたいですし……あ、こっちは大丈夫です。カップとかの用意は終わっています」

「わかったー! 霧島もそろそろかな、お菓子作りは大丈夫かな」

「そんなに心配しなくても平気ですって。心配性なんだから……」

 

 最初に比叡が「金剛お姉さまから教わったスコーン作りを活かす時!」だなんて張り切ったのを言葉巧みに誘導し、自分がこれを受け持つようにした霧島の手腕を榛名は思い出す。

 お世辞にも比叡の料理の腕は良いとはいえない。以前に小森提督にカレーを作ったことがあるのだが、翌日に小森提督は体を崩して全く執務に集中できていなかった。これが比叡のせいだとわからないようにふるまっていた提督に榛名はある種の感動を覚えているが、ばっさり言ってしまっていいんじゃないかな、とも思っている。

 

「あれ、先に誰かくるみたいだね?」

 

 食堂の扉の向こうから二人分の話し声が聞こえてくる。どうやら霧島のものではないらしいとわかった榛名は、このティーパーティーにやってきた艦娘だろうとあたりをつけた。

 

「長門さんたちのトークショーが終わったのでしょうか?」

「えーと、いまが3時45分だから……もう終わって、先にこっちに来ている艦娘かな。提督とお姉さまはいろいろ忙しいみたいだし」

「たぶんそうですね……あ、いらっしゃい!」

 

 榛名が明るく出迎えたのは愛宕と摩耶の二人組だった。摩耶は小森鎮守府に、愛宕は秋森鎮守府に属しているので、この二人は久しぶりに顔を合わせていることになる。ちょっとした世間話でも楽しそうに話しているのも無理はないな、と榛名は思う。

 

「よっ! 遊びにきたぜー!」

「なんだか楽しそうじゃない? もう少し待っていたほうがいいのかしら?」

「いえいえ。先に座っていて大丈夫ですよ」

 

 榛名の答えに「だったらそこの小さいテーブル行こうぜ! ちょうど椅子もふたつあるし!!」とどこか興奮気味に摩耶が愛宕の手をとって少し遠めの席へと向かっていく。

 ここで声をかけて話に入っていくのは野暮というものだろう。榛名は比叡に断りをいれてから霧島の手伝いに向かうことにした。

 

 

 

 それからしばらく。食堂の一角は実に賑やかになっていた。紅茶だけでなくコーヒーも出すというお茶会だからか、に訪れた艦娘は主催の四姉妹が思っていたよりも多く、その分だけあらかじめ配っていた簡単な資料が役に立っていた。

 資料といってもA4の小さな紙で、これに簡素ながらも紅茶のお茶会のマナーが書かれている。発案したのは霧島で、最初から必要なものを覚えてもらえばいろいろスムーズにことが運ぶだろう、という思惑があった。

 はたしてこれはおおむね的を射ていて、著しくマナーを乱して場を悪くさせる者はいなかった。「あまりマナーにはうるさくしないお茶会」をモットーにしている四姉妹でも、さすがにぎゃあぎゃあ騒いだりなんだりといったものはつまみ出さねばならない。

 

 お菓子の食べ方が書いてあるホワイトボードに目をやりながら談笑を楽しむ暁型の四姉妹や、クマーニャーと気の抜ける語尾で明日の作戦について話し込む球磨と多摩の姿を見ながら、シルバーホークパイロットの三妖精がテーブルの上に座っていた。

 他の妖精たちも彼らに与えられたテーブルの上で談笑したり、守るべきマナーにしたがって紅茶を楽しんでいる。食器こそ妖精向けのものだが、この場を楽しむ姿勢は他の誰とも変わらない。

 

「軍属の頃や家族とともに過ごしていた時には、紅茶というものを飲まなかったが……意外といいものなのだな」

「んなー。なんつか、ダライアスじゃ紅茶って貴族みたいな連中の飲みもんってイメージあったよな」

 

 レッドとブルーがそんな話をしているのは、金剛四姉妹が紅茶を楽しんでいるテーブルの上でのことだった。もちろんそこにオールドもいる。比叡たちは自分たちのテーブルに妖精がいるのを歓迎しているように振る舞い、いろいろな食べ物を出していた。

 

「へー。じゃあこのお茶会で初めて紅茶を飲むんだ?」

「いままでただの色のついたお湯みたいなもんだと思ってたんだけどさ、こうして皆で飲んでみるとぜんぜん違うんだな」

「でしょう? 私も金剛お姉さまたちと一緒に紅茶が飲めるようになって、もっと好きになったもの」

 

 心底楽しそうに比叡が笑う。いいことじゃねえか、と愉快そうにオールドが返してカップに口をつける。

 

「あーっ! だからおっさん違うっての、カップは片手で持つんだよ!」

「ああっ!? 比叡ちゃん、これマジ?」

「マジだけど……でも、もっというならソーサーを左手に、カップを右手だね。そこまでうるさくしないように、カップは片手にとしか書かなかったけど」

 

 そうだったのか、とブルーとオールドが口を揃える。そんな様子を見て榛名と霧島が笑い、レッドだけはもくもくと食事を続けていた。

 

「そういえばオールドさん」

「え?」

「ダライアスとはどういう星なのか、聞かせてもらってもいいですか?」

 

 楕円な眼鏡を直しながら霧島が問いかける。やや灰色のかかった短い黒髪に一度目をやったオールドは「前にも言ったかもしれないけど」と前置きして話し始めた。

 

「あんまり地球と変わらんみたいだぞ。陸地よりもデカい海があるし、惑星中にはいろんな生態系があるし、生物多様性ったかな、そーいうのもそれなりにあるし」

「ふむふむ」

「暮らしに関しては……AR技術は地球よりは普及してたかな」

「ちょっと待って? えーあーる?」

Argumented Reality(拡張現実)だな。クルマの運転だとかの補助に使われていたし、写真加工とかでげらげら笑える遊びにも使ってたし。他にも軍事技術にも使われてたよ。戦艦とか戦闘機とかに『実体がないけどそこにある情報表示モニター』がうつるんだ」

「えー、あー……ああ! この前に科学雑誌で読んだことがあるかも。アーグメンテッド・リアリティねえ、なんだか楽しそうです」

 

 いいもんだぞーあれは、とオールドが懐かしむように言う。宇宙人の中年男性との会話を楽しむ艦娘という絵面はなかなかに印象的だと、霧島とオールドが仲の良さそうに話すのを眺める榛名は心のなかで呟いていた。

 

「よかったね、榛名」

「え?」

 

 隣に座る比叡がそっと耳打ちをするのに驚く榛名。そんなに驚かなくてもいいじゃない、なんて比叡が軽く笑って続ける。

 

「もしかしたら明日で誰かがいなくなってしまうかもしれない。そんなの毎日思っていることだけど、こうして一番危険な任務を前にして皆でわいわい出来るって、とても良いことだなって思うの」

「はい。榛名もそう思います」

「……これで悔いがないようにっていうか、それは違うんだけど、でも、こういう時間が過ごせていいなって、心から思うんだ」

 

 なんだかしんみりしちゃってごめんね、と比叡が頭をかきながら謝るが、そんなのはちっとも気にしていない榛名はいいんです、とだけ返した。

 そんな雰囲気のところに「比叡! 比叡!」と呼ぶ声がする。見ればそこには長門が席についていた。和服のお腹に当たる部分だけを切り取ってお腹がよく見える制服の上に白い上着を羽織っている。

 

「どうしたんです長門さん、陸奥さんは?」

「後で来るんだが、それよりも私にマナーを教えてくれ!」

「え? マナー?」

「比叡は御召艦だったのだろう? ならば一番こういうのに詳しいはずだ。そうだろう?」

「いやまあ、人並み以上には知っているつもりですけど」

「……この長門がこの場で恥をかくわけにはいかんのだ。で、えっと、確か、カップを左で持ち、受け皿を右で持つのだったか?」

「違います。違う違う。逆です」

「右にカップで左に受け皿?」

「そうそう。やっぱり忙しくてあの紙はよく読めなかったんですね」

 

 ひと通りしか読めなかったのだ、と残念そうに返しながらも手ほどきを受ける長門。比叡は近くテーブルにあった余分なケーキスタンド――ケーキやスコーンが盛りつけられている多段の食器だ――を長門のテーブルに持っていく。

 

「これがイギリスのお菓子か! ショートケーキもあるな、これをいただ――」

「だああっ、ちょっと待った!! 長門さん、それはダメです」

「――へ? ああそうか、皆が揃ってからでないと乾杯が出来ないというような話だな?」

「違います。いや違わないのかもしれないけど、違います」

「どっちなんだ。違うのか、違わないのか?」

「とにかく違います。下からサンドイッチ、スコーン、ケーキがありますよね?」

「うむ」

「この食器はケーキスタンドっていうんだけど、下にあるものから取り皿に入れて食べるの……だから順にサンドイッチ、スコーン、ケーキで頂くんです」

「……そんなの、あの紙に書いていたか?」

「いいえ。そこまでぎゃあぎゃあうるさくするのもアレだと思ったのですが、長門さんはこういうのにうるさくないとダメなのかなーって。だから私に(御召艦)にマナーを尋ねたんですよね? この比叡にお任せください!」

 

 少し長門の顔が青ざめる。なにやら自分はとんでもない地雷を踏み抜いてしまったのではないか。遠くからでもそう言わんとしているのを榛名は見抜いてしまった。

 

「まあそうなのだが、私は最低限のマナーを知れればそれで――」

「いやー、私、実は誰かにマナーとかそういうのをきっちり教え込みたかったんですよねえ。金剛お姉さまからもちゃんと仕込まれていますから、大丈夫、安心してください」

「――そうだ比叡、いまは忙しいんじゃないのか? そうでなくても金剛のお手伝いなんかどうだ、喜ばれると思うぞ?」

「ご心配なく! 私はここでもてなす側として頑張るつもりだし、金剛お姉さまと小森提督が楽しそうにしているの邪魔する気は全く無いですから」

「あ、そ、そうか……じゃあ、お茶会が始まるまで、いろいろ教えてくれ」

 

 わっかりましたー! なんて無邪気に比叡が笑う。長門も笑いを返す。どこか引きつったように。

 

「あーあ。長門さんやっちゃったわねえ」

「……陸奥さん、ここにいなくてよかったわね」

 

 霧島と榛名はマナー講座という名の小芝居みたいなやりとりが繰り広げられるのを眺めて微笑んでいる。

 自分の姉がおせっかいという迷惑をかけているのは正直なところアレな話ではあるのだが、長門がそれを心底嫌がっていないで受けているのを見て、天然の小さなお笑いをやっているような印象があったのだ。

 

「なんだかんだで楽しそうなお茶会になりそうじゃん。な、レッド」

「戦意高揚のためにこういう場を設けるのはいい案だ。……この体がサイボーグだからといってなにも口にしないわけではないし、こういうのは嫌いじゃない」

 

 テーブルの上で静かに話をしているパイロットの二人の前で「すっげこれうめっ、このサンドイッチいけるっ、うめっ」ともう一人のパイロットがうるさくしている。

 

「あーもーうっせえなあ。おっさん、もちっと静かにできねえのかよ」

「なんだブルーかよ、お前も食べてみろって、ホレ」

「だからうるさくするなって言ってんの――おおっ!? すごい食べやすいし、葉っぱとハムの合わせ技とか最高じゃんこれ!!」

 

 ミイラ取りがミイラになってどうするの、とレッドは小さく呟く。最近覚えた地球の「ことわざ」というワードだった。

 そうこうしているうちに4時が近づいていく。食堂の扉の向こう側もにわかに騒がしくなってきた。

 

「なんだか、これからもっと賑やかになるみたいだな」

「はい! 榛名、がんばります! ……時間ですね、みなさん、入ってきてくださーい!!」

 

 元気よくドアに駆け寄って開けた榛名は多くの艦娘がゆっくり入ってきてくれたことに感謝しつつ、彼女たちがマナーについての文書を片手に持っていることにある種の嬉しさを覚えていた。

 いまを楽しむ。明日への覚悟を決める。この時間を目一杯楽しもう。そんな気持ちはこの場にいる誰もが持っているはずだと、榛名は確信に近い思いで心のなかで呟いた。


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