艦娘と銀鷹と【完結済】   作:いかるおにおこ

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鎮守府防衛戦 後

「うー。レッドもブルーも心配ネ……」

「大丈夫ですよお姉さま。あの二人とシルバーホークバーストなら絶対に戻ってきます」

「私だってそう思ってるデス。それでも不安になるのは仕方がないネ……」

 

 ですよねえ、と比叡。同じようなやりとりは赤城と加賀を守るように航行する雷と電もしている。グルグルと円軌道するように第一艦隊は航行し、シルバーホークを待っていた。

 第一艦隊の現在の任務は、挟撃を行う予定の海域に誘いこむこと。同時にシルバーホークを出迎え、着艦させて回収・補給を行う必要がある。

 シルバーホークの燃料の消費は異常なまでにゆるやかだが、弾の消耗は激しい。亜空間を介して利用する補給施設が使えないままなので、着艦させてから補給剤を使う必要がある。

 空母艦娘は艦載機の燃料と弾薬の補給に、妖精由来の技術である「補給ペースト」を使っている。赤城も例に漏れず、いつも懐に補給ペーストをいれたケースを仕舞っているのだ。

 

 シルバーホークが発艦してからもう一時間が経とうとしているが、入ってくる無線通信は背後に爆音が鳴り響き、作戦の進行が遅れがちであるということだけだった。このことは小森提督にも伝えていて、彼女を経由して作戦協力する鎮守府の提督にも状況共有が行われている。

 遠くからでも砲火や黒煙が小さいながらも分かる状況になりつつあり、赤城も加賀はいつでも艦載機を発艦できるように身構える。黒一色に染まったような暗雲はその色を薄めていき、強烈な雨風は勢いを少しずつ緩めている。この状況なら普通の艦載機でもそれなり以上の働きが期待できると赤城は踏んだ。

 

「Hey、みんなよく聞いて! これからレッドとブルーを迎えに行きマース!」

「ってことは先行するのは私とお姉さまだけ?」

「Yes! 私と比叡で敵艦隊を食い止めて……赤城と加賀には、シルバーホークの着艦をお願いするデス」

 

 任せておいて、と静かな調子で加賀が答える。素早く着艦しなければ怒涛の勢いで押し寄せる敵艦隊群に呑まれてしまう。そうなれば挟撃予定海域に誘いこむなど叶うはずもない。

 いまから行う行動の流れを赤城は整理する。最初に、金剛と比叡に差し向ける直掩機を編成、発艦させる。彼女たちが押し寄せる敵艦隊群の勢いを殺すと同時にシルバーホークを着艦させ、これに補給を施しつつ別の機を発艦し撤退する。

 本当にこの反攻作戦は成功するのか――湧いて出たような不安を強く拭い取ろうとした赤城は、自分の通信機にノイズが走ったのを認めた。レッドからの通信だった。

 

〈赤城、そちらへの予測到達時間はあと二分だ〉

「機体の状態は?」

〈芳しくない。被弾はあまりしていないが、かなり長い時間を猛攻に晒されている。正直言って厳しい〉

「了解よ、いま迎えにいきます!」

 

 頼む。それだけ言ってレッドの方から通信が途絶えてしまった。数十分も敵艦隊群の攻撃を受けながら誘導しているのだから、仮に機体の損傷がなくともパイロットの心身の消耗が激しいであろうことは想像に難くない。

 赤城の聞いていた通信は第一艦隊の皆が聞こえていた。金剛と比叡は他の四人と目配せし、ひとつ頷いてから敵艦隊群の方へと向かっていった。やや遅れてから雷と電が続き、さらに遅れて赤城と加賀が進んでいく。

 前を金剛と比叡、中腹を雷と電、後ろを赤城と加賀が固める複縦陣めいた動き。早速金剛と比叡が砲撃を開始。シルバーホークを追って攻撃する敵の砲火がいい具合に位置を教えてくれていた。

 

「お姉さま、敵が丸見えですね!」

「でも攻撃のし過ぎには注意するデス、私たちの役割を強く意識しないとネー!」

「了解です! ……当たって!!」

 

 金剛と比叡の砲撃が着艦に向かうシルバーホークのいい援護になってか、彼女たちの頭上遠くを二機のシルバーホークが飛翔する。

 

「っ、赤城さん、シルバーホークがやってきたのです!」

「早く着艦させてあげて!」

 

 前を行く電と雷が知らせ、赤城と加賀は腕に備えたグッと飛行甲板を伸ばす。遠くにきらりと見えた赤と青の機影はすぐに空母の二人に近づき、急減速をかけてホバリングする。

 飛行甲板の上に乗ったシルバーホークは光とともに一条の矢と姿を変え、赤城と加賀はこれに補給ペーストを手早く練り込んでいく。すぐに浸透するかのようにペーストは存在感をなくし、シルバーホークを封じた矢は赤城たちの矢筒に仕舞われた。

 

「おつかれさまです。もうしばらくしたら、また発艦します」

「ベルサーの巨大戦艦の相手は任せるわ。それまでは私たちに任せて頂戴」

 

 シルバーホークの矢から姿を表さないレッドとブルーに語りかける赤城と加賀。彼女たちの落ち着きを見せたような表情は、しかしすぐに緊迫したものに戻る。水平線の向こうに破竹の勢いで迫る敵艦隊群が見えたからだ。

 あの勢いのまま鎮守府まで到達して破壊の限りを尽くすに違いない――直感した赤城は艦載機を発艦しつつ後退していく。雷と電も、金剛と比叡も全速で下がりながら砲撃する。引き撃ち、引き撃ち。引き撃ちだ!

 前衛を務めていた金剛と比叡に向けられていた敵の砲撃は次第に雷や電の近くに、しまいには赤城と加賀のまわりにも届くようになっていた。赤城と加賀が自信満々に発艦した烈風らが懸命に敵艦載機を食い止めているが、物量の暴力に押しつぶされようとしている。

 目標の海域まであと少し。三分と経たずに到達できるだろう。そのことを無線連絡しつつ赤城は焦燥していた。しんがりを務める金剛と比叡が次第に傷を負っていき、艤装にもダメージがかさんでそのうち使い物にならなくなるかもしれない。

 

(もしかして、ここで、終わってしまう……?)

 

 挟撃する味方は、自分たちがきちんと誘い込まねば現れることはない。それまではしっかりと身を隠して伏しているのだ。いま助けを呼んだとしても聞こえないふりをされてしまうのは明白だった。

 さらに赤城の自信に影を落としたのは後方から聞こえた悲痛な叫び声だった。金剛と比叡が敵の強烈な攻撃を受けて小破してしまったのだ。

 

「金剛さん!?」

No problem(問題ない)! こっちを気にせずもっと急ぐデス、Hurry(急いで)!」

 

 了解の返事の代わりに赤城は艤装の機関を最大限に稼働させる。足元から全身にかけて熱が上がってくるのを覚えながら赤城はシルバーホークの矢をつがえる。

 赤城には見えていた。大勢の深海棲艦らに混じってミノカサゴめいた巨大戦艦がヒレ状の分離ユニットをいくつも飛ばし、黄色をしたレーザーを金剛と比叡に向けているのを。

 

「赤城さん、なにを――」

「シルバーホークを発艦させます! あそこに巨大戦艦がいる!」

「――分かりました。私もネクストを発艦させます」

 

 全速力で逃げながら赤城と加賀はシルバーホークを発艦。金剛と比叡の支援を指示しつつ目標海域を目指す。その隣で守るように雷と電が航行するが、彼女たちも敵の砲撃を受けてしまった。

 シルバーホークが設置バーストを振り回して防御に徹しているが、それでも全てを防げるわけではない。なんとか艦娘が避けられる程度にしか攻撃の密度を減らせないのだ。

 痛みにあえぎながらも駆逐艦の二人が応戦するのを見て、赤城は不安と焦燥をより一層濃くしてしまう。

 このままみんなやられてしまうのではないか? 攻撃され、傷つき、力尽きて水底へ沈んでしまうのではないか? そうして反攻作戦は失敗に終わり、小森提督や鎮守府で身構える艦娘らが皆殺しにされるのではないか?

 

(そんなの、そんなの嫌だ! でも……)

 

 あまりにも敵の攻撃は激しい。赤城と加賀を守るように展開した金剛と比叡、雷と電は瞬く間に中破状態になるまで攻撃を受け、その熾烈さに制服が損傷してしまっている。艤装もダメージを受けて機能が低下してしまった。

 

(……このままでは、全滅する?)

 

 ついに不安は恐怖へと変貌した。顔色を歪めた赤城の変化に加賀がいち早く気づくが、お互いに降り注ぐ砲弾や爆弾の回避運動で手一杯になってしまった。誰かの気遣いが出来る余裕なんてない。

 顔色と表情を悪くさせて赤城が後退する。その隣に回避運動をしながら加賀が近づき、励まそうとするが、攻撃の激しさにどうすることも出来ない。近づいて励ましの言葉を送ることが出来れば――

 

〈――あと二十秒で深海棲艦群の全てを作戦海域に連れ込めるわ!〉

 

 第一艦隊の皆が小森提督からの通信を耳にする。二十秒。もっと前から知らせてくれれば心の持ちようが変わったかもしれないが、この知らせを聞き、同時に妙な感覚を受けて赤城は顔を上げた。

 空の暗雲がわずかに晴れている。

 晴れ? 右に敵の砲弾がかすめるのを覚えながら赤城はそこに目をやった。いま敵を引き寄せている自分たちは東に向かっている。東。太陽の昇る方角。――日の出。暁光。柔らかな光がここに差している。

 

「本当なの!?」

〈ええ。ありがとう雷ちゃん、電ちゃんも、みんなも! 挟撃艦隊、一斉に……ってぇ!!〉

 

 勇ましい提督の号令。同時に。四方から航空機が飛来し思い思いに猛攻を仕掛け、畳み掛けるように砲弾が降り注いでいく。

 金剛が旗艦を務める第一艦隊の追撃に気を取られていた敵艦隊群の中腹の辺りが一斉に大打撃を受け、損害し、行動不能に陥る。その様子をシルバーホークのパイロットたちが赤城と加賀に伝えていた。

 

〈一斉挟撃で、敵艦隊群の中衛の大部分が撃破だ! すげえぜ!!〉

〈虚を突くことの強みはまさにこれというわけだ。シルバーホーク隊はこれより攻勢に入る。ベルサー巨大戦艦・サウザンドナイブズの撃破に移行する!〉

 

 報告に虚偽はない。あからさまに敵の攻撃の密度が衰えたのを見て、この作戦の狙いがある程度成功したのを赤城はしっかりと受け止めた。背水の陣めいたこの作戦は良い切り返しが出来ている。

 あとは慢心することなく共同して反撃に臨むことが作戦成功の要だ――なんとか自信を取り戻した赤城は残りの機を発艦するべく矢筒に手を伸ばす。

 通信機に小森提督の声。赤城らの鎮守府から出た第二艦隊がここに接近しつつあることと、他の鎮守府の共同艦隊も同様に近づきつつあることを知らせていた。

 

「提督、これなら勝てそうです!」

〈うんうん! 調子に乗れる時は乗っておこう! でも金剛ちゃんたち、だいぶ怪我してるなら深追いはしないこと。返事は!?〉

 

 赤城の通信機越しに金剛と比叡、雷と電の了解の声がひびく。彗星と天山の発艦準備をする赤城は隣の加賀も反撃の準備をしているのを認めた。

 

「一気呵成の勢いでいきましょう、赤城さん」

「ええ!」

 

 元気いっぱいに赤城が返し、安堵したように加賀が横目で見つめる。

 背中に暁光未来。手には大きな和弓と艦載機を封じた矢。揃って矢を放ち、少しずつ光を取り戻す空に光り輝いて大型化。妖精が搭乗する艦載機となって空を飛んで行く。

 反撃だ。猛烈な反撃をするのだ。背中に守る人々のために奴らを皆殺しにする――全滅の危機に怯えた自分自身をも殺すかのように赤城は瞳に殺意を滾らせていく。こうなった彼女が発艦した機は決まって粒のように光る重大な活躍を遂げるのだ。

 

 

 

 ミノカサゴ型巨大戦艦・サウザンドナイブズを守るように敵艦隊群は動き、シルバーホークはサウザンドナイブズにうまく手が出せないでいた。大きな数を減らしてしまった敵艦隊群は防御を固めるように円陣めいた輪形陣を組む。

 最初に敵陣に突っ込んで撹乱、誘導する任務において弾薬はかなり消耗していたが、こうして積極的に攻める場面となると消耗速度は加速度的に上がっていく。レッドとブルーはほとんど同時に、自分を発艦させた空母艦娘に着艦・補給要請の旨を無線連絡で伝える。

 この時レッドは赤城がまるで別人であるかのように敵艦隊群を睨みつけて航行しているのを見た。これまでレッドが見てきた赤城の表情は穏やかであったり、どこか抜けていたり、任務に真面目に取り組むところだった。――いまの赤城はレッドの知る表情をしていない。

 

〈赤城、着艦と補給だ、頼む〉

〈了解です。もうじきサウザンドナイブズを囲む深海棲艦も沈むでしょう、それが好機です〉

〈そうだなっと、あれは第二艦隊か〉

 

 レジェンドを真正面から着艦させようと腕を伸ばして飛行甲板を用意する赤城。彼女は振り返らずとも、第二艦隊旗艦を務める霧島が気合の大声を上げながら近づくのが分かっていた。

 霧島の後ろに続く榛名、摩耶、球磨。彼女たちからやや離れたところに龍驤が続き、サウザンドナイブズを守る敵艦隊群を撃滅しようとそれぞれの艤装を向けている。

 すっかり艦娘側の勢いが強まってしまい、ひ弱な兎を追いかける獣同然であった深海棲艦は、いまや四面楚歌を体現した危機的状況に立たされている。赤城が受け取った無線通信によれば、他の鎮守府からの支援艦隊が敵艦隊群の後衛部隊の殆どを片付けたという。

 しかし支援艦隊は全艦娘の弾薬を切らしてしまっていた。故にこれ以上の戦闘続行が不可能であることを告げ、遠まわりに赤城たちが属する小森提督の鎮守府へと向かうことを伝えた。

 

 そんなやりとりをしながら赤城と加賀はシルバーホークが飛行甲板の上でホバリングし、光って一条の矢へと姿を変えたのを認めた。回避行動を織り交ぜた航行中の着艦だが、無事に完了している。

 

「シルバーホーク、着艦完了。補給が済み次第最発艦します」

〈了解だ。サウザンドナイブズの撃破を目標として動くぞ〉

 

 不思議なことに矢へと姿を変えたシルバーホークであっても内部構造はほとんど変わりがない。レジェンドのコクピットで再出撃に備えるレッドは、しかし突然妙に力が湧いてくるのを覚えた。

 赤城が矢に触れて発艦準備をした際にシルバーホークがごう、とひとりでに震える。その原因は知らないが、レッドはひとつの予感を覚えていた。

 いまの赤城が浮かべているのは殺戮者の表情だ。あるいは敵を倒すことに全神経を傾けた軍人の目。兵器たる軍艦の船魂を宿していることがここまで冷たい顔をさせる所以なのかもしれない。

 だが、いま確かに言えるのは、シルバーホークのスペックが向上したことを告げるウィンドウが現れていること。そしてレーザーの完全復旧が完了したことも告げられている。

 

〈なんだこりゃ!? おいレッド、ネクストのレーザー砲が復活したぞ!?〉

〈こちらもだ。……いまのシルバーホークはある種のナマモノなのだろう。赤城や加賀の調子に依って能力の増減があるらしい〉

〈まあ赤城も加賀もやる気まんまんって感じだしな。さて、と。いっちょ行ってみようぜ!〉

 

 ぎり、ぎりと強く弓を構える赤城と加賀。彼女たちは第二艦隊がサウザンドナイブズを守る艦隊に攻撃しているのと、彼女たちを支援するように金剛らが砲撃を加えているのを見る。――いまがシルバーホーク発艦のチャンスだった。

 

「加賀さん、行きますよ! レジェンドシルバーホークバースト、発艦!!」

 

 気合の大声と同時に赤城はレジェンドを空へ放つ。その勢いは大気を裂き、辺りの光景を歪め、矢からほとばしる光は直視した者の視力を少し奪うのに十分なほど強烈だった。

 直後に光の大爆発からシルバーホークが飛び出し、その姿に赤城は目を丸くした。大きさがいつもと比べてやや大きくなっている。机程度の大きさしかなかったが、今では大きな本棚くらいの大きさになっているのだ。

 

「これは……赤城さん、まさかシルバーホークが、成長した?」

〈なんつーかすげえぞこれ! 元の性能までは戻ってないが、前の時より性能が回復してる! ちゃんとレーザーも使えるし、よっしゃああっ!!〉

 

 戸惑いと喜びを胸に加賀が赤城を見る。赤城の横顔はどこかぼうっとしていたようでもあり、驚きに満ちていたようであり、それ以上に会心に満ちて笑んでいるようにも見えた。

 

〈……ブルーの言うように、まだ満足と言えるスペックではない。が、実に気分がいい〉

「レッドさん、ブルーさん。敵を倒せそうですか?」

〈問題ない。さあ、行くぞ!!〉

 

 赤城と加賀の頭上の遠くを飛行していたレジェンドとネクストは急旋回、一直線にサウザンドナイブズへ向かって飛行する。

 すぐさま設置バーストを用意、自分たちに向けられる砲弾などの攻撃を無力化しながら、レッドとブルーは機関砲からレーザー砲を撃つ準備をする。

 既にサウザンドナイブズは分離ユニットを攻撃に用いようと展開しており、四方から囲もうとする艦娘に反撃を試みている。サウザンドナイブズを護衛するよう立ちまわっているのはル級戦艦が二、ヲ級空母が二、リ級が重巡が一。

 分離ユニットは艦娘にとって脅威であるようで、なかなか強気に攻めることができないでいる。複数の標的に対して多角的に攻めるということを、深海棲艦らに守られながらサウザンドナイブズは達成できている。

 黄色をしたレーザーの攻撃は単発では軽微のようだが、このままでは艦娘側が徐々に不利となっていくだろう。深海棲艦を攻撃しようとすると分離ユニットがレーザーを撃ち、これを撃とうとすれば深海棲艦が邪魔をする。これが深海棲艦と巨大戦艦が手を組んで強くなることの所以であった。

 

 しかし。いまは艦娘にシルバーホークバーストが加勢している。ベルサーの巨大戦艦との戦いを多く経験しているパイロットもいる。

 ここからが反攻作戦の本質だ。巨大戦艦が深海棲艦に味方している現状を打開するためには「深海棲艦にほとんど無力であるシルバーホークバースト」の優位性を活用しなくてはならない。巨大戦艦を単機で撃破しうる強大な戦闘力と豊富な経験を十全に活かすようにしなければならないのだ。

 

(あと一歩というところでよく踏みとどまっている。すごいな、これは。人間味がまるでない)

 

 サウザンドナイブズを中心に円を描くように飛行するレジェンド。これに搭乗するレッドは現状の膠着状態を素直に評価した。

 敵方はもう絶望的状況にあるのに艦娘らを殺さんとする手をまったく緩めていない。実現可能で最大ダメージを与えられる攻撃を仕掛け続けている。

 

(だが、サウザンドナイブズの分離ユニットを止めることが出来れば――)

〈おいレッド! クソったれミノカサゴの分離ユニットを止めるぞ!〉

〈――ああ。設置バーストで一つを塞ぎ、レーザーショットで別のものの攻撃を相殺する〉

〈艦娘のサポートに徹するってわけだ。あたしらじゃ取り巻きの深海棲艦を潰せねえからな〉

〈そういうことだ、いくぞ!〉

 

 無線通信を一旦打ち切ったレッドは既に展開していた設置バーストを仕舞い、手近な艦娘の元へ向けて飛行した。第二艦隊旗艦を務める霧島のサポートをすることにしたのだ。彼女は二基の分離ユニットに襲われていた。

 メガネをかけた美人。華奢なように見える体には、やはりミスマッチを極めた大型の艤装を背負っている。金剛型四番艦ということで、金剛の着る巫女服めいた制服に身を包んで戦闘をしている。

 緩急のついた回避運動を取りながらサウザンドナイブズを守る深海棲艦に砲撃する霧島。しかし分離ユニットの援護に支えられた深海棲艦の反撃は激しく、思うように攻撃できていない。

 そんな霧島の頭上に陣取るレジェンド。突然の登場に驚きを隠さなかった霧島を下に、レッドは外部スピーカーのスイッチを切り替える。

 

「きゃあっ!?」

「援護に来た。あなたをサウザンドナイブズの分離ユニットから援護するから、その間に深海棲艦を倒せ!」

「なるほどね。それじゃあ、遠慮なくいくわよーッ!!」

 

 レジェンドが設置バーストを照射、霧島を狙う分離ユニットに砲口を向ける。蒼く細いバースト砲は霧島に向けられたレーザー攻撃の殆どを妨害、吸収してバースト機関のエネルギーへと変換する。同時にレジェンドのレーザー砲はもう一つの分離ユニットへ向いて発砲、分離ユニットのレーザー攻撃を相殺する。

 自分が厄介な攻撃から逃れたと分かった霧島は、背負う艤装に搭載されている大口径の砲を手近なル級に向け、号令とともに放った。同時に放たれた幾つもの大きな砲弾が狙われたル級の至近距離に着水、巨大な水柱を上げる。

 

「っ、そこだッ!!」

 

 至近弾を叩き込んだ霧島はぐっとひと睨みしながら一時停止、絶妙な間をあけて一斉砲撃を仕掛ける。僅かな時間に正確な狙いをつけたらしく、霧島の砲撃はル級の顔面に直撃、大爆発を起こし、濃い黒煙を海面に立ち上らせる。

 煙が晴れた頃には何者の姿もないが、レッドも霧島もそんなことを気にする余裕はない。こんな余裕なぞより多く欠いているのは間違いなく深海棲艦らだが、それでも「現状で実行可能な最大効用を得る」行動は徹底している。

 ネクストと榛名の連携もうまくいき、二隻目にして最後のル級が沈む。残るはヲ級が二とリ級が一。それでも旗艦であるサウザンドナイブズを後方に移動させるように三つの深海棲艦が立ち回り、最善の一手を打とうとしている。

 リ級が最前線に出てヲ級とサウザンドナイブズが後退。後退しつつヲ級も巨大戦艦も攻撃を繰り出している。深海棲艦の艦載機とレーザーを撃つ分離ユニットに守られながら、最後のリ級は両腕に備える装甲兼連装砲を第二艦隊へ向けて構え、何度も何度も放つ。

 

(サウザンドナイブズが後退する? いや、奴は戦闘距離を選ばない。だからそれ自体は不自然ではないが……)

 

 分離ユニットを設置バーストとレーザー砲で破壊するレジェンド。これに搭乗するレッドはある種の違和感を覚えつつ、第二艦隊のメンバーが反時計回りをするように航行しながら砲撃をリ級に加えるのを見た。

 空を覆う暗黒の雲は一番濃い時と比べてその色を失っていた。いまや夜明けの光が鎮守府近海にて戦う艦娘と深海棲艦を照らしている。砲撃と水柱の上がる音、戦いの怒号。サウザンドナイブズの分離ユニットを破壊しつつ、レッドは辺りの観察を忘れなかった。

 サウザンドナイブズの影に隠れるように動いていたヲ級らの被り物がごわごわと動くのをレッドは見逃さない。リ級の援護と艦娘らへの攻撃が目的だろうとレッドは踏む。

 

〈ブルー! 後ろのヲ級が――〉

〈わーってる! ヲ級が被り物から艦載機を出したのを確認したから、加賀の姉ちゃん、対応してくれ!〉

「分かったわ。私たちにかかればどんな敵も鎧袖一触よ」

 

 頼もしいぜとブルーが返しながら設置バーストを振り回し、敵航空部隊に第一撃を加える。編隊を組んでいた敵航空部隊はダメージを受けながらも前進、シルバーホークの攻撃を意に介さぬように突っ込んでいく。

 

〈くそっ、やっぱりシルバーホークじゃダメかよ!〉

「私たちなら誰が相手だって倒せるわ。だから大丈夫」

 

 落ち着いた加賀の声。それをレッドとブルーが聞くが早いか、加賀が放った烈風十数機が正面から向かい合い、次々に敵機を落としていく。ずるいぜ、とブルーはこぼしながら設置バーストを仕舞い、サウザンドナイブズの左側面をとるように飛行した。

 

〈赤城、まだ余裕があるならリ級らへの攻撃を頼む。第一、第二艦隊の損傷は軽いものではない〉

「任せておいて! ……全力で参ります、全機発艦!!」

 

 残りの艦載機を全て発艦させた赤城。彼女の放った艦載機烈風・彗星・天山は勢い良く飛行し、霧島や榛名を始めとした艦娘の砲撃に耐えるリ級の頭上から爆弾投下。ヲ級やサウザンドナイブズにも爆弾投下。魚雷も直接投下し、接触寸前のところを機銃で撃ち抜いて無理やり爆破させる。

 力尽きたヲ級はずぶずぶと沈んでいき、リ級は沈みきるまで砲を撃ち続けていた。その光景にぞっとした思いをしながらもレッドは最後の敵と向き合う。

 

「敵艦隊、残りはミノカサゴだけだクマ!」

「レッドにブルー!! こっから仕事しなかったら思いっきりしばくからなあーっ!!」

 

 第二艦隊に属して戦っていた球磨と摩耶が大声を張り上げる。その声に力づけられるように、レジェンドとネクストはサウザンドナイブズへの攻撃を開始するのであった。

 

 

 

 発艦させた艦載機を着艦させ、補給を行う赤城。サウザンドナイブズから離れて航行している彼女の隣には加賀が、二人を守るように雷と電が付き添っている。四人とサウザンドナイブズの間に割って入るように金剛と比叡が航行していた。

 赤城と加賀以外は中破してしまっている。追い詰められたサウザンドナイブズがどれほどの猛反撃を繰り出すか分からないことから、比較的安全な距離で支援攻撃に徹することにしたのだ。

 

「電ちゃん、傷は浅くはないのだから、絶対に無理をしてはダメですよ」

「了解です。でも、赤城さんと加賀さんを守るのが、電の役目なのです」

「状況次第では私が盾になることもあるわ。……第二艦隊の艦娘はとてもよく善戦しているみたいね」

 

 最後に赤城が語りかけたのは、ちょうど艦載機に補給ペーストを塗り終わった加賀だった。艦載機を封じている矢を矢筒に仕舞いながら加賀は頷き返す。

 

「ええ。……サウザンドナイブズについての情報は第二艦隊の子たちにも行き渡っている。敵を知り、己を知れば、です」

 

 まったくもってその通りだと赤城は思う。援護のために発艦準備に入る彼女はサウザンドナイブズの分離ユニットが次々に破壊されるのを遠くに見た。

 シルバーホークは艦娘のサポートよりは攻撃することに注力し、サウザンドナイブズの攻撃能力を順調に奪っていった。分離ユニットと、ミノカサゴの口の付近に内蔵された連装砲。この連装砲と同型のものが背部に搭載され、同時に背部にはレーザー砲が何門も積まれている。

 サウザンドナイブズを包囲して一斉砲撃すれば一気にカタがつくと赤城は考えていたが、それは甘い考えであったと思い知らされた。サウザンドナイブズの背部からはまるでトゲ山のようにレーザーが絶え間なく連射されていて、背部に陣取って攻撃するのは不可能だった。

 

 形勢が不利と判断したらしいサウザンドナイブズは、残る分離ユニットを全て防御に運用する。六割ほど残存する分離ユニットで円錐のような形をつくり、これで艦娘とシルバーホークの攻撃を防ごうとしていた。

 同時に分離ユニットの砲口の向きを変え、隙を突いた反撃も忘れない。背部のレーザー弾幕は途切れず、サウザンドナイブズとの真っ向の勝負を余儀なくされている。

 

 分離ユニットを丁寧に破壊するレッドは、防御を固めて膠着状態になりつつある現状を危惧した。ベルサーの巨大戦艦とシルバーホークだけが戦っているのであれば勝ち目は次第に見えてくる。が、いまは艦娘という味方がいる。これがレッドの危惧する材料の一つだった。

 艦娘は支援するように砲撃を加えてくれているが、巨大戦艦との戦いに慣れているわけではない。それに手負いの者もいる。一つ間違えば死んでしまうかもしれない。アイアンフォスルに殺されそうになった赤城のことが、レッドの頭には強烈に刻まれている。

 他の現状を危惧する材料はサウザンドナイブズがバースト砲を撃っていないことだ。サウザンドナイブズは複数の分離ユニットを集めてエネルギーの集約をはかり、バースト砲を発射する。

 このことを踏まえれば、サウザンドナイブズにバースト砲を撃たせないようにするには「多角的な攻撃」を意識すれば良い。だが、他にも問題がある。レッドは無線通信で艦娘らに注意をうながすことにした。

 

〈レジェンドより第一、第二艦隊へ連絡。サウザンドナイブズへは多角的な攻撃を仕掛けてほしい。バースト砲は分離ユニットを集めないと撃てないから、一箇所に固まるな。それと、機体前面部から緑色をした極大のビームを放つことがある。なるべく正面に立つな〉

 

 一斉に了解の旨の言葉が返るのを認めたレッドは、艦娘たちが自分の言葉通りに動いたのを見て満足そうに頷く。

 サウザンドナイブズから見て右側に第一艦隊、左側に第二艦隊が集まるようになっていく。レジェンドは第一、ネクストは第二艦隊側に位置している。

 手負いが多いのは第一艦隊の方だ。もしかするとサウザンドナイブズが評価した優先攻撃順位は――はっとしたレッドはサウザンドナイブズの右舷側に位置取り、設置バーストを照射しつつ分離ユニットの破壊を狙う。

 

(お前の相手は私だ、赤城らではない、狙うべきは私だぞ!)

 

 祈るように攻撃を叩き込むレッド。レジェンドのレーザー砲は分離ユニットを直撃、貫通、サウザンドナイブズにも届いて貫通して海中に消えていく。一発一発の威力が低いとはいえ、内部をズタズタに出来る可能性のあるレーザー砲を黙って見逃すはずがない。

 

(バースト砲は私に向けろ……向けてみせろ!!)

 

 半ば祈りに近い思いでトリガーを引くレッド。中破してしまった金剛らがいる現状でバースト砲を叩き込まれてしまったら――そんな最悪な状況を起こすのだけは避けたかった。

 はたして、レッドの狙い通りにサウザンドナイブズは分離ユニットを集めていく。上空からの攻撃を防げる位置にあったものを転用し、バースト砲が放てるだけの本数を集結。即座にチャージを開始する。発射まで一秒とかからないし、砲口はレジェンドを狙っていた。

 

(よし、あとはバーストカウンターを――)

 

 バースト機関のトリガーに手を伸ばすレッドは驚愕に目を開いた。今までに見たことのない機敏な動きでサウザンドナイブスが機首を左に向け、同様に集めた分離ユニットも第二艦隊へと向ける。

 サウザンドナイブズのバースト砲であれば無傷の艦娘を一気に轟沈させるほどの威力がある可能性がある。それ以上に危険なのが前面部から放つ緑色のビームだ。バースト砲と緑色のビームの二重攻撃を受ければ危険なんてものではない。

 

〈ブルーッ!!〉

〈わーってる!!〉

 

 即座にネクストがサウザンドナイブズのバースト砲が向いている場所に割り込み、敵の赤いバースト砲に巻き込まれた直後、黄金のバーストカウンターを放っていた。

 ネクストのバーストカウンターは凄まじい勢いでサウザンドナイブズのバーストビームを飲み込み、分離ユニットをたやすく破壊し、サウザンドナイブズの前面部を直撃。大爆発を引き起こして装甲の一部が剥がれ落ち、内部の機械部分を露出させるに至る。

 強引に作り出した弱点を攻撃すれば――レッドは僅かな希望を抱いたがすぐに捨て去った。露出した部分は緑色の極大のビームを照射する機関だったのだ。

 分離ユニットを一点に集中してバーストカウンターを防ごうとするサウザンドナイブズ。その間に極大ビームを照射し、第二艦隊を殲滅しようとしているのだ。

 

〈まずいぞレッド! このままでは!!〉

 

 レジェンドの通常バーストの照射が出来れば、サウザンドナイブズが攻撃する前に致命的な打撃を与えられるだろう。これが出来ないのはサウザンドナイブズの背部から向けられる圧倒的レーザー弾幕から第一艦隊を守っているからだ。

 設置バーストを振り回して固定、第一艦隊の艦娘全員を守れるように配置し、レジェンドもレーザー砲を撃って敵レーザーを相殺していく。

 

〈こちらも身動きが取れん! っ、赤城、なんでもいいから艦載機を発艦させてくれ! 狙いは奴の破損した露出部分だ!!〉

〈分かったわ!〉

 

 第一、第二艦隊の全員に通じる無線連絡。赤城は返事をしながら素早く弓を構え、隣の加賀も同じく構えていく。二人が強く矢を放ったのは、サウザンドナイブズが極大のビームを放ったのと同時だった。

 一切の慈悲なく黄金のカウンターバーストを、ネクストを、霧島と榛名を、球磨と摩耶と、そして龍驤を緑色の破壊光線が覆い尽くす。勢い良く何かが噴き出るような照射音がけたたましく響く中、誰かの叫び声が上がった。

 

NOOOOOO(そんな、いやだ)!!」

「そんな!!」

 

 悲痛な金剛と比叡の叫び。雷と電は砲撃を続けながらも涙をこらえようと表情をこわばらせている。

 赤城と加賀は悲しみを表情に出さないように努め、冷静に艦載機を発艦させる。熾烈なレーザー弾幕に発艦した艦載機が次々と撃墜されていくが、レジェンドの援護があって十数機がなんとか空へ上がっていく。

 赤城と加賀が主に発艦したのは艦上爆撃機・彗星。両翼の下に搭載された爆弾を撃ちぬかれて爆散され。機体をレーザーで撃ちぬかれ貫通、内部をズタズタにされて爆散され。

 最後の賭けのように発艦させたそれはたった三機がサウザンドナイブズの猛攻を逃れていた。艦上戦闘機・烈風とレジェンドの援護を受けつつ三機の彗星はサウザンドナイブズから遠く離れた上を取り、搭載した爆弾を落としていった。

 

 

 

 妙な間があいて。サウザンドナイブズ前面部の爆発と同時に緑色の極大ビームの勢いが衰えた。ビームの減衰は加速度的に発生し、三秒と経たず消えていった。赤城と加賀の放った彗星の爆弾が、サウザンドナイブズへのトドメとなったのだ。

 内部で爆発を繰り返しつつ光を漏れ出させながらサウザンドナイブズは沈んでいく。力なく沈むミノカサゴの死体――そんな光景を幻視しながら赤城は第二艦隊の方を見る。極大ビームの膨大な熱量のせいか、照射された海には蒸気が上がっている。

 

 そんなところで第二艦隊のメンバーは脚をつけて浮いている。ネクストも下部の機関砲を損傷し、半分から先が焼け焦げを残してなくなっていた。

 誰もが制服を損傷し、体も焦げ跡や流血が目立っている。大破。あと三秒でも爆弾投下が遅れていれば轟沈してしまった艦娘がいるかもしれないと思うと、赤城は背筋の凍る思いをした。

 

「榛名、霧島! 良かったデース、本当に……」

 

 安堵の表情を浮かべて金剛が妹たちの元へと航行する。その後ろには比叡が涙ぐみながら続いていた。

 海中で大爆発を起こしたサウザンドナイブズがたてた波に揺られながら、服をボロボロにしてしまった龍驤が赤城の元へと近づく。もうこの海域に敵はいない。日の出に照らされながら赤城は龍驤を出迎え、軽く抱きしめる。

 

「龍驤さん! 無事でよかったです」

「アホ、どこが無事やねん! ……でもまあ、なんとか生きてるよ。うちだけじゃなくて、他のみんなも」

「はい」

「墜ちちゃった艦載機の妖精さんも、そろそろ空母寮で復活してる頃やろ。……シルバーホークがいてくれてよかったと思うよ、うちは。艦娘だけだったらどうしたって勝てなかった」

 

 きっとその通りだろう。龍驤の言葉に赤城は言葉なく頷き返し、あたりを見回す。

 雷と電は無事に生き残っていた球磨と摩耶の二人と笑顔で何かを語らっている。加賀も静かにそちらへ向かっていた。

 過酷で危険が極まった作戦は成功した。その喜びは言葉に言い表せないものだ。疲れきっていても笑って成功を喜びあうのは当然のことだ。

 

「……これからもベルサーの巨大戦艦が出てくるはずや。その時は赤城と加賀のシルバーホークが頼りになるで」

「実際、私たちをちゃんと助けてくれましたからね。これからもよろしくお願いしたいです」

「レッドとブルーには帰ったらきちんと礼を言っとかんとな! さってと、みんなぁ! 喜んでばっかりもいられないでえ! 帰るまでが作戦や!!」

 

 龍驤の呼びかけに艦娘たちが笑顔で了解の旨を返した。

 既に日は昇っている。今日はきっといい天気になる。布団を干すのにもちょうど良さそうだ――そんなことを考えられるほど、いまの赤城には余裕がある。

 そんな彼女は小型無線機で提督に呼びかけることにした。簡潔な連絡のためにスイッチを押す。

 

〈小森提督、作戦完了です。敵艦隊群は全滅しました〉

〈……やった、やったね! ありがとう! それで、みんなは? 赤城ちゃんは大丈夫?〉

〈こちらの被害は甚大ではありますが、きちんと休ませれば問題ありません。入渠と補給の準備をお願いします〉

〈まっかせといて! ……赤城ちゃん、艦隊のみんなも、本当にありがとう。ちゃんと生きて帰ってくるって信じて、本当に良かった。帰って落ち着いたらパーティーしようよ、ね?〉

 

 盛大に盛り上がる企画をお願いしますね。いたずらっぽく返した赤城は、えへへと提督が明るい子供のように笑うのを満足気に耳にした。

 

 

 こうして艦隊が鎮守府に戻っていくのをレッドとブルーは空から見守っている。太陽に照らされ、鋭利なフォルムがきらりと光り輝いたシルバーホークのパイロットは、決死行めいた作戦が無事に終わるであろうことに、ようやく安堵のため息をついた。

 

 レジェンドシルバーホークバーストと、ネクストシルバーホークバースト。

 二機の宇宙戦闘機と艦娘の戦いはこれからも続いていくだろう。ベルサーの巨大戦艦を仲間に加えた深海棲艦との戦いがどう転んでいくのか、まだ誰も分からない。

 だが、ここではっきりしていることが二つある。ひとつは人類側の反攻作戦が成功したこと。

 いま、この時から、人類と艦娘とシルバーホークの反撃が広がっていく。背負う未来を守るために――


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