【更新停止】転生して喜んでたけど原作キャラに出会って絶望した。…けど割と平凡に生きてます   作:ルルイ

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第三十一話 お話ってのはこうするもんだと思う

 

 

 

 

 グレアム一派がはやてちゃんとの対話の席に着いた。

 ソファーにグレアムさんとその左右に双子の猫の使い魔がそれぞれ座った。

 それにはやてちゃんが車椅子に座って向かい合っている。

 俺も近くに座って様子を見ている。

 

 先ほどまでリーゼアリアが俺の膝の上にいた。

 対話の席に着く為に主人の隣に行こうとしたが、俺の膝の上から移動するのが少々名残惜しかったようだ。

 なかなか自分で俺の膝に上から移動するのに躊躇していた。

 

 やっと移動して人型になったら、今度は俺が少し動揺してしまった。

 散々撫で回したけど、そういや人型は女性だったなーと忘れていた。

 変身した事でそれに気づいて少し恥ずかしくなってしまった。

 そんなことは気づかれずにはやてちゃんとの対話は始まった。

 

「始めまして、八神はやてです」

 

「ギル・グレアムだ

 知っての通り、これまで君の援助を影からさせてもらってきた

 ロッテに聞いたよ、私のやろうとしていた事を全て知っていると」

 

「…はい、拓海君に教えてもらいました」

 

 そういってはやてちゃんがこちらを向くとグレアムさんも俺の方を見た。

 グレアムさんは見定めるように俺を見て問いかけてきた。

 

「何故、君が私の事を知ることが出来たんだね?」

 

「予知夢、夢で見る予言のような物を見たんです

 その夢にはそちらの世界の話もいくつかありました

 ミッドチルダの聖王協会にも予言のレアスキルを持つ人がいるそうですが知りませんか?」

 

 STSで出てきたカリム・グラシアだけど今現在どういう立場にあるのかは知らない。

 たぶんレアスキル自体は生まれ付きあったから、大きな事件の予言に使われていると思う。

 そもそも年齢がはっきりわかんなかったから、この時期既に大人なのかまだ子供なのかもわかんないし。

 

「なるほど、心当たりはあるよ

 それで私のやろうとしている事を知る事が出来たわけかね」

 

「…やっぱり本当なんですか?」

 

「…本当だ

 私ははやて君を犠牲にして闇の書を封印しようとしていた

 両親の知人と言うのも方便で、君を援助していたのも偽善、いや罪悪感からだ

 全てが終わるまで少しでも良い生活が送れるようにという私の浅ましい考えだよ」

 

「そんな……」

 

 質問に肯定の意思を示すグレアムさんは少し俯いて罪悪感を醸し出しつつもはっきり答えた。

 はやてちゃんはそうではあって欲しくないと思っていたのか、本人の言葉にショックを隠せなかった。

 

 そのままお互いに黙り込んでしまい、会話が一時途切れた。

 その様子を見守る守護騎士達とリーゼ姉妹は下手に口を出す事も出来ずにいた。

 

 俺もはやてちゃんが説得すると言った以上、出来る所までは任せてみるつもりだ。

 グレアムさん達がおとなしく対話の席に座ってくれた以上、ここでの戦闘はないと信じたい。

 こちらの闇の書の対策には俺自身のことを説明する事が必要不可欠。

 いずれにしても俺の出番が来るだろう。

 

「…グレアムおじさんの事たくさん手紙で知りました

 わたしを気に掛けてくれた言葉の全てが嘘やなんて思いません

 グレアムおじさんは本当は優しい人やと思います」

 

「私は君を犠牲にしようとした

 それは本当の事だ

 それでもはやて君は私が優しい人間だというのかね」

 

「はい、わたしはそう信じたい

 おじさんの目的には闇の書の頁の蒐集が必要なんでしょ

 それをするには多くの人に迷惑掛けなあかんと聞きました

 私はシグナム達にそんな事命令したくないし命令しません

 やからおじさんの計画は成立しません」

 

「それで私にどうしろと

 遠くない将来に君は闇の書の侵食で麻痺が広がり死に至るだろう

 それを黙って見ていて欲しいというのかね」

 

「協力して欲しいんです

 闇の書をどうにかする方法を拓海君が考えて教えてくれました

 成功するかどうかわからへんけど、それでも皆で協力すれば新しい方法が見つかるかも知れません

 私は闇の書の為に誰かを傷つけたくないし、シグナム達かて望んでこれまで誰かを傷つけてきたわけやないんです」

 

「主はやて」「はやてちゃん」「はやて」「主」

 

 シグナムさんを庇おうとするはやてちゃんに、言葉を漏らす守護騎士達。

 闇の書の過去の事もはやてちゃんには多少なりとも伝わっている。

 過去の主に守護騎士達がこき使われてきた事や、闇の書の完成のために罪を犯してきたことも。

 だけど全て過去の主に従ってきただけであり、本人達の意思はなかった。

 その事をはやてちゃんは良く分かっている。

 

「おじさんかて優しい人やから誰かを傷つけたい訳やないはずです

 やからお願いです、私達に協力してください!!」

 

 そういってはやてちゃんは深々と頭を下げて頼み込んだ。

 グレアムさんはその様子を見て、ソファーにもたれて何かを思い返すように考え込んだ。

 

 はやてちゃんの考えは甘すぎるが、思いは間違いなく本物だ。

 会って一週間と経たない守護騎士達の為に必死になって頭を下げられる。

 真意になって誰かの事を考えられる事はすごい事だと思う。

 少なくともはやてちゃんからはそれが俺にもはっきり解った。

 

 グレアムさんにもそれは伝わっただろうが、子供の甘い考えと断じられる可能性が十分ある。

 計画の方ははやてちゃんの言った通り守護騎士達が蒐集しない以上成功はない。

 強攻策に出て無理やり蒐集というのも無理がある。

 管理局と守護騎士達両方を相手取る事になるのだから成功のしようもない。

 さて、どうする。

 

「……はやて君、君は何故私がこの計画を立てたのかは知っているかね?」

 

「え、闇の書が暴走してしまうからやないんですか?」

 

「それもある

 だがこの計画は管理局法に反する行為だ

 道徳に反するというだけでなく管理局員として許されない行為だ

 それでもこの計画を決意したのは十一年前に起こった闇の書の暴走が切欠だ」

 

「十一年前…」

 

 グレアムさんから語られた内容は十一年前に起きた闇の書の暴走の結末。

 闇の書を確保する事の出来た管理局は、グレアムさんの部下クライド・ハラオウンが乗った次元船エスティアによって護送していた。

 だが護送中に闇の書が暴走してエスティアの制御を奪われる。

 その事態に手の打ち様が無くなったクライドさんはグレアムさんに嘆願し、自身の乗ったエスティアごと闇の書を破壊するように言った。

 グレアムさんはやむを得ないと判断し、自らの手で闇の書と共にエスティアを破壊しクライドさんを死なせる事となった。

 

「私の判断ミスで彼を殺してしまった事を後悔した

 彼には妻も子供もいて、遺された者達は悲しんだ

 私は謝罪したが彼らは私を責める事はなかった

 それでも何か償えるようにと出来る限りの協力をして、その家族とは今でも縁がある」

 

「……」

 

 はやてちゃんはグレアムさんの話を黙って聞くだけになっている。

 語られる口からはグレアムさんの後悔の念が漏れてきている。

 

「その後、独自の調査で君の元に闇の書が転生したことを幸運にも知ることが出来た

 それを知ったときに決意してしまった

 もうこんな事が二度とないように闇の書を完全に葬ろうと

 彼の無念を、彼の家族の悲しみをなんとしても晴らそうと心に決めた

 はやて君、君は私の決意を揺るがす事は出来るかね」

 

「それは…」

 

 はやてちゃんはそれ以上何も言えない。

 グレアムさんの言葉は先ほどのはやてちゃん以上の思いが篭っていた。

 それはクライドさんの無念ではなく、何よりも部下を死なせてしまった自身の無念であったから。

 

 はやてちゃんが生まれる前から抱えてきた無念。

 それは一週間程度の守護騎士達のと付き合いで築いた思いとは比べ物にならない。

 思いに時間は関係ないだろうが、それでもはやてちゃんとグレアムさんは生きてきた年期が違う。

 ずっと悩み抜いて悩み続けた間違っていてもやろうとする思い。

 

 それを知れば知るほど、はやてちゃんはその思いを否定するのは難しくなる。

 相手の思いを知るからこそ優しいはやてちゃんは相手を説得する事が出来ず、逆に自身の思いが折られてしまうかもしれない。

 思いをぶつけ合うとはそういう事だ。

 

 どちらかが間違ってるんじゃない。

 どちらも正しくてどちらも間違っている。

 そんな時に勝つのは思いの強いほうだ。

 たとえ間違ってても貫くという思いが無ければ相手の心を折ることは出来ない。

 

 グレアムさんは間違ってても遣り通す覚悟で計画を進めてきた。

 はやてちゃんの傷つけたくないという思いは限りなく正しい事だと思うが、傷つけてでも遣り通すという思いの前には無力に近い。

 今のはやてちゃんにグレアムさんの思いを否定するのは無理だろう。

 それだけの差が二人にはあった。

 

「…拓海君は…グレアムおじさんの事情は知らんかったん?」

 

「いや、知ってたよ」

 

「やったらどうして事前に教えてくれへんかったん?」

 

「プライベートな事だったし

 それに知識でしか知らない俺が言っても、はやてちゃんにはグレアムさんの決意は伝わらないと思った

 こういうのは目の前で向き合った本人でないと伝わらないから」

 

 だからあえてはやてちゃんにはグレアムさんの事情を事前に話さなかった。

 知ってしまってたらきっと間違ってるの一言ではやてちゃんは否定しただろうから。

 グレアムさんの決意の重みに気づくことなく。

 

「…そやな、確かにおじさんの思いが伝わってきたわ

 どうがんばっても梃子でも動かないような言葉の重み

 私が間違ってるんやないかと思ってまうような気がしたわ」

 

「闇の書によって傷ついた者達は今も大勢いる

 君の傷つけたくないという思いは正しく尊い物だが、過去に闇の書は多くの物を傷つけてしまった

 その無念の矛先は知れば必ず守護騎士達の元へ向かう

 それは君の思いでは止める事の出来ないどうしようもない物なんだ」

 

「…………」

 

 グレアムさんの言葉にはやてちゃんは今度こそ言葉を無くしてしまう。

 守護騎士達も知ってはいても被害者から語られた言葉の重みに何も言う事が出来ずに気を落としている。

 

 暫くの沈黙の後にグレアムさんが再び口を開いた。

 

「はやて君、君に協力しよう」

 

「え?」

 

「「父さま!?」」

 

 突然グレアムさんははやてちゃんに協力する事を表明した。

 両隣に座る二人の使い魔も突然の事だったのか驚いている。

 協力してくれるのはありがたいけど、どういう心境の変化だろう。

 

「今の闇の書の主は君だ

 君が蒐集を守護騎士に命じないのであれば私の計画は意味を成さない

 それに私も管理局員だ

 もしあるのなら犠牲の出ない方法で事件を片付けたい」

 

「グレアムおじさん…ありがとうございます。」

 

「だが忘れないでくれ。

 闇の書の主であるということは被害者の恨みの矛先を向けられるかもしれない

 私のように言葉に応じるほど冷静でいられない者もいるだろう

 それを良く覚えておいてくれ」

 

「…わかりました」

 

 闇の書の過去の犠牲者達なんて俺には想像もつかない。

 それは本来はやてちゃんが抱える問題ではなく、魔力の蒐集を命じた過去の闇の書の主の責任だ。

 だけどそれで納得出来るほど感情が許さない者もいるあろう。

 グレアムさんの計画なんか遊びと思えるような強攻策に出るかもしれない。

 

 主である限り、闇の書の被害者が存在する限り、その問題ははやてちゃんに振る掛かる可能性がある。

 それをどうにかする為にもグレアムさんの協力が得たかった。

 闇の書の対処が成功した後にはやてちゃんと守護騎士達の生活を守る為の情報規制をやってくれる人が欲しかった。

 それをやれるほどの人物となると管理局の要職に就いた人しかいないだろう。

 

 原作の十年後は管理局に所属していたとしても普通に生活を送っていた。

 守護騎士達は事件後に管理局で数年間奉仕活動をする事になったみたいだが、それだけじゃ管理局に大した保障はしてくれないだろう。

 たぶんリンディさんかグレアムさんがはやてちゃんと守護騎士達の情報保護をしてくれたんだろう。

 そう考えるのが原作の流れでは自然だ。

 

 

 

 

 

 グレアムさんが協力すると約束してくれた後、俺の知っている事と現状と対処法の説明をする事になった。

 俺の知っている事で闇の書本来の名前とか、暴走の原因はグレアムさんも知らなかったらしく確認のためにいずれ調べておくと言っていた。

 その際、夜天の書は古代ベルカの遺産でもあるので対処が成功した後、はやてちゃんの保護に聖王教会に協力を頼めないかと聞いてみた。

 古代ベルカの遺産であれば聖王教会に確保の優先権があるので、確証があれば力になってくれる可能性はあるらしい。

 夜天の書の事実確認に無限書庫で調べてみるといいと言っておいた。

 原作でもそこで夜天の書の情報をユーノが見つけてたし。

 

 闇の書の現状は知っての通りはやてちゃんの足の麻痺。

 守護騎士達が目覚めた事でそれは加速して、予知夢通りなら今年いっぱいがタイムリミットと言った時ははやてちゃんと守護騎士達もその事実に息を呑んだ。

 まだ半年あると言うべきか半年しかないと言うべきか。

 

 それだけじゃなく魔導師には見えない、俺や那美姉さんにはわかった闇の書から漏れる負の念が暴走の原因ではないかと仮定した。

 悪霊のようなものと説明したら、グレアムさんもエクソシストとかの霊能者という存在は知ってはいたがこの世界の魔力保持者かレアスキルだと思ってたらしく、ソーサーを見せて魔力ではないと確認してもらった。

 この力で闇の書を浄化すれば暴走は起きなくなるんじゃないかというのが最初にやる対策の一つ。

 なお、霊力は管理局にとっては未知の力だと思うので、研究対象にされたくないから出来れば秘密にして欲しいと言っておいた。

 

 そしてもう一つの闇の書を完全に破壊する直死の魔眼について説明した。

 魔眼と明確に説明するわけじゃなく、俺が触れた物を確実に破壊する事の出来るレアスキルと説明した。

 先に浄化を試してうまくいけばそれを続ける。

 うまくいかなければ即座に俺が破壊するという二段構えの対処法だ。

 闇の書の負の念を浄化するのがうまくいっても、那美姉さんはだいぶ時間が掛かると予想したので、間に合わなければ直死の魔眼で破壊する事も視野に入れている。

 浄化がうまくいく事がはやてちゃんにとってのベストな結果といえる。

 

 

 

 俺が霊力などの魔導師には無いスキルで対処することはわかったが、グレアムさんは直死の魔眼の効果を一度見てみたいといった。

 そういうわけで一度直死の魔眼の力を見せることになったが、何かとても頑丈な物はないかと聞いてみると、グレアムさんがリーゼアリアに命じて防御魔法を展開させた。

 

「アリアは魔法の制御を得意としている

 この防御魔法もなかなか頑丈な物のはずだ

 試しにこれを破壊してみてくれないかね」

 

「わかりました」

 

 ミッド式の魔法陣が描かれた防御魔法の前に立ち、魔法陣の向こう側にはリーゼアリアがいた。

 俺は直死の魔眼のスイッチをオンにして防御魔法を見据える。

 やはり魔法にも死線と死点を見ることが出来て、適当な死点に指を添える。

 そこを軽く突くと…

 

 

-バキャァン!!!-

 

 

「なんと!!」

 

「な!! 指で突いただけで!!」

 

「何の魔力も感じなかったのに!?」

 

 防御魔法は突いた死点から繋がる死線に罅割れのように切れ目が走って、ガラスが砕けるような音をたてて霧散した。

 その様子にグレアムさん達が驚きの声を上げて、はやてちゃん達は少しビックリしただけだった。

 はやてちゃん達には俺のいろいろな技で結構驚かせたから少し耐性が出来てたみたいだ。

 

「こんな感じで大した力は要らずにどんな物も破壊出来ます

 当然生き物にも有効でこれで破壊したものは治癒なども効かない傷になります

 恐らく闇の書の再生機能も働かずに完全破壊をする事が出来るはずです

 ただ、この通り使い道を誤ると危険なんで普段は絶対使いませんけど」

 

「なるほど…ただ力で壊すようなものでないのはわかった

 闇の書の機能にどこまで有効か分からないが破壊自体は出来そうだ

 そして力の危険性も理解しているのなら間違えることもない

 君に任せる事にしよう」

 

 結局浄化も破壊も俺次第ということになってしまった。

 予定していた事とはいえ大任を預かることになる。

 グレアムさんの過去と決意を聞いた後だと、覚悟していた以上にプレッシャーを感じる。

 こうなるとうまく行き過ぎた原作が非常に腹立たしい。

 なんでもうちょっと計画性のある結果で闇の書を攻略してくれないのかな!?

 奇跡的な結果だからこそ物語は面白いんだろうけど、現状の重みは非常に面白くない!!

 

「…出来ることなら全てをここで終わりにしたい

 十一年前の結末を繰り返すのはもう嫌なのでね」

 

「あんまりプレッシャーかけないでください

 俺には出来る事しかしませんし出来ませんよ

 はやてちゃんみたいに無条件に守護騎士達を抱えられるほど図太くないんで」

 

「ちょっと拓海君

 図太いってどういうことや

 私は図太くあらへんで」

 

「ははは、そいつは済まなかったね

 はやて君の友達だからてっきり同じくらい豪胆な子かと思ってね」

 

「グレアムおじさんまで!?

 わたしってそんなに図太いんやろか

 どう思う皆?」

 

 はやてちゃんは守護騎士たちに話を振るが…

 

「えーとそれは…(チラ)」

 

「主はそれでよろしいかと」

 

「あ、あたしははやてはすげえって思うぞ!!」

 

「そうです!! はやてちゃんは強い子ですよ!!」

 

「…もうええわ、皆がどう思ってるかよう解ったわ」

 

 シグナムさんは目を逸らしてザフィーラはただはやてちゃんを肯定するのみ。

 ヴィータとシャマルさんはフォローしてるつもりだろうけど否定にすらなっていなかった。

 それを聞いてはやてちゃんは少し落ち込むが、先ほどまでの話の暗い雰囲気は既に何処かに行っていた。

 

 

 

 後日時間が合い次第、闇の書の霊力による浄化を試すと決まった。

 グレアムさんは連絡を兼ねた見張り役を一人残して一度局に帰ることになった。

 それを言った時にアリアが残ると即座に立候補してチラチラと俺の様子を伺っていた。

 ちょいちょいと手招きするとアリアは猫の姿に戻って俺の膝の上に飛び乗ってきた。

 その様子にロッテは唖然としていたが、グレアムさんは少し笑っている様子でそのまま帰っていった。

 

 これからが本番だけど漸くめんどくさい交渉関係が終わった。

 守護騎士達もグレアムさん達への説明も重苦しい空気で話さなきゃいけなかったし。

 シグナムさんに関しては剣で語らされたし、アリアを一日撫で回せる役得もあったし。

 …人型を知ってるとどうも撫で回すってエロく聞こえるな。

 というか今も既に撫でてるんですけどね。

 

「うにゃぁん♪」

 

「アリアさん、すっかり拓海君に遊ばれとるなー」

 

「う、うるさいなあ

 私は父さまと違って闇の書を許したわけじゃないんだから

 それを良く覚えといてにゃぁん!!」

 

「はやてちゃんは何も悪くないんだから当たらないであげてよ

 ほら、こうしてあげるから」

 

 これまで違ったところをちょっと強めに撫でてみる。

 一日撫でて手触りでも気持ちよかったり感覚が敏感だったりする場所がわかってきた

 久遠のほうはずっと撫で続けてるので、今何処を撫でて欲しいのかすら言わなくてもわかる。

 初見の動物でもそれが解る様になれば完璧なんだけどな。

 

「にゃあ!! それはちょっと刺激が強過ぎる~!!

 もっとやさしくぅ」

 

「ふむ、こんな感じかな」

 

「にゃふ~ん…そ、それイイ…」

 

「や、やっぱりエロいわぁ

 アリアさんの声」

 

「さあ主はやて、話し合いでお疲れでしょう

 部屋に戻ってお休みください」

 

 シグナムさんがはやてちゃんを車椅子から抱え上げる。

 

「ちょ、ちょい待ちシグナム!!

 わたしは今勉強中や!!」

 

「でしたら本を読んでください

 主はやての年代に相応しい健全な本を」

 

 どうやらはやてちゃんにアリアの声を聞かせたくないらしい。

 だけど俺はそんな様子を気にしない。

 今はアリアの毛並みを堪能しつつ撫でる事に夢中。

 

「本だけじゃ分からん事もあるんや」

 

「分からない方が良い事もあります」

 

「シグナムの分からず屋~

 ん……そや、ムフフフフ」

 

「な、なんですか?」

 

 はやてちゃんはなにやら思いついたらしく嫌らしい笑い方をしてシグナムさんを凄ます。

 両手をワキワキと動かしてシグナムさんの胸を見定める。

 

「やっぱり見てるだけより直接手にとって実地検証や!!」

 

「きゃ!! あ、主はやて何を!?」

 

「シグナムのおっぱい大きいなあと思って、ずっと気になっとったんや!!

 お~、見た目通りの大きさと張り

 私の掌には収まりきらんわ」

 

「あ…んっ…お、お止めください…」

 

「にゃう~ん!!」

 

「む、さすが拓海君、よう鳴かせおるわ

 私も負けへんで~!!」

 

「張り合わないでください!!」

 

「張っとんのはシグナムのおっぱいやー!!」

 

 はやてちゃんが抱えていたシグナムさん襲い掛かり胸を揉み拉く。

 俺はその様子を気にせずにアリアに夢中で、その鳴き声に更に苛烈になるはやてちゃん。

 他の皆はこの混乱した状況に何も出来ずに呆然とするばかり。

 俺が気づくのは撫でて貰おうと八神家にやってきた久遠が飛びついてきた時だった。

 

 

 

 

 

●拓海は女性の鳴き声に耐性が出来た。


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