【更新停止】転生して喜んでたけど原作キャラに出会って絶望した。…けど割と平凡に生きてます 作:ルルイ
第二十四話 絆の力
式神アナァゴを自爆させて漸くジュエルシード事件を終わらせられたと肩の荷が下りた。
まだ時の庭園の戦いがなのはちゃん達には残ってるが、手を出さない俺には関係ない。
今のなのはちゃんならSLBで庭園を撃墜しそうな気がする。
実際の庭園がどれほどの規模かわからないけど。
戦いは終わってもこの日は平日。
出勤ではないが俺も学校に登校して、終わってから久遠に事件が終わった事を報告に来た。
「久遠、漸く事件が終わったよ。
いろいろ手伝ってくれてありがとな。」
「クォン、拓海お疲れ様。
また一緒に遊べる?」
「あーごめん、ちょっと考えなきゃいけない事があるんだ。
今日はゆっくりしよ。」
「クゥン…わかった。」
いつものように久遠を膝の上に乗せて撫でてやる。
考えなきゃいけないのは闇の書の事。
魔力を狙われて事件に巻き込まれるかという事はそれほど気にしていない。
魔力の吸収と放出だけなら熟練してるから、魔力を全放出して回復しないように魔力素の吸収を止めてれば魔力は0を維持できるから巻き込まれないだろう。
町での戦闘はちゃんと結界が張られるから被害は出ないだろうけど、問題は最後の闇の書の覚醒だ。
物語の最後ははやてを取り込んだ闇の書がなのはとフェイトと戦う事になる。
過程はどうでもいいが問題はその後。
フェイトも闇の書に取り込まれてしまうが、後はなのはが一人で戦い続ける。
闇の書の中でははやてが目覚める事で闇の書は一度止まり、なのはの攻撃はきっかけで闇の書の闇を分離して最終的にそれを倒して事件は終わる。
重要なのははやてが闇の書の中で目覚める事だ。
簡単に目覚めるようなら過去の事件など簡単に解決している。
管制人格がはやてに好意的だったというのあるかも知れないが、それでも現実的に考えて難しいだろう。
つまり事件の解決の鍵ははやてが自力で目覚めると言う気合次第。
…………無茶だろう、そんな事に世界を賭けるなんて。
闇の書を止めるのが失敗していればアルカンシェルぶっ放して終わりだったんだぞ。
アルカンシェルが地上に放たれたら少なくとも町は終わり、世界自体は無事かもしれないけどどれほどの影響が出るか…
世界の修正力なんてどこまで当てになるかわからない。
なのはちゃんの件だって、俺がちょっと手を出したせいで変化しかけた。
中途半端に闇の書に手を出す事は出来ない。
やるなら確実に安全な方法を取りたい。
幸い俺には何でも殺す事の出きる直死の魔眼がある。
まだこの時期守護騎士達も目覚めていないはずだから、はやてが何も知らずに終わらせる事も出来るだろう。
管制人格も守護騎士も纏めて闇の書と一緒に殺す。
……正直恐い。
何も手を出さなければもしかしたら原作通りの終わるかもしれないがそんなの俺には信用できない。
よくある二次創作みたいに中途半端に介入して原作通りに終わらせる自信はもっとない。
確信出来るのは闇の書を直死の魔眼で殺す事。
だけど守護騎士と管制人格をプログラムと割り切る事はできない。
まだ出現していないからこそ殺す事も考えられるが、もし目の前に人の姿で現れたら殺す覚悟なんて今の俺に出来るかどうか…。
現時点でも殺す事に戸惑いを覚えているのに…
誰かを傷つけてしまう覚悟。
なのはちゃんはきっと出来たんだろうな。
俺は何をやっているんだろう。
平凡に生きていればいいのに、誰かを殺すか殺さないか悩まなきゃいけないなんて。
原作通りになると楽観視してしまえばいいのに。
実際世界が滅ぶかもしれないのを知っていて、それをどうにかする手段があると思うとどうにかしなきゃいけない気になる。
手段がないのなら、いっそ諦めて世界の流れに任せてしまえるのに…
今は五月の下旬に入る頃。
守護騎士の起動ははやての誕生日の六月四日。
それまでにはやての家を探し出して闇の書を確認してみるか。
どうにかするのはその後だ。
数日間、街中に式神を放って八神家を探し続けた。
車椅子の少女という特徴があったから探し易いとは思っていた。
そして図書館に張らせていた式神がはやてらしき少女を見つけることが出来た。
式神に追尾させて家に着いたら表札には八神と書かれていた。
どうやら間違いないらしい。
今夜寝静まった頃に八神家に侵入して闇の書を確認する。
…こんな事ばっかに異能使って、俺の将来大丈夫かなぁ。
深夜、俺は式神を家に身代わりにおいて八神家の近くまでやってきた。
八神家はギル・グレアムに既に見つけられてたわけだから、何らかの監視があるかもしれない。
凝に魔力視・霊視に円などさまざまな感知方法を使って周囲を確認したが、魔法による監視はとりあえずはないみたいだ。
家の様子を見る限り、寝静まっていてちゃんと窓に鍵はかかっている。
俺は窓越しに霊気を家の中に送って、遠隔で凝縮して霊気の玉を作る。
物理的に干渉出来るレベルまで凝縮にしたら、霊気の玉でうまく鍵を開けて中に入った。
気は家の中や周囲の感知に、全力で円をしている。
科学的な監視カメラでもあるかとも考えていたからだ。
入った部屋をじっくり円で探索する限りそれらしきものはないようだ。
闇の書らしき異様な気配の位置も円で確認済み。
物音を立てないように部屋を抜けて、闇の書があるらしき部屋の前にやってきた。
来たのはいいが同じ部屋にはやてが寝ていた。
しっかり寝てるみたいだから大丈夫だと思うので、円の展開を一度やめて酷絶を使い全力で気配を消して部屋に入る。
部屋に入ったら探すまでもなく、闇の書らしき本は直ぐに見つかった。
解り易い様に飾られた、鎖で封じられた怪しい本だったから一目でわかった。
直死の魔眼で闇の書を見てみれば、しっかりと死線と死点を見ることが出来た。
これで闇の書を殺せる事ははっきりした。
「(だけどどうしよう…
まだ時間はあるけど闇の書をこの場で殺すべきか。
闇の書を殺せばはやては歩けない原因が取り除かれて普通の子供として生きる事が出来る。
だけど真に求めてた家族は得られないまま…
それを本当に俺だけで決めてしまっていいのか…)」
闇の書を前にすることが出来たけど、どうするかはまだ決まっていなかった。
世界とはやての望みと守護騎士達と俺の覚悟と…
俺の中でさまざまな葛藤が巡る。
何がホントに最善なのかわからない。
はやてに話して決めさせる?
それじゃあ俺が覚悟を決めずにはやてに押し付けるのと同じ事だ。
なのはちゃんに覚悟を決めろと言っておいてそれをすることは出来ない。
はやては何も知らないまま闇の書を殺して健康になるほうがいいかもしれない。
何もしないで物語通りになれば少なくとも守護騎士だけは残る未来の可能性もある。
俺が手を出せばその可能性を摘む事に他ならない。
何かもっと良い方法はないかと闇の書を眺める。
魔力視をしてみれば闇の書自身も魔力素を吸収してるのがわかるし、何かの術式らしき物も表面に見えた。
何か他にはないかと霊視をしたら魔力視とは別の物が見えてしまった。
「(な!! なんだこれ!?)」
霊視で見えたのは闇の書から滲み出る負の気配。
明らかに魔力の類ではなく恨みや憎しみなどの怨霊の様な思念。
那美姉さんの仕事の見学で出会った怨霊の気配に似ているがその濃さが比べ物にならない。
久遠の時の祟りにも負けないような強い気配を感じる。
守護騎士や管制人格の性格などを考えたらこれらの元とは思えず、では何かと考えたら思い当たるのは闇の書の闇。
改悪された防衛プログラムではないかと考えた。
まさか闇の書が霊的に呪われたような物だったとは。
ん? 持ち主にあたるはやてに取り憑いて、足を動かせない様にして最終的には取り殺す。
まんま呪いのアイテムだよな、闇の書なんて名前になってるし。
それが防衛プログラムになってるって事か。
守護騎士や管制人格は意思があったから、明確な意思を持たない防衛プログラムに取り憑いたのか?
何が原因でこうなったんだ?
確かに闇の書は過去に多くの被害を出して恨みは積もり積もってそうだけど、それは闇の書になって暴走を始めた後。
妖刀みたいに直接相手を攻撃する武器じゃないから、返り血なんか浴びて呪われるって代物じゃないし。
本来は魔法を集積蒐集するためのストレージデバイスで、守護騎士も最初はいなかったらしいし…
蒐集? 確かリンカーコアを奪う事で魔法を蒐集するんだったよな。
アニメ本編じゃ誰も殺さないようにしてたけど、過去の事件じゃリンカーコアを全て奪って殺していた。
もしかしてリンカーコアと一緒に恨みや憎しみなどの負の念も集めてしまったとか?
ありえそうだ…
そもそもリンカーコアは魔力の源だけど、持ち主の術式を奪える事から情報なども蓄積されてる部分があるはずだ。
そこに思念が込められていても全然不思議じゃない。
と、闇の書の考察はこの辺にしておこう。
ともかく闇の書は霊的に呪われた物でもある。
それをどうにか浄化すれば元通りの夜天の書に戻る?
わからない。
物に積もり積もった呪いのアイテムなんて俺は見たことないし浄化も出来るのかどうか。
那美姉さんに見せれば出来るかどうか解るのかもしれないけど、それにはちゃんと事情を説明しないと。
どうして知ったのかは予知夢なり霊感が働いたなりで普通に誤魔化せそうだけど…
考えが纏まらない。
とりあえず今日は闇の書に手を出さずに、そのまま八神家を後にした。
那美姉さんに事情を話さず聞けるところまで聞いてみよう。
翌日、俺は八束神社で那美姉さんと話してみる事にした。
もちろん久遠も一緒で、俺の膝の上で丸まってる。
「拓海君、なんだか久しぶりね。
最近久遠と一緒に何処かに行っててちょっと寂しかったな。
でも美由希さんはよく来てくれてお話してたの。」
「那美姉さんの役に立てたなら美由希も本望だろうな。
ちょっと久遠と探し物をしてて、漸くそれも終わったんだ。」
「そっかー、じゃあまたここも賑やかになるのかな。
美由希さんと遊んでる拓海君は楽しそうだもの。」
「否定はしないけど俺は久遠と遊んでる方がいいな。
ぼんやり日向ぼっこしてるだけでも気持ちいいし。」
「クォン、久遠もそう思う。」
「ふふふ。」
こんな平凡で穏やかな会話が続けられるのが今はとても楽しい。
闇の書の対処なんて考えてるだけでめんどくさくなる。
だけど放っておく訳にもいかないから、那美姉さんに聞いてみたい事があった。
呪われたものの浄化とは別にだ。
「那美姉さん、ちょっと聞きたい事があるんだけど。」
「ん、なにかな?」
「前の、久遠と祟りの事。」
「え?」「クゥン…」
かつての祟りのせいで理性を無くして暴走する久遠は、闇の書と同じだと思った。
祟りがなくなった久遠は普通に生活してるし、原作通りなら守護騎士達も解放されて普通の生活を送れるようになった。
まるで同じだ。
そして…
「祟りはとても危険なものだって言ってたでしょ。
それを本来どうにかする術はなかった。
久遠を殺してしまえば何の被害を出さずに済むのに、どうして久遠を絶対に助けようとしたのかと思って。
久遠がとてもいい子だって知ってるけど、それだけで他への被害を考えないわけにはいかないから。」
「……」
「クゥン……」
今の俺は闇の書を殺すか殺さないかの選択が迫られている。
那美姉さんには祟りを抱えた久遠の生殺与奪権があったらしく、まさに同じ様な状況だ。
俺は久遠にとっても辛い話をすることになるから、久遠の体を慰める気持ちを込めて優しく撫でてやる。
正直久遠には悪いとは思うが今の俺にはどうしても那美姉さんのことが知りたかった。
「……」
「……」
「……そうね、拓海君にはそこまで説明してなかったからね。
ずっと前に久遠の封印が解けて薫ちゃんが何とか封印した時、私の本当の両親は亡くなってしまったの。」
「え、じゃあ…」
「うん、薫ちゃんは本当のお姉ちゃんじゃないし、両親を殺してしまったのは久遠。
だから初めは久遠のことを恨んでいたの。」
「クゥ……」
その話に久遠は責任を感じて落ち込んだ声を出すが、那美姉さんはそんな久遠の頭を撫でた。
「だけど今はこれっぽっちも恨んでないし、久遠のことは大好き。
それでどうして久遠を恨まなくなって助けようって思ったのは、夢を見たから。」
「夢?」
予知夢ネタの前例キター!!
「うん、久遠には夢移しって力もあって、それで久遠の過去を見てどうして祟りが生まれたのか知ることが出来たの。
久遠の事話すけどいいかな、久遠?」
「クォン(コクン)」
「ずっと昔に久遠が封印される前に久遠は弥太って子に出合ったの。
久遠は弥太って子に恋をして恋人同士になったの。」
「へぇ、久遠の恋人……って、久遠!!
お前恋人がいたのか!?」
「うん。」
だいぶ過去の話だとしてもお兄ちゃんびっくりだよ!!
大人の姿に化けられる事を考えたら……
「あわわわわわわわわわ!!(久遠がー!! ウチの可愛い久遠がー!!)」
「た、拓海君? 大丈夫?」
「だ、だだだ、大丈夫!!
(お、落ち着け、平常心だ!!
久遠だって女の子、いつかはお嫁にいっちゃうんだ!!)」(注:久遠は300歳です。
かなり予想外の話を聞かされて慌てたが、今重要なのは那美姉さんの主観。
話を最後まで聞かないと。
「は、話を続けて那美姉さん。」
「え、ええ。
それで弥太って子と仲良くなったけどそれは長く続かなかった。
昔は災厄が起こると人柱や生贄なんてものが当たり前にあって、弥太って子は疫病に対する生贄にされてしまった。
それを見てしまった久遠は恨みから祟りを生み出してしまい暴れまわってその後封印された。
夢移しでそれを知った私はもう久遠を恨む気になんてなれなかった。
久遠も恨みが祟りになったのに、それをまた恨んでしまったらきっと終わりは来ない。
だから久遠を祟りから開放してあげたいって思ったの。」
「そっかぁ。」
「でも結局久遠を助けてくれたのは拓海君だったんだけどね。」
「クゥン♪」
那美姉さんは久遠のことを知ってしまったから助ける事で終わらせようと思ったのか。
明確な方法なんてなかったのに、それでも助けようと決める。
直死の魔眼で一撃で倒しちゃったけど、実際はもっと厄介なもののはず。
その力を目にすればきっとどうにかしようと思うのは難しいだろう。
俺も知識という形ではやての事も、家族になるであろう守護騎士の事も、はやての事を思いながらも苦しめてしまう管制人格のことも知っている。
それをどうにかしたいとは思わないでもないが、俺にどうにか出来るとは思えなかった。
だから…
「那美姉さんはすごいな。」
「ん? そんな事ないよ。
久遠を助けたのは拓海君なんだから。」
「けどあの時、久遠が動きを止めたのは、那美姉さんの声が久遠に届いたからでしょ。
はじめから諦めてたら久遠には届かなかったと思うよ。」
「クォン、那美の声聞こえた。
拓海の声も聞こえたよ。」
「そうだよ、拓海君にも久遠との絆があったから声が届いたんだよ。」
「絆…か。」
俺じゃそんな明確でないものに頼る気はなかった。
けど、よく考えたらそれがあったから久遠は動きを止めて、俺は久遠を助ける事が出来た。
アニメのはやても守護騎士との絆があったから目覚める事が出来た。
世界の修正力よりもそれならまだ信じられるかもしれない。
「拓海君は何か悩んでるんでしょ?
私に出来る事があるなら何でも言ってね。
久遠を助けてくれた時みたいに、今度は私が拓海君の事を助けたいから。」
「クゥ、久遠も!!」
「那美姉さん、久遠。」
支えてくれる仲間。
俺が言った言葉が、なのはちゃんにどのように感じたのか、今少しだけわかった気がする。
一人でどうにかする力はあるかもしれないけど、心まではそうはいかない。
支えてくれる人がいるからがんばる気になれる。
俺も覚悟を決められそうだ。
なのはちゃんが戦いに向かっていったように、これはきっと俺の戦いなんだろう。
剣や魔法をぶつけ合って戦うわけじゃない、心でそれと決めて貫き通す戦いなんだ。
後はなのはちゃんに言った手前、俺も引く訳にはいかない。
どのような結果になるか分からないけど、遣り通して見せよう。
それがきっと俺の全力全開だから。
「那美姉さん、ちょっと相談したい事があるんだ。」