魔法少女リリカルなのは~FORTUNE LINKAGE~   作:桐谷立夏

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最終話~過去への決別、未来へ向けて~

 転送ポートに入ると光に包まれ、数秒後には次元の庭園内部に到着した。

 しかし内部はジュエルシード発動の影響か、床が所々崩落していて終わりの見えない穴と化している。

「虚数空間ですね、落ちたら助かりません」

「気をつけて進まないとなこれは」

『立夏!! 君という奴は僕たちの制止も聞かないでなんで突っ走るんだ!!』

 突然クロノの怒鳴り声が聞こえて耳を塞ぐ。

 ブリッジを出る途中、確かに一人で行くのを止めるような声が聞こえたような聞こえなかったような気がしなくもない。

「ごめん、でも早くあの人を止めないと取り返しがつかなくなる」

『……君がなにを知ってるのかはわからない、けど一人で突っ込むな。なのはとユーノも君を心配してる』

「そうだな、でもここまで来たなら先行して敵を叩いとく。クロノたちが来たときその方が進みやすいだろう?」

『はぁ、わかった。じゃあ立夏はなるべく道中の敵を殲滅、頃合を見て僕たちと合流してくれ』

「了解」

 通信が切れると同時に走り出す。なんでもこの庭園に現れた鎧のような姿をした自立型兵器、傀儡兵はAAAランクはあるらしい、しばらく走ると前方に報告のあった傀儡兵が見えてきた。

 クラウをカレドヴルフフォルムにし、最後のショートブレイドを合体させ片刃の大剣を完成させると前方に現れた鎧へ向けて叩きつける。

 縦一文字に叩き切ると、勢いをつけて横へ薙ぐと後ろに居た傀儡兵を斬り飛ばす。

「ソラス!!」

「はいな~、ハイペリオンスマッシャー」

 右手で大剣を持ち左手を突き出すとミッド式が展開、その中心にスフィアが現れそれを環状魔法陣が囲い、数秒溜めてから太目の砲撃が直線状に放たれる。廊下を一直線に貫く蒼い閃光は傀儡兵たちの上半身を消し飛ばし、数十体は居たであろう傀儡兵は跡形もなくなっていた。

 生き残りが居ないのを確認して再び庭園内を走り抜ける。

「ママ、本当にフェイトのこと嫌いなのかな……」

「そんなことないよ、きっと悲しくて辛くてあの人もどうしていいかわからないんだ。アリシアのこと全部教えてこんな悲しいこと終わらせよう」

「うん、そうだね」

 横を浮遊しながら着いてくるアリシアと話しながら進む。

 しかしアリシアが生きているとどう話せばわかってくれるだろうか、あのポットから出してしまうのが一番手っ取り早いが、プレシアが近くにいるしそれは容易でない。

 方法を考えながら進んで行くとT字路の右の方向から誰かが近づいてくる気配がして大剣を下段に構えながら走る。

 その曲がり角に突き当たった瞬間、刃と金属製の何かがぶつかり合う独特の甲高い音が鳴り響いた。

「立夏、君か」

「ごめんクロノ、確認もなにもしてなかった」

 大剣をデバイスで受け止めていたのはクロノだった、マップで大した確認もしていなかったので申し訳ないことをしてしまったと謝る。

 下手をしていれば最悪の事態にもなりかねない。

「いや、僕も少し確認を怠ってた。というかここで謝りあっている場合じゃない、先を急ごう」

「おう」

 クロノが右から来たということは左の方はまだ誰も進んでいないということだ。二人で長い廊下を突き進む、が簡単には進めず傀儡兵が行く手を阻む。

「しつこいなもう、切り裂け雷刃!!」

 地面に大剣を叩きつけると地を這う斬撃が傀儡兵を切り裂いて進み、立夏が討ち漏らしたのをクロノの剣型の射撃魔法が貫き倒していく。

 立夏が前で惹きつけている間にクロノの魔法で倒していくというオーソドックスな戦法で鎧を次々倒す。

「さすがクロノ、執務官は伊達じゃないな」

「君もな立夏。雷撃といい剣術といい隙がない、流石は」

「クロノ後ろっ!!」

 地面から突然現れた騎士型の傀儡兵が現れ、アクセルムーブでクロノの背後に回り振られた剣を受け止める。

 今までの個体より動きも早く強い。

「せあっ!!」

 突きから袈裟斬り、その勢いで回転斬りをして騎士型を奥へ押し飛ばす。

「貫け!!」

「ショートバスター」

 クロノが素早く騎士型の横へ動き砲撃を放つが左腕の盾で防がれる。しかしその衝撃で重心が少し傾いたのを立夏は見逃さず、体勢を低くしながら走りその勢いで足払いをして騎士型の体勢を崩す。

 そこへクロノが射撃魔法を放ち、足止めをすると立夏は跳び上がり盾ごと叩き切る。

「助かった、ありがとう」

「どういたしまして、さてここからまた分かれ道か」

 戦闘しながら前に進んでいたのかY字路にたどり着いていた。

「俺は左に行くよ、クロノは右に」

「わかった、気をつけてくれ」

「クロノもな」

 拳をぶつけ合わせて二人は分かれて走り出す。

 クロノと分かれて数分走ると、大きな螺旋階段にたどり着く。

「上は駆動路炉に繋がってるよ。下はママの居る方」

「それじゃ下か、ん?」

 真ん中の吹き抜けから下のほうを見ると、なのはとフェイトが大型の傀儡兵と戦っているのが見えた。

 二人は傀儡兵から放たれる砲撃を空中で飛びながら避け、四つの腕を魔法で次々破壊していき同時砲撃で止めを刺す。

 フェイトも立ち直った様子を見てアリシアの表情に笑みがこぼれる。

 アルフも泣きそうな表情でフェイトの名前を呼んで抱きつこうとすると、上の壁から二体目の巨大傀儡兵が現れ砲撃を放とうとしている最中だった。

「アルフ!!」

「フェイトちゃん!!」

「間に合え!!」

 なのはとフェイトがアルフを庇うように前に出てシールドを展開し、ユーノがバインドを巨大鎧に絡めて砲撃を防ごうとする。

「やらせるかよ、クラウ・ソラス!!」

「行こうか姉さん」

「そうですねソラス」

 立夏は階段から飛び出し、重力に引かれるまま落下して魔力を籠めて大剣を巨大鎧に叩きつけると、全ての剣が分離して傀儡兵を囲む。

「裏ノ百式、武皇神狼斬!!」

 最初の一撃では傷すらついていないが、その周囲を立夏が高速移動して剣を一本取るたびに斬りつけ、五本を再び合体させると立夏の残像が周囲に残る。

 更に残像も含め高速で巨大傀儡兵を切り刻むこと十四回、最後に真上から切り抜けると斬撃時に内部へ流し込んだ魔力が爆発し、鎧は跡形もなく砕け散り立夏はミッド式の足場に着地した。

「二人で倒したのを一人で……立夏凄い」

「ありがとう立夏くん」

「助かったよ立夏、でも大丈夫かい?」

「少し回復させるよ」

 各々からお礼を言われるが、それに返事する余裕もないほど立夏は疲弊していた。

 防御が高いことは目に見えていたので、立夏の知りうる業でアレの防御を上回る魔力を全力で叩き込んだためか、普段より疲労が大きい。

 ユーノとアルフが回復魔法を掛けてくれてから数分してようやく楽になってくる。

「もう大丈夫、それより早く行こう」

「本当に?」

「大丈夫だって、俺はプレシアさんの方に行くけどなのはたちは?」

「僕たちはここの動力を停めに行くから上に行くよ」

 なのはたちはクロノに任されて動力の停止に向かっていた最中らしく、二人と別れる際に、

「フェイトちゃんをよろしくね」

 となのはに言われ、うなずいてフェイトと共にプレシア元へ向かった。

 長い廊下をフェイトとアルフ、二人には見えないアリシアと共に走る。その終わりが見えてきた瞬間、室内から砲撃音が聞こえ。

「知らない筈がないだろう!! どんな魔法を使っても、過去を取り戻すことなんてできやしない!!」

 悲痛そうなクロノの声が聞こえてきた。

 そう、どんな魔法を使っても過去は戻っては来ないし、死者は生き返ったりしない。

 部屋の奥へ駆け込むと、杖を構えたクロノと対峙するようにプレシアが立っている。

「……っ、ゲホッゲホッ」

「母さん!!」

 突然プレシアが吐血をし、それを心配したフェイトが駆け出す。

「なにを、しに来たの」

「…………」

「もうあなたに用はないわ」

 プレシアに睨まれ足を止めるフェイト、その発言に立夏も黙っているつもりだったが気持ちを抑えきれなくなった。

「プレシアさん、フェイトはフェイトだろう!! アリシアじゃないんだ、どうしてこの子を見てあげれないんだ!! それにアリシアは生きてる!!」

「あなたこそなにを言っているの? アリシアはあの時死んだのよ、ここにあるのは身体だけと言ったでしょう!!」

「このっ、なら証明してやる!!」

 腰からショートブレイドを引き抜いてポッドの端を目掛けて投擲する。

「なにを!!」

 雷撃で投擲された剣を弾くと、立夏の姿が消えていることに気がつく。

 振り向いた時には遅く、パリンとガラスが割れる音が一室に響き。

「アリシア!! お前ええええ!!」

「ぐあっ」

「立夏!!」

 防御する間もなく砲撃を受けて吹き飛ばされ、立夏は支柱に叩きつけられる。

 プレシアはポッドから出されたアリシアを抱きかかえると。

「けほっ……ママ?」

「アリ、シア?」

 アリシアには白のジャケットが掛けられていて、突然自分の名前を呼ばれて驚くプレシアとフェイト達。

 クロノも死んでいたとばかり思っていたので思わず動揺してしまった。

「だから、言ったと思いますけど。アリシアは生きてたんですよ、なんの偶然かは知りませんけどその心臓はまた動き始めて、だからフェイトのことちゃんと見てあげてください。あなたの二人目の娘で、アリシアの妹のことを」

 剣を杖にして立ち上がりながらなんとか声を絞り出す。

 砲撃の直撃で頭もクラクラするが、まだここで意識を手放すわけにはいかない。

「それじゃあ、わたしは……今まで一体何を、していたの」

「ママ、わたしはここに居るから、フェイトのこと見てあげて?」

 アリシアを抱きかかえながら、プレシアは動揺しながらもはじめてフェイトの目を見た。

 そしてフェイトが口を開く。

「私は、ただの失敗作で偽者なのかもしれません。アリシアになれなくて期待に応えられなくて、居なくなれって言うなら遠くに行きます。だけど生み出してもらってから今までずっと、今もきっと母さんに笑ってほしい、幸せになってほしいって気持ちだけは本物です。私の、フェイト・テスタロッサの本当の気持ちです」

 偽りのないフェイトの本心をじっと聞くプレシア、その表情は既に険しいものではなくどうしていいかわからないといった表情に見える。

 今までフェイトのことを道具として扱い、フェイトを通してアリシアしか見ていなかったのに、それでも自分のことを思ってくれる自分の娘に対してどうすればいいのか。

「ママ、いけないことしたらすることはひとつでしょ?」

「…………そうね」

 アリシアから言われて、長らく使わなかった言葉をプレシアは口にした。

「フェイト、ごめんなさい……」

「うん、母さん……」

 謝るとアリシアが手招きしているのが見えてフェイトがプレシアに近づいていく。

 アルフやクロノも構えを完全に解いて様子を見守っていると。

「あっ!?」

 プレシアの足元に亀裂が入り突然崩落が始まった、ジュエルシードが暴走しているようでその影響がこの部屋全体に現れ始めたのだ。

「くっ」

「アリシア!! 母さん!!」

 崩れ落ちる瞬間、フェイトはソニックムーブで加速し二人を抱きかかえるように持ち上げるが子供の身体には厳しく、立夏のジャケットを掛けていただけのアリシアが腕の中から滑り落ちる。

 この穴の下は虚数空間、少しでも落ちれば魔法も使えず助けることは不可能だが。

「うぉおおおおおおおおおおお!!」

「りっくん!?」

 ボロボロの身体で最後の力を振り絞り、アクセルムーブで加速して落ちる寸前のアリシアを抱きかかえ、フェイトたちの下に戻ろうとするが足場にしていた床が一定まで沈んでいき魔法が消えかかる。

(こんなところで、終われないんだよ。まだ!!)

 思いっきり地面を蹴って片腕でアリシアを抱えて腕を伸ばす、あと少しで崩れていない床に手が届くところで上昇が止まった。

 もう届かないのかと手を伸ばし続けていると。

「立夏!!」

「危なっかしいことするね」

「クロノ……アルフ」

 その手をクロノが掴み、その横からアルフが掴んで二人をなんとか引き上げる。

「本当に無茶をするな君は!! 落ちたら助からないんだぞ!!」

「ごめん、でもありがとう」

「まあいい、脱出する。エイミィ、ルートを!!」

 アリシアを助けていた最中になのはたちも合流していたらしく、プレシアを支えているフェイトたちと共に立夏たちは崩れ落ちる庭園から脱出した。

 アースラへ無事全員掛けることなく帰還すると同時にプレシアとフェイト、アルフはリンディとクロノに連れられていった。

 事件の主犯ということもあり、今後裁判もあるらしく事情聴取を受けることになるらしい。

 アリシアに関しては扱いが難しく、今後どうするかも含めての話し合いをするためエイミィと一緒に別室へ連れられていった。

 という話を立夏は少しあとに聞いた、なにせアースラに着いた時に限界がきてそのまま眠ってしまったのだ。魔力もほとんどそこを尽き、最後に使った魔法で体力も使い切ったのだからまあそうなるだろうと起きた時にたまたま部屋に居たクロノにそう言われ、更にそこから最後の無茶の説教に入り無駄に話が長くなったのはまた別の話。

 丸二日寝ていたらしく、なのはとユーノは先に高町家へ帰ったようで立夏はしばらくアースラに滞在することにした。その理由もアリシアやフェイト、テスタロッサ一家の様子が気になったのもある。

 体調も休んで万全になり、高町家へ帰る日に予定していたフェイトとの面会ができる日が重なって立夏はフェイトの部屋に昼食を持って尋ねる。

 二回ほどノックして中からどうぞ、と聞こえるとドアが開き室内に入るとプレシアとアリシア、フェイトとアルフがベットに座って談話している最中だった。

「あ、りっくん。身体は大丈夫なの?」

「おう、もう万全だ。それと昼食持って来たよ、アリシアが食べたがってたチャーハンだ」

「覚えてくれてたんだ、ありがと~」

 テーブルにカートからチャーハンの乗った皿を五枚置くと、全員椅子に座る。

「立夏、だったわね。あの時はごめんなさい」

「いえいえ、俺がプレシアさんの立場だったら同じことしていたと思います」

 プレシアから謝罪をされるが、元を言えば立夏もジュエルシードを狙っていたので自分が言えた義理ではない。

「そう、アリシアから話は聞いたわ。貴方だけにアリシアの幽体が見えていたそうね」

「みたいですね、理由はよくわかりませんでしたけど。でもこうして三人が一緒にご飯食べれてよかったじゃないですか、アリシアが望んで、フェイトも望んでいたことだったと思います」

「立夏……」

「そうだね、みんなでご飯食べるのは楽しいし」

「ちょっと、アタシを忘れないでよ」

「ごめんごめん」

 スプーンを口に運びながら抗議するアルフに苦笑しながら謝る。

 チャーハンはプレシアにも好評で、また機会があれば作ってほしいとまで言われて立夏も少し照れた。

「そういえばプレシアさんは身体大丈夫なんですか?」

「良くはないけど、向こうに戻って罪を償いながら治していく話をリンディとしたわ。その間は彼女にこの子達の保護責任者になってもうらう予定よ」

「そうですか」

 プレシアの体調はよくないらしく、ミッドに戻って罪を償いながら治していくらしい。

 その間にフェイトとアリシアの保護責任者になってもらう話も進んでいるらしく、あとは二人に直接その話をするだけのようだ。

 その二人は昼食を食べ終えてアルフの膝でぐっすり眠っている。

 少しはしゃぎ過ぎたのだろう。

「あなたには感謝してもしきれないわ。あの子、フェイトとも和解できてアリシアのことも生きていることを教えてくれて。本当にありがとう」

「そんな感謝されるようなことしてませんよ、困ってる人が居たら助けるのは当たり前のことですから」

「お節介なのね、それにしても」

 ふとプレシアが立ち上がり、寝ているフェイトたちの傍に行くと。

「私の娘たちは寝ていても可愛いわね本当に……!! これからしばらくあえなくなりそうだし今のうちに写真を撮らないと……」

 突然写真を撮り始め、少し息も荒くなるプレシア。

「……ん? あれ、この人」

「親馬鹿だね~」

「ですね」

 デバイスたちも立夏と共通見解のようだ。

 今まで溜め込んでいたものをぶちまけるようにするプレシアを見て、幸せそうでよかったなあと思う立夏だった。

 しばらくして落ち着いたプレシアと少し話をして部屋を後にし、アースラ艦内を歩いているとリンディに出会う。

「立夏君、プレシアたちはどうだったかしら?」

「家族で団欒してます、これで今回の事件も一件落着ですね」

「そうね、今回の裁判は長くなりそうだけどプレシアたちは聴取も素直に応じてくれてるし、フェイトさんに関してはなんとかなるでしょう」

 なんでもプレシアがフェイトは自分の命令でジュエルシードを集めていたと強く言っており、彼女に罪はないという立場を作ろうとしているようだ。

 しかし無罪にすることは難しいだろうし、そこはリンディとプレシアで話し合いがもたれているらしい。

 アリシアは高町家がよければホームステイとして預かってもらえるかという話が進んでいる。

「まあプレシアに関しては主犯だし懲役は免れないわね。未遂とはいえ次元断層を引き起こそうとしていた訳だから」

「その間リンディさんが二人を預かるんですよね、少し話は聞きました」

「あら、聞いてたのね。まああとはあの子達次第だけど」

 苦笑いするリンディ、二人目の母をフェイトたちが認めてくれるかというのが心配なのだろう。

「大丈夫ですよ、二人ともいい子ですから」

「貴方がそう言うと説得力があるわね、少し自信が出たわ。今日にでも言ってみる。ありがとう立夏君」

「励みになったならよかったです、それじゃあ俺はそろそろ帰ります」

「ありがとうね、なのはさんとフェイトさんが出向する前にお話するからまた連絡するわ」

 リンディとも別れて着替えなどの荷物を持ち、立夏は転送ポートへ向かい海鳴市へと戻った。

 人気のない海の公園の端に転移すると、潮の香りが少し懐かしく思えて大きく息を吸う。

「帰ってきたな」

「そうですね」

「それじゃ早く家に帰ろう~」

 ソラスのそんな気の抜けた一言に苦笑して、立夏は家へと足を向けた。

 先に家の横で営業している翠屋に顔を出して高町夫妻と上二人の兄妹に挨拶し、そこから高町家の母屋に入ってリビングに向かうとなのはが立夏に気づく。

「立夏くんお帰り、身体は大丈夫?」

「ただいまなのは、大丈夫だよ。心配掛けてごめんな」

 頭を優しく撫でると気持ち良さそうにするなのは、こう言うところはアリシアとフェイトと似ている。

 しばらく戦い詰めだったのでなのはもようやく落ち着いてきたらしく、この二日間はゆっくり休めたようだ。

 立夏の居ない二日の間にアリサとは和解したらしく、これから遊びに行くそうでユーノを連れて元気に出て行った。

「さーて、俺も疲れたしまた寝るかなぁ」

「アースラ側から連絡が来るまで特に何もないでしょうし、マスターもゆっくり休んでください」

「休みだ休みだ~」

 近日中には連絡があるだろうしそれまで立夏も休息しようと思い立ち、まずは寝て疲れを癒そうとソファーに寝転んでそのまま深い眠りに落ちた。

 この一連の事はプレシア・テスタロッサ事件、後にPT事件と呼ばれることになり、主犯のプレシア本人は罪を認め、その罪を償う意思も見せていることからアースラ艦長のリンディ及び執務官であるクロノから減刑を求められる。

 その娘でジュエルシードを回収する役目だったフェイトはプレシアからの命令や、一時的なDVもあったことにより半ば無理矢理やらされていたとして、情状酌量の余地ありという報告が管理局へ出された。

 そして死亡したとされていたアリシアはアースラで身体検査の後、地球の現地協力者であったなのはの家で一時預かりという話に落ち着く。

 そして数日後。

「立夏くん早くっ!!」

「急かすなってもう」

 日が空に昇り始めたころ、なのはたちは海岸沿いにある公園へ向かっていく。

 朝早くにアースラから連絡がありテスタロッサ一家の裁判の日程が来週に決まったらしく、その前に少しだけなのはとフェイトを会わせるためその待ち合わせ場所である公園へ走っていたのだ。

 公園へたどり着くとフェイトとアリシアとプレシア、クロノとアルフが公園の一角でなのはたちを待っていた。

 まだ朝早くのためか人の気配もなく、魔法関連の話をするならちょうどいい時間だ。

 フェイトの元へ辿り着くと、なのはの肩からユーノがアルフの元へ飛び移る。

「僕たちは向こうに居るから」

「りっくん、わたしたちはこっちだよ」

「お、おう」

 クロノがなのはとフェイトを二人きりにするため少し離れたベンチに向かうと、アリシアがその反対側の方へ立夏の手を引っ張っていく。

 二人からかなり離れたところでようやく足を止める。

「改めてありがとうねりっくん、ママとフェイトを助けてくれて」

「だから礼を言われるようなことじゃないよ、困った人が居たら助けるのは普通だし。プレシアさんと同じこと言ってるしアリシア」

「ええ~、ママも同じこと言ってたんだ」

 立夏が苦笑しながら手摺に腰を掛ける。

 親子は似るものだなぁ、と思いながら視線をなのは達の下へ向けると二人は自分達の思いを話し合っているようで、その光景と同じものが一瞬脳裏に映る。

 ただ、その光景と違うのはその奥でプレシアがその様子を優しい表情で見守っているところだ。

「……助けられてよかった、本当に」

「りっくんが居なかったらわたしとママはここに居なかったかもしれないしね」

 両手を後ろで組みながらフェイトの様子を見守るアリシア。

 その表情もプレシアと同じで、見ているほうも優しい気持ちになれるものだ。

「そういえばしばらくは高町の家で一緒に暮らすんだよな」

「うん。リンディさんがなのはのママとお話して大丈夫って言ってたの聞いたから、これからもよろしくね?」

「おう、時間はこれから有り余るほどあるしフェイトたちと一緒に居られる日もすぐ来るだろうし、それまでよろしくな」

 アリシアが家に来る話は桃子と士郎から立夏は先に聞いていて、アリシアがなのはと同室になる代わりに立夏には自室が与えられることになっていた。

 その話の流れで士郎から養子縁組の話を持ちかけられ、立夏もそれを承諾して来月には苗字も高町になる。

 という話はまだ高町三兄妹には内緒で、五月五日の立夏の誕生日にその話をする予定だ。

 その来月にはアリシアも学校に通う手続きもすでに進んでいるとかいないとか。

「あ、フェイトが手を振ってる。もういいみたいだよ」

「それじゃあ戻るか」

 話を終えたようで、フェイトが立夏たちに手招きしているのをアリシアが気付いて二人の下へ戻る。

「立夏、なのは。アリシアのことよろしくね」

「うん、アリシアちゃんとも仲良くなりたいから」

「あなた達には助けてもらってばかりで申し訳ないけど、アリシアのことをよろしくね」

「「はい!!」」

 フェイトとプレシアにアリシアのことを頼まれてなのはと一緒に元気に答える。

 時間のようでそれからすぐにクロノが転移魔法陣を展開させ、フェイトたちが陣の中に入っていく。

「アリシア、いい子にしててね?」

「大丈夫だよ、ママも身体良くして元気になってね」

「うん、ありがとう。それじゃあまたね」

 親子の別れを見守っていると、なのはとフェイトは言葉を交わさなくても視線だけで話し合っているようで、なにも言わずに手を振る。

「立夏、君には世話になった」

「こちらこそ、というかいつかの公務執行妨害はいいのか?」

「卑屈を言わないでくれ、その件は問題ないよ。それじゃあまた」

「ああ、またなクロノ」

 フェイトを助ける時に少し妨害したことが気になっていたが、クロノはなにも気にしていないようで最後に拳をぶつけ合って四人は光に包まれて転移していった。

 漣の音だけがしばらく公園に響き、少し俯いていたアリシアの手をなのはと立夏が両側から握る。

「行こうアリシアちゃん、またみんなに会えるから」

「今は俺達が居るからさ」

「そうだよ、僕達が居るから」

「なのは……りっくん……ユーノくん、ありがとう」

 アリシアはなのはと立夏に手を引かれて歩き始める。

 今はプレシアとフェイトと離れ離れだが、ずっと会えないわけじゃない。それまで元気に生きてまた会ったときに笑顔で居られる様に、お日様のような三人と一緒に新しい家へと足を向けた。

 




無印編最終話です、確かこの小説書き始めた原因はINNOCENTの漫画読んだからだったかなあ。

みんな生きてる話があってもいいんじゃないかとか思ってたんだと思います。

次回からまたオリジナル要素のはいったAs`編が始まりますので、よろしくお願いします。


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