魔法少女リリカルなのは~FORTUNE LINKAGE~   作:桐谷立夏

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第六話~悲劇を喜劇に~

 リンディと一緒に海が目の前にある公園で歩いて行き、そこで転移して管理局の艦船『アースラ』の艦長室へ入る。中は和室のようになっていて桜の花びらも舞っていた、なんだこのフリーダムな艦長室はと思わず言いかける。

「来てくれてありがとう、でも昨日はなんで着いてきてくれなかったのかしら」

「答えなきゃいけませんか?」

「いいえ、でも大体理由はわかっているわ。何せお姉さんの身柄は管理局が預かっているのだし」

「っ!!」

 すぐにバリアジャケットを装備しソラスを剣にして構える、まさか姉を人質にして交渉をする気なのではないのだろうかと思った咄嗟の行動だ。しかしそんな訳も無くリンディは落ち着いた表情を見せていた。

「大丈夫よ、彼女は順調に快復しているしもうすぐ目を覚ますでしょう」

「……そうですよね、局がそんなことするわけ無いか」

「ごめんなさい、少し脅すようなことを言って」

 剣を下げて待機状態に戻す、流石に行動が過敏だった。

 それに立夏の事情も理解している様子だ。

「それで用件は」

「なのはさんや私たちの手伝いをしてもらいたいと思っています、あとは彼女が出た時の対処を」

「ジュエルシード探索の件は引き受けますけど、フェイトの対処に関してはお断わります」

 フェイトにはジュエルシードを集めなきゃいけない理由がある、それになるべく中立でいると約束した。

 決意に満ちた表情にリンディは納得したらしく探索の件だけ立夏に任せ、話を終え艦長室を出て艦内を歩いているとなのはがこっちへ駆けてくる。

「立夏くん!」

「なのは、昨日は悪い……」

「ううん、それより昨日はどこに行ってたの?」

 フェイトの所に居たとは言いづらく、ここは適当に誤魔化すことにした。

「秘密だ」

「危ないことしてない?」

「してないよ、心配掛けてごめんな」

 軽くなのはの頭を撫でて安心させてやると誰かがこっちに歩いてくる。

「おはようクロノくん」

「なのはか、おはよう。君が立夏か」

「どうも」

 黒髪の少年、先日蹴りをかましたクロノという執務官だ。

 昨日のことを気にしている様子は無く、なのはと普通に会話を交わしている。

「管理局ってやっぱり凄いんだね」

「そりゃ次元世界の法を守る組織だからな、ただ……」

 なのはたちに聞こえないようにアリシアと話す、ただ今回のジュエルシードの件は何か引っかかる。ロストロギアを探すには大掛かりだしフェイトを探していた様子も窺えた、もしかしたらフェイトがジュエルシードを渡している人を逮捕しに来たのかもしれない。

 と色々予想をしているとジュエルシードの発見を知らせる通信が入る。

「反応を二つ検知、なのはちゃんとユーノくんは北東部へ。立夏くんは北西部へ行って」

「了解です」

「わかりました」

 アースラに着いて早々だがすぐにジュエルシード確保へ向かった。

 この前なのはたちと行った温泉の更に奥、深い森の中に蒼く輝く宝石が浮かんでいた。幸い暴走している様子は無く何かを取り込んでいる様子も無い、ミッド式を展開して封印する。

「よし、確保~」

「暴走してなくてよかったですね」

「まったくだ」

 デバイスに収納するため近づこうとすると。

『立夏くん! 凄い速さで近づく魔力反応があるよ、気をつけて!!』

「っ、クラウはカレドヴルフ、ソラスはシュナイダー!!」

 通信士、エイミィからの報告を聞いてすぐにクラウは大剣、ソラスは魔力で片刃の刀身を形成する剣の状態にして構えると、上空から魔力弾が降り注ぐ。

 横に跳んで避けると誰かが空から降りてきた。

「誰だ!!」

 土煙が晴れるとそこには黒いロングコートを着た誰かが立っていた、背丈からして十二、三歳くらいだろうか。フードを目深に被っているため顔は見えないが肩幅などから見て多分男だ、しかしいきなり攻撃してくるとは一体何者だろう。

 ジュエルシードを狙っていることは間違いなさそうだが。

「…………」

「なっ!?」

 男は一瞬で間合いを詰め立夏に肉迫する、中段から振られる剣を右の剣で弾くと更にもう一本の剣が下段から迫った。

 脇構えで全く刀身が見えていなかったため反応が遅れるが寸前の所で左の剣で防ぐ、しかしそこから力で押し飛ばされ樹に叩きつけられる。

「ぐっ……!!」

 男は無言で構えを取る、よろめきながら立ちあがり立夏も構え直して気が付く。よく見ると二本の実体剣の刀身には若干反りがあった、あれは刀だ。士郎たちが使う日本の剣。

 しかも見たところデバイスなのは間違いない、一体この魔導師は何者なのだろう。

「お前は何者だ? なんでジュエルシードを狙う!!」

「……それは、あいつのだ」

「え?」

「だから、やるわけにはいかない」

 あいつとは誰のことだろう、そう疑問に思った瞬間男の姿が消える。

 しかも今使った魔法はアクセルムーブだった、すぐに振動音を聞いて横に振りむき剣を振ると刃同士がぶつかり合う。ギリギリと刃同士が火花を上げ、受けの状態から半身になり剣を下に向けて力の方向をずらし受け流す。

 体勢を崩したのを見計らって『射抜』を放つが、そこには既に男の姿は無かった。

「どこにっ」

「マスター上!!」

 ソラスの言葉と同時に真上へ向けて剣を振るとやたらと重い衝撃が走る、見ると武装が剣から手甲へと変わっていた。

「ちっ……」

「……………………」

 男は黙ったまま空いていた片腕をひき絞ると、手甲の腕を覆っている部分から『薬莢』が一つ飛び出し雷と炎が拳を纏う。

「それは……!!」

 左腕を二本の剣で受け止めていたところに右腕が振り下され、立夏は剣ごと地面に叩き潰された。地面は衝撃で大きくえぐれクレーターと化す。

 男は気を失っているであろう立夏を一瞥しその場を後にしようとすると後ろから気配を感じて振り向く、そこには魔力刃を展開した槍を構えた立夏が息も絶え絶えな状態で立っていた。

「いか、せるかよ」

「さすがは……」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」

 柄を地面に叩きつけ周囲に雷撃を落とす、今出せる立夏の全力を男にぶつけようとするが。

「ごふっ」

「けど、ここまでだ」

 『黒い』雷を纏った拳を腹部に受け再び地面に叩きつけられ立夏は気を失った、雷撃は掠りもしていなかったようでコートには傷一つ付いていない。

 次は振り返ることも無くジュエルシードの元へ向かおうとするとそこへフェイトが降り立った。

「あ……立夏!!」

 バルディッシュをサイズフォームにして構え男に刃を向ける、この現状を見れば誰が立夏をやったか一目でわかる。

「…………」

「まっ!!」

 男はフェイトを数秒見てそのまま姿を消す、完全に反応が消えたのを確認して倒れている立夏の元へ駆け寄った。

「立夏聞こえる? 立夏!!」

「う……ふぇい、と」

 数秒間意識を失っていたらしく、気が付くと目の前に心配そうな表情をしたフェイトが居た。

「よかった、アルフ手伝って」

「あいよ」

 茂みからアルフも現れ治癒魔法を展開する。

 ぼんやりとした意識の中、完全にあの男に負けたんだと理解した、一度も立夏の攻撃は当たらず全力の攻撃も完全に防がれた。

(なんで、アクセルが使えたんだ)

 自分と父が考えた魔法を何故使えたのか、それだけが気になった。もしかしたら父が誰かに教えたのかもしれないがそれもあまり考え辛い。この魔法は使える者がかなり限られてくるもので、少なくともミッドに住んでいたころに居た町に使えたのは立夏と父だけだ。

 あの男は誰なんだろう、と考えようとしたところで再び立夏の意識は闇に落ちた。

 

 

「っ!!」

 目を覚ますとそこは見知らぬ一室だった。

 部屋には立夏一人で、自分の荷物が置いてあることでここはアースラでの自室だとすぐに思い出す。

「クラウ、ソラス?」

 腕と指を見ると相棒たちがつけられていないことに気が付いた、腕には点滴が付けられていて医療局員がタイミングよく入って来て目を覚ましたのを確認して腕から針を抜く。

 部屋を出てそのままなのはたちを探しに出るとエイミィと出くわす。

「立夏くん、目が覚めたんだね。よかった」

「エイミィさん、俺のデバイスは」

「今艦長たちとブリーフィングルームに居るよ、一緒に行こうか」

 リンディがあの男のことをデバイスたちに聞いているようだ、二人でみんなの居るブリーフィングルームへ入ると、丁度説明の最中らしく空中にディスプレイを数個浮かべていた。

「立夏くん!! もう起きて大丈夫なの?」

「え、それどういうこと?」

 部屋に入った途端なのはがあまりに心配そうにしていたので少し焦った。

「君は七日も気絶してたのさ、かなり魔力ダメージが大きかったらしい」

「そんなに……また心配させちゃったな」

「ううん、それより目が覚めてよかった」

 よしよしと頭を撫でてなのはをあやす、とりあえず今は状況が知りたい。

「それであいつの正体は?」

「不明ね、立夏さんの元に現れて以来姿は見せてない。しかも『あれ持ち』じゃまた戦っても勝ち目はないでいしょうし」

 やっぱりあの男のデバイスにはあのシステムが装備されているのだろう、しかし今の管理局ではまだデバイスへの実装は危ういとされいてる筈だ。それを使っているということはこっち側の魔導師なんだろうか?

「そういえばジュエルシードは?」

「フェイトちゃんが持って行っちゃった、あと怪我を少し治してくれたのもフェイトちゃんだったみたいだよ」

 あのとき見つけたジュエルシードはフェイトが持っていったらしい、しかしあのタイミングといいコートの男はまるでフェイトに持っていかせるために立夏を襲撃したかのようだ。

 仲間かとは思ったがそうでもなさそうで、クラウ・ソラスが映したデータにはフェイトが男に大鎌を向けた姿も確認されている。

「とにかく、この男のことはこちらで捜索しておきます」

「わかりました」

 デバイスたちを返してもらい、この場は解散となった。

 そして立夏はこの眠っていた九日間分の仕事をするため海鳴市に降りて地上で探索を始めた、沿岸部で捜索を始めることにする。

 この数日で両者共々かなり集めたらしく残り七つが見つからないでいるようだ。

「地上に無いなら海だな」

 鉄塔の端に立ちデバイス二機で探索範囲を広げる、すると上空に金色の魔法陣が広がり天候が急に悪化し始めた。

「フェイトの奴、まさか強制発動させるつもりか? 無茶するなったく」

「どうしますか?」

「真上から結界の一部を破壊して中に入る、後はそれからだ」

 アースラからは通信が来ないなら一人で動くだけだ。

 両腕に手甲を展開して結界の真上まで飛び、そこでミッド式を展開させると右腕が激しい雷撃を纏い魔力を溜めに溜める。

「プラズマスマッシャー!」

 結界に向けて拳を振るとその間に雷撃が走り頂上が砕けそこから中に入る、それと同時になのはも内部へ転移してきた。

「立夏くん!」

「先にジュエルシードを止める、行こう!!」

 海面付近に降りるとフェイトたちは水の竜巻相手に苦戦していた。

「雷を纏いて吹き荒べ、サンダーストーム!!」

 二人の周囲に雷が落ち、竜巻本体には巨大な雷撃が貫いた。それを機にフェイトたちは水の中から脱出する。

 ミッド式を維持しつつ再び竜巻に向き直る、空を見るとユーノがアルフを説得出来たのか二人でバインドを使い七つある竜巻の動きを封じていた。

「よし、アルフの説得もできたか。なら後は」

少し離れたところではなのはとフェイトが封印砲撃の準備をしているのが目に入った、今は二人の邪魔をさせないためにこの竜巻を相手するだけだ。

「ソラス!! 久しぶりに行くぞ!!」

「待ってました!!」

 一度黒いロングコートのバリアジャケットが解除され、次の瞬間には紅地に黒のラインが入ったシャツに白く裾の長いジャケットと、紺のパンツとスパイク姿のバリアジャケットに変わっていた。

 今まではクラウに仮のバリアジャケットを構築してもらっていたが、これは立夏専用にソラスが構築したものだ。

 手にはイェーガーフォームのソラスが握られ、槍の刃を構築していたフレームが縦に割れて斜めに下がり魔力刃が姿を見せていた。突きと薙ぐことに特化したモードである。

「ストライクフレーム構築完了、いけるよマスター」

「おう」

 ユーノ達の拘束を逃れた竜巻がなのはたちに向かっていくその間に割って入り、大きく槍を振るうと斬撃が放たれ竜巻を断ち切る。

 すると枝のように水が伸びてきて立夏を捕らえようと追ってきた。

「……雷迅!!」

 アクセルムーブで加速の後、七つの竜巻の間を斬り抜けると全てに雷撃が落ちて帯電し、しばらく動きを止める。

「なのは、フェイト!!」

「うん! せーのっ」

「サンダー」

「ディバイン」

「プラズマ」

 二人が砲撃の発射シークエンスに入り、アルフとユーノが離れて立夏もソラスを構えた。

「レーイジ!!」

「バスター!!」

「スマッシャー!!」

 上空からの雷撃と二方向からの砲撃がジュエルシード七つを襲い、一撃で全てを封印する。

「よし、封印完了」

 鎗を下してなのはの方を見ると、フェイトとなにかを話しているようだ。

 多分言いたかったことが見つかってその気持ちを伝えているのだろう。

「友情に水を指すのも悪いな」

「そうだね、ってマスター!!」

「次元跳躍魔法来ます、あと三秒!」

 相棒たちの報告の瞬間、辺りに雷撃が降り注ぎその一つがフェイトを撃ち貫く。

「ママ……っ」

「え、ちっ」

 アリシアの言葉に反応しながら降り注ぐ雷撃を防ぐ、この魔法は彼女たちの母親が放ったものらしいが、何故母親が娘に魔法を当てるのか見当もつかない。

 ジュエルシードの方を見るとアルフとクロノが対峙していた、どうやらアルフが回収しようとしたのをクロノが妨害したようだ。

 混沌とした状況の中、雷撃が収まるとフェイト達は姿を消していた。

 海上での一件を終えた後、立夏はアースラの訓練室でミッド式を展開し右手にイェーガーフォームのソラスを持って集中していた。

 なのはとユーノは命令無視で出撃したことでリンディに呼び出されていて今は居ない。

「そろそろいいんじゃない?」

「うん、じゃあターゲット展開」

 部屋の各所にスフィアが現れ、その位置を確認して立夏は地面を蹴った瞬間アクセルムーブを発動させた。まずは正面にあるスフィアを下段から斬り上げ、次は天井ギリギリまで跳び上がり二個目を斬り裂く。

 斬っては移動し別のターゲットを斬りと順調にスフィアの数を減らす。

「マスター、それじゃ課題の二段階目いくよ」

「わかってる、ツヴァイアクセル」

 アクセルムーブを重ね掛けし、さらに速度を上げる二段階目のアクセルムーブ。周囲に振動音が広がり一瞬で四つの光球が斬り裂かれ、そして残りのスフィアが五個という所で部屋の中央付近で盛大に素っ転び壁に激突してようやく止まる。

「うわっ!?」

「はい終了~」

「記録はツヴァイアクセル時で七十三個、二十二個更新ですね」

「ソーデスカ」

 ひっくり返った状態で記録更新と言われても格好悪いったらありゃしない、いつもなら喜んでいたのだが今回はそうもできそうになかった。

「ツヴァイは多少使えるようになったじゃん」

「まだ実戦で使える程じゃないよ、アリシアどうだった?」

「う~んとね、ツヴァイ?になった途端りっくんの姿が追えなくなっちゃった、今のは?」

 特訓を見ていたアリシアに聞いてみるが、やっぱり目で追えなかったらしい。

「アクセルムーブの二段階目で、アクセル中に更に重ね掛けして速度を上げるんだ。その分魔力消費と負荷が大きいけど」

「凄いね~りっくんは、その歳でここまで魔法使えるなんて」

 えらいえらいと頭をそっと撫でてくれる、しかし流石に恥ずかしくて立夏は少し離れた。

「え~、せっかくなでなでしてあげたのに」

「そんな年齢じゃないよ、それよりさっきの雷撃の時ママって言ってたけど」

 戦闘後はなにかと慌しくて聞けなかったが、あの雷撃が落ちる瞬間アリシアがママと言っていたことが気になっていた。

「たぶんだけど、あの魔法はママのだと思う。核心はないんだけど……」

「そうか」

 仮にアリシアの母だとしても、実の娘をあそこまで痛めつける必要はないと思う。

 しかし立夏は一度フェイトが鞭で叩かれているところを目撃している、あの女性ならやりかねないだろうが、今回は少しやりすぎな気がした。

 親が子供に暴力を振るうのは、大体がストレスの捌け口だというがあの様子からするとそういうのでもないだろう。

「とにかく、フェイトを助けてあの人にアリシアが生きてるって伝えよう。約束だからな」

「うん、ありがとうりっくん」

 立夏の一言に優しくアリシアが微笑んだ。

 

 

AM6時30分『高町家道場』

 

 

「ふう……」

 早朝、立夏は高町家の道場で木刀を一本持って深呼吸をした。リンディの計らいで数日戻れることになっていて今日は久しぶりに御神流の剣術のお浚いをしていた。中段に構えて一歩踏み込んで縦に一閃、続けて横に素早く振り切り返す。

「慣れてきましたね」

「士郎さんには驚かれたけど、これくらいできないと戦えない」

「マスターは本当に真面目だね~」

 冬花をジュエルシード以外で目覚めさせる、今はそんな方法思い付かないがもしかしたら自分の力で目覚めるかもしれない、それはそれで良いことだ。

 立夏は今それに賭けている、なにもしないで彼女が目を覚ます事を。そうしたら何故戦う為に剣術等を学んだのだろう。

 目的がなくなったら何故自分は戦うのか?

「立夏くん、ご飯だよ」

「もう、そんな時間?」

 時計を見ると7時30分を差していた、余程長い時間考えていたらしい。木刀を立掛けて入り口を出ようとするとなのはに声をかけられる。

「ねぇ、なんで最初あった時手伝ってくれたの?」

 真剣な表情をしていたので誤魔化さずにあの時の本心を伝えた。

「最初はなのはを利用しようと思った。ジュエルシードを集めるには人が多い方がいいし」

 事実ジュエルシードの暴走で巨大な木が現れた時はなのはを手伝わず、現れた魔力の元を探していた。

 彼女一人で平気と思っていた反面見捨てていたのだ。

「何個か集まってから奪うつもりだったけど、なのはは優しくて俺のことを家族って言ってくれたから、それも止めて今も手伝ってる」

「そっか、やっぱり立夏くんは優しいね」

「話し聞いてた? 最初はなのはからジュエルシードを奪おうと」

「今は違うんでしょ、私はそれが春紀くんの優しさだと思ってるから」

 優しく微笑んで、なのはは手を掴んで母屋に向かった。

 ――戦う理由なんか、なのはやみんなを守るだけでいいか。

 俺は引っ張られながらなのはの軽く手を握り返した。

 いつも通り二人は学校に向かい、教室に入るとアリサとすずかが駆け寄ってきた。

「なのはちゃん、よかった元気で」

「うん、ありがとうすずかちゃん。それとアリサちゃんもごめんね、心配かけて」

「ん……まぁよかったわ、元気で」

「「うふふふふ」」

 最後に会った時のわだかまりはなく、なのはとすずかは顔を見合わせて笑うのを見て安心した春紀だった。

 放課後立夏たちはアリサの家に向かった、またすぐにアースラに戻らなければいけないからまた二人と会うのは少し先だ。

 だからみんなで遊ぶために来たのだが、庭の檻に見慣れた姿があった。

(やっぱり、アルフか)

(あんたたちか)

 獣形態のアルフが檻の中に居て少し驚く、身体の所々には包帯が巻かれていてたのも不思議に思ったが、何故フェイトと一緒にいないのだろうというのが一番気になった。

(その怪我どうしたんですか? フェイトちゃんは)

(……)

アルフは何も言わず俯いて背を向ける、立夏一人なら話をしたのだろうがなのはが居るためそれもし辛いらしい。

「あらら、大丈夫?」

「傷が痛むのかもよ、そっとしといてあげようか」

「そうだな」

 四人で家に入ろうとして立ち上がるとすずかの腕にいたユーノが飛び降りる、なにか考えがあるようだ。

「ユーノ、危ないぞ?」

「大丈夫だよ、ユーノくんは」

(なのは、彼女からは僕が話を聞いておくから)

(うん)

「さぁ、おやつにしましょ」

 アリサたちを先に向かわせて、なのはと立夏は遅れて行った。ユーノとクロノがアルフの話を聞きながら長い廊下を二人で歩く。

(なのは、立夏。話は聞いてたかい?)

(うん、全部聞いた)

(ああ)

 プレシアはまだジュルシード回収をフェイトに命じ、失敗したら痛めつけるということを続けているらしい。それに反発したアルフだったが彼女は躊躇い無く撃ってきたそうで、辛うじて脱出したところでアリサに保護されたようだ。

(僕らはプレシア・テスタロッサの捕縛を最優先事項として動くことになる、君達はどうする?)

(わたしは、わたしはフェイトちゃんを助けたい。友達になりたいって伝えたその返事もまだ聞いてないしね)

(俺も、同意見だ)

(そうか、アルフ。それでいいか?)

 クロノは納得してくれたようでアルフもそれを了承してくれる。

 アリシアのこともあるし、立夏は何とかしてプレシアとフェイトの確執も無くしたいと考えていた。

(なのは、と立夏。頼めた義理じゃないけどだけどお願い、フェイトを助けて)

(大丈夫、任せて)

(絶対助けるよ)

 二人はアリサたちのいる部屋の扉を開ける、中に入るとしばらく四人でゲームをしたりして遊んだ。三人が楽しそうにしているのを見ているだけで立夏はよかったのだが。

「ほーら立夏もやんなさいよ」

「おう」

 コントローラーをアリサから貰うと立夏も一緒にゲームを楽しんだ。

 

 

翌朝AM06:30、海鳴市沿岸部海上

 

 

「さすが管理局、戦闘用のレイヤー建造物を作るのなんか朝飯前ってやつか」

 海鳴市沿岸には水没した街が現れていた、というのも管理局のアースラスタッフが原理は知らないが一晩で戦闘訓練用の市街地を建造したのだ。

 かなりの高度まで結界を張っており外からでは一切中の様子はわからないようになっている、立夏はビル群の一番高いところからあるビルを見下ろしていた。そこではなのはがフェイトが来るのを静かに待っているのが見える。

「フェイト来るかな……?」

「来るよ、自分のために、そして母親のためにな」

 隣で心配そうにするアリシアの頭を撫でようとした時、なのはが居た屋上から桜色の光と黄金の光が駆ける。

 二人が戦闘を開始したようだ。

 立夏は見守るだけという話になっているが、最悪戦闘に介入して仲裁に入る用意ができている。

「拮抗してますね、戦闘技術はフェイトさんが上回っていますが」

「ナノハはその差を今までの経験で補ってる、これはわからないね」

 空中で桜色と金色の閃光が幾度となくぶつかり合うが、どうもなのは押されているようにも見える。

 クラウを手甲と脚甲にしてすぐ出る準備をするといきなりエイミィから通信が入った。

「立夏君、誰かが結界の中に入ってそっちに向かってる!!」

「このタイミング……あいつか、アリシアは離れて」

「うん、気をつけてね」

 アリシアが離れたその数秒後、頭上から漆黒の雷撃が降り注いだ。

 上空には黒いコートを纏った男が様子を見ていたが。

「油断してると足元すくわれるぞ」

「っ!?」

 背後から声がすると振り向くまもなく男は吹き飛ばされてビルに叩き付けられる、そこに砲撃が放たれてビルを貫き土煙が舞う。

「先手は打ったけど」

「効いてないみたいですねぇ」

 倒壊するビルの中、コートにすら傷は無く男は空を飛んでいるのを見る限り、相当防御には自信があるようだ。

 にしても管理局の結界を突破するとは相当強いのだろう、前回の戦闘では本気を出していなかったと立夏は考えている。

「もう奇襲なんてさせない、正々堂々と戦ろう」

「……」

 男は無言で構えを取ると、二条の閃光が空を駆けた。

 立夏が先制して男をビルへ向けて殴り飛ばすと、一気にその場から離れてビルの間を縫うように飛ぶ。

 実力は相手のほうが上、ならばこちらはせこいながらもヒットアンドアェイで奇襲を繰り返して少しずつ削っていく作戦だ。

 一度ビルの中に入り拳を引くように構えると目の前にミッド式を展開し、砲撃の準備を始める。

 数秒ほど息を潜めていると離れたところから飛翔音。それに合わせるように拳を振りぬくと砲撃を放つ。

「っ……」

 突然ビルから放たれた砲撃に不意を衝かれ、急停止して大きく腕を振って砲撃を相殺すると背後に気配を感じる。

 反応するも砲撃を迎撃した反動で振り向くのも遅く、立夏は拳を男の背中にゆっくり当て、

「吹き飛べ、烈震虎砲!!」

「ぐあっ」

 当てた拳を零距離から打ち抜く。

 足元に展開したミッド式を足場に使い、踏み込みも使って全力で振り抜いた拳は男の背中を押し出し再びビルの中に吹き飛んでいった。

「ソラス追撃!!」

「はいはい待ってました!! ソニックシューター」

 男が激突したビルへ更に十を超える魔力弾を更にビルへ放ち追撃すると、その衝撃も相まってビルが崩れ落ちる。

 これだけの攻撃を加えれば多少のダメージは与えられた筈だと思った瞬間だった、ビルの中から砲撃が放たれ身体を逸らして避ける。

「おいおい、あれだけやってまだ動けるのか」

 瓦礫を魔力で吹き飛ばして黒コートの男が出てきた。

 砲撃、射撃、近接と全てを叩き込んで尚まだ動けるとはこの男の実力は計り知れない。

 クラウを近接のブレイクフォルムからカレドヴルフフォルムに変え、両刃の大剣と片刃の剣を手にすると、コートの裾が短くなりジャケット程度の長さへと変わり、腰に複数の抜き身の剣を差した鞘のようなものが現れる。

「……なんだそれは」

 男が始めて質問を投げかけてきた。

 確かにこれを見た人間はその数の剣をなにに使うのか疑問に思うだろう。

「剣だよ、ただの剣じゃないけどな」

 立夏は片刃の剣を峰から大剣の刃に重ねるように合体させると、その大きさから更に大きくなり片刃の大剣へと姿を変える。

 そのまま大きく剣を振り抜くと男は初めて防御の動作を見せた。両腕の手甲を交差させるようにして大剣を受け止めるが、勢いを殺せずかなり押し飛ばされた。

「重い……っ」

「ヒットアンドアウェイなんてまどろっこしい、ヒットアンドヒットで押し切る!! ソラスは身体強化維持と射撃援護!!」

「はいな~」

 背中から背面がデコボコした長剣、ソードブレイカーを引き抜き再び二刀を手にして剣戟を叩き込む。

 上下左右から乱れくる斬撃を防御と回避で捌いていくが、所々コートを切り刻んでいく。

 更に離れようにも立夏の二機目のデバイスから放たれる射撃魔法が邪魔をして離れられない。そこで一瞬の間にソードブレイカーを剣の峰に合体させ、更に重みの増した一振りに男は再び体勢を崩された。

 体勢を崩したのを確認して二本目のソードブレイカーを腰から抜き、背後に回って軌道の違う斬撃を四回放つ。

「ちいっ」

 一撃目を蹴りで防ぎその反動で体勢を立て直し、残りの斬撃も防ぎきると技を放ち終わった立夏の懐に入る。

「まずっ」

「吹き飛べ」

 なんとか大剣を腹部と拳の間に入れて直撃は避けるが、魔力を乗せ当てられた拳から放たれる一撃を防ぎきれず、ビルを貫通しながら吹き飛ばされた。

「りっくん!!」

 三つほどビルを貫通して四つ目でようやく止まり、アリシアは立夏の様子を見に行くと意識がないのか壁に持たれかけて項垂れている姿を見つけた。

 体を揺さぶっても反応がない。

「りっくん起きて!! あ……」

 足音が聞こえて窓の方向を見ると、黒コートの男が刀を片手に歩いてくる。

「っ……なんでこんなこと」

「……アリシア?」

「えっ」

 突然名前を呼ばれてびっくりする。もしかして自分が見えているのだろうかと思い、立夏の前に両手を広げて庇うように立ちふさがった。

「なんでりっくんを襲うの」

「……お前には関係ない。退け」

「きゃっ」

 片手で払いのけられ、男は立夏に刀を振り上げる。

「っ!?」

 突然男が後ろへ跳んで距離を取った。

 アリシアは何事だろうと立夏を見ると、身体を帯電させてゆらりと立ち上がり剣を合体させる姿が見える。

「炎……」

 身体には雷撃、大剣には炎を纏わせたその姿に驚いたのだろう。アリシアも二つの魔力変換資質を持つ魔導師を見たのは初めてだった。

「アリシア、下がってろ」

「う、うん」

 邪魔にならないよう外に出て隣のビルから見ていると、先ほどまで居た階から爆炎が噴き出す。

 その炎と共に男が吐き出され、追うように立夏も飛び出した。その速さは今までと比べのものにはならない。

「マスター無理しすぎだよ!!」

「ソラスは雷神装とアクセル維持頼む、無理は承知だ!!」

「諦めなさいソラス、こうなったマスターは頑固ですから」

 雷神装、身体に雷を纏わせ攻撃に雷撃付与と移動速度を増す強化魔法で、更にアクセルムーブを重ね掛けして超高速で動くという負荷を多くしている。

 なのはとフェイトの様子も気になるが、相手が如何せん強すぎる故に少しも手を抜けない。

 逃げる男に射砲撃を放ちながらビルの間を縫うように飛び、防御魔法を展開するのが見えた瞬間速度を上げ防御魔法の上から大剣を叩きつける。

 魔法陣ごと切り裂き短めの剣、ショートブレイドを腰から引き抜いて左から振ると刀で防がれる。

 それを見越して袈裟懸けに大剣を振ると男は身体を捻り、斬撃を避け受け止めた剣も弾いて二本目の刀を抜く。ショートブレイドで刀を防ぎ、刺突を避けて背後に回り二本の剣を連続で突き出す。

「射抜!!」

「薙旋!!」

 二人が技を出したのは同時だった。

 刺突を軌道の違う斬撃で全て払い除ける。互いに技を放ち終えて少し距離を取ると立夏は更に疑問が増えた、何故この男が御神流までも使えるのかと。

「お前なんで御神流まで」

「……時間だ」

「時間? これは」

 上を見上げると巨大な桜色の球体が周囲から光を取り込むたびに大きくなっていく。なのはがクロノとユーノ、立夏たちと考えたフェイトに勝つための作戦である収束砲撃、ブレイカーだ。

 視線を男に戻すと刀を鞘に収めて立夏に背を向ける。

「逃がすか!!」

 ショートブレイドの柄を折りたたみ大剣の腹に装着し、肩に背負い大きく振るがそれは男には届かず。

「…………」

 振り返ると同時に居合いを放ち立夏を弾き飛ばす。

 空中で数回回転しながらなんとか体勢を立て直すと男の姿は既になかった。

「俺のようにはなるなってどういう意味だ?」

 大剣を弾かれた瞬間そう聞こえ、言葉の真意を知る術は既になく空を見上げると、閃光が海へと放たれた。

 雷神装を解除しブレイカーの放たれた方へ向かうと、海に沈んだビルの瓦礫になのはとフェイトの姿が見えた。ブレイカーに飲まれたフェイトを海から引き上げたのか二人ともびしょびしょに濡れている。

 なのはが何かを話そうとしている姿に水を差しては悪いだろうと思い、アリシアと様子を見守っていると天候が突然悪くなっていく。

 フェイトもなのはから離れるように宙へ飛ぶ。

「ママ……?」

「母さん?」

 アリシアとフェイトがそう呟いたのはほぼ同時、フェイトに光が差し込みそこへ雷が落ちた。

「フェイトちゃん!!」

「フェイト!!」

 防御する間もなく海中へ沈むフェイトをなのはと一緒に助けに入る。

 なんとか二人で抱えあげて海面へ出ると、すぐに転送が開始されアースラへ戻った。

 艦内ではフェイトとアリシアの母親、プレシア・テスタロッサの居場所を特定し管理局員がその居城へ突入していくところだ。

 フェイトはなのはに任せ、先にブリッジで様子を見ているとなのはとフェイトがやってくる。

「ママ……」

「この流れ、どこかで」

 また脳裏に今起きている事の少し先であろう映像が流れる。局員たちがプレシアの雷撃で倒され、アリシアのことを話し出すところまで。

 この映像は、まるでこの先起こる事を止めろと言わんばかりに。

 あまりの情報量に頭痛が止まらず頭を抱える。

「ぐうう……」

「立夏くん?」

「りっくん、大丈夫?」

「だい、じょうぶ」

「……この子の身代わりの人形を娘扱いするのも。聞いていてフェイト、あなたのことよ? せっかくアリシアの記憶を上げたのにそっくりなのは見た目だけ、役立たずでちっとも使えない私のお人形」

 プレシアからフェイトを罵倒する声が聞こえる、横ではアリシアが泣きそうな表情で顔を両手で覆っていて見るに耐えない。

 アリシアは昔ある実験の事故の余波で亡くなり、その後プレシアは人造生命の研究を始め、死者蘇生の技術である記憶転写型特殊クローン技術『プロジェクトF.A.T.E.』を始めた。

 しかしその研究で生まれたのはアリシアではなく、魔力資質も聞き手も違う別の子供だった。

「フェイト、あなたは私の娘じゃない。ただの失敗作、だからあなたはもう要らないの。どこへなりとも消えなさい!!」

「…………」

 プレシアの言葉をただただ聞くフェイト。彼女の言葉が正直信じられないのだろう、自分がクローンだと言う事も今知ったようだ。

「良い事を教えてあげるわフェイト、あなたを作り出してからずっとね、私はあなたのが大嫌いだったのよ」

「っ……」

「ママ……っ」

 フェイトが握り締めていたデバイスを落とすと、アリシアも泣き声を殺しながら崩れ落ちる。

 自分が原因でこうなったんだと、そこに暖かい手が頭に載せられた。

「りっくん?」

「プレシア、アリシアはまだ生きてるんだ!! そこから出してあげてくれ!!」

「立夏くん!?」

「立夏、なにを」

 突然の発言に周囲に動揺が走る。

 何故そんなことを知っているのかという疑問を隠しきれない、だけど立夏だけがアリシアが生きているということを知っていた。

 その目で見て、話し、触れられるアリシアの存在を知ることができる唯一の人物だからだ。

「なにを言っているの? アリシアはもう居ないのよ、ここにあるのは身体だけ。だから私たちは旅立つの、永遠の都アルハザードに!!」

 そういうとアリシアの身体が保存されているポットを浮遊させジュエルシードを発動させると、アースラまで到達する次元震が発生し、船が大きく揺れる。

「ちっ、そんなことさせない。助けてみせるぞ、あんたもな!!」

「子供になにがわかるのよ……」

 頭の中に流れた映像のようにはさせない、プレシアだけ次元の狭間に落ちていくようなそんなことは、と誓い座り込むフェイトに寄り添い。

「フェイト、絶対和解できるよ。だから俺があの人も、お前のお姉ちゃんも助けてみせるから休んでてくれ」

「立夏くんどこに行くの!!」

「あそこに乗り込む、この次元震も止めなきゃだしな!!」

 ブリッジを飛び出し転送ポートへ向かう。

 肩のほうを見るとアリシアも着いてきていた。

「ありがとうりっくん、ママをお願いね」

「おう、悲劇なんてもう沢山だ。なら俺が喜劇に変えてやる」

 そういうとアリシアは微笑み、二人でプレシアの居る次元の庭園へと向かった。

 




第六話です、次話で無印編最終話になると思いますのでよろしくお願いします。

あとよければですが感想などいただけると嬉しいです。

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