魔法少女リリカルなのは~FORTUNE LINKAGE~ 作:桐谷立夏
「はぁっ!」
「さすが立夏、速いな」
「速さと正確さなら俺たち以上になりそうだ、子供は飲み込みが早い」
温泉から帰ってきて二日、立夏は何時もの朝練に出ていた。
今日は恭也に相手をしてもらうことになっていて、道場の中を立夏は縦横無尽に駆け全包囲からの斬撃を恭也に打ち込むが確実に捌かれていく。
御神流独特の動きにまだ慣れていない為か、立夏の動きも少しぎこちない。
「中々通らないっ……!」
「俺たちぐらいになるとこれくらいはできる」
雨の様な連撃は同じような連撃で防がれ、瞬きした一瞬で恭也の姿が視界から消える。立夏は道場の中央で二刀を中段に構えて動かなくなった。
士郎は道場の隅で全体を見渡していると、恭也が高速で立夏の背後へ回り込み強襲を掛ける。その動きを読んでいたかのように身体を捻り斬撃を受け止め、そのまま多少魔力を足に込めて再び恭也と高速戦を繰り広げ。
「速いだけじゃ駄目だぞ、立夏」
「うわっ」
「俺の勝ちだな」
士郎の前に立夏が転がった、恭也もいきなり目の前に現れ彼を立たす。
「立夏は本当に剣の素質があるな、その歳で大体の奥義を使いこなすなんて」
「いやいや、俺には閃と神速は使えそうにないです」
褒めてくれるのは嬉しいが御神流に伝わる秘奧だけはどうも使えそうになかった、さすがにあれは人間が使える限界を超えた業らしく、子供の立夏には到底使えそうにない。
「もうすぐ学校だろ? 準備してこい」
「はいっ、ありがとうございました」
道場を出て母屋で風呂に入り、タオルで頭を拭きながら部屋に戻ると。
「えっ」
「あ」
タイミングが悪かったのかなのはが着替えをしていた、丁度パジャマを脱いでそこから制服を着ようとしていた最中らしい。一応互いが着替える場合にはどちらかが外に出る事にしていたのだが今回は立夏の帰りが遅かったためなのはも油断していた。
あ~あれか、漫画でよくある女の子が着替えてる最中になにも知らないで入る感じのやつか。や、俺既に入ってるし。どうしようか、ここでなのはが叫んだ場合恭也さん達が飛んで来て俺は間違いなく制裁くらうよな。
というか早く出ればいいだけだろ俺!?
以上0.8秒での冷静な思考であった。
立夏は急いで部屋を出て扉を見る、閉じられた扉からは無言しかなかった。
「えーと、なのはさん?」
「…………立夏くん、入って来て」
身体に寒気を感じた、こんなにも低い声で会話したのははじめてでそれはもう怖い。恐る恐る部屋に入るとなのはが中央で制服姿のまま立っていて、何か黒いオーラが出ているようにも見える。
「しょうがないよ、立夏くんはお父さんとお兄ちゃんと剣の練習してたんだもんね」
「は、はい」
「でもね、見ちゃったなら…………すぐ謝るよね」
そうなのだ、出るときに立夏は謝っていない。
どちらにせよ出たあとでも謝れたはずだ。
「あはっ、あはははっ、悪いこには……」
顔が笑っているのに目が笑っていない、もう怖くて怖くて立夏は身体が震えてきた。
そして何より、その表情が昔怒らせたユイのものと酷似していてさらに寒気が襲う。確かあの時は盛大に怒られたことを思い出す。
「おい、まてなのは! 焦ってたのもあるし謝なかった俺がわるかっ」
「お仕置きなの!!」
おもいっきり頬をつねられる、びよーんと擬音が出るくらい伸びている。
というか痛い。
「ふぁのはさん、ごめんなひゃい。ひゅるしてくだふぃい」
「……少し、頭冷やそうよ」
「ぶるぁぁぁぁぁあ!!」
なのはの部屋で断末魔が響いた。
「痛い……これはマジで痛い」
「ごめんね? やりすぎちゃった」
バス停までの道を歩く二人、頬は赤くヒリヒリする。あれから数分つねられ続けられもうなのはに逆らおうと思う気は一切なくなった。
「少しやりすぎ……」
「あう、反省してます」
苦笑いしながらなのはがしょぼしょぼ歩く。あの低い声であんなことをされては抵抗しずらいのもあったが、悪いのは立夏であったのには変わりない。
「ごめんなさい。俺が悪かった」
「ううん、私も本当にやりすぎちゃったし」
「それじやおあいこな」
「うん」
バスがやってきて二人で乗り込む、奥に友達二人の姿を見つけてなのは達は一番奥の席へ向かった。
(だ……か…き……え……)
「っ」
授業中に頭の中へ声が響いたが、電波が悪い電話のようにかすれていてよく聞こえない。
集中するために目を閉じる。
(だれか……ている人…)
女の子の声とようやくわかった、助けを求めているているようにも聞こえる。
(なのは)
(私にも聞こえるよ)
念話であることはわかったが場所が中々特定できない。ユーノにも聞こえていたことを確認して広域探査を頼む。
(おねが…さんと……を)
(君は誰なんだ。名前は?)
(あ……あ)
(名前かな)
(もう一回頼む、君の名前は?)
ここで念話が途切れた。あ、と言い残して。
(ユーノ、どうだった?)
(ごめん、分からなかった。かなり雑音もあったしこの地域じゃないのかもしれない)
彼にもわからなかったらしい、この地域じゃないにしてもあの声はなにかを訴えかけていた。
そして悲しそうな声、ちゃんと聞こえればよかったがそれはもう叶わない。
(きっとまた話しかけてくれるよ)
(そうだといいな)
二人は授業に集中した、だが問題はまた別の場所でも起きていた。
「なのは!」
「えっ、なに?」
「アリサちゃんの話聞いてなかったの?」
「……ごめんね」
最近なのはがかなりボーッとすることが多くなってきた、フェイトの事をずっと考えているらしくアリサ達の会話すら聞いていない事もある。余程気になっているらしい。
これが原因でアリサがかなり怒っているのにも立夏は頭を抱えていた。すずかは何時も通り穏やかな表情だが内心どう思ってるかは分からない。
この三人が関係を崩すのを立夏は見たくなかった。
「どうにかならないもんかねこれ」
(難しいでしょうね、彼女の悩みは私たちにしか分かりませんし)
事態はかなり深刻のようだ、その時タイミングがいいのか悪いのかチャイムが鳴った。アリサは不機嫌ながらも席に着く。
「なんとかしてみるか」
(頑張ってください)
席に着いて教科書等を机から出して授業が始まった。
そして放課後。
「今日もアリサちゃんに怒られちゃった」
「今は気にしない方がいいよ」
アリサ達と別れて二人は帰路に付いていた。最近のことに関しては気にしてはいるらしい、そうは思っていたがこればかりは解決は難しい。アリサやすずかにこの事は話せないものだ。
「なのは、今日は休んでなよ。俺が探すから」
「ううん、平気だよ。わたしも探す」
「無理してないか?」
「してないよ、元気一杯だから」
そう言ってガッツポーズを見せる、本人が平気と言うからにはこれ以上追求しても仕方がない。本当に辛そうになるまでそっとしておこうと思って、春紀は先に行った彼女を追った。
今日は分かれてジュエルシードの捜索をすることにして隣の市との境を歩きながら探し続ける立夏、三十分毎になのはと連絡を取り合っているが見付かった報告はない。
「反応ないな」
「そうですね、前の以来見付かりません」
何よりあの二人と会うことも視野に入れておかなければならなかった、出会えば間違いなく戦闘になる。それの対処もしなくてはならない。
「むぅ……うわっ」
「おっと」
色々考えながら歩いていると、曲がり角から出てきた女性にぶつかった。ふと顔をあげると、
「フェイトの使い魔……!」
「何時かの黒い子じゃないか、タイミングがいい!」
女性、アルフが後ろに跳んで離れると辺りが寂しい色に変わる。
結界が張られたらしい。
「ここで足止めしとこうか」
「余り気が進まないけど、あれの試しにはなるか」
「そうですね」
「ごちゃごちゃ話してるんじゃないよ!」
アルフの腕にはガントレットが装着されており、立夏に向かって跳びかかる。それに対して立夏は新しい魔法を使うために防護服を纏おうとしていた。
◇
「ふぅ」
(なのは、大丈夫?)
(うん、平気だよ)
海鳴市街を歩きながらなのはとユーノはジュエルシードを探していた。
しかし今日のなのはは溜め息が多い、他の人からも目に見て分かる。
理由はわかっていたが、これはなのはが自分でなんとかしなければいけないとユーノは何も口にしなかった。
(立夏くん大丈夫かな、あれから連絡ないけど)
(うーん、今何処に居るかわからないし。一時間くらいだよね、連絡ないの)
(そうだね、それくらいかな)
―――三十分毎に連絡するって言ってたのにあれから念話はこないし、立夏くんどうしたんだろ。
(あっ、そろそろ時間じゃない?)
「時間切れかぁ~、今日は帰ろうか」
気付けば時間は夜の七時になってた、立夏くん先に帰ってるかもしれないし。私は自宅に向けて足を進めた。
◇
「まだやる?」
「くぅ」
バリアジャケットを解除して既に私服になっていた立夏の前には、膝をついていたアルフが息を荒げていて、その足下には蒼白い魔法陣が展開されている。
「こんな強いとわね、油断したよ」
「なのはが言ってた通り、なんでジュエルシードを集めてるんだ? 別に俺たちは戦いたい訳じゃない」
「目的があるから、それ以上は言えない」
そこに一人の黒衣を纏った少女が二人の間に降り立った、立夏となのはが二度もぶつかりあった少女、フェイトだ。
「フェイト」
「アルフ、大丈夫?」
「加減はしてもらったみいだから」
キッ、と振り返って一瞬立夏を睨む。こちらは戦う気力などない、ただでさえ女性を傷付ける行為は好きではないのだ。
「使い魔を傷付けたことは謝る、それと今はなるべく戦いは避けたいんだけど」
「頼むよフェイト、一応手当ても受けてるんだ」
蒼白い光はアルフの体を包んでいる、柔らかく優しい光だったのは彼女も既に気付いていた。
「そうだね、今戦っても意味は無さそう」
「ありがとう、フェイト」
不意に名前を呼ばれてビクッ、とするが手にしていたデバイスを下げた。
何故か頬が赤いようにも見えたのは気のせいだろうか?
「治癒はどれくらい?」
「あと数分だと思うよ、あんま得意じゃないから時間がかかって。悪いな」
専ら戦う方が得意だったので治癒系の魔法は不得意だ、こんなことならユイにでも習っておけばよかったと少し後悔した。
「敵なのにどうしてここまでするんだい?」
「俺は敵とは思ってないよ、多分なのはも」
この前なのはが話していたが、最初にフェイトと戦った時、ごめんねと言われたと言っていた。それから戦闘を重ねて明らかな殺意や敵意はないと確信していた。
やや会話をしている内にフェイトの表情が少しは柔らかくなっていく。
「なあフェイト、どうしてジュエルシードを集めてるんだ? 余程な理由があるのはわかるけど」
「…………母さんのため」
数秒の間、理由を話そうか悩んでいたがフェイトは口を開く。アルフも止めようとしないところ立夏を少しは信頼してくれたらしい。
「凄く必要なものだって、だから」
「そうか」
彼女の言葉に少し疑問を覚えた、いくらジュエルシードを手に入れたいとしても娘に取りに行かせるだろうか?
それに物はロストロギア、物が物だけに管理局が介入してくる可能性もある。そんな危険なことをフェイトにやらせているのか不思議だった。
(必要なものね、なんか裏がありそうだ)
なぜジュエルシードを必要なのか気になる、ある意味人の手に余るものを何に使うのか。
「う~ん、目的が目的なだけにどっちも筋は一応通ってるし」
どうするかと悩んでとりあえず中立でいようと思った。
理由として若干フェイトと戦いづらいというのが大きい。
「立夏、あんたはこれからどうするんだい?」
「俺はなるべく中立を保つつもりだ、フェイト達もジュエルシードは集めなきゃいけないしなのは達も信念がある。だから俺は真ん中、どっちの敵にもなるし味方にもなる」
「なんでそこまでしてくれるの?」
不思議そうにフェイトが聞いてきた、確かに赤の他人にここまでする人はまず居ない。
「ん~、家の家訓に困っている人がいたら助けろ。二人居たらどっちも助けるっていうのがあってな、要はお節介だ」
「ふふふふっ」
「変な家訓だねぇまったく」
二人が笑う姿を見て、なんだか懐かしい感じがした。まるで昔から知り合いのよう既視感に襲われるがすぐに振り払う、記憶を遡るがフェイト達に会ったのはこの街が初めてなのは間違いなかった。
「…………」
「立夏、だったよね?」
「うおう」
フェイトに名前を呼ばれて少し驚く、とても優しい声音で呼ばれるのが凄く気持ちよかった。
「それで合ってるよ、なに?」
「私のこと、あの子には話さないで」
事情を知られたくないのという気持ちがフェイトの中で大きかった、なのはに話せば少しでも気持ちが揺れてしまうから。
「フェイトがそう言うなら言わない、雷光に誓う」
「キザな子だね立夏は」
アルフは雷光とは主のことだと察したらしい、要はフェイトに誓うということだが彼女はそれに気付かなかったようだ。
「ありがとう、それじゃ行くね」
「それじゃまたね」
アルフの治癒も終わり、お礼を言って二人は転移して消えると結界も解除され元の街の色に戻っていく。
「まったく、お節介がすぎますよ。立場も微妙な場所になって」
「うん、自分でもそう思う。でもなんかあの二人のこと見捨てられなくて」
とりあえず帰路につきながらクラウのお説教を受けることになる、しかし立夏は今回の選択は間違ってないと思えたのだ。なぜかは分からないが、答えるなら魂がそうしろと訴えていたような気がしていた。
家に着き部屋に入るとなのはがベッドの上でユーノと話をしている途中だった。
「おかえり、どうだった?」
「……収穫なし、中々見付からないな」
なのはも見つけられなかったようだ、一応フェイトとの約束もあり彼女のことは話さない。
「少し風呂にでも入ってくるよ」
「わかった」
アルフとの戦闘で少し汗をかいたのもあり、着替えを持って脱衣所で服を脱いで風呂場に入ると。
「おお立夏、一緒に入るか?」
「あ、はい」
士郎が風呂に入っていた、鍛えられた体にはかなりの傷痕がある。実際かなり謎な人である、こんな身体に傷をつける仕事はそうそうない。
「それじゃ失礼します」
体を洗って浴槽に入るが話すことがなく、しばらく沈黙が漂っていたが士郎がそれを破る
「最近帰りが遅いな、なにしているんだ?」
「友達の探し物です、中々見付からなくて」
嘘はついてない、なにをとは言えないが。
「そうか、余り遅すぎないようにな」
「はい」
「それと、そろそろ他人行儀も止めてくれてもいいだろう?」
「……そうですね、それじゃあここで一つ話しておきます。俺には今両親は居ないんです」
「どうしてだい?」
真剣に聞いている士郎、嘘をつき通そうとしたがさすがに話をしなければならない。なのはにも話したことだ。
言える範囲で話を始める。
「二人とも他界してて、少し現実から逃げてさ迷ってたらなのはに」
「ふむ」
「身寄りも居ませんし、ここに居候するのも悪いと思ってますからそろそろ」
「ならここに居なさい、別に居候しても構わない。美由希や恭也、桃子になのはも、俺も立夏が家に来て良かったと思ってる。恭也たちなんか弟が出来たって喜んでる、だから遠慮するな」
「っ」
家族を失ってからひたすら魔法を勉強し、強くなって姉を助けようとしてる時になのはに出会って、ユーノや高町家のみんな、アリサ、すずかに出会った。一緒に居れて楽しかった、だがここに居ていいかが不安だった。
本当なら出会うことのない人間である自分が居ていいのか。そんな不安をすぐに士郎は打ち消してくれる。
まるで本当の父親のように優しく接してくれた。
「泣くな、男の子だろう?」
「グスッ、すみません、ありがとうございます……父さん」
「! ……どういたしまして」
すぐに涙を拭くと、立夏の顔はやや逞しくなった顔に変わっていて士郎は少し驚いた。
こんなに良い顔を見るのは初めてだ。
「先に出ます」
「おう」
脱衣所で体を拭きながら春紀は感謝し続けた、それはもう足りないくらいだが。
部屋に戻るとなのはがお茶を用意して待っていた。
「おかえり」
「ただいま、あれ、ユーノは?」
「もう寝ちゃったよ」
籠の中で体を丸めて寝ているユーノに気付く、疲れた上に広域探査の魔法をかなり長時間使っていたらしくかなり魔力を消耗したらしい。
(うわ~、なんか髪濡れてる立夏くんかっこいい)
乾くと少しツンツンしてるけど実際髪を下ろしてる方がかっこいいな~。二、三ヶ月したらもっとかっこいいかも。
「あ、今日は髪下ろしてるんだな」
「基本髪下ろさないもんね、わたし」
「髪を下してるのなのはも可愛いな」
あう~、立夏くんってよくこう言うこと言うよね、嬉しいんだけど自分が言った言葉の意味わかってないみたいだし。
温泉の時だって……なんか恥ずかしいな。
「どうした? 顔赤いよ?」
「なっ、なんでもないよ? うん、なんでもない」
「ならいいけど、お茶美味しいな」
変に鋭いし。でも油断してるとアリサちゃんに負けちゃう。がんばんないと!
「アリサのこと、気にしてるのか」
「えっ? あ、うん」
本当に鋭いね、立夏くんはわたしの悩んでるとことかすぐ見抜いちゃう。悩んでる素振りなんて見せてないのに。
「余り気にしない方がいい、悩みなんて中々他人に言えるものじゃない。親友でもな」
「あははは、ありがとう」
「まぁアリサは友達だし、なのはも」
「わたしも?」
あ、そうだ。この前お姉ちゃんから教えてもらった好きな人を振り向かせる作戦一、やってみようかな。わたしは下から上目使いで立夏くんを見ると段々顔が赤くなっていった、なんか可愛い。
「えと、なのはも友達だから二人が嫌な空気になるの嫌だし」
「ありがとう、心配してくれて」
頬を掻きながら立夏くんは目をそらした、お姉ちゃんが教えてくれたこと凄い効果。
「まぁ、不安なこととかなんかあったら俺に言って。出来る限りするよ」
「わかった、それじゃ寝よっか」
時計を見ると既に二十三時を回った、早速お願いしちゃおうかな。
「立夏くん、今日、一緒に寝てくれないかな?」
「……………………はい?」
今なのはなんて言った? 一緒に寝てくれないかなだって? 確かにさっき不安なこととかなんかあったら出来る限りするって言ったけどさ。
ん~なんか不安なことあるのか?
「駄目、かな?」
上目使いで見ないでください、男はそういうのに弱いんです。
あーもう! 男に二言はないか。
「わ、わかった」
「ありがとう♪」
こうして立夏の長い夜は始まった。
布団に入って約一時間、未だに寝れずにいる。
(寝れない……なんかシャンプーのいい匂いするし、それになのはの匂いが……)
男には拷問クラスの快適感と同時に地獄でもある、まず異性と同じ布団で寝るのが本来中々無い。以前夜中になのはがトイレから戻って来たときに立夏の布団に入り込んだこともあった。
その日の朝はかなりテンパった、起きると何故か目の前にはなのはという緊急事態。そーっとベッドに運んで事は済ませたが今回はそうもいかない、心臓がバクバクいっているのがよく分かる。
(にしても)
今は反対を向いているなのはの身体が少し震えているのが少しわかった、寝ているのは間違いないが。
「お父さん……お姉ちゃん、寂しいよ……」
以前、春紀は桃子と恭也、美由希から聞いたことがあった。一時期士郎が大怪我をして入院していた時期があったらしい、自営業で経営している翠屋も開店したばかりで忙しく、なのはが一人の時が多かったらしい。その時の夢でもみているのだろう。
基本弱いところは見せないなのはだがこういう所で出していたのだ。
「なのは、今は俺が居るよ」
後ろからそっとなのはを抱きしめた、しばらくして震えは止まり。
「りっ、かくん」
静かに立夏の名前を呼ぶ、どうやら起こしてしまったらしい。
「あ、悪い。起こしたか?」
「ううん、なんか安心した」
春紀の方を向きなのはと視線があった、抱きしめている状態だから非常に顔が近い。
「お母さん達以外に、抱きしめてもらったのはじめて」
立夏の胸に顔を埋めるなのは、恥ずかしくなったその顔は最早りんごのようだった。こんなに密着したのは温泉でのキス事件以来だ。
「まだ不安?」
「少しだけ、だから」
「じゃあ、なくなるまでこうしてるよ」
少し呆気にとられたなのはだったが、そのまま立夏を抱きしめる。
「おやすみ、なのは」
「うん、おやすみ。春紀くん」
暗い部屋に、再び静寂が訪れた。今度はちゃんと眠りにつけたようだ。
翌朝
「なのは、立夏。朝食だぞ」
「なのは~?」
朝、中々降りてこないなのは達を不思議に思って恭也と美由希部屋の扉を叩く。中からはただ静寂だけが帰ってきていた。
「なのは、開けるぞ」
ドアノブを引いて部屋にはいると。
「あらあら」
「仲がいいんだか」
ベッドではなのはが立夏を抱きしめている形でまだ寝ていた、机からユーノが降りて美由希の体を駆け登って肩で座る。
「恭ちゃん、あとお願いね」
「わかった」
このあと、なのはが起きたときまるでりんごのように顔が真っ赤になったのは余談である。
「危なかった」
「危うく遅刻するとこだったな」
恭也に起こされてすぐ朝食を済ませ、急いで着替えてバス停に向かった。バスが来るにはまだ二分くらいの猶予はある。
「クラウ、起こしてくれてもよかっただろ?」
「よく寝てらしたので、なのはさんともいい雰囲気に」
「わー! クラウ、意地悪だよ」
「あ、バス来た」
タイミングが良いのか悪いのかバスが目の前で停車する、春紀は気にしないように二人の会話は聞かないことにしていた。
運転手に挨拶をしてアリサたちのいる一番奥の席に座る。
「おはよ」
「おはよう、なのはちゃん立夏くん」
「いよっす」
「おはよう、アリサちゃん、すずかちゃん」
何故かアリサとなのはに挟まれて座る立夏、少し前からこの座席順が変わることはない。誰もこの順番に疑問を持つことはなかった。
(なんなんだ?)
さすがに疑問に思い始めていたが二人に聞こうにも聞きづらくて結局聞けず、普段通りの会話をしながらゆらり揺れながら学校に行った。
「いい加減にしなさいよ!!」
休み時間、トイレから立夏が戻るとなのはの席が強く叩かれる、またぼーっとしてしまったらしく等々アリサがしびれを切らしたようだ。
「ごめんね、アリサちゃん」
「ごめんじゃない! 私たちと話してるのがそんな退屈なら一人でいくらでもぼーっとしてなさいよ!」
そう言ってアリサは教室を出ていく、心配してかすずかも追うように出ていった。
「大丈夫か?」
「……怒らせちゃった」
なのはの肩を軽く叩く、しょんぼりしているのは目に見えていた。
苦笑いしながらまた悩み始める。
「まぁ、俺はそばにいるから」
「ありがとう……」
そしてまたチャイムが鳴った。
「立夏、またな」
「月島くん、またね」
「じゃあな~」
放課後、掃除が終わって教室を見渡すとなのはが居ないことに気付いた。同じクラスの女子に聞くと先に帰ったらしい。
「無理するなよ。馬鹿」
急ぎながら立夏は自宅に向けて帰った。家に着くとまだなのはは帰ってきていないらしく靴が無かった。荷物を置いてベッドに寄りかかる。
「クラウ、少し眠るよ。なのはが帰ってきたら起こして」
「分かりました」
なのはのベッド借りよう。
布団の上から倒れこんで立夏は目を閉じた。
「ただいま、あれ?」
なのはが帰るとベッドの上で立夏が寝ていた、ユーノの姿も無い。
「立夏くん?」
呼んでも返事が返ってこない、クラウも沈黙したままだ。寝たふりをしているのだろうと思い、なのはも意地悪してやろう考えつく。
「起きないと……えと、キスしちゃうよ?」
音をたてないように立夏の傍まで近づく、本当に寝ているらしく頬を突いてみても身じろぎ一つしない。
「りっか……くん?」
「んあ?」
と、顔を近づけようとしたところで立夏が目を覚ます。
すぐにベッドから離れて。
「お、おはよう立夏くん」
「あ……おかえりなのは」
動揺しながらもなんとかキスしようとしたことを忘れようと話の話題を探す。
しかし思ったより焦っているらしく、なにを話していいか考え付かず右往左往していると立夏が真剣な目でなのはを見る。
「無理して先に帰るなよ、その方が心配するし」
彼には無理していたことが分かっていたようだ、本当に心配していたらしく眠気眼を擦りながらも心配そうな表情をしていた。
「あ、ごめんなさい……」
「いいよ、次からは無理するなよ?」
そっと頭を軽く撫でるとなのはは気持よさそうな表情をした。
「あのね、立夏くんが来てから最近凄く楽しいんだ」
何故か、今の気持ちが口に出る。
きっと目の前の少年と居るのが凄く安心するからだ。
「俺が来てから?」
「うん、ユーノくんと出会って、ジュエルシードを追ってたらお腹を空かせてる男の子に会って」
「その節は世話になったよ、本当に」
もう立夏が高町家に来て一ヶ月くらいになる、なのはと出会った時は空腹が限界に達して数分気絶したこともあったのは少し苦い思い出だ。
「家に来てくれてありがとう、立夏くん。これからも一緒に居てね」
「っ……ああ、これからもよろしく」
なのはの笑顔が凄く綺麗で可愛くて、立夏は少し目をそらした。
「それじゃあ今日も探しに行こっか」
「おう」
こうして今日もジュエルシードを探しに出る、市街地でなのはとユーノは合流して何時も通り分かれて捜索を始めて数時間がたった。
「反応が小さすぎる、このへんなんだけど」
「覚醒してくれればすぐに見付かるんですが」
二人が地上で捜索している間、立夏はビルの上から広範囲にかけて探査魔法を使っていた。しかし中々場所が特定できない、起動状態に近ければすぐ発見できたのだが。
周りに複数のモニターを展開してしばらく監視しているとクラウが何かを感知する。
「……魔力反応です」
「これは……まさか強制発動させる気か!?」
すぐにバリアジャケットを纏い、腰に剣を吊り空へ上がった。
そのあとユーノが結界を張ったのか周囲から人の気配が消える。
「ふぁあ……マスターおはよ~」
こんな緊急事態な時にのんきな声が聞こえてきた、右手に着けていた指輪型のデバイス『ソラス』だ。
「……呑気だなおい」
「そりゃ今まで全リソースを修復に回してたんだからしょうがないじゃん」
このソラスは普通のインテリジェントデバイスとは全く違う、なんというか性格がぶっ壊れている。
製作者の父は「親しみやすくていいだろう?」と言っていたが逆に最初のころは親しみ辛かった。
「で、あれからどれくらい経ったの?」
「一年くらいです、修復お疲れ様」
「姉さんもマスターの面倒見ててくれてありがとう」
「はい、とりあえず今の現状説明するぞ」
なんだか久しぶりに会った姉妹の会話を終わらせて―――実際久しぶりに会った姉妹だが―――今までのことと現状の状況を説明する。
「マスターってバカ?」
「おいこら、どういうことだ」
早速バカ扱いされた、本当にデバイスなのかと思うくらいフレンドリーに言う。
「いくらロストロギアに頼っても死者は蘇らない、子供でも分かるでしょ」
「へえへえ、そうですね」
「捻くれてないでさっさと封印しますよ」
ソラスにも正論を言われて捻くれた瞬間にクラウの呆れた声で意識を切り替える、このままジュエルシードが暴走でもすればなにが起こるか分からない。
少し高めに飛んでいると金と桃色の閃光が前方で迸る。
「あの二人か、ったく」
「付近ではユーノさんとアルフさんも戦闘中のようです」
四人とも戦闘の真っ最中らしい、この状況でどう動こうかと悩む。
フェイトに中立といった手前戦闘に介入するわけにもいかない、かと言ってこのまま静観しているわけにもいかないし、とりあえず現状を見守っているとフェイトが先にジュエルシードの元へ向かう。それをなのはも追いかける。
「ソラス、イエーガー」
「はいは~い」
指輪が刃の黒いフレームの鎗に変わった、刃は真ん中から割れて片方の刃が下にスライドし、割れ目から魔力刃が伸びる。
すると刃と柄の間から蒼い翼が現れ、両手で柄を握り。
「確保するぞ」
「起きたばっかりなのに、使い勝手悪いなぁ。とりあえず行くよ!」
そのまま突撃するように立夏もジュエルシードの元へ向かう、少し二人から出遅れた形になったが先にジュエルシードの元へ辿りついたと思った瞬間。
「っ」
「あっ」
「な……」
レイジングハート、バルディッシュ、ソラスが同時にジュエルシードを囲むようにぶつかり合った。
三人の魔力のせいかなのはとフェイトがした封印が解けて衝撃波が襲い、全員のデバイスに亀裂がはいり三方向に吹き飛ばされる。
「ちいっ」
「きゃぁあ!」
なのはと立夏は地面に叩きつけられ、フェイトはなんとか空中で体勢を立て直してデバイスを待機状態に戻す。
立夏もなんとか起き上がり、再びジュエルシードを封印しに動こうとした瞬間、フェイトがジュエルシードを素手で掴み再度封印を試みていたのが見えた。
デバイスのアシスト無しではかなり危険な行為でしかない。
「ぐぅ……」
「フェイト駄目だ! 危ない!」
「あの馬鹿っ、デバイスのアシストなしで何やってるんだ!」
アルフが叫んで止めるがそれを聞かず封印を続ける。急いで立夏もフェイトの元へ向かうと、手のひらからは鮮血が飛び散っていた。
「止まれ…………止まれ、止まれ、止まれっ!」
ミッド式を展開し、膝を付きながら祈るようにただ魔力を込めるが蒼い光は収束しない。このままではフェイトの命に関わる、アルフも手伝いにと向かおうとすると立夏がフェイトの両手を掴む。
「痛っ」
「立夏! なんで」
突然立夏が封印に加わったことに少し驚いた、なにが起こるかわからないこの状態でなぜ手伝いに来たのだろうと。
「なんでもなにも、お前が危なっかしいからだよ!!」
ミッド式を展開し封印に集中しようとて、フェイトの指を一度開いて立夏が直接ジュエルシードを掴む。よく見るとフェイトの手はグローブも千切れて血まみれだ、こんな負荷の掛かった状態にしておくわけにはいかない。
「りっ」
「今は封印に集中……っ」
フェイトの言葉を遮る、やはり数秒掴んでいただけでグローブが千切れて掌が裂ける。それから数十秒がすぎると光は収まった。
「やっと……封印」
「立夏!!」
倒れそうになったのを心配そうにフェイトが支える、思ったより直接封印の負荷が大きかった。大丈夫と手でジェスチャーをして立ちあがりジュエルシードをフェイトに渡す。
「これ……もってけ」
「いいの?」
「ああ、これはフェイトが持っていくものだ」
「…………」
しばらく悩むようなそぶりを見せた後、フェイトはマントの裾を破って両手に巻いてくれる。
「ありがとう」
「こちらこそ、それと……ありがとう」
「フェイト、行くよ!」
去る間際に少し微笑んで夜の闇に二人は消えていった、それを見届けて立夏はなのはの元へ行く。地面に叩きつけられてはいるが本人には外傷があまり見られなかった。
元来の高い魔力値とデバイスの性能が功を成したようだ
「立夏くん」
「お互いにボロボロだし帰ろうか」
なのはの手を引っ張って起こし、三人は帰路についた。
「ソラス、大丈夫か?」
「明日の朝には直るよ、レイジングハートの方は明日中だって」
家に着いてなのはが風呂に入っている間にソラスの破損状況を確認していた、二機ともかなり破損したらしいが高性能なのが幸いしてすぐに治るらしい。
「本当に踏んだり蹴ったりだよ、直ったと思ったらすぐフレームに皹入っちゃってさ。不憫なデバイスだなワタシ」
「悪かったって、そう言えばあれは使えるのか?」
「大丈夫だよ、システムも問題ないし」
ソラスに装備されているあるシステムも修復しているようだ、いざとなった時の奥の手が使えるのは心強い。
「なんの話?」
「内緒だ」
ユーノも気になったようで聞いてきたが教えるわけにはいかない、それを教えれば立夏の正体にも繋がる。
これからどう動こうかと相談しようとした時だった。
(だれか……聞こえ……?)
「この前の、君は誰だ?」
また謎の念話が立夏の元に届く、ユーノも聞こえているらしくなのはもすぐに部屋へ戻ってきた。
「立夏くん!」
(わたしは……アリシア、おねが……来て……フェイトが)
「アリシア、何処に行けばいいんだ!?」
(……)
立夏の返答には答えなかった、しかし気になる名前がアリシアから出て少し考えさせられる。
一体フェイトとどういう関係があるのか。
「アリシアちゃん、か。誰なんだろ」
「明日は学校行かないで調べてみる」
「わかった、気を付けてね」
サボったら士郎に怒られるだろう、しかし学校の授業よりこっちの方が大切だ。
翌朝にはソラスは修復が完了していた。二機を指に着けて私服に着替えた、まだ早朝なのでなのははまだベッドで寝ている。
「フェイトか」
「彼女となにかしら関係があるのでしょう」
「んじゃあの子を捜すか」
まだ日も上がらないうちに置き手紙を書いて家を出た。
「この前アルフと会った時、確か遠見市の方から歩いて来たよな」
「そうですね」
家を出て数時間、立夏は市の境を歩きながら隣の街にある高層ビル群を見る、既に日は昇り暖かな陽射しが降り注いでいた。
この前たまたま出会ったアルフが来た方向を考え隣の市から来たと立夏は推測した、今思うとフェイト達が海鳴市内に居るならジュエルシードを確保できる速度は自分たちより早い筈。
それなのに到着が立夏たちより遅いとなると隣の市に居るというのが妥当な考えだった。
次の角を曲がり遠見市に入ると早速クラウが何かの反応を感知する。
「魔力反応です」
「どこだ?」
「あの大きな高層マンション」
丁度中心地辺りに来たところでクラウとソラスが魔力を感知した、急いで反応があった場所に向かう。場所は遠見市でも一番大きいマンションの屋上だ。
「次元転移か」
「転移先が掴めました、座標は私が」
「頼む」
魔法陣を展開すると、蒼白い光が立夏を包み地球から姿を消した。
「どこだ?」
次に見た光景は何処かの室内だ、薄暗く人の気配がまったく感じられない。内装は城のようなもので長い廊下が薄暗い光が照らしていた。
「とりあえず歩いて回るか」
「気を付けてください」
「見つからないでよ~」
内部は本当の城のように広く壁伝いに歩き続けるが人影すら見当たらない、本当にフェイトがここに転移してきたのかと疑うくらいだ。
「本当にここなんだろうな?」
「そうですよ、転移直後でしたから間違えません、ソラスもサポートしてくれていましたし」
「座標は間違ってないよ、ここなのは確か」
「だよな、それにしても」
気配が無さ過ぎる、立夏がここの主なら警備のなにかしらを配置して徘徊させておく。
その静けさが逆に不安を煽った。
数分歩き続けると悲鳴のような声が段々聞こえてくる、廊下を進むたびにその声は大きくなっていく。
「ぐっ……うわぁ!」
「この声、フェイト?」
声のする部屋の前に着き少し扉を開けて中を見るとフェイトが女性に鞭を打たれていた。バリアジャケットはボロボロになっていて痛々しい。
「フェイ」
「マスター、ここは動いちゃ駄目だよ」
「今動けば見つかります、彼女には申し訳ありませんが」
「っ……!!」
部屋に乗り込もうとして相棒たちに止められる、確かにここで動けばあの女性に見つかりなにが起こるかわからない。このやりきれない気持ちをどうにか抑えて扉を閉めて部屋から離れる。
デバイスたちは乗り込むのを止めてから喋らなくなった、さすがにあの状態のフェイトになにも出来なかったのに少しばかり罪悪感があるのだ。
そのまま歩き続けること数分、適当に部屋に入ると中央にはポットが立っていた。中には少女が入っていて、膝を抱いて胎児のようだがその姿はフェイトそのままだ。
「フェイト?」
(来てくれたんだね)
「もしかして……君が、アリシア?」
(うん、そうだよ)
まさかこんな所で念話の正体であるアリシアに出会えるとは思いもしなかった、色々話も聞けるし丁度いい。
(君の名前は?)
「月島立夏だ、アリシアの事とか詳しいこと聞いていいかな?」
(月島立夏……りっくんか、そうだね。色々話さなきゃ)
ポッドの中にある身体からは生きているのがわからない状態だった、何故アリシアがこの中に居るのかも謎だ。しかし立夏は身体を少し斜めに向けて顔を逸らす。
(どうしたの?)
「いや、それよりどうしてそんなところに入っているのか聞いていいか?」
彼女の姿は裸だ、さすがにジッと見ているわけにもいかず視線を逸らしながら話を進める。
(私はね、ちょっと事故に巻き込まれちゃって。目が覚めたら……とはちょっと表現違うけどこの中にいたんだ、身体は動かせないし不便だよ)
「事故か」
人と会話をしたのがその事故にあう前くらいが最後だったらしい、久しぶりに会話が出来て嬉しいようだ。
しかし事故に巻き込まれたあとどうしてこんなポッドの中に入れられているのだろう。
(多分、お母さんは私が死んじゃってると思ってるんだ。最初はそうだったかもしれないけど、今は少しだけ指も動かせるようになったんだよ)
ポッドの中にある手が微かに動く、生きている事は間違いない。でもこの中に居る限り仮死状態のような状態になっているようだ。
それにしても母親に生きているのを伝えられないのは少し厳しい、伝えられれば状況はかなり変わるだろう。
(それでお母さんは禁忌を犯したの)
「禁忌?」
(私のクローンが生まれたの、名前はフェイト)
「クローンか」
(うん、私が死んじゃって辛くて悲しくて、でも生まれたのは私じゃなかった、性格も魔力資質も利き手も異なってた、それでお母さんはフェイトを駒として私を蘇らせる方法を考えた。それがジュエルシードを使う方法)
となるとフェイトはこの事を知らない、本当に利用されているのだ。お母さんとは先程鞭を打っていた女性だろう。
(お願い、フェイトとお母さんを助けて。私が生きてるって伝えて)
「わかった、伝えるよ。みんな助けてみせる」
「誰か居るの?」
「げ、やっべ」
扉の向こうから声が聞こえ、すぐに魔法陣を展開して即転移する。
立夏が消えた後、扉が開くと先程フェイトに鞭を打っていた女性が入ってきた。
「気のせいね、アリシア…………必ずあなたを」
はい、アリシアが生きている設定です。
実は生きていて、なんて話もあったらいいなと思いこの小説を書き始めました。
次話では執務官さんが登場です。