魔法少女リリカルなのは~FORTUNE LINKAGE~   作:桐谷立夏

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第二話です、無印は少しペースが速いと思います。


第二話~指南と金の閃光~

 ユーノとなのは、立夏が出会って一週間が経ち、三人合計で集めたジュエルシードは五つになった。

 魔導師になったばかりの彼女にはかなりのハードスケジュールだったのもあり、なのはも今日予定があるらしく今日のジュエルシード捜索は休憩になった。

 場所は変わって河川敷のサッカー場。

「月島立夏だ、よろしくな」

「アリサ・バニングスよ、よろしくね」

「月村すずかです」

 今日は士郎がコーチをしているサッカーの試合の応援に来ることになった。

 そこに丁度なのはの友達であるアリサとすずかを紹介してもらう、なんでも小学校に入った時からの親友らしい。

「立夏は何処に住んでるの?」

「なのはの家に、親戚でしばらくこっちにいるんだ」

「そうなの?」

「えと、そうなの!」

 かなり無茶振りをしたがなのははなんとか意図をわかってくれたらしい、しばらく高町家に居候するのはまんざら嘘でもない。

 桃子の計らいで明日には学校にも行くことになっている。

「それじゃあ、今度一緒に遊ばない?」

「人は多い方が楽しいよ」

「そうだな、今度なのはと一緒に行くよ」

「よし、必ずよ?」

 アリサが顔をぐっと近づけてそう言う、どうしても遊びたいようだ。

「わかったわかった」

 少し離れながら介錯をする。大人しそうなすずかに元気なアリサ、一緒にいるだけで楽しそうな感じがした。

 しかしアリサは随分と積極的に動いているところを見ると、この三人の中でもリーダー的な存在なのだろう。

「なのは、立夏だっけ。かっこいいじゃない」

「ふぇ? うん、そうだね」

 ふとアリサが耳元で小さく言った、確かに整った顔立ちに身長はやや高い。この年代ではかっこいい部類にいるだろう。

「狙ってみようかな」

「ふぇう!?」

「聞こえるわよ!」

 不意に口を塞がれる、聞かれてはまずかったようだ。ちなみに立夏には聞こえてはいない。

「みんな上手いな」

「そうですね」

 サッカーの試合に熱中しているためか、すずかと一緒に応援を続けていた。

「よかった……」

(なんだろう、もやもやする)

 どうしてか胸の奥がもやもやする、なのははこんな感覚は初めてで何故か凄く嫌だった。

 士郎のチームがゴールを決め、試合は盛り上がっていった。

「それじゃまたね~」

「おう」

 試合が終わった後になのは達と別れて立夏は一人で街に向う、なのはには内緒でジュエルシード探しをすることにしていた。

「反応は何個かあるけど場所が中々特定出来ないな」

「そうですね、あの子に任せた方がいいのでは? 私は探索苦手ですし」

 実は立夏にはもう一機デバイスがあるのだが今は修復中で使えない、一刻も早くダメージから回復するためにリソースを全て修復に回しているからだ。

「まだ修復が完全じゃない、それまでは頼むよ」

「分かりました、では探索を続けます」

 立夏は歩きながら町を見て回った。

「こっちか」

 しばらくして海の近くにある工場地帯に歩いてやって来た立夏、導かれるようにそこへ向かうと一つの蒼い宝石を見つけた。

「ナンバーⅦ、シーリング」

「二つ目、か」

 そっと指輪型のデバイスに宝石が収納される。

 まだ発動前だからよかった、暴走して面倒なことにならなかった事が幸いだ。

「そう言えば夜にジュエルシードとは違う反応もあったな」

「はい、転移魔法のです」

「ジュエルシード狙いだと思うか?」

「そう考えておいた方がいいかと」

 今日の夜中のことだ、魔力反応があって一人で抜け出して見には行ったが既に姿はなかった。だが人数の大体は掴めている。

 多くて二人だろう、魔力の残滓が微かにでも残っいて大体の数は特定できた。

「さてと…………」

 ジュエルシードのあった位置に小さい魔法陣が展開される、円の中に無数の文字と四角が二つ合わさったものだ。

 そこには再びジュエルシードの形をした石が現れる。

「偽造魔法ですか」

「敵がいるならこしたことはないだろ」

 少しはこれでごまかしがきく筈だ。これからどうするかを考えながら、その場を離れようとした時だった

「これは……」

「まずいですね」

 街の中心部辺りに巨大な樹が現れる、どう考えても大きすぎだ。

 恐らくジュエルシードが暴走して発生したものだろう。

「どうしますか?」

「俺たちはあの魔力の元を探そう、あれはなのはがなんとかするだろ」

 なのはを利用しているようで悪いがしょうがない、助けてもらったお礼もある。だが敵がいるなら今のなのはでは戦っても辛いだろう。

 多分まともに対人戦闘は出来ない筈だ。

(いや、俺はなのはを利用はしてるのか。それでも)

 彼女への感謝の気持ちに鍵を掛け、立夏は再び歩き始めた。

 自分の目的を果たすために。

 

 

 目の前で人が死んでいく、自分に関係のない人達が、友達が。苦しみながら、辛そうに。

 そんな中、彼はそれを見ている事しかできなかった、物陰で見ている事しかできない。近くでは母親が倒れているのも見える。

 助けを求める人、ひたすらに叫ぶ人。それを見ているのが辛くて、でもそこに映る二人の人影。この二人が原因だ。そこに二人で立ち向かう人影がある、たった二人。彼の姉と幼馴染、だが彼女たちは男の一刀の前に倒れる。

 必ず守るから心配しなくていいよ、そう言ってすぐに目の前で倒れた。その後、町を破壊して燃やし尽した二人。

 憎い、ただ憎い。そして悲しかった、なにも出来ない自分が。彼が守らなければいけなかった彼女たちの命の灯が消えていくのを見ている事しかできない自分が憎かった。

 

「っ! はぁ……はぁ……」

 ある日の夜中に目が覚めた、夢のせいだ。四年前の、最悪の日の。

 手を強く握り締める、今でも悔しくてしょうがない。葛藤しているとベッドから心配そうな声が遠慮気味に掛けられた。

「立夏くん、大丈夫?」

「え……ああ、平気だよ。ごめんな起こして」

「ううん、でも本当に大丈夫?」

 かなり心配を掛けさせたらしく、不安そうな声だった。なのはも元気な娘だがこんな声ははじめて聞く。

「平気だから、寝てていいよ」

「うん、わかった」

 安心させるように言ってすぐ再びなのはが布団に入る、しばらくして寝た気配があった。

 立ち上がって窓から空を見上げる。

「俺は、どうすればいいんだろうな。母さん、父さん、ユイ、冬姉」

(お母さんにお父さん? そういえば立夏くんの家族の話聞いたことないな、お姉さんも居るみたいだし。それにユイって誰?)

 出会って一週間だが立夏の話はあまり聞いたことがない、聞こうと思わなかったことと彼が話そうとしなかったこともある。

 聞ける機会があったら聞こうかな、そんな風に思いながらなのはは目を閉じた。

 場所は変わり海鳴市のあるビルの屋上に二つの影があった。少女は金色の長い髪をなびかせて黒い防護服を纏っている、その隣にはオレンジ色の毛並みをした大きな獣が座っていた。

「第97管理外世界地球、この世界にジュエルシードがあるんだね」

「そうだよ、早く集めよう」

「うん、母さんの為に」

「……そうだね」

 オレンジ色の獣が横で喋る、彼女の相棒でもある使い魔だ。

「魔力の残滓があるよ、一人か」

「平気だよ、それくらいなら」

 少女と獣はしばらく街を見ていた、なにかを探すように。

 

 

「皆さん、今日は転校生の紹介をします。入ってきてください」

「はい」

 水曜日、立夏は学校に来ていた。今日から聖祥大附属小学校三年として学校に通うのだ、ちなみにクラスはなのはと一緒だ、教室を見渡すとアリサやすずかの姿もある。

 知り合いが同じクラスに居るのはなんとも頼もしい。

「月島立夏です、よろしく」

「では月島くんの席は窓側の奥です」

 先生に促されて席へと向かう、こうして学校生活が始まった。

 時間は経ち中休み。

「疲れた……」

「すごい質問攻めだったわね」

「転校生だからしょうがないよ」

「あはははは……」

 中休み中盤、立夏はクラスの生徒から尋常じゃないほどの質問をされた。今まで何処に住んでた、何が得意とかなんとか以下省略。

 元気すぎて中々着いて行けず困っていたところにアリサたちが助けに入ってくれた、今はようやく落ち着いて窓際で休憩の最中。これも彼女らが一つ一つ質問を順番にしてそれに答えていくようにしてくれたからだ。

「みんな元気だな」

「なに言ってるのよ、元気が一番でしょ」

 何と言うか、アリサが一番元気な気がした。と言いそうになり口を閉じる。

「そうだね」

「あ、チャイムだ」

 三人が席に着く、教師が入ってきて再び授業が始まった。

 放課後は四人で帰路に着いていた、アリサたちは途中まで帰り道が一緒らしい。

「へ~、立夏って武術習ってたんだ」

「男の子は結構多いよ」

「うん、そうだと思うな」

「そうか? 女の子だって最近はやってるぞ?」

「スポーツは好きだけど武術は……ねえ」

 うーん、中々武術の楽しさが伝わらないな。

 まぁ普通の女の子ならそんなものだろう、興味を持つ子供もいればもたない子どももいると言うことだ。

 話ながら歩いていると少しガラの悪い少年三人が横に並んで歩いて来るのが視界に入る、全員避けるように壁側に寄るがなのはだけ軽くぶつかってしまう。

「あ、ごめんなさい……」

「おい、ぶつかっといてそりゃねえだろ」

 中学生くらいだろうか、髪を金髪に染めた少年が睨みながら寄って来る。

「あやまるくらいなら警察いらねぇよ」

「とりあえずこっちこいや」

 高圧的な言い方をしながら少年たちがなのはを取り囲む。

「やっ、痛い……っ」

「こら! なのはを放しなさ……」

 ぶつかってきたのはそっちだと抗議し、それを無視して少年達がなのはの手を掴んだことにアリサがさらに抗議しようとした時だった、立夏が横から割り込んでその手を掴む。

「なんだよ、ガキは引っ込んでろ」

「謝ってるんだ、許してやれよ」

「いや、けじめはつけさせてもらうぜ」

「けじめね」

「っ!」

 握っている手に力を込めると自然になのはを掴んだ手が放れる。そのまま三人の前に立夏が割って入った。

「やんのかおい!」

「立夏くん危ないよっ」

「オラッ!」

 すずかが注意した時に端に居た少年の拳が立夏の顔に目掛けて振られる、だが。

「いっ……!」

「遅い」

 拳の先に立夏は居ない、既に懐へ入り肘が鳩尾に入っていた。

 腹を抑えながら悶える少年。

「くそぉ!」

「はぁ……」

 自棄になったのか二人目から右ストレート、左手で流して捌き右の拳を少年の腹部に軽く当てる。

 少年はどすっ、と地面に膝をついた。一人目と同じように腹を抑えて。

「まだやる?」

「ちっ、おい行くぞ!」

「ゲホッ、ああ」

「なんなんだよこいつ……」

 三人はそーっと立ち去って行く、向こうからぶつかりに来て、しかも女の子に手を挙げるのは許せなかった。

「すごいじゃない立夏!」

「あまり無茶しないでね」

 アリサは少しはしゃぎながら、すずかは心配そうに声をかける。

「ごめんごめん、心配かけたな。なのは、手大丈夫?」

「うん、少し痛いけど」

「一応見せて」

 腕を見る、特に痣などもついていなかった。怪我なんかしていたら許さなかったが。

(やっぱり立夏かっこいいな)

 とアリサは思う。同じクラスの男子なら中々出来ない行動だろう、まず先に誰かを守る行動に移れそうにもない。

「もう平気だから、ありがとう立夏くん」

「ああ」

(さっきの立夏くん、かっこよかったな)

 なのはもアリサと同意見で、何故か不思議と胸が高鳴っていた。

 すずか達と別れて家についたのは夕方近くだった。

「ただいま~」

「た、ただいま」

「おかえり。あ、りっか~、恭ちゃんが着替え終わったら道場に来てだって」

「あ、はい」

 帰るとリビングから美由紀から伝言を聞く。用事でもあるのだろうか、それならリビングでもいいはずだが。

 先になのはの部屋で着替えて道場に向かうと恭也が私服で待っていた。

「呼びたててごめんな」

「用件はなんですか?」

「さっきランニングに出てた時だったんだ、丁度なのは達がガラの悪い奴らに絡まれてたのを見た」

「それで?」

「少し気になっただけだ!」

 いきなり恭也の姿が消え、膝が腹部に直撃して後ろに飛ぶ。

 だが追撃はない。

「手応えがないな」

「威力を散らしましたから、来ると分かってたなら対処は出来る」

「流石父さんに一本入れただけある」

 直撃したはずなのに、あまりの手応えのなさに恭也は驚いていた、到底九歳やそこらの子供が出来る芸当ではない。

「浮身、力の入る方向に跳んで威力を減らす。だろ?」

「分かりますよね、こんな技一人しか使えない」

「月島春花、日本武術界で最強の彼女の技を何故立夏が使えるんだ? いや当たりまえか」

 自問自答している恭也に向かって床を蹴り、間合いを詰めて拳を振るが横に避けられる。

 そこに回し蹴りをすぐさま放つ。恭也は右腕で防ぎ掴んで投げる。

 空中で体勢を立て直して着地し、再び立夏は左で拳を打とうとした。ストレートなら捌ける、そう思って恭也は守りの態勢に入った時だ。

 立夏の姿が突如消える、気付いたときには足下で上半身を前に倒し片足で立ち、右足を顎に向けて蹴り上げていた。

 なんとか手を交差して防ぐが連撃は止まらない、蹴り上げる勢いをそのまま利用し反動を使いそのまま跳ぶ。

 空中で身体をひねった直後、勢いを殺さず二連の踵落としが頭上に降って来る。両手で掴むように防いだ恭也だったが右足の方がやたら重く、手を離して軽く後退するはめになった。

 目の前には着地して再び向かってくる立夏の姿が映る。

「はぁ!」

「っ」

 放たれる右腕、左に跳んで避けると恭也が身体を屈めて足を払おうとする。

 跳んで避けると拳が目の前まで迫っていた、右手で受け止めるがかなり本気で打ったのか空中の状態から吹き飛ばされる。

「強いっ……すね」

「まぁな」

 受け身を取ってなんとか立て直す。

 しばらく無言のまま時間が経つ。

 そして二人は同時に構え、再び動こうとした時だった。

「二人とも、なにしてるの?」

「っと」

 道場の入口になのはの姿があった、慌てて構えを解き。

「立夏と軽く稽古をなっ!」

「っ! そうそう。軽く型を教えてもらってたんだ、前に俺が頼んだから」

「ふぇ、そうなんだ。ごはんだから来て」

 絶妙な合わせ方でなんとかなったようだ、なんだか変な罪悪感が襲ったがとりあえず三人はリビングに向かった。

「さすが立夏」

「恭也さんこそ」

「今日のごはんなにかな~♪」

 

 

「士郎さん、俺に御神流の剣術を教えてください!」

「いきなりどうした?」

 まだ陽が昇り始めたころ、高町家の道場に士郎と立夏は居た。

 昨日夕食中に恭也から高町の剣術、御神流の事を聞いて興味が湧いたからだ。

「学んでもマイナスにはならないと思ったんです、元々興味はありましたし」

「教えるのはいいが、きついぞ?」

「百も承知です」

「……わかった」

 真剣な立夏の瞳に、少し間を開けてから士郎は納得したように頷き、それからすぐに剣術指南が始まる。

 朝学校に行くまでの間が指南の時間となった。

 そして登校時間。

「大丈夫?」

「多分……いやかなりきつい」

 彼の言った通りだった、刀の握り方から構え他。そして三分間の打ち合いを数回、体力にも自信があったがこうも疲れるとは思いもしなかった。

 しかし学ぶ価値のあるものだった、是非とも身につけたいと心の底から立夏は思っている。

「お父さんと稽古してたの?」

「ああ、それにしても強いな」

 あの夜は手加減してたのかと思うくらいだ、稽古が終わったと思ったら次はいつぞやのリベンジをしたい、と言って立夏は素手でやったはいいが惨敗した。

 剣筋が全く見えず防戦一方だった、間合いに入ったと思って手を出したら既に回避していたり。

「剣って難しい」

「そうなの?」

「かなりね」

 なのはに稽古の事を話しながら学校へ向かった。

 

 

「っとに、嫌な夢だ」

 授業中うっかり寝た時の夢が昔の事件のものだった。

 幼馴染の彼女、ユイは結局助からなかったらしく父親と母親と一緒にミッドの墓地で眠っているらしい、立夏の意識が戻ったのは事件から一ヶ月も過ぎていて葬儀も済んでいた。

 姉の冬花は本局の病院に居るらしいが、意識不明のようで何故か立夏にはちゃんとした所在が伝えられていない。

 ちなみにクラウは元々冬花のデバイスである、意識が回復した時にはすでにマスター権限は立夏に移行していて最初は混乱したもの。

 何故クラウを自分に渡したのだろうか?

 それも後々になって気づいたが、クラウのある形態は立夏が使うように設計されていて、もしかしたら冬花には別のデバイスが用意され、クラウを元から立夏に渡すつもりだったのだろう。

「…………」

「立夏、ちょっと大丈夫?」

「あ、うん。大丈夫」

「本当に?」

 ふとこの間の夜の事を思い出す、あの夢を見た時になのはが見せた心配そうな表情だ。

 立夏がぼーっとしていて心配させたのもあるが。

「大丈夫だって、なのはとアリサは心配性だな」

「なら、いいんだけど」

(立夏くん、後で話があるんだ。いいかな?)

(わかった)

 念話、思念を使って会話をする魔法だ。魔法の初歩中の初歩だ、何の話だろうと思いながら授業が再び始まる。

 学校が終わりなのはと一緒に海の近くにある公園に来た、立夏は鉄柵に肘を着いて空を、なのはは海を見ていた。

「立夏くん、最近どうしたの? 夜も時々うなされてるし」

「別に、大丈夫って言っただろ。なんもないから」

 心配を掛けたようで、安心させるように言うがそれでもなのはは言葉を紡ぐ。

「でも、時々寂しそうな表情するよ? 辛そうな時も」

「大丈夫だって言ってるだろ、なのはには関係ない」

 強めで言ったこの一言になのはがすぐ反応する。

「関係なくないよ! だって私達家族だもん!」

「……それでも、なのはには関係ない」

「立夏くんっ!」

 寂しげに呟いて立夏はその場を去る。なのははしばらく公園で立ちすさんだ。

 それから数日、なのはとは会話らしい会話をしなかった。というのもこの前のことでどうにも話しかけ辛く、学校でも距離を取るようにしている。

 今日、なのはは恭也と一緒にすずかの家に行っていて今は家には居ない、リビングでぼんやりとしていると珍しく美由希が話をかけてきた。

「立夏、そろそろなのはと仲直りしなよ」

「喧嘩なんかしてないですよ」

「十分してると思うよ? 最近なのはと喋らないじゃん」

 やっぱり俺が悪かったよな。

 少しきつく言いすぎたのは後悔していた、しかしあの時の自分がこうも長い間なのはのことを無視するとは思いもしなかっただろう。

 美由希との会話の後、道場で士郎に稽古をつけてもらったが頭から離れずあまり集中できなかった。

「大分様になってきたな」

「そうですか」

「ああ、飲み込みが早すぎる。さすが、と言いたいな」

 褒められているのに素直に喜べず、胸のモヤモヤは依然として消えない。

「すずかちゃんの家からなのはが帰って来たらちゃんと話をするんだぞ。最近寂しそうだ」

「そうします」

 謝らないと、ちゃんと。そう思って道場を出ようとした時に結界の発動を感じた。

「士郎さん。少し出てきます」

「おう」

 急いで道場を出てすぐに防護服を装備して飛ぶ。方角はすずかの家の方だ。

「なのは……」

「急ぎましょう」

 着いたのは数分後だった、結界内に飛び込んだ瞬間。見知らぬ魔導師がなのはへ向けて魔力弾を二発放った。

 墜ちていくなのはへの追撃、それからしばらくしても彼女が飛び上がって来ることはなかった。

「っ!」

(反応が早いなっ)

 黒い防護服の少女が立夏に気付き、すぐに振りかえりデバイスを振る。すぐにクラウを大剣へとモードを変えてデバイスを受け止めるとぶつかり合い二人の間に火花が散る、見たところ武器は戦斧といったところか。

 防護服も薄く立夏と同じ高速型の魔導師だろう。

「バルディッシュ!」

「サイズフォーム」

 一度立夏と距離を取りデバイスを構え直すと戦斧は大鎌へと姿を変える、刃は金色の魔力刃で生成されていて少し大きい。

「出来れば戦いたくない、話し合いで解決できるならそうしたいんだ」

「それ以上近づかないで」

 あまり女の子と戦いたくないというのもあるが中々口にして言えるものではない、少し近づくと彼女は大鎌を振りかぶりながら立夏に向かってくる。

「ったく!」

 剣で大鎌を受け止めて左手を少女の腹部へ向ける、手には魔力弾が一つ。この距離で当てれば一撃でかなりダメージを与えられる。

 その刹那、少女の姿が目の前から消えた。身体を反転させ剣を遠心力に乗せて振ると魔力刃とぶつかり合う、流石に反応されないと思ったのか少し驚きの表情を浮かべる少女。

「高速戦闘の基本だな、相手の後ろに回り込んで一撃。でも説明書通りすぎて読まれやすい」

「…………」

「話をしてくれないか? 俺は月島立夏、君は?」

 話しかけるが少女は黙ったままだ、どうやら会話をしようとする気は一切ないらしい。年齢は同じくらいだろうか、長い金髪が綺麗で思わず見惚れてしまいそうになる。

「ふう……話す気がないなら実力行使だ」

「っ!」

 両手で柄を握り力で少女を押し飛ばす、その背後に回り剣を振るがそれを読んでか態勢を途中で立て直し間合いから逃れる。そのまま追撃するべく追いかけると魔力弾を六つ展開しながら逃げる姿が見えた。

「ちっ」

「ファイア!!」

 空中で足を止めて迫る弾を斬って防ぎ、辺りを見渡すと少女の姿はすでになかった。

 墜ちたなのはが心配ですぐに下へ降りる。

 少し歩きまわると彼女は茂みの中で少し身体を小さくして体育座りをしていた。

「なのは、大丈夫か?」

「立夏、くん。うん、大丈夫だよ」

 心配そうになのはへと寄ってく、左手に怪我をしていたがユーノが治療したらしく問題は無さそうだ。

「この前は悪かった」

「ふぇ、あ」

 この前の事を謝った、一方的になのはの厚意を無視して突き放したりして申し訳なかったと頭を下げる。

「言い過ぎた、こんなんじゃ家族なんかなれ」

「ううん、家族だよ。私の大切な」

 言葉を遮ってなのはが言った。

 少し寂しい思いもしたが立夏も寂しい思いをしていたのは何と無くだが分かっていた。

「助けに来てくれたんだよね、ありがとう」

「……当たり前だろ、家族だから助けたんだ」

「うん、そうだ……ね」

 気が緩んだのか眠るようになのはの意識は途絶えた。

「ユーノ、あと頼む。俺はあの娘を探すよ」

「わかった、気を付けてね」

 ユーノになのはを任せ、立夏は再び空へと飛び上がった。

「彼女、かなりの熟練者ですね」

「そうだな」

 あの金髪の少女、戦闘の技術はかなり高くなのはと一緒に戦っても勝てるか分からないだろう。戦闘は経験しない限り向上はしないし、だから戦うしかない。

 個一時間ほど探したがあの二人は見付からず、家に帰って部屋に戻るとなのはがベットから起き上がる。

「おかえり」

「ただいま、怪我平気か?」

「うん、大丈夫!」

 元気に笑顔でガッツポーズを見せてくれる、かなり安心はできた。怪我が酷ければ今後の動きにも影響が出る。

 たいした事がなくて本当によかった。

「なのは、あの二人どう思う?」

「何か訳はあると思うけど、まだなにも分からないよ」

 あの黒い防護服を纏った彼女、背丈からして年は多分同じくらいだ。あまり戦いたくはないがぶつかり合うのは避けられないだろう。

「よし、寝るか」

「にゃはは、そうだね」

 今更だが時間は二十二時を回っていた、立夏はフローリングに敷いた布団に入る。

「おやすみ」

「ああ」

 二人は静かに目を閉じた。

 

 

「はぁ!」

「あまい」

 朝、高町家の道場で立夏は士郎に剣術の指南を受けていた、士郎は木刀を軽々しく避けていく。御神流と言うらしくその剣術はかなり精巧にできている。

 立夏の手には通常の木刀が二本握られている。御神流は二刀で行う技が多い、正式名称を聞いたが長すぎて忘れた。

 士郎ももちろん二刀だ。

「斬と突があまい」

「は、はい!」

 次の攻撃に移ろうとした時だった、鋭い袈裟斬りを左の小刀で防ぐ。非常に重い、だが片手でまだ動ける、右腕を大きく引く。

「ほう」

 御神流『貫』、士郎が防御の態勢に入るのを見切って突く。だが、

「いい貫だが」

 突きが士郎の薙ぎで払われる。その刹那、姿が消えた。

 背後からの斬撃を辛うじて防ぐが残りの別軌道から二撃を捌けずもろに受ける。

「痛……」

「今のが奥技之六『薙旋』、俺のはバリエーションの一つだ」

「まだ、終わらないです」

 バックステップで距離を取り、左足を前に半身となり中段で構えると士郎が静かに近付いてくる。

 一歩、二歩と迫ってくる。

「俺の現状最大の力で行きます!」

「来い」

 士郎が残り三歩くらいの所で春紀が右足で踏み込んで右手の木刀で突く、それを捌いた瞬間左から二回目の突き、それを間一髪で避けた。

 だが、更に右から一撃。士郎の首の横で木刀が突き抜ける、高速の突きで生まれた衝撃波が肩の服を裂く。

「射抜をここまで使えるか、君は武術に愛されているな」

「まだまだです、俺より士郎さんや恭也さんの方が速い」

「いや……そうだな」

 むしろ早すぎるくらいだ、士郎が『なにも使わない』状態で避けれないくらいに。

 九歳でここまで奥義を使いこなせるとは思いもしないだろう、変化自在の高速突き技である奥技之参『射抜』。このまま育てば強い剣士になると確信した士郎だった。

「立夏は剣をとって何をするんだ?」

「誰かを守りたい、からかな。双月流も、昔母さんから教わったのを元にアレンジして身に付けたものだし」

 まだ春花が生きていたころに一通りの業は教えてもらった、父からも剣術と槍術を。二人から大切な人を守れるためにと。

「守りたい、か。なのはか?」

「内緒です」

 守りたい人の一人には入っているが、何故か名前をだすのが恥ずかしく誰かも言わずに出口へ向かい、礼をして道場から出て家の方に向かった。

 朝は道場で士郎に剣術指南を受けた後はなのはと一緒に学校へ向かうのが最近恒例になってきた、昼食はすずかやアリサと四人で一緒に屋上で食べたりと学校ライフを満喫している。

「ふ~、やっと昼食」

「屋上行こう?」

「そうね」

 そして昼休みの恒例行事、屋上昼食だ。

「立夏君、今日はなんか元気だね」

「えっ、そうか~?」

 桃子に作ってもらった弁当を頬張っていると、すずかが朝から気になっていたことを聞いてる。

 やたらと授業では積極的に手を挙げて問題に答えていたし、なぜこんな元気なのか不思議でしょうがなかった。

「あははは、そうだよ。朝から元気だったし」

「朝から、か。まあ色々あってさ」

 今日は士郎から一本取れたからすごく機嫌が良かった。どうやら相当顔に出ていたらしい。

「そうだ、今週温泉行くの教えたよね?」

「ああ、楽しみにしてるよ。アリサ達とも行くから楽しみだよ」

「そう?」

 今週末は休みが長くそれを使ってみんなと旅行に行くのだ、立夏は最初行っていいものかと悩んだがなのはとアリサに押し切られてしまうのはいつものことになりつつある。

「私も楽しみ」

「温泉かぁ」

 行くのはかなり昔に父と母に海鳴市へ来た時以来だ、期待を胸に膨らませて立夏は週末を待った。

 




フェイト登場です、一応アニメメインですけど時々映画を意識しようと思ってます。

やっぱり士郎さんと恭也さんは強いイメージですね、陸戦なら魔導師に勝てるんじゃないかなこの二人。

次話はアニメの温泉回です。

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