思いついたSS冒頭小ネタ集   作:たけのこの里派

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とある真紅の次期当主 7

 

 

「───────レーティングゲームだ!」

 

 旧校舎の一室、神話研究部の数ある部室の中で客間と形容できる場所。

 そこで学び舎に不似合いな異物である大声をあげる下手なホストのような金髪の男、悪魔ライザー・フェニックスが声を張り上げる。

 

 向かい合うように設置されているソファには「えー」という面倒臭さを全面に出した表情の暮森先輩と、ただでさえクールな表情を更に冷たくする支取先輩。二人の背後には姫島―――入部後名前呼びを求めた朱乃先輩をはじめとした部員達が殺気さえ帯びた視線で男を睨みつける。

 

 アホ面晒しているヴァレリーを除いて。

 

 そんな中、三人それぞれが三台のPCでFPSに興じているゲーマーに混じっている私、桐生藍華はどうしてこうなったのか他人事のように想起する。

 実際他人事なのだから仕様が無いのだが、つまり貴族様の事情というやつなのである。

 根本的には部外者でしかないからといって、殺気撒き散らされて気楽なのは、やはり私の気質なのだろう。

 

 この惨事を説明するには、ほんの少し時間を戻さなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八話 この作品の原作のジャンルはあくまでバトル系『学園ラブコメ』です

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「藍華、ゲームやろうず」

 

 放課後、神研部入りした私はお利口さんなので旧校舎の部室へ向かう途中、駒王学園指定のジャージを着た、しかしこれまた人外の美貌を持つ美少女が私に声をかけてきた。

 艶のある、朱乃先輩を彷彿とさせる黒い濡れ羽色。日本人にはない白く透き通った肌。

 しかし眠たそうに瞼を半分まで落としジト目にしている美少女の名前は、オーフィスという。

 

 私が彼女と出会ったのは、常連の契約悪魔であるヴァレリーをいつものようにお菓子を対価にチラシで召喚した時。

 ヴァレリーの召喚に着いていくように一緒に現れたのが彼女だった。

 

『―――――我、オーフィス。ダクソやろうず』

 

 そう名乗った彼女を受け入れて以来、私たちは三人で遊ぶようになった。

 ただそれだけの、少し世間知らずの箱入り娘がネットの海に溺れた中学生ほどの少女。

 そんな印象だった。

 それは悪魔の存在を知り、その庇護下に入った今でも変わらない。

 尤も、その為彼女が人間でないのは何となく理解していた。

 

「? 藍華、どうした?」

「うーん、と。オーちゃんって人間じゃないんだよね?」

「そう。我、ドラゴン」

「なんと」

 

 普通に驚いた。

 悪魔や天使は人に羽が生えたりした姿なのは容易に想像できるが、ドラゴンは人型とはかけ離れている。

 この可憐な姿からはまるで想像できない。

 だが私は変態大国日本の女子高生、擬人化にどれだけ需要があるのかはよく理解している。

 人に姿を変えているには意味があり、それを態々口に出す愚を犯すつもりはない。

 

「ドラゴンとかもいるんだ。ああいや、神話世界だから、ドラゴンもいるか」

「ん。でも我、正確な神話の生まれとかじゃない。我、生まれたの次元の狭間。我、世界の抑止。グレートレッド、向こう側の抑止」

「ふーん」

 

 何だかえらいスケールがでかい。

 というかグレート某さんは何ぞや?

 

「そういえばオーちゃんって、暮森先輩のどういったポジションなの? 何となく転生悪魔って感じしないから」

「むむ。……藍華はサーゼクスの眷属達の事は知ってる?」

「うんうん」

 

 曰く、悪魔とは魔力という万能エネルギーを扱う種族だという。

 それは様々な効果の技に変容出来、それによって他者と契約を結ぶのだという。

 

「大雑把なシステムは同じ。悪魔は契約によって生物や物体を使役する。例えば使い魔。蝙蝠だったり色々居るけど、サーゼクスは私と契約している」

「ほう?」

 

 ドラゴンとの契約。

 擬人化可能で美少女という点も、とても胸踊るチョイスではないか。ある種のテンプレさえ感じる。

 尤も、竜との契約でストーリーのラストに異世界ファンタジーから新宿で音ゲーに発展する鬱ゲーが出てくる辺り、私の業の深さを現しているのだろう。

 

「契約って、内容聞いてもいい?」

「我、サーゼクスに手を貸す。代わりにサーゼクス、我に知識を与える」

「知識?」

「我、当時は正真の子供だった」

 

 彼女は語った。

 自身は力だけはあったが、それに比例した心を持ち合わせて居なかったと。

 だからこそ『家に帰る』というかつて懐いていたらしい本能に近い願いに執着していたのだと。

 

「でも今の我、静寂など願い下げ。静寂にネット環境もコンビニも美味しい御飯やお菓子、サーゼクス達も無い。そんなの御免被る」

「そっか……」

 

 きっとその経緯、過去は。彼女にとって成長の証なのだ。

 胸を張って、かつて彼女を利用していた者達へ威嚇するような。

 

「……なら、今回はドラゴン関連のゲームする?」

「ん、それいい。────でもその前に」

「え?」

 

 私の胸の中に、するりと黒い電光を纏う黒蛇が入り込んだ。

 

「ちょ、オーちゃん何したの!?」

「サーゼクスから藍華が襲われたって聞いた。だから護衛に蛇を入れた。装備品は装備しないと意味がない」

「お、おう?」

「次襲われても蛇が守る。強いのでも時間稼ぎができる。その間に我やサーゼクス、ヴァレリーが向かえる」

「えーと、つまりおまもり?」

「そう」

 

 どうだい凄いだろう、と鼻息荒く胸を張る彼女に、思わず微笑みながらその頭を撫でる。

 どうやら私の友達は凄いらしい。

 尚、世界一凄いとは、私はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「おや、いらっしゃい桐生さん。オーフィスさん」

 

 そんな気分よく旧校舎に訪れた私たちを迎えたのは、駒王学園の貴公子と名高い二大美少年の一人。

 駒王学園2年生で神話研究部所属、木場祐斗。

 彼は私と同じく神研に所属している()()()()()()()()だ。

 

 曰く、彼は教会───所謂天界側の組織の暗部出身の孤児だったところを逃げ出し、先輩に拾われたのだという。

 そんな彼には、明確な目的が存在し、その目的を果たすには転生悪魔では不適切だろうと暮森先輩が配慮した結果なのだという。

 尤も、だからと言って弱い訳では決してなく、その性質は限り無く悪魔に近いらしい。

 

 ─────『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』。

 生命を司る神滅具によって、彼はその性質を悪魔に改造しているのだ。

 しかし区分的には人間であり、聖杯の担い手であるヴァレリーによって幾らでも人に戻せる。

 人間として生きられる余地を残しつつ転生悪魔と偽らなければ、彼は他の上級悪魔にとっくに無理矢理眷属とされていただろう。

 彼の神器の希少さと彼自身の力は、それだけの価値があるのだという。

 

 尚、この上級悪魔クラスがどれだけ凄いかはよくわかっていないので質問したのだが、

 

『上級悪魔クラスなら、その悪魔の性質もあるだろうが高層ビルを簡単には解体出来る程度だな』

 

 とは暮森先輩の言である。

 なら魔王クラスならどうなんのと聞いた所、『山を一撃』だそうな。

 ここら辺で既に私は理解を諦めたのだろう。

 なんせ強さ基準にまだ『主神クラス』という上が更にあるのだ。

 ゲーマー仲間(ヴァレリー)がそんなやべー存在と言われても実感など持てる訳がない。

 私にとってのヴァレリーはヴァレリーであり、木場少年はイケメンである以上の意味はない。

 

「ですが、そうですね────」

 

 そんなイケメンこと木場少年は気不味そうに部室を見る。

 

「来たか」

「お邪魔しています。桐生さん」

 

 この部屋には本来生徒会室で辣腕を振るっている筈の支取生徒会長が、珍しく不機嫌そうに暮森先輩と並んでソファーに座っていた。

 因みに暮森先輩───いやさ部長は、なんとも面倒臭そうである。

 

「どうかしました?」

「実は、本日は来客がある。それも、余り良いお客とは言えない、な」

 

 明らかに面倒臭さそうでありながら、所作1つ1つが女性徒を魅了する様を見せる彼が『余り良いとは言えないお客』とは、どんな問題人物なのか。

 するとオーちゃんはズバズバと質問していた。

 

「誰?」

「元72柱、その内の一つであるフェニックス家の三男坊ライザー・フェニックス」

「そんな塵芥、どうでもいい。藍華、ゲームしようず」

「さいですかー」

 

 どうやらオーちゃん基準では、その不死鳥三男坊には何ら価値が無いらしい。

 そんな彼女に部長は苦笑いを浮かべながら、朱乃先輩にお茶菓子を出すように指示を出す。

 

「で、フェニックス某は何で此処に?」

「うーん、なんと言えばいいだろうか……」

「ただのくだらない面子の問題だにゃ」

 

 と、木場少年へ私の質問に彼は言い辛そうに言い淀むと、背後から艶かしい、しかし心底鬱陶しそうな声が響く。

 振り返れば、木場少年が用意した茶菓子を摘まんでいる白髪の少女、白音ちゃんと、彼女が抱える黒猫が居た。

 

「えっと、黒歌さん」

「はいにゃ」

 

 黒猫は白音ちゃんから抜け出した途端、その姿を変容させ着物姿の成人女性へと変化する。

 その美しい濡れ羽色の黒髪の頂きには、確りと猫の耳が生えていた。

 彼女は白音ちゃんの実姉であるエロねーちゃん、黒歌さんである。

 

「メンツ問題、とは?」

「ご主人の婚約者、ソーナちゃんの以前の婚約者候補がその三男坊だったにゃー」

「ほう」

 

 先日に次ぎ、またも色恋沙汰か。

 そう思ったが、面子問題と言う単語にアホ回路が停止する。

 

「以前、ということは何か問題でも?」

「当の本人にね」

 

 話によれば、成金ホスト紛い──という風体からして会長にとって近寄りがたい人物だった上に、女性関係の素行が良くなかったらしい。

 眷属を自分のハーレムで固め、衆目を憚らずイチャコラする。

 所謂エロガキであったそうな。

 まぁ素行不良もあった上に、本心かどうか知らないのだが、支取会長(婚約者)をアクセサリーか何かと思っているように取れる発言をしたらしい。

 

「あれ? 三男坊なんですよね、ソイツ」

「ちなみにソーナ会長は次期当主です」

「馬鹿じゃん」

「うん、そうだね。何を考えているのか分からないけど、問題はそれが会長の姉君の耳に入ってしまったことだ」

「? 会長のお姉さんそこまでシスコンなの?」

「極めて重度の。加えて、現四大魔王の一人さ」

「何で死んでないのソイツ」

 

 その話題に、会長の顔が苦虫を噛み潰したように歪む。

 そこまでか。

 

 曰く怒髪天を衝く、という様な激怒具合だった模様。

 会長の姉───魔王レヴィアタンはそれはもう会長の事を可愛がっており、それこそ衆目を憚っていなかったらしい。

 元々趣味や言動に問題のあった魔王だったらしいが、何でも個人的に接触も多かった部長がブチ切れて正論神拳で殴り飛ばして矯正したとかなんとか。

 

 そんな訳で評価が上方修正され、公私混同も少なくなって良い方向に向かっていたらしいが、愛しい会長に関しては秒単位も持たず大激怒。

 周囲一帯を氷河に変えながら、そのまま件の三男坊を殺さんと突き進んだらしい。

 

「その前にソーナ会長の、婚約破棄の申し入れがフェニックス家に申し入れられた」

 

 貴族は面子を重要視する。

 優秀な次期当主にここまで舐め腐った態度を取った以上、こうなるのは必然だった。

 用意周到な会長は、決定的な発言を録音しフェニックス家に叩き付けたらしい。

 その怒れる魔王が、その場に辿り着く前に。

 

「フェニックス家の御当主や次期当主は、とても立派な方なんだけどね」

「まぁ、そこまでやっちゃったら婚約破棄は確実なんだけど、それはそれで三男坊の将来が詰むから、ワンクッション入れる必要もある訳だにゃ。私としては詰んでも良かったけど」

 

 単に婚約破棄をすれば、将来三男坊さんにマトモな婚約相手が見付かることは無いだろうし、普通に醜聞である。

 それに対しても、会長は案を用意してた。

 

「────『私より頭の悪い人と結婚する気はありません』か。クソ冷徹に言いそう」

「会長は10以上のボードゲームを用意して、一敗でもすれば婚約することを了承した訳だけど……」

 

 それは裏では結果が決まった勝負だった。

 フェニックス家側も、自分のところの三男坊が会長に頭脳勝負した場合逆立ちしても勝つことは不可能だと理解していたらしい。

 無論イカサマなど介入していないが、三男坊、ライザー氏は見事全タテされて婚約を破棄された。

 ライザー氏自身も了承していた訳だから、それを覆す事はできない。

 

「それで?そのライザー氏は何の用件で?」

「それは僕は知らないから、あくまで予想でしかないけども──────」

 

 その後、会長と部長が婚約したことが要因ではないか。と木場少年は言った。

 

「やはり、貴族の価値観は僕には難しいかな」

「時代遅れって言うべきだにゃ」

 

 その言葉は会長と部長の憂慮そのものであったのだと、この時私は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に幾つも設置された魔法陣の内一つが、舞い上がる炎を伴い輝き始める。

 魔法陣から現れたのは、豪華なアクセサリーを身に付けたスーツ姿の、有り体に言えばホストのような金髪の男だった。

 男──ライザー・フェニックスは忌々しげにサーゼクスを睨んだ後、周囲を眺め、

 

「……歓待も無しか?」

「ある訳ないだろう。寧ろ何の用件かくらい先に連絡……って」

 

 サーゼクスの言葉が詰まる。

 それはライザーの背後の魔法陣から、彼の後を追うように現れた人影を観たからだ。

 ライザーの纏う炎の魔力、それが霞む程の魔力を纏う、サーゼクスにとって縁深いメイド服に身を包んだ銀髪の美女が姿を見せる。

 

「グレイフィア様?」

「お久しぶりですソーナ様、サーゼクス様」

 

 ソーナの驚く声がこぼれる。

 グレイフィア・ルキフグス。

 72柱の悪魔に含まれない特殊な悪魔とされる番外の悪魔(エクストラ・デーモン)の一つ、ルシファーに仕える役割を与えられた悪魔ルキフグスの()()()()()()()()()()

 

 二千年前に起こった大戦(ハルマゲドン)で旧四大魔王と72柱の悪魔の半数以上の戦死から、次の現政権に至るまでの内戦によって現ルシファーに奪われた錦の旗の1つ。

 そしてルシファーの女王であり元サーゼクス付きのメイドで、教育係であった悪魔だ。

 

「今回の仲介役として選ばれました」

「今回の、とは?」

「レーティングゲームだ!」

 

 サーゼクスとグレイフィアの会話に割り込むように怒声を挙げたライザーは、サーゼクスを睨み付ける。

 

「……レーティングゲーム?」

「はい。今回、ライザー・フェニックス様よりサーゼクス様へレーティングゲームの申し込みが為され、グレモリー御当主様が了承しました」

「何で了承する? どうせ『良かれと思って』とかのノリだぞ」

 

 サーゼクスが盛大に溜め息を付く。

 元々ソーナとライザーの婚約話も、ライザーの人柄さえ無ければ両家にとって良い話ではあった。

 

 フェニックス家は才女と噂のソーナの婿に三男坊が成れ、シトリー家もフェニックスという元72柱の中でも特筆すべき要素を持った血筋を取り込めるのだ。

 無論、ソーナがサーゼクスに想いを寄せていた事をシトリー現当主もフェニックス家の当主も知らなかったが。

 

「……だが、何故俺に?」

 

 サーゼクスの疑問はソコだ。

 原作でも、ライザーと主人公達はレーティングゲームをするハメになったが、それは婚約破棄のため。主人公たちから挑んだゲームだ。

 しかしソーナとライザーの婚約は既に破棄され、現在彼女とライザーとの縁は無い。

 加えて、サーゼクスは輪を掛けて関わりが無いのだ。

 そんなライザーとのレーティングゲームに理由も利も無い。

 

「……俺とシトリーとの婚約が破棄された後、俺はあの騒動の裏を教わったよ。魔王レヴィアタン様がお怒りになられたことも。ソーナ、キミが出来うる限り穏便な方法を取った事を。そもそもあんな勝負をせずとも、幾らでも婚約を破棄できたことを」

「……」

「屈辱だった……、しかし納得はしていた。あくまで『勝負』という形を取ってくれたお蔭で、それを俺が承知した事で言い訳の余地を無くしてくれたんだろうな」

「……ライザー?」

 

 それは、煮えたぎるマグマの様だった。

 噴火寸前の怒りを必死で抑えている様にも。

 しかし、サーゼクスを睨み付けることで爆発する。

 

「───しかしソーナ! キミがこの男と婚約したという話を聞いて、納得など出来なかった!!」

「……つまり?」

「お前がソーナに相応しいか、試してやると言ってるんだ!」

「えぇ………」

 

 チラリ、とサーゼクスはソーナを盗み見る。

 ライザーへの煩わしさの中に、少女漫画のヒロインの如きイベントに内心ソワソワしているのを見て取れた。

 幼馴染故に見付けられた機微だろうが、今回は気付かなかった方が良かっただろう。

 

 ────セラフォルー・レヴィアタン、ソーナの姉はほんの一時、魔法少女ものアニメにド嵌まりした。

 それこそ、この世界線では身内だけに留まったとはいえ『魔王少女レヴィアたん☆』と自称し憚らなかっただろう程に。

 それに偶々遭遇し、当時オーフィスの襲来でストレスフルだったサーゼクスが一瞬で激昂。己の言動が如何に周囲への問題になるかを説明する正論神拳という名の、セラフォルーがトラウマとするほどの罵詈雑言でもって彼女に『公私峻別』を刻み込んだ。

 

 そんな、オフでは幼いとさえ思える人格の姉と対極、あるいは反面教師としたように思える冷静沈着のソーナだが、幼い頃はセラフォルーと似た性格だったのだ。

 否。素の性格はセラフォルーの様なもの。

 かつて自分の夢を真剣に検討し、意見を具申した事を切欠にサーゼクスに恋する少女は、思わぬ事態に心踊っていた。

 

「レーティングゲームで、ね。それで、俺が負ければどうなるんだ?」

「勿論、ソーナとの婚約を破棄してもらう。彼女に惰弱な悪魔は不釣り合いだからな」

「────阿呆らしい」

 

 愈々以て、サーゼクスにこのレーティングゲームを受ける理由は無い。

 というか今は余裕が、時間が無い。

 

 原作開始という、問題のオンパレードがやって来る間際。

 様々な前提条件は違うが、だからこそ予測が困難である。

 故にどの様な事態でも対応できるよう準備と研鑽を積みたいのだ。

 そしてレーティングゲームは、サーゼクスが口にした様にスポーツでしかない。

 本気の殺し合いを想定しているサーゼクスにとって、そんな事をやっている余裕は無い。

 

「見世物扱いか。老人共の能天気な享楽さには憤りを隠せないな」

 

 原作では恋に恋する『リアス・グレモリー』が己の自由を得るための婚約破棄がメリットだった。

 しかし、根本的には婚約者の元婚約者という直接的な関わりを持たないライザーと、戦う理由は無いのだから。

 

「……親父殿達がどんな要らぬ節介で馬鹿騒ぎを企画したか知らんが、ソーナとの婚約破棄をベットしてまでのゲームで、俺が得る利益は何だ?」

「それについては私から」

「……グレイフィア」

 

 グレイフィアは、トントンと額を叩くサーゼクスを見て、そのストレス具合を図る。

 そもそもルシファーの女王が、言い方は悪いが些事に付き合っているのはライザーの目付では決してない。

 

 サーゼクスが老人の遊び心にキレた場合、対処できる人材としてこの場に居るのだ。

 

(といっても、単純な実力だけなら私よりも上だけど)

 

 最上級悪魔であり、実力と格から魔王となってもおかしくない彼女は、サーゼクスの力を何となくだが察していた。

 赤ん坊の頃から見守り育てた少年の成長に、太陽を見るように眩しそうに眼を細める。

 原因不明だが赤龍帝となり、加えてそれによって引き寄せられた無限龍の加護で更なる飛翔をしようとしているのだ。

 家族同然の立場として、()()()()()()()嬉しくないわけがない。

 

 故に、この様な些事に煩わさせるのは忍びないが、これも立場として必要なもの。

 

「フェニックス家から、『フェニックスの涙』の定期供給、及びライザー様の『僧侶』である『レイヴェル・フェニックス』の譲渡が報酬として提示され、ジオティクス御当主様が受諾致しました」

「……は?」

 

 純血悪魔はその血筋を由来とする様々な能力を有する。

 バアルなら『消滅』、グレモリーは『感情の発露による魔力上昇』、シトリーは『水や氷といった乱雑な粒子の操作』、ベリアルは『対象の特性の一時無効化』など。

 そしてフェニックス家の特性は『炎と再生』。

 

 傷の再生は勿論四肢欠損や頭部損傷さえ、それこそ悪魔殺しの聖剣や極めて強力な法儀礼済みの聖武装等でさえなければ、フェニックスの悪魔は消耗こそすれ無傷の姿で復元するだろう。

 自ら薪から燃え上がる炎に飛び込んで死に、再び蘇る不死鳥、もしくは見た目または伝承から火の鳥ともいわれる存在をルーツに持つ、或いは()()()()()()()()()()一族に相応しい特性である。

 

 そんな彼等には、『フェニックスの涙』と呼ばれる、文字通り涙によってフェニックスの復元能力を他者に一時的に与える、特効快復薬のような代物が存在する。

 それを販売することで、フェニックス家は代々金銭面で苦労したことは無い。

 その特性が喪われない限り、彼等に衰退の二文字はあり得ないのだ。

 

 斯くして、そんなフェニックスの涙とフェニックス家の子女を条件にするライザーの神経とフェニックス家の思惑がサーゼクスには即座に理解できなかった。

 だがここで重要なのはその賞品をグレモリーという貴族は見逃せず、加えてグレモリー現当主ジオティクス・グレモリーにものごとを早まりすぎる悪癖があったこと。

 これによりサーゼクスは個人の感情や思惑など関係無く、グレモリー家次期当主としてライザーとのレーティングゲームを断る選択肢が無くなった事であった。

 

「流石に草を禁じ得ないわwwww」

 

 ヴァレリーの嘲笑が耳元に入り込む。

 瞬間、サーゼクスの脳裏を瞬時に駆け巡る、これから起こり、解決しなければならないであろう事案。

 

 貴族制の根本的な限界からの、体制と既存意識の改革。

 他神話勢力への抑止力としての明瞭な防衛力。

 来るべき原作イベントへの備え。

 それらに首を突っ込んできたのは、ベタベタなラブコメであった。

 

 

 

 

 

 




Q.ヴァレリーが聖杯持ってるのに、何でフェニックスの涙が欲しいの?

A.聖杯には明確なリスクがあり(ヴァレリーには適用されてないけど)、かつヴァレリーの存在を表に出したがっていないから(グレモリー家が自由に運用できる訳ではない)。
 

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