思いついたSS冒頭小ネタ集   作:たけのこの里派

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とある真紅の次期当主 6

 

 ────桐生藍華は、好奇心旺盛なごく普通の少女である。

 

 確かに男性のナニのサイズを瞬時に測ることの出来る特技こそあるものの、だからと云って異能と呼べる能力は無く。

 特筆するほどの才能があるわけでも、悲劇的な過去や背景を持つわけでもない。

 生まれつき神器を宿している訳でも、英雄や神の転生体でもない。

 極めて平凡な人間だ。

 

 そんな彼女がはぐれ神父に襲われる切っ掛けになったのは、悪魔契約である。

 

 悪魔との契約により、対価を支払い望みを叶える。

 ソレだけを聴けばさぞや危険な行為と思われるが、望みの程度が低ければ物々交換程度で済む様な軽いもの。

 実際彼女がこれまで行った悪魔契約において、命や魂やらといった危険な対価は皆無であった。

 望みの程度も対したモノはなく、他者を害する物でもなく。

 悪魔との契約でありながら極めて健全な契約を行っていた。

 

 ────悪魔と関わっている。

 

 ただそれだけで自分を殺そうとする人間が存在するなど、一般的な家庭で育った彼女は考えたこともなかった。

 何て事はない。

 下校中に立ち寄った公園で契約用のチラシを見ながら、今度は何で遊ぼうか考えている最中。

 

『おやおや~? いけませんねぇコレは。うんうん。オイラはこんな事したくないけどコレ、仕事なの。こんなボクチンを許してちょーだいっ! 悪いのはクソ悪魔に魅入られた君だからってね! つー訳でグッバイ!』

 

 そんな奇声と共に、背中から斬り付けられた。

 激痛と共に遠退く意識と中、悪魔契約のチラシを想いながら彼女は願う。

 

「……助、けて」

 

 その願いに呼応するように、チラシに描かれた魔法陣は輝き、己の役割を全うした。

 

『呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃジャーン! 藍華ちゃん久しぶ────へ?』

 

 幸か不幸か、彼女が助かったのは聖杯を持つヴァレリーの常連だったことに他ならない。

 そして彼女が気が付けば、己の知らなかった『悪魔の内情』の一部を説明する、学園のアイドルが血でも吐きそうな程顔を歪めながら頭を下げる姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六話 JKが見知らぬオッサンとお茶するのは危険

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

 翌日、駒王学園に登校した桐生は溜め息を吐きながら窓際に腰掛けて晴れ晴れとした青空を眺める。

 ここ数日の学園は比較的に静かだ。

 問題児変態三人組が遂に停学を喰らって自宅謹慎中故に、起こりうる騒動の大概の要因が居ないからだ。

 

 勿論学園の騒動の全て原因が三人であった訳ではない。

 デリカシーやら以上に性犯罪者予備軍極まりない行動ばかりしているが、彼女は彼等の事がそれほど嫌いではなかった。

 

 少なくとも、死にかけた自分がらしくなく憂鬱になっている時には、彼等の馬鹿騒ぎが恋しくなると彼女が思ってしまうほどに。

 

「悪魔と天使、堕天使とか……」

 

 思い出すのは『神話解釈研究部』という頓狂なサークルである。

 様々な解釈をされている神話や伝承を、自分達なりに新しく解釈し編集する────といった内容だ。

 これまたニッチでオタク受けもしそうな

 ────部活メンバーの内容さえ除けば。

 

 学園の御兄様こと暮森陸人を始めとして、それに並ぶ人気の美男子二年生木場裕斗。

 更には学園一の美少女姫島朱乃に、学園のマスコット塔城白音。

 

 完全に色物、或いはカーストトップ集団である。

 高嶺の花過ぎて誰も入れないし、入れた奴は勇者確定だろう。

 尤も、そんな勇者は今の所存在しないのだが。

 

「(それが、まさかリアルファンタジーの巣窟とか……)」

 

 悪魔。

 それも聖書に出ているものとソロモン七十二柱という、サブカルチャーでもポピュラーな題材上の存在が態々神話を研究すると称する組織を作るとはこれ如何に。

 研究など、欠片も必要が無いではないか。

 

 チラリ、と窓越しに校庭や街風景を眺めて、そんな当たり前の風景に人外の混じっているのだと改めて思う。

 

 そもそもヴァレリーとの契約は面白半分でしかなかった。

 実際桐生にとってヴァレリーという友人と遊んだり、勉強の手伝いをしてもらう程度の契約だった為、その対価は大したことは無かった。

 その為、悪魔という存在に対して危機感など持ち得なかったし、「そういうもの」と思考を停止させ深入りもしなかった。

 それ処か、最近はヴァレリーの方から契約書という名のチラシを利用し、オーフィスという黒髪の美少女と共に契約そっちのけで遊びに来ていた程だ。

 

 その為か、悪魔というより裏社会に対しての考えが甘過ぎたのだ。

 

「悪魔なんて、今思えば厄ネタが過ぎよねぇ」

 

 悪魔が実在するならば、それに相反する天使が存在するのが創作物の常道だ。

 しかも今回桐生を襲った犯人は、神に逆らって堕天した天使────堕天使の勢力に雇われていた、元天使陣営の指名手配犯だそうだ。

 何だそのややこしい経歴は。

 

 暮森先輩によると、堕天使陣営の上層部は一人の戦争狂というか過激派を除き基本的にはお人好し集団らしく、彼等の意図に反した部下が雇った異端神父の暴走、というモノらしい。

 暴走した部下が雇った部下の暴走、と何とも日本語がゲシュタルト崩壊しそうだ。

 

 先輩は鬼気迫る形相で堕天使の総督に是が非でも謝罪させる、と息巻いていたが、ナチュラルに敵対組織のトップと交友を匂わせていた辺り、彼は悪魔に於いてはどの程度の立ち位置なのだろうか。

 

「ふむ……、おっと?」

 

 すると廊下から複数の視線を感じる事が出来た。

 それはクラスメイトのもので、戸惑いこそあれど特別妙な視線ではない。

 見れば、教室の入り口に見慣れぬ生徒が桐生を見ていた。

 

「悪い、桐生……であってるか?」

「確か、生徒会のハーレム君」

「失礼だな!?」

 

 更生した不良の一年後、といったイメージだろうか。

 跳ねた茶髪を短く切り揃え制服のネクタイをキッチリ着こなした少年。

 女生徒の中で唯一の男子生徒だからか、三馬鹿達の嫉妬の罵倒からよく覚えがあった。

 

「私に何か?」

「いや、俺はよく聞かされてないんだが……。取り敢えず、生徒会室に来てくれるか?」

 

 生徒会庶務、匙元士郎である。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 ────────匙元士郎は転生悪魔である。

 

 聖書の神が創り、人間に宿したとされる神器(セイクリット・ギア)、『黒い龍脈(アブソーブション・ライン)』を宿していた事が切欠で会長────元七十二柱次期当主であるソーナ・シトリーに拾われた元一般人だ。

 両親の交通事故を皮きりに次々に親族を失い、一時は一家離散の危機にあったが、ソーナに見込まれたことでシトリー家の援助を受けられるようになり、シトリーの管理下にあるマンションで周りの助けを借りながら暮らしていけるようになった。

 

 神器を持った人間に常人の幸せは難しい。

 常人でも発現すれば人を容易く殺せ、あるいは人外さえも倒しうる異能である。

 その利用価値は、悪魔達が挙って転生悪魔にしようと考えるほどには高かった。

 そういう意味では両親こそ喪ったものの、匙は非常に恵まれていた。

 

 先ず、彼が神器を発現する前に、極めて良識的な上級悪魔であるソーナに発見されたことも大きい。

 転生悪魔の約八割は主人である上級悪魔によって、アクセサリー同然の扱いを受けている。

 加えて転生する際も非道な方法で無理矢理悪魔に転じさせられたり、あるいは直接悪魔に殺されて悪魔になった者も居る。

 人から悪魔に転じる際に、新たな生命として転生する特性を悪用されたと言えよう。

 

 そんな悪例に比較すれば、脅迫も拘束もせずに神器の危険性と有用性。そして転生悪魔のメリットとデメリットを提示し、匙に選択を委ねたのだ。

 転生悪魔としてソーナの眷属になるのも良し、転生せずに庇護下に入り眷属に対するほど親身に出来るわけではないが神器を操るサポートを受けるも良し。

 第三の選択肢を自分で見つけ出すのも自由だった。

 神器は生まれつき備わっており、摘出は神器保持者の死を意味する。

 

 そんな神器保有者だからこそ支援を受けられたのだとしてものだとしても、匙がソーナに対し深い恩義と好意を持つのは当然だった。

 何せソーナは、まさに絵に描いたような知的美少女である。

 お嬢様で貴族の次期後継者という立場も、彼女の魅力を引き立てる材料にもならない。

 

 強いて上げるならば、ソーナの婚約破棄のエピソードだろうか。

 決められた望まない縁談を、チェス勝負という形だが相手の了承を得た上で完膚なきまでに叩きのめして婚約を解消している。

 ただ生まれに縛られるだけの少女ではないと、彼女自身が証明した過去だった。

 

 匙が心底惚れ込むのも無理もない。

 

 だが、所詮は高嶺の花とソレに拾われた雑草。

 如何に優れた素養を持っていたとしても、人種処か種族が違う彼と彼女。

 例え転生し彼女と同じ存在になったとしても、そこで漸くスタートラインに立てたに過ぎず。

 匙が彼女に恋をするには遅すぎたし、彼女に惚れて貰うには視点が足りなすぎた。

 惚れた弱み故に、匙はソーナを無条件で全肯定する。

 彼女の夢を認めて支えたいのだと。

 

 しかしそれは思考の停止であり、恋故の盲目でしかない。

 そんなものがソーナの為になる訳がなく。

 そして花も恥じらう年頃の少女に、恋煩いの一つも無い訳もなかったのだから。

 

 サーゼクス・グレモリー。

 彼が越えるべき壁は、余りにも高過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか」

「ようこそ桐生藍華さん」

「よきにはからえー」

 

 匙くんと共に生徒会室を訪れた私を歓迎したのは、本来生徒会とは関わり合いの無い神研の部長(暮森先輩)副部長(姫島先輩)。そして私の契約悪魔のヴァレリーだった。

 常人ならば部屋に足を踏み入れる事すら躊躇するほど随分顔面偏差値の平均が現実離れしているけれど、しかしヴァレリーともう一人同レベルの美少女とよく遊んでいる私には慣れたもの。

 流石に暮森先輩と夕暮れの教室とかで二人きりだった場合、全力で逃走を選ぶが。

 でなければ私のキャラが崩壊して童貞の様な挙動不審に陥ってしまうだろう。

 いや、私は処女だけども。

 

 この部屋の主である支取会長は、匙くん以外の生徒会メンバーと共にパソコンに向かって凄まじい速度でタイピングしている。

 といっても、本当に追い上げているのは会長と副会長、そして会計だけなのだが。

 

「……何でアンタ達が?」

 

 匙くんが神研のメンバー、というより暮森先輩がこの部屋いること自体不服なのか、少し厳しい口調で私の疑問を代弁する。

 どうやら彼等の存在は知らされていなかったようだ。

 おや? それなりに優等生な感じの彼がいきなり険悪な態度、それも極めて例外的に男女問わず人気がある暮森先輩にというのは驚きである。

 

「口の利き方に気を付けなさい、匙」

 

 そんな彼の言葉遣いに、当然真羅副会長の注意が飛ぶ。

 相変わらず会長同様、クールビューティーを絵にかいたような美人である。実に羨ましいスタイルだ。

 上級生への失礼な態度を咎めるのは至極当然だが、ただそれだけというには少し過剰とも言える。

 しかしそんな二人の様子に会長以外の生徒会メンバーの反応は、暮森先輩でさえ苦笑いだった。

 険悪なのは生徒会の二人だけで、まるでよくある雰囲気のような空気に桐生は静かにこの場で唯一気軽に話し掛けられるヴァレリーに囁く。

 

「(もしかして、面白い三角関係?)」

「(なお匙キュンには立場感情どちらも勝ち目がない模様)」

 

 下種極まる表情ですべてを端的に語る吸血鬼に、思わず他の生徒会メンバーと同じ困った表情を浮かべる。

 ただ一人、黙々と手を動かしながら不思議そうに匙と陸人をチラ見しているソーナを除いて。

 

「さて、桐生は聖書勢力のありていな概要は既に説明しているな?」

「ええ、はい。でもまさか、生徒会もそうだとは思わなかったですけど。でも、本当に何でお二人とヴァレリーが此処に?」

「昨晩の補足と――――――」

「私からの謝罪です」

「謝罪?」

 

 ノートパソコンを仕舞った支取会長が話に加わる。

 どうやら仕事は終わったようだ。

 

「生徒会長として、何よりこの地を彼と共に管理している者として、一般人である貴女に被害が出てしまった。謝罪するのは当然のことです」

「はぁ」

 

 昨夜の説明ですでにこれ以上ない程暮森から謝罪を受けた桐生には、些か大げさに思えた。

 その感性の緩さが、悪魔という存在を大量に前にしている現在でも平然としている彼女の特技かもしれないが。

 

「それで、補足というと……悪魔のあれこれというヤツでしょうか?」

 

 頷く会長と暮森の二人に、笑顔で椅子を用意した朱乃に促されるまま座った。

 立ち話とはいかないらしい。

 

「まずこの世界には悪魔だけでなく様々な神話存在が多数存在する」

「……SAN値持っていかれるような?」

「幸い今のところそれらは確認されていないな」

 

 白痴で漂う宇宙そのものとか、千の顔を持ち人々を惑わす無貌とかは流石に居なかった様だ。

 

「インド神話とそこから派生した天部の須弥山。ギリシャ神話のオリンポス十二神に、北欧のアースガルズ神族。有名処はこの三大神話だな。他にも色々日本神話やその下に存在する京都妖怪群、そして世界三大宗派の一角である俺達聖書勢力。今回桐生、君がかかわっているのはコレだ」

「何で世界滅びてないんですか? ていうか終末論とか各神話にあると思うんですけど」

「そりゃまぁ世界がそれぞれ別位相に存在するからな。そしてそれら神話世界の基盤、あるいは基準となるのがこの星だ───と、俺は考察している」

 

 神話世界が生まれたから人が生まれたのか、人が生まれたから各神話が生まれたのか。

 自分たちの存在意義の否定にも繋がり兼ねないその答えは、それ故に未だ出ていないらしい。

 そして今回の議題は、彼ら悪魔を中心にした聖書勢力だ。

 

「有り体に言えば、落ち目の神話だな」

「えー」

 

 言っていいのそれ、という思いと共に空気の抜けるような声を漏らしてしまう。

 自分たちを卑下するような言葉に、不満そうにするのは生徒会の会長副会長以外のメンバーである。

 その目に映るのは、向上心だ。

 

「とある理由で、そもそも生殖を殆んどしない天使は増えなくなった。天使が欲望に溺れた堕天使は増えても絶対数は天使。悪魔はトップである初代魔王たちが死に、そもそも悪魔は堕天使同様その寿命に比例して出生率が低い。何より二千年以上前に起きた一度目の大戦(ハルマゲドン)、この時に前述した四大魔王と大勢の悪魔、天使と――――堕天使が失われた」

 

 少し違和感を覚えたけど、つまり自分達で盛大に内輪揉めで消耗した訳ね。

 そりゃ落ち目と言われる。

 

「何より問題なのが、西暦以降の教会による信仰侵略。悪魔による契約稼ぎと―――――転生悪魔の乱獲だ」

 

 聖書、つまり基督教による侵略行為は歴史的にも非難されることであるのは、私でも知っている事実だ。

 唯一神とその十戒を掲げる彼らにとって、多数存在する多神教の存在は悪に映ったのだろう。

 無論八回行われた十字軍の蛮行は今でも批判の対象だし、同じ一神教の過激テロリストは今も被害をまき散らしているデリケートな話題だ。

 どうやら、天使と言っても完全な善良とは言えないようだ。

 

「まぁ天使の善、正義の定義は聖書における物でしかない。現代の日本人には合わないかもしれないだろうし、聖書の解釈違いで悪に繋がったりする。まぁ大天使長はかなり丸くなったらしいが、末端には未だそういう狂信者は居ないでもない」

「今回貴女を襲ったはぐれ神父も、ある意味ではその被害者とも言えるでしょう」

「被害者?」

 

 少しだけ機嫌を良くする匙少年に憐れみを覚えるも、その感情を知ってか知らずかそのまま彼の問いに返答する。

 思えばあの神父は明らかに正気、あるいはマトモとは言えなかった。

 

「名前はフリード・ゼルセン。教会の戦士育成機関、その暗部による人体実験の被検体の一人だったそうです。天才的な素質を持っていたようですが、精神は既に破綻しているようですね」

「まぁ必要以上に憐れむ必要はないぞ。それにしたって無差別に殺し過ぎだ――――――っと、話が逸れたな。つまり聖書勢力は世界中に敵を作り続けた訳だ」

 

 世界すべて、という訳ではないらしいが、少なくとも先程述べた三大神話勢力の内、ローマ神話に信仰を滅ぼされたギリシャ神話以外は、間違いなく被害を受けたことがあるようだ。

 意外なことに幸か不幸か聖書勢力をそこまで敵視している神々は少ないそうだが、それでも被害者の悪感情や悪影響は根深いようだ。

 

「中でも問題なのが─────悪魔の貴族社会と、転生悪魔だ」

 

 私はその後、人間に対して関連があるであろう悪魔の話を聴かされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かーっ、ほんとファンタジーファンタジー」

 

 色々あった神話世界話の放課後、喫茶店の一席で甘ったるいケーキを突きながら私は所業の無常を噛み締める。

 随分話をしていたが、退屈にもならず昼休みの時間を易々と超過していたので、話し終えた後は焦ったものだけど、

 

『「停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)」―――――、私が時を止めた』

 

 ヴァレリー曰く、生徒会室だけの時間の流れだけを停止させたらしい。

 イキナリのインフレに目をひん剥いて他の先輩や生徒会メンバーを見遣ったが、そんな芸当ができるのは悪魔でも一部の例外を除き殆んど不可能らしい。

 

『主神クラスが神器を使いこなしたらそれぐらいできるだろう』

『しゅしんくらす』

 

 やはりこういう個人戦力が高い世界だったからか、ある程度の格付けや基準があるらしい。

 それは転生悪魔の話題にも繋がるのだが。

 別に気にしているわけじゃないしそもそも時止めとかエロ妄想が捗るのだが、でも実際に体験するとなると辟易するなというのは無理なのだ、

 尤もこの時、この日もMMOにログインしPKKに励んでいた遊び友達が、ぶっちぎりで世界最強で仮に評価規格外の同格と戦った場合余波で星や銀河、あるいは世界が容易く滅んでしまう様な超越存在だと私が知るのは、もうまたもや少し後になる。

 

 話は戻るが、悪魔社会は貴族社会だという。

 大戦から生き残った初代悪魔のトップがガチガチの貴族主義で、今までは大丈夫でも現代では様々な弊害が発生しているらしい。

 というか上手く行っていなかったから絶滅危惧種になっているのだが。

 ダメダメである。

 

 そんな絶滅危惧種指定から脱するために生み出されたのが、『悪魔の駒』という、他種族を悪魔に転生させる魔具の存在である。

 研究色の強い魔王様が作ったものらしい。

 ちなみに魔王は四人居て、現在の任命基準は個人戦闘力なのだそうだ。

 ほとほと悪魔社会は大丈夫だろうか。

 

 他種族を取り込むことで人材不足を解決しようという考えは理解できるが、しかしこれにより気に入った特異な希少種や女性を無理やり悪魔に転生させアクセサリーのように扱うという問題が多発。

 結果転生悪魔の八割が望まずに転生、現在の主に反意や不満を持っているらしい。

 この転生悪魔が主人から逃亡、あるいは逆らった転生悪魔がはぐれ悪魔と呼ばれるらしい。

 これは悪魔の力に溺れ異形に変容してしまったものと、主人の扱いに耐えかねた被害者に分けられるようだ。

 最近白音ちゃん絡みで法改正が出来てかなり改善されたのだが、中々根深く根絶は難しいらしい。

 日本の政治家でもどうしても腐敗不正は横行しているのだ。貴族社会ではさぞ難しいだろう。

 

 なんでも隠居していながら現体制のトップより影響力を持ち、加えて政治に口を出し変化を嫌う絵に描いたような老害もいるという。

 そんなドロドロな権力闘争に参加せねばならない暮森先輩と支取会長に心の中で敬礼する。

 一般人でよかった(他人事)

 

「確かに所作が洗練されてるというか、育ちいいなぁとは思っていたけど……まさか貴族の御曹司と御令嬢とは」

 

 暮森先輩達が入学した時にそんな少女漫画のような噂があったらしいが、まさにというやつである。

 そんな二人はそれぞれ次期当主で婚約者。幼馴染で仲良く日本で勉強し婚約しているとは、同じ世界の住民とは思えない背景だ。

 尤も、彼らの住む世界は冥界と呼ばれる悪魔と堕天使の異世界なのだからある意味その通りである。

 これでもし望まない婚約ならば匙君もまだ目は有ったかもしれないし、あるいはラノベ主人公の様な活躍と共に想い人を獲得できたかもしれないが、二人は傍目から見ても仲が良い。

 何より、()()()()()()()()()()()()。カップル出来立てではなく、数年付き合っている雰囲気さえ感じる、

 こういうカップルは二人きりだと途端に態度を変えやすい。私の考えでは、クールな会長がデレデレになっていると見た。

 まぁ私の下種な勘繰りは兎も角、この有様ではおそらく会長を慕っている匙少年が太刀打ちできる相手じゃない。

 曰く悪魔は万年生きるそうだ。

 その間に新しい恋を見つけられるよう、心の中で合掌しようじゃないか。

 

 そんな匙少年をやきもきさせている婚約者二人は、私に庇護下に入ることを求めた。

 一度はぐれ神父に襲われた私は、神話世界――――所謂、裏の世界との『縁』が出来てしまった。

 須弥山には本当の仙人、それこそ孫悟空さえ存在している。日本にも陰陽道や神道、修験道など神秘に対応する宗派は沢山。

『縁』なんてものも本当にあるのだろう。

 再度はぐれ神父は勿論、さまざまな脅威と遭遇するかもしれない。

 態々護って貰えるのだ、断る理由がない。

 それ以外にも色々な形式があるのだが、暮森先輩は只管にお勧めしなかった。

 それは私も同感である。

 

「私が転生悪魔とか、柄じゃないしね」

 

 悪魔への転生。

 なかなかワクワクする話だが、生憎こちらは平和ボケした日本人。

 切った張ったは御免被る。

 その為選択肢は暮森先輩か生徒会長のどちらに庇護されるかだが、ヴァレリーのお得意様だったことから神研の庇護下に入った。

 庇護下、それは私の入部を意味している。

 

「ついに帰宅部卒業かぁ」

 

 そんな日常の変化に、少なからず高揚している私の不意を突くように、店員が申し訳なさそうにやって来た。

 

「申し訳ございません。現在席が混雑しており、相席宜しいでしょうか?」

「まぁ……構いませんよ」

 

 店内を見渡せばそれなりの人数が席を埋めていた。

 時間帯も帰宅時間で、学生は勿論定時帰宅の会社員もちらほら居たので仕方ない。

 人見知りどころか協調性には自信がある私は、店員に了承を伝えるとその客が案内されて現れた。

 

 これまた珍しい、俗世離れした銀の髪を持つイケオジだった。

 まるで美容院に行きたてのように髭を切り揃えた、まさにキメた感じのスーツオジサマであった。

 今日は美人と良く会う日だ、と欠片も違和感に思わなかったのに気付いたのは、これまた何度も『リヴァン』と名乗った彼と話すことになった更に後になる。

 

 気付かない事だらけだが、所詮私は唯の女子高生なのだ。

 仕方ないだろうと目を瞑って欲しい。

 

 私自身に目立った害がなかったことも助長させたのだろう。

 見た目に反しかなり軽く話が弾み、パフェさえ奢ってもらってご満悦を表情に出しながら、私は何事もなく帰宅できた。

 リヴァンさんと会っている間、今日ヴァレリーに貰った蝙蝠のキーホルダーが何時でも黒い靄を出していたことに私が気付きもしなかったのは、言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




桐生が襲われたのはアーシアとの対談時です。

※サーゼクスの口調を修正

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