全話の後書きにて、ヒロインが決まらないと書いてから、一日でたくさんの意見をいただきました。
参考程度と言ったのに、たくさんの意見をいただくことができて、とても嬉しいです。
ありがとうございます!
活動報告にて未だに意見は募集中なので参考程度ではありますが、書いていただけると嬉しいです。
因みに、今のところは雫とリーナが人気です。
「そろそろ本題に入りましょうか」
唐突に、というほどでもないが、会話にできた少しの間に真由美が切り出して改まった口調で説明を始める。
「これは毎年恒例なのですが、新入生総代を務めた一年生は生徒会の役員になってもらっています。深雪さん、私は、あなたが生徒会に入ってくださることを希望します。引き受けていただけますか?」
真由美の問に深雪はしばらく俯いて黙り込むと、再び顔を上げて何故か思い詰めた瞳で口を開いた。
「会長は兄の成績をご存知ですか?」
「ええ、知っていますよ。すごいですよねぇ……。正直に言いますと、先生に答案をこっそり見せてもらったときは、自信をなくしました」
「……成績優秀者、または魔法師としての実力。有能な人材を生徒会に向か入れるのなら、わたしよりも兄の方が相応しいと思います」
ここまでは原作通り、そして予想通りの展開だった。……そう、だったのだ。
「それに有能な人材なら、わたしよりも弟の方がよっぽど適任です」
「―――――はっ?」
完全に予想外、全く想定していなかった言葉が深雪の口から語られ、思わず間の抜けた声を漏らす。
「達也くんはともかく、紅夜くんの成績は、総合で五位だったはずなのだけれど」
「それは紅夜が面倒くさいと言って手を抜いたからです。本来なら筆記も魔法力もわたしより上です。……全く、あんな覇気のないことでどうしますか」
ちょっ、余計なこと言わないでくださいよ、深雪さん!? ってか入学式のこと、まだ根に持ってるのかよ。
「……それは本当なの、紅夜くん?」
「い、いや、そんなわけないじゃないですか!」
真由美の問に慌てて否定する。が、何故か横から冷気が漂ってきた。
「紅夜……?」
「え、あの、深雪?」
「紅夜?」
「み、深雪さん……?」
「こ・う・や?」
「は、はい!? 嘘を吐いてすみませんでした、お姉様!!」
謝る、謝るから、そのイイ笑顔を止めてくれないか!? 他の人達が引いてるから!
「コホン……司波紅夜さんはともかく、司波達也さんが生徒会に入るのは無理です」
鈴音が空気を換えるように咳払いをしてから、淡々と告げた。深雪が不満そうにしているが、鈴音が理由を教えると一応納得したようで謝罪をした。
「それでは、深雪さんには書記として、生徒会に加わっていただくこということでよろしいですね?」
「はい、精一杯務めさせていただきますので、よろしくお願い致します」
こうして深雪が無事生徒会に加わったわけだが……
「結局、俺はどうすればいいんですかね?」
『―――あ!』
うぉい、忘れてたのかよ!
「ま、まあ、とにかく、深雪さんの話が本当なら、是非とも生徒会に入ってほしいんだけど……」
「本当かどうか、確認しないとな。というわけで、放課後に模擬戦をするぞ」
マジで? なにがどうしてこうなった。俺はちょっと刺激のある学校生活が楽しめればいいだけなのに……
まあ、四葉に生まれた時点で無理だろうけど。
「拒否権とかあります?」
「別に構わないが、姉の顔を見てから決めるんだな」
摩利にそう言われて、横を見るとそこには嬉しそうに満面の笑みを浮かべた深雪が―――
―――断れねぇぇぇ! そんなに嬉しそうな顔をされると断れないんですけど!?
……はぁ、仕方がないか。だがしかし、俺はただではやられんぞ!
「分かりました。しかし、条件があります」
「なに?」
「風紀委員の生徒会枠に兄さんを選んでください」
「紅夜、なにをっ―――」
「―――そうか!」
兄さんが俺に対して何かを言おうとしたとき、摩利の声で兄さんの声はかき消された。
「一科生の縛りがあるのは会長、副会長、書記、会計だけ。つまり、風紀委員の生徒会枠に二科生を選んでも違反にはならない」
「紅夜くん、摩利、貴方達……」
俺と摩利の突拍子もない発言に真由美は目を見開き、鈴音とあずさは唖然としていた。
そして、真由美は口を開き―――
「ナイスよ!」
「はぁ?」
予想外の言葉が飛び出した。さすがの兄さんもこれには驚いたようで、非常に珍しいことに間の抜けた声を漏らしていた。
兄さんは焦って反論していたが、結局昼休みが終わり、この話は放課後に持越しになった。
……因みに、兄さんと別れてA組に戻ったところで、深雪にめちゃくちゃ感謝された。
昼休みが終わり、授業が始まる。
今日の課題は指定のCADを使って小さな台車をレールの端から端まで三往復させるというもの。今日の授業はガイダンスのようなものなので、内容は二科生と変わらないであろう。
もはや定番となったグループ、俺と深雪、そして雫とほのかの四人で同じCADの列に並ぶ。
「紅夜くん、生徒会室はどうだった?」
後ろから制服の袖を引っ張られて振り向くと、雫がそんなことを聞いてきた。
「奇妙な話になった……」
「奇妙な話?」
「生徒会に入れ、だと。めんどいことになった」
俺がため息を吐くと、雫は俺の気持ちを分かってくれたのか、背中を軽く叩いて慰めてくれる。
「でもすごいじゃないですか、生徒会にスカウトされるなんて」
だが、前にいたほのかの感じ方は違ったようで、最後尾に戻る足を止めて感じ入った目を向けてきた。
「そうか? 深雪のおまけだぞ」
こんなことを言ったら深雪に怒られそうだが、幸い深雪はほのかの一つ前だったので今は列の最後尾にいる。
次は俺の順番なので、CADの前に立つとサイオンを流し込む。魔法の工程は加速と減速の二工程を六度繰り返すだけの単純な魔法だ。サイオンを流し込んだCADから起動式を変数として読み込む。その起動式に混じるノイズの多さに思わず眉を顰めるが、魔法を中断したくなるのをなんとか堪えて魔法式を展開する。
ノイズが酷いとはいえ、俺の魔法演算領域からすればこの程度の魔法は簡単すぎるので、ほとんど反射的に魔法が発動する。
そもそも、この程度の魔法ならCADを使わなくても発動できる。いや、寧ろこれだけノイズが酷い起動式を使うくらいなら、CADがない方が発動速度は速いだろう。
台車は滑らかで素早い動きで三往復する。その可もなく不可もない安定した魔法に満足して雫と入れ替わると最後尾に並んだ。
放課後、俺と深雪は兄さんと合流すると、生徒会室に来ていた。
既に認証IDは登録済みなので、そのまま部屋の中に入る。生徒会入りが既定事実扱いされているような気がするが、ここまで来た以上もう覚悟は決めているので割り切る。
頭を下げてから部屋に入ると明確な敵意をはらんだ鋭い視線が俺の方向、正確には俺の前にいる兄さんに向けられる。それを庇うように前に出た俺と深雪によりその視線は霧散したが。
「副会長の服部刑部です。司波深雪さん、司波紅夜さん、生徒会へようこそ」
立ち上がった服部は俺たちに挨拶をすると、兄さんを無視して席に戻った。ただ、俺に対してもしっかりと挨拶をしたことから、優越感といったものではなく一科生であることに誇りを持っていることが伺える。
「よっ、来たな」
「いらしゃい、深雪さん。紅夜くんと達也くんもご苦労様」
摩利と真由美の挨拶に適当に返す。既にこの二人の対応については雑なものになっていたが、二人もそのことを気にしたようすはない。
「早速だけど、あーちゃん、お願いね」
「……ハイ」
あずさに案内され兄さんと別れようとしたときだった。
「渡辺先輩、待ってください。その一年生を風紀委員に任命するのは反対です」
服部が兄さんが風紀委員に入るのを反対し始めたのだ。摩利がその提案を却下するが服部は諦めず再考し直すように進言する。
「待ってください!」
そしてついに深雪の我慢の限界が訪れた。深雪は服部に対して反論をするが、服部は親切に、しかし深雪からすれば逆効果の説得をする。
それにより、深雪は完全に冷静さを欠いていた。
「お言葉ですが、私は目を曇らせてなどいません! お兄様の本当のお力を以てすれば―――」
「「深雪」」
さすがにこれ以上はいけないので深雪の言葉を止める。深雪は冷静さを失ったことと、言ってはいけないことを言おうとした後悔と羞恥心に俯く。
だが、シスコンの兄さんが深雪にここまで言わせておいて何もしないわけがなかった。
「服部副会長、俺と模擬戦をしませんか?」
「なに……?」
兄さんの思いがけない宣言に生徒会の面々は唖然とする。
「それなら丁度いい。俺の模擬戦の相手もしていただけませんか、服部副会長?」
「なんだと……!」
「深雪の目が曇っているなんて言われたら、俺も黙っていられないんですよねぇ」
そう、実は俺も結構頭に来ていた。だったらこの際、兄さんに便乗して服部をボコボk……おっと、俺も服部に胸を借りるつもりでご指導いただこうかと思ったわけだ。
「一年生の分際で、思い上がるなよ!」
兄さんに加えて俺の宣言に服部はかなり頭に来たのだろう。身体を震わせ、口角泡を飛ばす勢いで怒鳴った。
その後、真由美と摩利が正式に模擬戦を行うことを認め、三十分後に第三演習室で行うことになった。
そして三十分後、第三演習室で向き合う兄さんと服部の姿があった。
両者の準備が整ったのを確認すると摩利が模擬戦のルール説明を始めた。
内容としては、直接、間接を問わず相手を死に至らしめる攻撃の禁止。相手に回復不能な障害を与えるのも禁止。ただし、捻挫以上の負傷を与えない直接攻撃は有り。武器の使用は禁止。勝敗はどちらかが負けを認めるか、審判が試合続行不可能と判断した場合に決する。試合開始の合図までCADの起動を禁止。
と、こんなところだろうか。
二人は五メートル離れた位置で向き合うと、両者共に構えをとり、摩利の合図を待った。
「始め!」
勝負は一瞬で決着した。
服部が崩れ落ち、兄さんが立っている。原作通りの結果だった。
違うことがあるとすれば、次の俺との試合の為に兄さんが手加減をして、服部の意識が残っていることだろうか。
「……勝者、司波達也」
兄さんの勝利が控えめに宣言された。
「待て、今の動きは自己加速術式を予め展開していたのか?」
「そんな訳がないのは、先輩が一番よくお分かりだと思いますが」
摩利の問いに兄さんは淡々と答える。
「しかし、あれは」
「正真正銘身体的な技術ですよ。俺もできますしね」
俺がそう言うと兄さんと深雪を除いた全員に唖然とされる。
「わたしも証言します。あれは、兄の体術です。兄と弟は、忍術使い・九重八雲先生の指導を受けているのです」
深雪が更に告げると摩利が息をのむ。
忍術使いの指導を受けているということで兄さんが服部を倒すのに使ったのは忍術かと真由美が質問するが、兄さんは否定の答えを返すと、振動魔法によるサイオンの波とその合成について説明する。
「それにしても、あの短時間の間にどうやって振動魔法を三回も発動できたんですか? それだけの処理速度があれば、実技の評価が低いわけがありませんが」
「あの、もしかして、達也さんのCADは【シルバー・ホーン】じゃありませんか?」
「シルバー・ホーン? シルバーって、あの謎の天才魔工師トーラス・シルバーのシルバー?」
真由美の質問にあずさの表情はパッと明るくなり、嬉々としてトーラス・シルバーについて語り出した。
……いつかこの人とデバイスについて語り合ってみたいな。
それにしてもトーラス・シルバーのことをべた褒めだ。片割れの初代トーラスとしては気恥ずかしいものがある。
原作では牛山さんがトーラスだが、この世界では俺が初代トーラスだ。何故初代かといえば未成年の開発権利者だとまずいから、俺たちが成人するまで牛山さんが二代目トーラスとして名を連ねているのである。
と、そんなことを考えている内に話が進み、服部が深雪に謝っていた。
さて、
「それでは服部副会長、次は俺との模擬戦ですが大丈夫ですか?」
「ああ、さっきは油断していたが、今回は最初から本気で行かせてもらうぞ!」
「望むところです」
そして、より一層気合が入った服部と部屋の中央に向かうと、そこから五メートル離れて向かい合った。
「それでは、始め!」
日刊ランキングでこの作品を見つけ、嬉しく思いながら開いてみると、あらすじとタグが寂しいことに今更ながら気がつきました。
……加筆修正した方がいいですかね?