魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

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ついに、入学編の開始です。




入学編
入学編Ⅰ


 

 

 

 

 

「納得できません」

「まだ言ってるのか……?」

 

兄さんの言葉に俺は同意する。巻き込まれたくないので、声には出さないが。

 

俺が魔法科高校の劣等生の世界に転生してから15年が経った。

そして、今日は第一高入学式の日。だが、まだ開会式二時間前の早朝。

そんな時間に入学式の会場となる講堂の前で、兄さんと深雪は言い争いをしていた。

 

「何故お兄様が補欠なのですか? 入試の成績はトップだったじゃありませんか! それに紅夜も! 本来なら私ではなく、お兄様か紅夜が新入生総代を務めるべきですのに!」

「お前が何処から入試結果を手に入れたかは置いておくとして……魔法科学校なんだから、ペーパーテストより魔法実技が優先されるのは当然じゃないか。紅夜は別として、俺の実技能力は深雪もよく知っているだろう? 自分じゃあ、二科生徒とはいえよくここに受かったものだと驚いているんだけどね。紅夜は別として」

 

そういえば原作はこのシーンから始まったなぁ、などと考えていたら突然俺の名前が呼ばれて驚く。……俺、関係なくない? 巻き込まれたくないんだけど……

 

「なんで二回も強調するんだよ、兄さん。だいたい深雪、俺の成績は総合五位なんだから新入生総代になるわけないだろ?」

 

俺がそう言うと二人は呆れたようにため息を吐いた。

 

「何故お前まで入試の成績を知っているのかは別として、お前は狙って手を抜いたんだろう……?」

「お兄様の言う通りです。そんな覇気の無いことでどうしますか! 勉強も体術もお兄様並みなのですから負けるはずがありませんのに! 魔法だって私よりも」

「わかった、悪かったって!」

 

いつの間にか叱責されるのが俺になっているのに戸惑いながら深雪を押し止める。クソ、兄さんめ、俺を身代わりにしたな!

 

「ほ、ほら、深雪はこれからリハーサルだろ? 早く行かないと、な?」

「……分かりました。今更何を言っても仕方がありませんし、それでは、行って参ります。

……見ていてくださいね、お兄様、紅夜」

「ああ、行っておいで。本番を楽しみにしてるから」

「頑張れよ、深雪」

「はい、では」

 

深雪が会釈をして講堂へと消えたのを確認して、俺と兄さんはやれやれとため息を吐いた。

 

「さて、俺たちはこれからどうすればいいんだろう?」

「さあ? とりあえず何処か座れる場所を探そうよ」

「そうだな」

 

俺たちは入学式が始まるまでの時間を潰すため、座れる場所を求めて歩き始めた。

 

 

 

 

 

俺は兄さんと座れる場所を探して舗装された道を、周囲を見渡しながら歩いていた。

 

携帯端末に表示した構内図と見比べながら歩き回ること五分、ベンチの置かれた中庭を発見した。

三人掛けのベンチに隙間なく座り、二人揃って携帯端末を開き別々の小説サイトにアクセスする。

そんな俺たちの前を式の運営に駆り出されているのだろう在校生が二人の前を横切って行く。通り過ぎる彼ら、彼女らは一科生徒と二科生徒が並んで座っているのを見て不思議そうな顔をしながらも、結局は何も言わなかった。

 

「これは紅夜が居て助かったな」

「確かに、兄さんだけなら面倒なことになってたかもな」

 

俺は兄さんのこれからの苦労を察し、自分にまで降りかからないといいな、などと考えるが、どうせ無理だろうと諦めて情報端末の書籍データへと意識を向けた。

 

 

 

「そろそろ時間だぞ」

 

兄さんの声が聞こえて意識が引き戻される。

端末に表示されている時計を確認すると入学式まで、あと三十分だった。

 

「新入生ですね? 開場の時間ですよ」

 

端末を閉じて兄さんを追って立ち上がった時、突然声をかけられた。

そう言えばこんなこともあったな、などと15年で薄れた原作知識を思い出しながら顔を向けると、予想通りそこには現生徒会長である七草真由美(さえぐさまゆみ)がニコニコと微笑みながら立っていた。

 

「ありがとうございます。すぐに行ききます」

 

兄さんの返答にはあまり関わりたくないという意識が感じられる。

俺としては原作を知っているので、寧ろ仲良くした方がいいとは思っているが、そんなことを言うわけにもいかない。

 

「感心ですね、スクリーン型ですか」

 

俺としては幸いなことに真由美は兄さんの思いに気がつかなかったようだ。それでいいのか十師族、とは思うが今回は助かったと言えるだろう。

 

「当校ではディスプレイ端末の持ち込みを認めていません。

ですが仮想型を使用する生徒が大勢います。ですがあなた達は、入学前からスクリーン型を使っているんですね」

「読書には向いてませんから」

 

俺の返答に真由美は一層感心の色を濃くした。

 

「あっ、申し遅れました。私は第一高校の生徒会長を務めています、七草真由美です。よろしくね」

「俺、いえ、自分は、司波達也です」

「俺は弟の、司波紅夜です」

「司波達也くんと司波紅夜くん……そう、あなた達が、あの司波さんね……」

 

真由美が驚いていることに俺の方が驚く。兄さんと深雪が知られていることは分かっていたが、まさか俺まで知られているとは思わなかった。

 

「先生方の間ではあなた達の噂で持ちきりよ。実技試験トップの司波深雪さんと、ペーパーテストのトップ司波達也くん。実技ペーパーテスト共に優秀な司波紅夜くん、ってね」

「俺は兄さんや深雪と違って飛び抜けているわけでもないと思いますけど」

 

俺は確かに、()()()()()()()()()はずだ。

賞賛される理由がわからない。

 

「確かにそうだけど紅夜くんのテストを見た先生方が紅夜くんは魔法もペーパーテストもとても丁寧で模範的だったて言ってたわよ」

 

その内容に頭を抱えそうになるのを必死に堪えた。

まさか手を抜くためにやったことが、裏目に出るとは思っていなかった。

兄さんの自業自得だと言わんとする視線にイラっとしたのは仕方がないと思う。

 

 

 

 

 

真由美と別れた俺たちは入学式のために講堂に来ていた。

講堂に入り周囲を見渡すと席は自由なようだが、前と後ろで一科生と二科生が別れて座っていた。……面倒だし、くだらないな。

 

「どうやら、ここまでのようだな」

「そうだな。兄さん、また後で」

 

とはいえわざわざ波風を立てる気もないので、兄さんと別れると座れる席を探す。

やはりというか、一科生のいる前方の席は空いてる席がほとんど無かった。

深雪の答辞を近くで見たかったのだが、仕方なく少し後ろの何席か空いているゆったりできる場所を探すと、そこに座る。

 

入学式開始まで残り十分程度、さすがにここで端末を開く訳にもいかないので、俺は暇をもて余して誰かの隣に座ればよかったと、後悔していた。

だが、そんな願いは意外とすぐに叶えられた。

 

「隣いいですか?」

 

突然声をかけられ顔を上げると、大人しそうな女子生徒がこちらを見ていた。

暇を持て余している俺としてはありがたいが、何故わざわざ隣の席に座るのか疑問に思っていると、後ろからもう一人の女子生徒が来たのを見て納得する。

入学式開始まで残り十分を切ったこともあり、二人が並んで座れる席はほとんど無かったのだろう。

 

「もちろんいいよ」

「わぉ」

 

爽やかな笑みを意識しながら答えると奥から顔を出していた女子生徒が感嘆の声を漏らす。

もちろん、これは狙ってやったことである。

俺は深雪の双子だけあって、自分が美形だというのを理解していた。

もちろん自意識過剰とかではなく、客観的に見ての事実である。

 

「あ、ありがとうございます。あ、あの、私は光井ほのかといいます」

 

そんな笑みを向けられた女子生徒は少し頬を染めながら椅子に座ると、慌てたように自己紹介を始めた。

後ろの女子生徒はそんな、ほのかの様子にクスリと笑う。

 

「私は北山雫。よろしく」

 

二人の名前を聞いて原作にいたなと思い出す。

原作の人物達とは基本仲良くなった方がいいので自己紹介する。

 

「俺は、司波紅夜だ。よろしく、ほのか、雫」

 

 

 

 

 

深雪の答辞はやはり完璧だった。

もちろん深雪が失敗するとは思っていなかったし、心配もしていなかったが。

ただ、深雪の答辞を見て、やはり新入生総代ならなくてよかったと安堵していた。

そんなことを考えている内に入学式は終わり、窓口でIDカードを受け取る。

 

「紅夜くんは何組?」

 

雫の問いに受け取ったIDカードを確認する。

 

「A組だな」

「本当ですか!」

 

俺の答えにほのかが嬉しそうな声を上げる。

その様子を見て、予想を口にする。

 

「ほのかと雫もA組?」

「はい!よろしくお願いします!」

「これからよろしく」

「ああ、こちらこそ」

 

そういえば深雪は何組になっただろうか? 確か原作ではA組だったと思うんだが……

 

「どうしたの?」

 

俺が考え込んでいると、その様子に気づいた雫が不思議そうにする。

 

「いや、兄と姉がいるんだけど、何組になったか気になって」

「お姉さんって……もしかして新入生総代の司波深雪さんですか?」

 

ほのかの問いに頷く。

 

「なるほど、納得」

「確かに二人とも美形でよく似てますね」

「あれ?お兄さんもいるって言ってたけど……三つ子?」

 

雫の問いは定番のものだったので慣れた説明でスラスラと答える。

 

「いや、深雪と俺は三月生まれの双子なんだけど兄さんは四月生まれなんだ」

「なるほど」

 

俺の答えに雫は深くは聞かずに納得したことにしてくれた。

 

「あ、そういえば兄さんと深雪と待ち合わせしてたのを忘れてた!」

 

時計を慌てて確認すると、待ち合わせの時間まで残り10分もなかった。

 

「ほのかと雫はどうする?一緒に来るなら兄さんと深雪を紹介するけど」

 

ほのかと雫は顔見合わせる。

 

「えっと……すみません今日はこの後用事があるので」

 

ほのかが申し訳なさそうな顔でそう言うが、別に大したことではないので笑顔で首を振る。

 

「気にしなくていい、用事があるなら仕方ないから。それじゃ、また明日会おう」

「はい。また明日」

「じゃあね」

 

俺は手を振る二人と別れて集合場所へと急ぎ歩き出した。

 

 

 

 

集合場所へと急いでいると前から見知った顔の生徒が歩いて来るのに気がつく。

どうやら向こうもこちらに気がついたようで、笑みを浮かべた。

 

「こんにちは紅夜くん。また会いましたね」

「こんにちは生徒会長」

 

真由美に声をかけられて軽く挨拶を返す。

 

「先程、達也くんと深雪さんと話していたのですが、紅夜くんは二人と待ち合わせでもしているのですか?」

「ええ、約束をしていたんですが少し遅れてしまって」

 

達也と深雪はもう合流していると分かって少し急ぎたかったが、生徒会長にあまりはっきり言うわけにもいかず、少し滲ませる程度にする。

 

「そうですか、紅夜くんとも話したかったのですけど仕方がありませんね。引き止めてしまい申し訳ありませんでした」

「そうですか、機会があったら是非。それでは失礼します」

 

そう言って会釈をすると早歩きで立ち去る。

すれ違う時に真由美の後ろにいた男子生徒が睨んでいたことが気になったが、今は急いでいるのですぐに考えるのを止めて、目的地に向かうことに集中した。

 

 

 

 

 

「あっ、兄さん、深雪。お待たせ」

 

講堂の出口付近で他の女子生徒二人と一緒に話している兄さんと深雪を見つけると声をかける。

 

「紅夜か、さっきまで生徒会長と話していたからそんなに待ってはいないさ」

「そうか? ならよかった。そっちの人たちは?」

 

原作知識が薄れているとはいえ、さすがに主要人物は覚えている。なので名前は知っていたが、俺が名前を知っているのは変なので聞いておく。

 

「私は、千葉エリカ。達也くんのクラスメイトなんだ。よろしく」

「私は、柴田美月です。よろしくお願いします」

「俺は、司波紅夜。そこの二人の弟だ。こちらこそよろしく」

 

女子生徒二人、エリカと美月の自己紹介に笑顔でそう返した。

 

 

 

 




 
なんか、gdgdな感じになってしまった気がします。


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