魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

50 / 53


ついに50話まで来ましたね。長かった……。
そして50話にも関わらず、この小説を投稿し始めて既に4年という衝撃の事実。

どういうことなの……?




来訪者編XV

 

 

その噂が話題に出たのはバレンタインの翌日、昼休みのこと。兄さんが噂の当事者である一年生に相談を持ち掛けられたことから始まった。

 

「3HのP94が笑いながら魔法を放った、ねぇ……?」

 

野次馬を掻き分けメンテ室に向かう中、レオが思わずといった様子で呟く。

3H──人型家事手伝いロボット( Humanoid Home Helper )のP94タイプ──通称ピクシー。表情を変える機能もなく、ましてや魔法を放つことなどあり得ない機械人形に起こった怪奇現象。あまりにも()()()()()()()その噂は、好奇心の有り余る学生たちによって瞬く間に学校中に広まっていた。

魔法という非現実的なものを使っていながらオカルト話を信じない辺り、如何に魔法が現実的なものになっているかが伺える。

 

「お兄様はそのお話についてどう考えているのですか?」

「些か信じがたい話ではあるが、先に調べた廿楽先生によればP94の胸部──電子頭脳の辺りから高濃度のサイオンとプシオンの痕跡が観測されたらしい」

「それって本当に幽霊が憑りついるかもしれないってことですか!?」

 

兄さんの返答に少しオーバーにも思えるリアクションでほのかが叫ぶ。その様子を見るに幽霊を怖がっているようだが、原作を知っている俺からすれば可笑しなことだった。

 

「幽霊というのは少し話が飛躍し過ぎているきもするが、その真偽をこれから調べるところだ」

「話は分かったが、どうしてそれで達也に話が来るんだよ。噂が事実なら調べるのは幹比古とかの方が適任じゃねーの?」

「アンタも少しは頭を使ったら? 仮に噂の内容が本当だったとしても、まずは3Hのソフトに異常がないか調べるのが普通でしょ? これだから脳筋は」

「テメェは一言文句を言わねぇと喋れねぇのかよ、この毒舌女!!」

「はぁ!? アンタがあんまりにも考え無しだから一々指摘してあげてるんでしょうが!!」

「ちょっと二人とも……!」

 

売り言葉に買い言葉。声を荒げて応酬するエリカとレオを美月がオロオロとしながら止めようとする。

そんないつも通りの光景に、他のメンバーは慣れたように苦笑を零した。

二人がヒートアップし過ぎる前に、兄さんが口を開く。

 

「まあ大体エリカの言った通りだな。五十里先輩は九校戦の時の『電子金蚕』のようなものが紛れ込んでないか危惧しているようだ」

「ああ、なるほど」

 

思わず納得の声を上げる。

俺は最初から今回の事件はパラサイトの仕業だと知っていたが、それを知らない人たちからしたらピクシーの仕業は電子金蚕のような遅延型の術式によるものだと考えてもおかしくない。

そんなことをして何の意味があるかという話になるが、家事手伝いロボットにパラサイトが憑依することよりは遥かに現実味があった。

 

 

ピクシーを運び込んだメンテナンスルームはCADのアレンジやチューニングを行う為の部屋で、学生では滅多に使わないような専門的な機器が多く設置されたいた。そこにピクシーを乗せた台車を伴って入室した俺たちは、先にメンテ室で待っていた五十里や生徒会メンバーと合流した。

部屋に散らばっている椅子を台車の置かれた部屋の中央に集め、先輩たちの好意によって途中に寄った購買で購入した昼食を手に取りながら話を聞く姿勢をとる。

 

「事件が起こったのは今朝7時頃。ロボ研のガレージでのことだ」

 

五十里から語られた内容を簡単に纏めると、本来機能に無いはずの笑みを浮かべたP94が勝手に起動し、強制停止コマンドが送信されているにも関わらず機能を停止することなく、何故かサーバーの生徒名簿にアクセスしようとしていたとの事だった。

 

 

五十里が話し終わった後、メンテ室にホラー映画を見終わった後のような奇妙な沈黙が下りた。特にあずさは恐怖からか顔を青ざめさせている。

しかし俺はあずさとは正反対に、内心でホッと安堵の息を漏らしていた。

五十里の話を聞く限り、記憶に残る原作の展開と相違点は見受けられない。つまり、ピクシーには原作通りパラサイトが宿っていると考えて間違いないだろう。念の為に【叡智の眼(ソフィア・サイト)】で確認してみるが、確かにほのかに似たプシオンが観て取れた。

これまでの展開上、ここで原作との剥離が起こる可能性は低いと踏んで行動していたが、どうやら予想は上手く当たってくれていたようだ。

 

────だが、安堵の感情と同時に、漠然とした不安がこみ上げる。

 

確かに俺は、ピクシーを手に入れる為に、原作を意識して立ち回った。しかし、イレギュラーな存在である俺がいるのに、ここまで原作通りに事が運ぶのだろうか?

俺という小石がこの世界に投げ込まれた時点で、原作の流れは変わっているはずだ。どれだけ俺が原作通りに事を進めようとしても、時間の経過と共に流れには大きな変化が生じる事になる。

これは、所謂バタフライエフェクトという現象を、因果関係に当てはめた考え方であり、あくまでも理論の一つだ。検証のしようもないのだから、証明もなにもない。

 

しかし、しかしだ。いくら俺が原作通りに行動したとしても、ここまで結果が変わらないという事が有り得るのだろうか?

 

例えば、ほのかの恋心。

それは、入学試験で兄さんの無駄のないサイオンコントロールを見たことがきっかけだ。しかし、その場には兄さん以上にサイオンコントロールに優れた俺がいた。

例えば、ピクシーへの憑依。

これは、兄さんが戦闘中にパラサイトを吹き飛ばしたことがきっかけだ。しかし、原作とは違いパラサイトを吹き飛ばしたのは俺だ。

 

正直俺は、できる限り原作通りに事を進めようとしていたものの、横浜の時点で原作から大きく外れる可能性も考えていた。そもそも、たった一人の人間が未来を思い通りにできるはずもない。

俺が原作通りに行動していた理由も、先を知るアドバンテージをわざわざ捨てるような事はしたくなかっただけであって、原作を再現したかった訳ではない。本気で原作通りにしたいのであれば、一高に入ること自体が悪手なのだから。

それにも関わらず、今までの結果は原作と変わらない。

 

────自分で決めたはずなのに、まるで他人が書いたシナリオ通りに動いているような気味の悪い感覚。

 

仮説はあった。世界の修正力というありふれた設定。この世界において、魔法によって歪められた事象の修正を行う力として定義されているソレ。

魔法によって歪められたモノを元に戻そうとする力なら、『俺』という存在によって生み出された歪みは世界にとって許されるものなのか。

 

 

ピクシーに抱き着かれている兄さん。

怖い笑顔を浮かべる深雪。

眼鏡を外してピクシーを見る美月。

自分の存在意義を語るピクシー。

暴れるほのかとソレを抑えるエリカたち。

 

 

目の前の光景を見て思う。

()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────嗚呼、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

ピクシーにパラサイトが憑りついたことを確認した日の夜。俺は()()()()()()()()()()一人で夜の街を歩いていた。

本来、四葉の次期当主候補の人間が護衛も付けずに外出するなど褒められた事ではない。深雪がある程度の自由行動が許されているのは、常に兄さんが深雪を観ているからだ。元々用事がなければ家に引きこもっている質だが、それを除いても護衛(ガーディアン)のいない俺は一人で外出することが滅多にない。精々学校の用事か仕事でFTLに行くときくらいのものだ。

その俺が最近頻繁に外出している理由。それは、パラサイトの捜索()()()()

実際、パラサイトを探しているように見せているし兄さんと深雪にもその説明で外出しているが、本来の目的は全く別のところにあった。

 

「……かかった」

 

道路の向こう側。停車したワゴンの中にいる存在を察知して小さく嗤う。どうやら相手は、俺が知覚系統魔法を使用できることを知らないらしい。そう結論付けて警戒度を一段階下げた。

俺が一人で外出していた理由。それは、この展開────俺の記憶にある最後の原作イベントが起こるかどうかを確認したかったからだ。

 

原作の展開では兄さんがUSNAの魔法師に襲撃されていた。しかし、この世界では兄さんが戦略級魔法師として注目されることはなく、代わりに俺が戦略級魔法の術者とされている。

世界の修正力が働いていると仮定した時、俺はこの状況でも兄さんが襲撃される可能性を考えていたが、どうやらそれは杞憂に終わったらしい。

これで、少なくともある程度の結果さえ同じであれば過程に多少の差異があってもシナリオに問題ないことが実証できた。

 

「五人か」

 

先制で制圧してしまうことも考えたが、サイオンレコーダーなどに残ることを考えて、一応正当防衛の形を取っておいた良いだろうと、右の腰に伸ばそうとしていた右手の動きを止める。代わりに頭の中で魔法式を構築しながらポケットに左手を突っ込み、素知らぬふりをしてワゴン車を通り過ぎた。

 

1メートル……2メートル……5メートル……

 

10メートル近く車から離れたところで、横開きのドアが音もたてずに開き、中から五人が素早く下りてフォーメーションを取った。同時に、小さく響くカチャリという音。

背中に照準が合わせられた銃は、サブマシンガンにCADを組み込んだ武装デバイス。展開された起動式は、ケイ素化合物の軟性弾丸に、射出時帯電、着弾によって放電する効果が付与されたもの。恐らくは生け捕りが目標なのだろう。

そこまで読み取って、どうでもいいかと無駄な思考を切り捨てる。そして、密かに組み上げていた魔法式をイデアに出力した。

 

術式焼却(グラム・コンバッション)

 

発動した魔法の効果が反映されたのか確認する間すら惜しんで、汎用型CADから自己加速術式を読み込み、地を蹴って一瞬で間合いを詰める。

 

『なっ!?』

 

同時に漏らした声は一体何に対するものなのか。流石USNA所属の兵士だけあって即座に驚愕から立ち直るが、自分たちの持つ武器が無力化されたことで僅かに次の対応への遅れが出た。

その隙に新たな魔法式を構築し、発動する。効果は振動魔法により相手を無力化するもの。単一工程であればCADを使う必要すらなく、魔法式は雷光をも思わせるような速度で展開された。

 

掌底で腹を打ち付け、同時に魔法を発動する。予想以上の魔法抵抗力に思わず眉をひそめるが、そのまま強引に干渉力を上塗りして魔法を打ち込んだ。

崩れ落ちる相手を意識から外し、後ろから突き出される拳を半身になって受け流す。そのまま身体の勢いを止めることなく裏拳へと繋げ、先ほどと同じように相手の情報強化を貫いて振動魔法を発動させた。

 

残り三人になったところで相手が体勢を立て直した為、一度距離を取り、予想外の魔法抵抗力の正体を見極める為に叡智の眼(ソフィア・サイト)の深度を深める。

 

「これは……強化人間か……」

 

眼で見て判明した事実に、胸糞悪いと誰に向かってでもなく吐き捨てる。

調整に調整を重ねた彼らの身体は、高い能力と引き換えに、既に立っていられるのが不思議なほどに中身がボロボロだった。そんな状態でも戦闘ができているのは、まさしく命を燃やしているからに他ならない。俺の眼には、最後の輝きを見せるかのように活性化する霊子(プシオン)が捉えられていた。

 

厄介だと、思わず内心で呟く。この程度の相手に後れを取るはずもないが、命が掛かっているような人間は予想もできない行動に出ることがある。USNAもそれを理解した上でやっているのだから、本当に質が悪い。

 

「……仕方ないな」

 

あまり得意じゃないが、と一人呟き汎用型CADを操作する。発動するのは加重系統魔法【グラビティフレーム】。効果は指定した空間の重力を操作するというもの。

加重系統魔法はどちらかといえば苦手な部類なのだが、複数の相手を捕縛するにはうってつけだ。空間を対象にすれば、わざわざ魔法抵抗力を突破する必要もなくなる。

 

「ぐっ……」

 

重力の檻に囚われ、うめき声をあげて地面に叩きつけられる襲撃者たち。強化人間を相手にするのは初めてなので、加減が効かなくて骨に罅が入っているかもしれないが、それくらいは許容範囲内だろう。

恐らくもうCADを操作することすら叶わないはずだが、念のために振動魔法で全員の意識を奪う。

 

 

「……さて、どうしたもんかな」

 

倒れ伏した襲撃者たちから視線を外し、小さく呟いた。

 

一つ、息を吐き──

 

飛び退く。

 

 

 

 

 

────瞬間、閃光と残光が煌めいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

千葉修次は焦っていた。

監視対称──現在では護衛対象の司波紅夜から800メートル離れた状況で、突然ストリートファイトが始まったからだ。

事前に確認した調査書に、護衛対象の少年は気配に機敏で何らかの知覚系統魔法を行使するという情報があった為に、監視されていると気付かれないように距離を置いていたのだが、それが裏目に出た。

監視対象が魔法技能に優れていることは分かっているので、そう簡単にやられることはないだろうが、護衛としては対称が戦闘を始めた時点で大きな失態だ。既に戦闘が始まっている以上、とにかく早く駆け付けなければならない。

 

到着まで約三十秒。

この魔法による高速移動も、護衛対象から距離を取ってしまった理由の一つだろう。

 

獲物を持ち、階段から飛び降りる。

落下の僅かな時間でさえも今は惜しかった。

 

修次は全速力で駆ける中、少年が敵二人に掌底を打ち込んで戦闘不能にしたのが見えた。僅かな驚きと共に、感知できた魔法の感覚から恐らく振動系魔法を使ったのだろうと推測する。

対称の少年が魔法に優れていることは分かっていたが、マジック・アーツを使えることはデータになかった。

 

魔法技能に優れている者が戦闘技能が高いとは限らないということを修次は経験から理解していたが、どうやらあの少年はそれには当てはまらないらしい。

しかも情報によれば相手はUSNAの『スターダスト』────人体に対する調整と強化に耐えられず、数年以内に死亡が確定視されている決死隊だ。

 

並みの高校生では全く歯が立たないであろう魔法生体兵器。しかし、その相手に司波紅夜は苦戦どころか埃一つもつけることなく圧倒して見せた。

修次が駆け付ける頃には既に戦闘は終わっていたのだ。

現場の手前で、思わず足を止める。

 

「さて、どうしたもんかな」

 

そう呟いた紅夜の眼は、間違いなく建物の影にいる修次を捉えていた。

──流石に気付かれるか。

僅かな驚嘆を覚えながらも、敵意を示さないようにゆっくり一歩を踏み出す。

 

 

 

直後、大規模な魔法の発動を感知した。

 

 

 

 

 

 

ガンガンと警報を鳴らすように、視界が紅く明滅する。

 

頭に響くような視界を意識外に追いやり、反射的に展開していた障壁魔法を解除して、魔法的リソースの大半を情報収集に回した。

 

叡智の眼(ソフィア・サイト)】により、エイドスとプシオンにアクセス。身体構造解析によるダメージの確認。攻撃方法の解析。周囲の索敵。敵意の有無。

ほぼ無意識下で収集した一連の情報は、0.1秒にも満たない刹那の間に脳裏に叩き込まれた。

 

「チッ……」

 

思わず小さく舌打ちをする。

油断しているつもりはなかった。確かに戦闘が終わった直後に千葉修次に意識が向いたことで、索敵範囲は狭まっていたかもしれない。しかし、警戒自体を怠ったつもりはなかったし、事実、攻撃を受ける直前に魔法の発動は察知していた。それでも、術式焼却(グラム・コンバッション)の発動は間に合わなかったのだ。

 

久々に感じた死の感覚に、鼓動が大きく跳ねる。

 

背筋を這い上る感覚を前にして、だからこそ俺は口角を釣り上げて見せた。

いつも通り、心から虚飾に彩られた笑みを貼り付け、魔法の発動地点に目を向ける。

 

「……っ!」

 

暗闇の先。街頭の明かりが薄く広がる道路の中央。

スポットライトに照らされて、深紅の髪を持つ悪魔が息を吞んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所詮、物語か────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





最近ハーメルンの機能が充実してて、感謝感激雨霰。
今日も、お気に入りの最新リンクが総話数から最新話に変更されたとのこと。ありがてぇ…。

出来る限り最新の機能を試して取り入れていきたい派。

と言うわけで、アンケート機能のテスト。
あくまでも意識調査なので、別にこのアンケで何が変わるわけでもないです。

エタる事が分かりきってる作品でも投稿すべき?

  • おら、読んでやるからあく投稿するんだよ!
  • 多分読まんけど、とりあえず投稿したら?
  • いやエタるなら投稿すんなや
  • 別にどっちでもええわ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。