魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

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ついにタイトルが時計数字ではなくなってしまった……

今回は苦手だった日常シーンです。前よりはマシになったかな……?
でもやっぱり戦闘シーンの方が楽。

え?バレンタインタイン?……知らない子ですね。




来訪者編XIII

 

翌日の朝。普段であれば俺も兄さんと寺に向かうのだが、最近師匠とパラサイト対策の技術を磨いている兄さんとは違い、俺は自宅でできる精神修行を行っているので、朝の鍛錬は兄さんと別になることが多い。その為、いつも通り鍛錬に向かう兄さんと師匠にチョコを届けに行く深雪を、玄関まで見送りに来ていた。

 

「兄さん、深雪。今日は俺、学校に先に向かうから」

「あら、どうして?」

 

二人が靴を履き玄関の扉を開けたところで呼び止め声をかけた。

俺の言葉に不思議そうな表情をした兄さんに代わり、深雪が問いかけてくる。

 

「ほら。今日は少し騒がしくなるから、時間に余裕を持っておきたいんだ」

「……ああ、なるほど」

 

自意識過剰な訳ではなく純然たる客観的事実として、俺は所謂イケメン、容姿端麗だ。中身はともかくガワだけ見れば、深雪と似ている俺が美形なのは間違いない。

顔が良いだけじゃダメだ、なんて良く言われるが、完璧とまで言われる容姿を持っている俺からすれば、そんなの詭弁だ。世の中、顔で8割の印象が決まると言っていい。残りの2割で全てをダメにする奴なんて、余程性格に問題がある奴だけだろう。

事実、心理学では人間の印象は出会って数秒で決まるという研究結果も出ている。

 

……話がずれたが、そんな容姿を持つ俺が女子からモテるのは当然だと言える。しかも、高校生という色恋に多感な時期ともなると余計に。

まあそんな訳で、バレンタインタインがどうなるのかは、お察しという奴である。

 

 

 

 

 

いつもより20分ほど早く学校に着けば、予想通り校舎の入口で女子に捕まった。

顔を若干赤らめてチョコを差し出してくる女子に綺麗な笑みを浮かべてお礼を言えば、その子は恥ずかしそうに一礼して駆けて行く。そんな光景が何度か繰り返された。

まるで本命チョコのような反応だが、恐らく学校で噂の男子にチョコを渡すという、一種のステータス付けの行為だろう。……いや、流石にこの考え方は失礼か。本命だろうとそうでなかろうと、チョコを貰えること自体は嬉しいと感じられるし、素直に感謝しよう。

────ただ、毎年大量に貰うチョコをどう処理するか。この悩みがバレンタインを好きになれない理由の一つでもあった。

 

 

校舎に入った後も何度かチョコを受け取り、結局教室に着いたのは普段とほとんど変わらない時間だった。クラスメイトたちに笑顔で挨拶をしてから席に座る。

そろそろ笑顔を振りまくのに疲れて、口の端が引き攣るのではないかと心配になって来る。普段であれば表情を作る事に疲れたりはしないのだが、女子から好意を伝えられるという行為に気疲れしていた。

しかし、バレンタインイベントが本格的に盛り上がるのは放課後になってからだ。思わず憂鬱な気分になり、小さくため息を吐く。

 

「おはよう、コウヤ。随分疲れているようね」

「ああ、リーナか。おはよう」

 

ため息を吐いていた俺に気を使ったのか、ただの挨拶なのか。前の席からかけられた声に、俯いていた顔を上げて挨拶を返す。

雫の代わりにリーナが前に座っているという状況に最初は違和感があったが、今ではすっかりその違和感もなくなっていた。

 

「よく見たら目の下にクマがあるじゃない。寝不足?」

「ああ……まあ、ちょっとな」

 

僅かに顔を近づけてくるリーナに、それと気づかれないように意識しながら距離を取る。

日常的に深雪のような美人を見慣れているせいか女性に迫られても大抵の事では動じなくなっているのだが、リーナほどの美人になると少し心臓に悪い。

もしこれをリーナが意識してやっているなら質が悪いが、間違いなく無意識の行動だろう。

 

「ところでミユキは一緒じゃないの?」

「今日は俺だけ早めに家を出たから」

「へぇ、珍しいこともあるのね」

「別に俺たちは何時も一緒ってわけじゃないだろ」

「そうかしら?」

「そうだろ」

 

そんなどうでもいい会話をしているうちに、予鈴の時刻が近づき教室に人が徐々に増えていく。そんなクラスメイトの中には、チラチラと俺に視線を向けてくる女子もいるのだが、幸いと言っていいのかリーナと話している所に割り込む勇気は無かったようで、諦めたように席に着いた。

そうしているうちに予鈴の鳴る5分前になり、ようやく深雪が教室に入って来た。隣に随分とご機嫌なほのかを連れて、クラスメイトに挨拶しながら俺の後ろの席に座る。

 

「おはよう、リーナ」

「お二人とも、おはようございます!」

 

そう言って挨拶してくる二人に、リーナと俺も挨拶を返す。

ほのかの席は俺たちの席から少し離れているが、深雪、俺、そして元々は雫の座っていた席が縦に並んでいるという事もあって、自由時間は真ん中にある俺の席の付近に集まるというのが入学当時からの恒例だった。

 

「あの……紅夜さん。これ、バレンタインチョコです!」

「ああ、ありがとう」

 

チョコを男子に渡すという経験が少ないのか、若干緊張した様子でカバンから小箱を取り出したほのかに、お礼を言って受け取る。丁寧な包装がされた小箱は、まるで本命チョコのようだったが、きっと兄さんにはこれ以上に手をかけたものを渡しているのだろう。とは言え、チョコを貰えた事は嬉しいし、何か小洒落た台詞の一つでも送ってみようか。

受け取った小箱をカバンにしまいながら、横目でほのかの髪飾りを確認する。

 

「ほのか。その髪飾り、とても似合ってるよ」

 

その言葉は、ほのかに効果抜群だった。頬を赤く染め口元を緩ませる姿に思わず苦笑する。何を勘違いしたのか、クラスの男子から嫉妬の視線を受けたのも苦笑いの理由の一つだった。

今の俺は、超が付くほどの美少女3人に囲まれながら、顔を真っ赤にしたほのかにチョコを受け取ったという状況だ。字面だけ見れば、確かに嫉妬するのも分かる。クラスメイトの男子ともそれなりに友好的な関係を結んでいるのだが、それはそれ、ということなのだろう。

チョコお礼に、ほのかを喜ばせる言葉を送ったつもりだったが、やり過ぎただろうか……? ほのかの隣でイヤに綺麗な笑みを浮かべる深雪を視界から追い出しながら、そんな事を考えた。

 

 

 

 

 

 

「さて、と……」

 

放課後。チャイムの音を聞きながら小さく呟き軽く体を伸ばす。

昔とは違い今は様々な物がデータ化している為、外出時に荷物を持つ必要がなく、情報端末さえあれば不便を感じることはない。それは学校の授業があろうとも同じこと。既に教科書はデータ化されており、最低限の小物さえ持っていれば十分だ。しかし、今日に限っては普段は持ち歩かない少し大きめのバッグを持って来ていた。

机に設置された自分の端末の電源を落とし、登校する時より重くなったバッグを持って席から立ちあがる。

 

「リーナ、深雪。一緒に生徒会室に行こう」

 

普段であれば言葉にすることもなく自然に生徒会室に行くことになるのだが、今日はわざわざ声に出して二人を誘った。周囲からしたら美少女二人を独占しているので面白いはずもないが、もちろん普段行わない行動には意味がある。まあ、簡単に言えば虫除けだ。普段であれば俺が虫除けなのだが、バレンタインに限っては役が逆転する。

リーナは虫除け扱いされるのが不満なのか、若干冷たい視線を向けてくるが、今日ばかりは我慢してもらおう。高嶺の花2人に囲まれれば、そう簡単には女子も近づけないはずだ。

 

 

 

────そんな期待は、1分と経たずに打ち壊された。

 

「あ、いたいた。紅夜くーん!」

 

二人と一緒に教室を出て10歩も歩かないうちに掛けられた声がこれである。振り返ってみれば、そこに居たのは我らが元生徒会長。廊下で手を振りながら歩み寄ってくる姿は、微かなデジャヴと共に頭痛を感じさせた。

 

「七草先輩。わざわざ一年の教室まで来るなんて、何か重要な話ですか?」

「もう、重要な話が無いと来ちゃダメなの? 私と紅夜くんの仲じゃない」

 

言外に重要な話じゃないなら来るなと含めたのだが、真由美は少し悲しげな表情で上目遣いを使ってきた。実にあざとい態度だが、聞き耳を立てていた周囲はすっかり真由美の味方になっている。まったく、質の悪いイタズラだ。

猫被りの小悪魔系先輩の行動に、内心で呆れたように首を振る。普段こう言ったイタズラは元生徒会役員などの気の許せる相手の前でしかやらないのだが、受験シーズンの所為なのかストレスが溜まっているらしい。

 

「それで? 意味もなく来た訳じゃないですよね」

「何よ、いけずね……まあいいわ。はい、コレ」

 

正直、この状態の真由美は相手にすると面倒なので、適度に流すに限る。そう思って雑な返答を返したのだが、続いた言葉と共に差し出されたモノを見て、流石に流すことができなくなった。

 

「何ですか、それ……」

「いやぁね。そんなの、チョコに決まってるじゃない」

 

真由美が持つソレは、見てくれだけならば確かにバレンタインでよくみる一般的なチョコだ。……そう、チョコである事には間違いない。しかし、辺りに漂う強烈なカカオの匂いが、一般的という文字を意味のないものにしていた。手に取ることすら躊躇われるソレをどうすればいいか答えに窮していると、真由美は喜悦混じった瞳で追撃を仕掛けて来た。

 

「もしかして、迷惑だった……?」

 

俯き加減にこちらを見ながら不安そうな表情をする真由美を見て、周囲の生徒から謎の圧力が発せられる。当然受け取るよなぁ? というアウェーな空気のなかで、助けを求めるように側にいる二人に視線を向けるが、深雪はなんとも言えない表情でスッと目を逸らし、リーナは虫除け扱いを根に持っているのか、ザマァ見ろと言わんばかりの表情で嗤われた。

既に俺に仲間はいない。最初から真由美はコレを狙って居たのかと戦慄していると、真由美は笑顔でチョコモドキの箱を突き出してくる。

 

「……後で有り難く食べさせて頂きます」

 

仲間に裏切られ退路を断たれた俺に出来たのは、せめてもの悪足掻きと共にチョコを受け取ることだけだった。

 

 

 

 

 

 

生徒会の仕事と一言で表すのは簡単だが、その内容は多岐に渡る。特にこの国立魔法大学付属第一高校の生徒会は、他の一般高校に比べて生徒会の持つ権限が非常に強い。その理由の一つとしては、魔法科高校の生徒会に選ばれる人物の多くが十師族や百家に連なる者だからだ。

現生徒会長の中条梓はナンバーズではないが、前生徒会長の七草真由美は教員すら気を使う相手だった。通常の学校では問題が起きた時に生徒は教員に頼るが、ナンバーズの在校生が多いこの学校では、生徒側で問題を片付けてしまうのだ。

要するに何を言いたいか一言でまとめると、この学校の生徒会は強い権限を持つが故に仕事が多いのである。

 

「ふぅ……」

 

ここ一週間分の仕事の大半を何とか片付け終わり、小さく溜息を漏らす。

四葉の後継者候補として情報処理の類も幼少から教え込まれているが、だからと言って疲れを感じない訳ではない。

 

「リーナ、そっちは片付きそうか?」

「ええ、すぐに終わるわ」

 

自分の仕事がひと段落ついたので、他の仕事を預けたリーナの調子を確認する。

クラスでは席が近いという理由でリーナを任されているが、それは生徒会の中でも変わらない。最も、理由は先生に任されたからではなく、もっと合理的な理由によるものだ。

リーナは本人の希望もあり、特別に体験として生徒会の仕事を任されているが、本来はこの学校の生徒ではない為、生徒会の重要な仕事を預ける訳にはいかない。結果としてリーナに任せられるのは、庶務の行う雑用だ。今までの生徒会では俺が庶務の役割を果たしていたので、リーナの仕事を見る事になるのは当然の結果とも言えた。

現在では、リーナに簡単な雑事を任せ、俺が重要な仕事を行うという形が出来ている。やはり現役の軍人な事だけあって、リーナの仕事振りは見事なもので、リーナが増えた事によって今まで以上に生徒会の仕事が円滑に進んでいる。この様子だと、来年には生徒会に庶務長の枠が増えるかも知れない。

 

「よし。コウヤ、ワタシも終わったから確認してちょうだい」

「流石、仕事が早いな」

 

今後の生徒会について考えを巡らせていると、リーナから声を掛けられる。仕事の重要度に差はあれど、量は俺がやっていたものと変わらなかったはずなのだが、リーナは俺とほぼ同じ時間で仕事を終わらせた。僅かに出た差は、処理能力の差ではなく情報端末の操作によるものだろう。ほとんど摩耗してしまった原作知識でリーナはポンコツの印象が強いが、こうして共に仕事をしてみれば有能であることが良く分かる。伊達にこの年齢でスターズの隊長をやってる訳ではないということか。原作でのポンコツ具合は、やったこともない任務を与えられたからなのだろう。全く、USNAは何を考えて潜入ミッションをリーナにやらせたのか。

 

裏でUSNAの真意について考えながら、リーナのまとめたデータを流し読みする。この後、このデータを生徒会長が確認し、さらにそれを教員がチェックするので、正直俺が確認作業する必要はない。しかし、元々は俺がやる仕事をリーナにやらせている為、最低限の事はやっておかなければダメだろう。

 

「……うん。問題ないな」

 

時間にして1分。本当に最低限の確認だけしてOKを出すと、リーナは当然とばかりに一つ頷く。

 

「今日の仕事はコレで終わり! それじゃ、帰ろうか」

「え? いいの?」

 

俺が帰ろうと言うと、リーナは少し困惑と驚愕が入り混じった反応を返した。チラリと視線を向けた先には、まだ仕事をしている深雪たち。そんなに俺と深雪が別行動するのが珍しいのかと思ったが、よく考えてみれば何か特別な用事があった場合を除いて別々に帰宅した事なんてないかも知れない。

確かに言われてみれば深雪と兄さんに何も言わずに先に帰った事なんてなかったので、一応確認の為に深雪に目を向ける。その視線を受けた深雪は、笑顔で軽く頷いた。

 

「私たちの事は気にしないで大丈夫よ」

「……それじゃあ、先に帰らせて貰うわ」

 

深雪の言葉にリーナも納得し、帰宅の為の準備を始める。俺も隣で軽く片付けをして、帰りの荷物をまとめた。リーナも片付けが終わったのを確認して立ち上がる。そして、ふと思い出したかのように深雪に声を掛けた。

 

「そうだ。深雪、今日は少し遅くなるから兄さんにも伝えておいて」

 

そう言ってキザにウインクを一つ。バレンタインに想い人とゆっくり過ごせるようにと、弟の粋な心遣いだ。

 

「分かったわ。あまり遅く成り過ぎないでね」

「了解。それじゃあ、お先に失礼します」

 

明日は日曜日なので、リーナと共に「また来週」と挨拶して生徒会室を出る。

 

さて、夕食までどうやって時間を潰そうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅夜さんとリーナさん。凄く自然に2人で帰りましたね……」

 

────扉が閉まる時、そんな声が聞こえた。

 

 

 




 
MHWの合間に書いてたら予想以上に早くできました。(早いとは言ってない)



以下本編の補足とかなんかそんな感じ。

『完璧な容姿』
・やっぱ世の中見た目が大事。

『……いや、流石にこの考え方は失礼か』
・失礼ってレベルじゃないと思うんですが……

『教室での一幕』
・原作は学園要素が少なすぎると思う。

『寝不足紅夜』
・やっとラブコメっぽくなってきましたね!(ニッコリ)

『生徒会長からは逃げられない』
・カカオ99%。この後服部と達也は真由美の前で食べさせられた。

『有能リーナ』
・でもやっぱりポンコツ。

『キザにウインク』
・照れると敢てキザに振る舞うらしい。(深雪情報)

『自然に二人で帰る』
・やっぱりラブコメっぽいですね!!


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