魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

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お待たせしました!
最近予想以上に忙しく、投稿が遅くなってしまいました。申し訳ないです。

ところで!
今日で私がこの作品を投稿してから一年が経ちました。これも皆様のおかげです。ありがとうございます!
せっかくの一周年なのに予約投稿の勝手が微妙に変わっていて手間取っている間に予定時間を過ぎてしまうという……

本当は一周年記念に連続投稿とかしたかったんですが、割と本気で忙しかったのでこれだけです。代わりといってはあれですが、文字数はそこそこいっているのでどうぞ。




来訪者編Ⅷ

 

 

 

辺りが暗闇に包まれる公園の陰で、紅夜はパラサイトとシリウスの戦闘を観察する。

こうして補足地点の予測が的中したのは分析力というのもあるが、何よりも紅夜は自身の勘と不快な気配によって交錯地点を割り出していた。

 

(しかし、また公園か)

 

そんなどうでもいいことを考えながら戦闘の様子を確認する。押しているのは確実に仮面の魔法師の方だった。パラサイトは逃げ出す機会を探っているようだ。

紅夜が周囲を視てみれば、シリウスの仲間であると思われる四人が包囲網を作っているが、その人数故に不完全なものとなっている。

 

(さて、先ずはどう出ますかね)

 

心の中でそんなことを呟くが、答えは既に決まっていた。

紅夜は自身の腰から右手で黒いCADを抜く。狙いはパラサイト――()()()()

引き金を引くと同時に仮想領域が展開される。イメージは空を切り裂く弓。紅夜の手元から放たれた仮想領域はパラサイトの肩を穿ち、その先に立つ赤髪の魔法師の足元に突き刺さった。

さらに、パラレルキャストで発動した自己加速術式で木陰から飛び出し、未だに晴れぬ闇の中を視力を頼りに走り、パラサイトに掌底を打ち込む。同時に打ち込んだギミックにより、パラサイトの体内に合成分子機械の発信機を送り込んだ。これでパラサイトを逃がした後は発信機の電波と周波数を真由美たちに渡せばいいだろう。

 

パラサイトを吹き飛ばしたところで闇が消えると同時に、仮面の奥から金色の瞳が紅夜を捉えた。そこにあるのは誤解の余地なき敵意。

シリウスがパラサイトとの戦闘に使っていたナイフを捨て腰に手を回すのと、紅夜がCADの引き金に再び力を籠めようとしたのは同時。このままであれば確実に紅夜の方が早く攻撃することができるだろう。しかし、紅夜は相手が腰から取り出したものを認識した瞬間に、指先に籠める力を抜いた。

シリウスが取り出したのは中型の自動拳銃。その拳銃を握った瞬間に、達也の分解に匹敵する速度で魔法式が展開されたのを紅夜の眼は捉えた。発動した魔法は情報強化、銃身を通過する弾丸の諸属性を強化するもの。紅夜はCADのセレクタを操作し、【レヴァティーン】から【クロスブレイズ】へと起動式を切り替える。

 

同時に引かれる引き金。

 

発射された弾丸は亜音速で紅夜へと迫るが、その手前で塵すら残さず消滅した。

仮面の奥から動揺が漏れる。危なかった、と紅夜は軽く冷や汗をかいた。

情報強化がかかった銃弾は普通のベクトル変換などでは防げなかっただろう。直感で仮想領域による炎の衣を纏ったが、もしもその判断をしていなければ今の攻撃は防げなった。

達也と違い、紅夜はいまの一撃だけでも十分な致命傷となりえる為に、慎重にならざるをえない。だからこそ、シリウスが動揺を見せ隙を晒した今が絶好のチャンスだった。

 

稲妻の如き速度で腰に手を落とした紅夜は、()()()()()C()A()D()()抜き放った。

読み込む起動式は封印を緩めてから使えるようになった特殊な魔法。

今まで補助なしに行使してきた魔法は、特化型CADを介すことによりゼロコンマ二秒以下で発動する。

紅夜の眼に映る「色」と「形」と「音」と「熱」と「位置」を記述した情報体。相手の本体ではなく、表面上の見かけのみを構成した偽装魔法に照準を合わせ、紅夜は魔法を行使した。

 

対抗魔法【術式焼却(グラム・コンバッション)

 

魔法式すら焼き尽くす深紅の炎が、偽りの仮面を打ち破る。

 

――次の瞬間、

――魔物が天使に生まれ変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の炎によりシリウスの魔法式を焼却され、見た目を偽造していたエイドスが散っていく。

禍々しさを感じさせる赤髪は神秘的な黄金に、闇で煌く黄金の瞳は澄んだ蒼穹の色に。身体つきすら変わっていき、先ほどまでよりも華奢で女性らしくなっていた。

事前に知識があったとはいえ、現実で見ると急激な変化に驚いてしまう。しかし、俺はその驚愕を内心だけに留め、身体は次の行動に移っていた。

リーナの銃から立て続けに五発の銃弾が放たれるが、全てが俺の身体に届く手前で纏う熱によって気化していく。さらに銃弾を撃とうとしているリーナに対しCADのトリガーを引き、仮想領域の弓で銃を打ち抜いた。普段なら【流星嵐(グリントライン)】を使うのだが、真夜とは違い太陽の光が届かない夜では十分な効果が発揮できない。しかし【レヴァティーン】でも銃を壊すのには十分だ。

 

「リーナ! お前と戦う気はない!」

 

武器を失い動きが止まった瞬間に、声をかける。とはいえ、リーナと戦う気がないというのは半分くらい嘘だ。

俺の目的はパラサイトの確保ではあるが、ここでスターズに捕らえられてしまっては、ピクシーの入手が不可能になる。だからこそ、俺は最初の攻撃でパラサイトではなくリーナの足止めを狙った。しかしだからといって、わざわざリーナと敵対するつもりなど毛頭ない。

それ故に、リーナに対して静止の言葉をかけたのだが、どうやらこれは逆効果だったらしい。リーナの瞳にキツイ光がやどり、手にはいつの間にかスローイングダガーが握られていた。ショートブーツが地を蹴り、普通の女子ではあり得ない速度で迫ってくる。しかしそれは常人の域を超えるものではなく、魔法を使用していないものである為に、次の行動に移す時間は十分足りる。

 

俺はハーフコートの内ポケットから長さ十五センチほどの針を取り出すと、躊躇なくリーナに向けて針を投擲した。右手の甲に向かって空気を切り裂きながら進んだ針は、そのままリーナの手を貫通した。しかしそこに抵抗はなく、針の速度は落ちないまま地面に突き刺さる。リーナの手は血を流すことはなく、そのまま腕を振った。肉眼での目測位置より一メートルズレた場所からダガーが俺に向かって飛んでくる。

 

「チィ!」

 

思わず舌打ちをしながらダガーを回避する。ダガーが横を通り過ぎるのを確認しながら、さらに針を二本取り出し、今度は脚と心臓に向かって投擲した。しかし、その針もなんの抵抗もなくリーナを透過する。

なるほど、確かにこれは面倒だ。パレードによって構成されたエイドスは表面上だけとはいえ本物と大差なく、肉眼で見抜くことは難しい。さらに、情報を知覚する眼でも本体の位置は探れず、中身のない情報だけが映される。

このパレードを破る方法は基本的に三つだ。

一つ目は、パレードの術式を破壊した後、新たに魔法を行使される前に隠れた本体を見つけ出すこと。

二つ目は、偽られた情報体を見抜き本体を発見すること。

そして三つ目は、リーナの居場所を特定することはせず、辺り一帯に範囲魔法を使うことだ。

 

俺はこれらの方法全てを取ることができる。だが、この方法の内、一つ目と三つ目の方法は、手段としては可能ではあっても実行するには難しいものだった。

先ず、一つ目の方法が難しいのは単純にその余裕がないからだ。俺の【術式焼却(グラム・コンバッション)】は兄さんの【術式解散(グラム・ディスパージョン)】に比べて発動速度が遅い。その差は0.05秒にも満たない僅かなものだが、リーナのパレードの展開速度は兄さんの術式解散の発動速度を上回っていた。

 

三つ目の方法が難しい理由は、俺の使う範囲魔法の殺傷性が高すぎる為である。深雪の魔法であればリーナを無力化することができるだろうが、俺の魔法では無力化の前に燃やし尽くしてしまう。他の範囲魔法も使えるが、それだとリーナ相手では防がれる。

 

残るは二つ目の方法、【叡智の眼(ソフィア・サイト)】で隠されたリーナの本体を見つける方法だ。が、実はこの方法も結構難しかったりする。理由としては、リーナのパレードを見破るのはとても難しく、情報体の方に大部分の意識を割かなければならない。そうなると、叡智の眼を使ってい情報を見ている間に物質の次元に割けるリソースが減り、大きな隙を晒す可能性があるからだ。

 

故に、今までの知覚は役に立たない。だからこそ、俺が視るのは情報の次元ではなく、そのさらに奥。この眼が視るべき本来の視界に限りなく近い場所。生命力とも呼べるソレは、白い光として幻影から三メートルほど離れた位置でリーナの身体をかたどっていた。

 

「フッ――!」

 

短く息を吐きながら、右手でCADに代わりに持っていた針を、リーナの本体に向けて投擲する。そして、同時にポケットに突っ込んだ左手で汎用型のCADを操作し、【定率加速】を発動させながら針を追いかけるようにリーナに突進した。

本体の位置が見破られるとは思ってもいなかったのか、定率加速により常識外の速さで突っ込む俺と針を認識した途端、目を見開きながら咄嗟に対物障壁を張る。それにより、針を弾くことには成功したが、それは悪手だ。

俺は左手でCADを握ると、照準を合わせることなく引き金を引いた。ドロウレスと呼ばれる技術によって、CADの照準を合わせる工程を省き、一瞬で発動された術式焼却がリーナの対物障壁を消し去った。

 

「いったい、どうやって……?」

 

無効化された対物障壁のサイオン残滓が輝く中、俺に押さえつけられたリーナが呆然とした様子で呟く。その言葉は主語の抜かれたものだったが、なにを言いたいのかを理解することは簡単だった。

 

「最初から俺にパレードは通じてない。前回見逃したのは幹比古たちを考慮してたからだな」

 

仰向けのリーナを組み伏せて言い負かすという状況に、若干優越感を覚えながら挑発のようなことを言う。俺の言葉はリーナの問いかけに答えるものではなかったが、話を逸らすには十分なものだった。

 

「それはワタシを何時でも捕まえられたって言いたいの?」

「いやいや、まさか。リーナを捕まえるのは苦労する。だから、前回ブラフを仕掛けて万全な準備の下で挑んだんだ」

「そんなにワタシを捕まえたかったの? 愛を囁くならもう少しロマンチックに迫って欲しいんだけど」

「それも悪くないが、生憎相手に武器を向けられている状況で愛を語れるほどロマンチストではないんだ」

 

細く笑い、片手でリーナの両手を重ねるようにして抑えると、厚手の手袋に包まれた左手を無理やり動かないように押し開く。

 

「……痛いわ、コウヤ」

「残念ながら、そのデバイスのカラクリは知ってる。さっきも言っただろ。武器を向けられてちゃ愛を語れないってな」

 

意図的に挑発的な笑顔を浮かべながら、前世では考えもしなかった気障なセリフを口にする。ただしイケメンに限るというやつだ。

そんな自画自賛にもなりそうな下らないことを考えながら、リーナのマスクに手をかける。リーナは目を閉じ顔を背けた。そのまま仮面を取ろうとした瞬間、リーナが叫ぶ。

 

「アクティベイト【ダンシング・ブレイズ】!」

 

その声に反応したかのように、五本の投擲済みダガーが俺に襲い掛かってきた。これは恐らく音声認識の武装デバイスにより、遅延術式を発動したのだろう。高速で殺到するダガーは、二本がマスクに手をかけた右手、そして右肩、左腕、脚にそれぞれ一本ずつが定められていた。やはりリーナはシリウスには向いていないなと、思わず苦笑する。しかし、いくら急所が外されているとはいえ、ダガーを受けたいとは思わない。

 

「セット【神精領域(スピリチュアルグリッド)】」

「なっ!?」

 

俺が呟いた途端、今にでも突き刺さろうとしていたダガーが飛翔力を失って地に落ちた。途端にリーナが目を見開く。

 

「これは……全方位無差別防御魔法?」

「惜しいな。これは全周防御魔法ではあるが、無差別ではない」

「でも、遅延術式でそんなことできるはずが……」

「全方位防御魔法でネックになるのは、座標設定と方向性の指定ができないことだ。だったらそれを解決すればいい」

 

そういって四方に刺さった針に視線を向ける。そうすればリーナも何となく仕組みを理解したようだった。

本来であれば自分の手の内を見せるなんてことは絶対にしないのだが、これは実用性は案外低いし半分お遊びで作った玩具なので、種明かしするのは問題ないだろう。自分の作った道具を自慢するのは嫌いではない。

 

「あの四本の針は結界針と言って、その名の通り結界を張るものだ。予め四本の針をマーカーとして結界を発動するように設定しておけば、問題が解決できる上に発動速度も格段に上がる。全方位無差別防御魔法は高難易度の魔法だが、この方法を使えばかなり簡単に発動できるというわけだ」

 

例えリーナがこの魔法についてUSNA教えても、実際に再現するのはかなり難しいはずだ。俺の張った術式はそれだけ高度なものだと自負しているし、そもそも開発の手間と実用性が釣り合っていない。この術式は趣味で作ったのをいいことに、俺の欲しい効果をふんだんに盛り込んである為に、効果は信頼できるが実用性を兼ね備えていないのだ。

具体的に話すとすれば、結界のベースに九校戦で弄った幹比古の古式魔法をアレンジして使用し、発動速度を代償に高い効果を得ている。それに加え、結界針にはマーカーの役目以外にも、刻印術式によって魔法の補助をする効果が与えられている。細い針に刻印を彫るのにFLTの開発第三課の人たちが苦労していたようだが、俺の趣味と理解していながら請け負った牛山の自業自得でもあるだろう。

話がズレたが、つまりはデバイスによって効率化した以上に非効率的な術式を使用している為、発動に必要な魔法力が洒落にならないレベルになっているということだ。生産性の欠片もないし、こうして実戦に投入できているのは、俺の桁外れな魔法力を使った力技に過ぎない。

 

「なるほどね。コウヤは最初からこれが狙いだったというわけ?」

「ああ、その通りだ。ちなみに、この結界には視覚阻害や音への妨害効果もあるから、周囲に助けを呼んでも無駄だぞ」

 

暗に、周囲に待機している四人には気付いているという意味を込めてしたり顔で言ってやれば、リーナは悔しそうな表情で俺を睨み付けてきた。しかし、リーナにできるのはそれだけ。すでに奥の手も潰したし、これ以上何かしてくることはないだろう。

 

これで俺は今回の目的をほぼ達成した。

第一目標はリーナに意図を気づかれないようにパラサイトを逃がすこと。既にパラサイトは俺たちが戦闘をしている間に逃走している。

第二の目標がリーナとの戦闘で勝利すること。これも今まさに達成した。これにより、USNAの監視対象は兄さんから完全に俺に移行するはずだ。

そして、これから最後の目標を達成することにする。

 

「リーナ、取引をしないか?」

「取引ですって?」

「そうだ。取引の内容は、俺の質問に正直に答えること。代わりに俺は、リーナの正体をばらさないことを約束する」

「何よそれ、ワタシのメリットが釣り合ってないじゃない」

「そうか? 俺はこの状態から強引に聞き出しても構わないけど」

 

そういって立場を明確にするように上からリーナの首筋に手を触れさせる。リーナは屈辱的だといった風に表情を歪ませた。しかし自分の立場は理解しているのだろう。長い葛藤の末に答えを出した。

 

「……いいわ。条件を呑んであげる。ただし、答えるのは『イエス』か『ノー』よ。それで答えられない質問には答えないわ」

「……なるほど、いいだろう。取引成立だ」

 

強気に笑うリーナに、俺もまた不敵に笑って返した。

 

 

 

 

 




 
相変わらずのガバガバ魔法理論。
結界針とか適当に思いついたから入れただけなんでご勘弁。

さて、今回で少し紅夜の手札が明かされました。真夜の「夜」などを無効にしていたのはグラム・コンバッションによるものです。
達也の再成と分解に利き手があるように、紅夜の魔法にも利き手があります。今まで使ってきた振動加速系統の魔法は右手。グラム・コンバッションは左手が利き手になっています。このちょっとした伏線に気付けた方はいたでしょうか?
気付けた方がいたら本当に尊敬します(笑)

さて、最後にこの作品が一周年を迎えたということで、もう一度皆様に感謝をば。
行き当たりばったりの適当な作品ですが、ここまでこれたのも皆様のおかげです。本当にありがとうございます!
相変わらず不定期更新になると思いますが、こんな作品でもよければこれからもよろしくお願いします!!



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