魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

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話が進まず、何故か新作の設定ばかり思いつく今日のこのころ。
最近、この作品の筆記欲が低下してきています。ストレートに言うと、飽きてきました。

いっそ新作でも書いて気分転換でもしようかな……?




来訪者編Ⅲ

 

 

 

アンジェリーナ・クドウ・シールズは、第一高校にセンセーショナルなデビューを飾った。それも当然だろう。深雪と並ぶ美少女が、注目を集めないはずがない。その美しさだけでも、学校で知らぬものが居ないほどに有名になるには十分だった。更に、それに加えて――――。

 

「ミユキ、行くわよ」

「いつでもどうぞ。カウントはリーナに任せるわ」

 

三メートルの距離を空けて向かい合う二人。その間には、直径三センチの金属球が細いポールの上に乗っかっている。その光景をクラスメイトだけでなく、自由登校となった三年生が見守っていた。

内容は中央地点に置かれた金属球を先に支配するというもの。

 

「スリー、ツー、ワン」

 

リーナのカウントに合わせ、二人は「ワン」のタイミングで同時に目の前の据え置き型CADに手をかざした。

 

「GO!」

 

最後の合図は二人揃えて。深雪の指がパネルに触れ、リーナの手がパネルに叩きつけられる。

眩いサイオンの光が、対象の金属球と重なり合って爆ぜた。

肉眼で見える光ではない為に目を瞑る必要のないそれはしかし、魔法師にとっては当たり前のように感じられるもので、外部からの魔法干渉を抑制する技能が未熟な者はこめかみを抑えたり頭を振ったりしている。

光は一瞬で消えた。金属球がコロコロとリーナの方へと向かって転がる。

 

「あーっ、また負けた!」

「フフッ、これで二つ勝ち越しよ、リーナ」

 

盛大に悔しがるリーナとホッとした様子で笑みを浮かべる深雪。結果は見て分かるように深雪の勝利だった。しかし、深雪の様子からも理解できるだろうが、内容はギリギリ、ほぼ互角のものだった。

寧ろ術式の発動速度はリーナの方が速かった。しかし干渉力で上回った深雪が魔法が完成する前に制御を奪い取ったのだ。力量というよりは戦術による勝利だったと言えるだろう。そんなギリギリの勝負を見て俺は思わず口角が上がる。

 

「深雪、今度は俺と変わってくれないか?」

 

深雪は一瞬驚いた様子を見せたものの、仕方がないと言った風に柔らかく笑うと自習用のパネル型CADから離れる。深雪の笑みに、なんだかくすぐったいもを感じながらも、入れ替わるようにして俺がCADの前に立つ。

 

「ちょっと深雪、勝ち逃げするつもり!?」

 

この一言だけでもリーナが負けず嫌いだということが理解できる。つまりこの手合いが興味を引きそうな一言を言えばいいわけだ。

 

「リーナ、そういう台詞は俺に勝ってから言うんだな」

「……いいわ。後悔させてあげるわよ、コウヤ」

 

リーナの面倒を見ているのが俺といっても、実は魔法実技で勝負するのはこれが初めてだったりする。少なくともこうしてお互いに名前で呼び合い、憎まれ口を叩き合える程度には仲良くなったと言えるが、常に付きっ切りというわけでもないので、基本的に自由行動の時は同じ女子である深雪との方が長くいるのだ。

 

「カウントはリーナがどうぞ」

「……それじゃあ、行くわよ紅夜!」

 

負けず嫌いには煽っていくスタイルは基本。そんなわけで上手いこと乗せられてくれたリーナがカウントを始める。

 

「スリー、ツー、ワン」

 

流石本場と言うべきか綺麗な発音で数字が減っていく。先ほどと同じく「ワン」のタイミングでパネルに手をかざすリーナ。それに対し、俺は不動のまま。

 

「GO!」

 

だが、パネルに手が触れたのは二人同時だった。所謂無拍子というやつだ。もちろん意味もなく使っているのではなく、戦闘時にCADを抜く際の訓練として反射的に構えられるよう、日常的に使っている。

無音で置かれる俺の手と叩きつけられるリーナの手。先ほどの深雪とリーナを静と動とするならば、今回のは柔と剛とでも表現すべきか。

 

衝突するサイオン、そして閃光。

瞬きをする間もない一瞬の攻防。

 

その刹那の中で、俺の気分は過去最高潮に高揚していた。しかしそれも一瞬のこと。一秒も経った頃には既に決着が付いていた。

 

「俺の勝ちだな」

「……嘘」

 

リーナの一言は結果に対するものか、それとも内容か。恐らく両方ではあろうが、後者の割合の方が高いように感じた。まあ、それも仕方のないことかもしれない。

 

「紅夜、貴方前より干渉力と発動速度が上がってない……?」

 

そう、深雪の言う通り、俺の魔法力が以前――正確には横浜事変の時よりも高くなっているのだから。今までだって深雪と同等の魔法力、発動速度においては上回る程だったのだ。それが更に強化されたから、リーナが驚愕するほどの魔法力を発揮したということだ。

 

「もう一回やるか?」

 

深雪の言葉を曖昧に笑ってスルーして、リーナに再戦を申し込む。俺とここまで張り合える相手は少ないのだから、態々逃す必要もない。深雪には悪いが、ここは俺が楽しませてもらうとしよう。

 

「望むところよ!」

 

リーナがもう一度スタンバイしたことを確認すると、今度は俺からカウントを始める。

――結局、俺とリーナの勝負は授業時間が終わるギリギリまで続き、五戦四勝で俺の勝ち越しで終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の放課後というのは、案外忙しかったりする。生徒会に入っているのだから、当然と言えば当然なのだが。

運が良いのか悪いのか、俺は兄さんのようなトラブル体質ではないので、生徒会で仕事をしているだけで厄介ごとが起こるようなことはない。しかし、今日は珍しいことに、大抵のトラブルには自分で突っ込んでいくスタイルの俺に対して、トラブルの種が向こうからやって来た。

 

授業が終わり教室を出た俺は、深雪と一度別れて事務室へと向かう。目的はCADの受け取りだ。生徒会は校内でのCAD携行は常時許可されているのだが、俺は授業中はCADを預けている。

別にCADが無くても魔法は発動できるし、俺なら特異魔法に限り、CADの補助なしでも一瞬で敵を消し炭にすることくらいできてしまう。まあ、学校でそんな物騒な魔法を使うことなど早々ないが。

そもそも俺が【領域干渉】を使えば、この学校でそれを突破できる者など限られている為に、CADを携行する必要性があまりないのだ。ついでに言えば、常にCADを持ち歩いているといないとでは、周囲の印象も変わってくる。そりゃあ、常に武器を持ち歩いている人物と一緒に居たいとは思えないだろう。そんなわけで、印象操作含めた意味でも、俺は放課後にCADを受け取るようにしているわけである。

何事もなく普通にCADを受け取った俺は、改めて生徒会室に向かう。部屋のロックを解除し中に入った俺を迎えたのは、普段この部屋で見かけることはない金糸を束ねた見覚えのある後ろ姿。何事かと思いながらも面倒ごとの気配を察知した俺は何もみなかったことにする。

 

「こんにちは」

 

普段通りの挨拶を済ませた俺は、普段と同じように自分の席に座ろうとして、

 

「こ、紅夜くん、ちょっといいですか?」

 

あずさの躊躇いがちな声にあえなく捕まった。問いかけという形を取りながらも拒否権のない言葉に、ため息を吐きそうになるのを堪えながら、努めて表情に出さないようにしてあずさに身体を向ける。

 

「はい、何ですか?」

「紅夜くんは今日の分の仕事は終わってますよね」

「ええ、昨日の内に片付けましたからね」

「でしたら、こちらのシールズさんの学校案内を頼めませんか?」

 

学校案内と言われても、一応リーナの面倒を任された俺は来た日の内に主要な教室や施設などは一通り説明したはずだ。ということは、今回頼まれているのは主要な場所だけではなく、より詳細で限定的にしかつかわれないような部分も含めてということだろう。

リーナが何を狙っているのかは分からないが、この頼みが俺に回って来るのには十分に合理性がある為に、無下に断るようなことはできない。

 

「分かりました」

 

結果的に、俺はその頼みを受け入れざるをえなかった。

 

 

 

まだリーナが留学してから間もないとはいえ、彼女の面倒を見る係りになってる俺が二人きりになることは初めてではない。生徒が行きかう校舎内なので正確には二人きりとは言えないかもしれないが、何時まで経ってもリーナと二人きりでいるのに慣れそうもなかった。

別に美少女と二人きりでいるから緊張しているとかそういった意味ではない。というか、そんな感覚は今世に転生してから失って久しいもので、今更緊張するような精神など持ち合わせていなかった。

では何故かといえば、リーナの此方の気配を探って来る視線が隠しきれていないからだ。残念ながら、俺は美少女に見られて喜ぶような趣味はないので、とにかく面倒なだけである。表向きはお互いに和やかな会話しかしていないので、微妙な空気になるというようなことはないが、俺から「お前はスパイなのか」などと訊ねるわけにもいかない為、ストレスのようなもやもやとした気分が溜まる一方だった。

 

生徒会室を出て校舎を回る俺たちに、予想通り無数の嫉妬の視線が突き刺さる。既に慣れたものとはいえ、気分の良いものではない。リーナも同じなのか、微妙に眉を顰めていた。

 

「私、嫉妬の視線なんてあまり向けられたことがないから、少し複雑だわ」

 

どうやら俺の予想は少しズレていたらしい。受けている嫉妬は俺が男から、リーナが女からという状況なのだが、どうやらリーナは嫉妬を向けられること自体に慣れていなかったようだ。そんな好奇心と嫉妬の視線に晒され気疲れしながらも、やることは忘れず校舎の説明をして回る。

実験室が並ぶ特殊棟の端、ここまでくると誰もいないような場所でリーナは足を止めた。

 

「どうした? 疲れたのか?」

「いいえ、大丈夫よ」

「何だ?」

 

勿論本当に疲れているとは思っていないが、何か話したい様子のリーナを促すつもりで声を掛ける。それでもこちらの意図が伝わらなかったのか、一旦言葉を切って躊躇った様子を見せたので、今度ははっきりと言葉にして表す。

 

「紅夜は、どうして強くなろうと思ったの?」

 

そうして発せられた言葉は完全に予想外のものだった。思わず首を傾げると、今度はちゃんと理解してくれたようで、質問の理由を語る。

 

「深雪に、紅夜とどっちが強いのって聞いたら、実戦ではかなわないって言ってたのよ」

「ああ、成る程」

 

リーナの質問の意味を理解した俺は、頭の中で適当な答えを組み立てる。本当の理由としては原作知識で将来面倒ごとに巻き込まれる可能性が高いことを知っていたからなのだが、まさかそんなことを素直に言えるはずがない。一緒に浮かんだ理由と共に、頭をっ振って考えをリセットする。他に何か理由などあったかと考えて、思い出したように妥当なものに行きついた。

 

「……楽しかったから、かな」

「楽しかった?」

 

ふざけているのかという思いが表情にありありと出ているリーナに苦笑しながらも、頭の中で慎重に選びながら言葉を口に出す。

 

「俺はもともと、病気で昔は碌に動けなかったんだ。だから、病気が治った時に動けるのが楽しくてな。兄さんが体術を教わってた先生に、俺も修行をつけてもらうことにしたんだよ。こう言うのもアレだが、俺は運動と魔法の才能があったから、楽しくて続けている内に強くなってたんだよ」

 

自分の気持ちを他人に話すことに、少し気恥ずかしさを感じながらも、表情には出さず、「やってる内に、兄さんと深雪を守れるようになるって目標ができたんだけどな」と付け足す。

今話した言葉に嘘はない。元々俺は、楽しくない物事はあまり続けていられない性質(たち)だ。いくら自分の身を守る為とはいえ、楽しくなければここまで続けていられなかっただろう。しかし、肝心のリーナは俺の答えが気に入らなかったのか、不機嫌な雰囲気を隠す様子もなく纏っている。

 

「ワタシは、実戦で役に立ちたい魔法師になりたいと思っているの」

「おいおい、物騒だな」

 

リーナから発せられる闘気のようなものに、小さく笑みを浮かべながら言葉を返す。

 

「分かるのね。凄いわ」

 

そんな俺に対し、リーナは全く熱の籠らない上辺だけの言葉と同様に、研ぎ澄まされた刃のような冷たい笑顔を返してきた。

リーナの腕が跳ね上がる。襲い掛かる掌底を、危なげなく掴み取った。俺の目の前で止まった掌底が、指鉄砲のように人差し指を突き出した形に変わる。眼前に突きつけられた形の良い爪。そこに集まるサイオンが撃ち出された瞬間、虚空でサイオンの光が霧散した。

 

「危ないじゃないか」

「避けられると思ってた。撃ち落すのは予想外だったけど」

「別にサイオンは指先から撃つ必要はないだろ」

 

先ほど空中で霧散したサイオンはリーナのものだけでなく、俺のサイオン弾でもあった。言葉にした通り、サイオンは指先や手からでなくても、体中の何処からでも放つことができる。撃ち落すにしても、集められたサイオン量を見切って同量のサイオンを当てなければ相殺はできないが、病気を抑える為に必死でサイオンコントロールを覚えた俺からすれば、造作もないことだった。

 

「で、一体どういうつもりだ?」

「……コウヤの腕を知りたかったのよ」

「それは実戦における実力ってことだよな」

「ええ」

 

わざわざ確認するまでもないことだったが、念の為にもリーナの口から答えを聞く。それによって分かったことがある。どうやらUSNAは兄さんや深雪ではなく、俺が戦略級魔法師の最有力候補だと考えているようだ。でなければ魔法力をわざわざ見せつけたのに、実戦の実力まで確認してくることはないだろう。

 

「しかし、実力を確認する為とはいえ、人の頭に穴を空けようとするのはどうなんだ?」

「単なるサイオン粒子の塊に物理的殺傷力なんてないわ。精々、銃で撃たれたような激痛を感じるだけよ」

「銃で撃たれるような激痛を精々か……」

 

恨みがましい言葉と共に、非難を込めた視線を向けると、リーナはため息を吐いて手を上げた。

 

「分かった、分かりました。ご無礼をお許しください、コウヤさま」

「……似合わないな」

 

かしこまった態度で丁寧に一礼をして見せたリーナに違和感を感じて思わず呟く。その呟きを聞かれたようで、リーナに思い切り睨まれた。

 

「いや悪い。けど、キャラじゃないだろ」

「そんなことないわよ! これでも大統領のお茶会に招かれたことだってあるんだから!」

「へぇ……大統領か」

 

ニヤリと笑うと、リーナは慌てて手で口を押える。

 

「はめたのね……?」

 

そう言って悔しそうに睨み付けて来るリーナ。この流れに何となくデジャヴを感じたが、意識してやったことではないので首を振って否定する。

 

「いやいや、今のは偶然だよ。どちらかと言えば、リーナの自爆じゃないか?」

 

俺の言葉に反論が見つからないのか、リーナは黙ったまま睨み付けてくるだけだった。

 

「じゃあ、校舎の案内を続けるか」

「……え?」

 

軽く言い放つと、先ほどとは一転して唖然とした様子を見せる。

 

「訊かないの?」

「何を?」

「何をって、例えば……ワタシの正体とか、確かめなくていいの?」

「構わないさ。世の中知らない方が良いこともある」

 

元々知っているから、とは言わない。しかし、わざわざ聞いてくる辺り、リーナにこういった捜査の仕事は合わないのだろう。シリウスとして活動しているにしては優しすぎるし甘すぎる。

 

「……アナタって嫌な人ね」

「そうかもな」

 

自分がどれだけ嫌な人間かなんて、自分が一番分かってる。否定をする必要もない。ただ、俺にはないその甘さを当たり前のように持っているリーナが羨ましくもあり、それを捨てられないリーナを哀れにも思う。しかし、俺はその甘さを嫌いにはなれなかった。

 

 

 




 
五戦中一敗という露骨な人間アピール。

今更ですが、紅夜の魔法力は特異魔法に特化しています。それこそ達也並に。
なので通常の魔法を使うのであれば、魔法力は深雪と同等か少し上くらいです。……それでも十分にチートなんですけど。
まあ、そんなわけでこういった実技授業の勝負なら、リーナの作戦次第では紅夜も負けたりすることもあるのです。


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