魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

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お待たせしました。ようやく本編の投稿です!

さて、今回から来訪者編に入ることになります。……ようやく、ようやくヒロインが出るよ。
とまあ、それは置いといて。原作来訪者編は上中下の三部構成となっており今までで一番長くなっています。そうなると必然的にこの作品も長くなるのですが、どうにも最近スランプ気味でストックとか全くありません。
今までは何だかんだで、ある程度定期的な投稿はできていましたが、今回からは定期更新がかなり難しくなりそうです。一応つけておいた不定期更新のタグがようやく出番になります(笑)
申し訳ありませんが、ご了承ください。




来訪者編
来訪者編Ⅰ


 

 

 

北アメリカ合衆国テキサス州ダラス郊外、ダラス国立加速器研究所。全長三十キロメートルの線形加速器で今、余次元理論に基づくマイクロブラックホールの生成・蒸発実験が行われようとしていた。二年前に準備ができていながら、そのリスクが読み切れないことを理由に中々ゴーサインが出なかったこの実験の後押しをしたのは、先日末に極東で起こった大爆発事件だった。

国防総省の科学チームは激しい議論の結果、この爆発を質量エネルギーの変換によるものの可能性が高いという判断をした。ところが、偵察衛星が記録した今回の大爆発のデータは、実験施設において観測された対消滅反応データと一致した特徴を示さなかった。いや、そもそも観測結果が質量エネルギーの爆発とは異なるものだった為に、結論付けることもできていなかったのだ。それの意味することは科学技術であれ魔法技術であれ、自分たちが知らない方法で高エネルギー爆発を引き起こす技術を実用化した者がいるということに他ならない。

この帰結はUSNA首脳部に焦りをもたらした。

仮にそれが魔法によるものなら同じことができないのは仕方がない。体系化が進んでいるといっても魔法はやはり属人的なものだからだ。だが、一体どういう仕組みで引き起こされたものなのかさえ分からなければ対抗策の検討もできない。一度その牙が向けられれば成すがままに蹂躙されるしかない。それはまさに悪夢だった。

 

しかし、誰も気が付かない。そもそもの前提が間違っていることに。

否、気が付いている者はいた。偵察衛星のデータは異常な熱を観測していたのだ。それについては全員が気が付いていただろう。だが、研究者たちはそれを起こした方法ばかりに目を向け気が付かなかったのだ。気が付いた者がいてもあり得ないと言って叩き潰してしまっていた。

それも仕方のないことだろう。まさか、誰が原子振動の加速による熱だけであの被害をもたらしたと信じられるのか。それを起こす現象も事象も過程すら飛ばして、ただの干渉力だけでその理不尽を起こしたなどと誰が予想できる。

誰もが自身の過ちに気が付かぬまま実験は開始される。そして、傍から見たら滑稽なその実験は、世界に災禍をもたらす可能性を持った存在を呼び起こすこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西暦二千九十五年も残すところあと一ヶ月となった。あと半月しかない学校だが、学生にとっては避けられない試練。定期試験が迫っていた。

そんなわけで俺たちはいつものメンバーで雫の家、というには広すぎる屋敷に集まって勉強会をしていた。まあ勉強会とは言っても、この場にいる者の殆どが成績優秀者だ。唯一の例外であるレオも、勉強ができないのはこのメンバーの中の話であって、一般的に見れば平均的成績なので赤点を取る心配はない。テストには魔法科高校ならではの実技もあるのだが、これについては勉強会の守備範囲外だ。

そんな訳で、勉強会とは思えぬ和やかな雰囲気の中、雫の爆弾発言によってその空気が一変した。

 

「えっ? 雫、もう一回言ってくれない?」

「実はアメリカに留学することになった」

 

慌てて聞き返すほのかに、雫は相も変わらず抑揚のない声で一言一句違わずに繰り返す。それを聞いて皆が驚愕の表情を浮かべる中、俺はそういえばそんな時期だったかなんて考えた。

 

「聞いてないよ!?」

「ごめん、昨日まで口止めされてたから」

 

血相を変えて詰め寄るほのか。この時ばかりは普段表情があまり変わらない雫も、誰の目にも分かる程申し訳なさそうな表情をして謝る。

 

「でもさ、留学なんて何でできたの?」

 

そう聞いたのはエリカ。一見失礼な質問にも思えるが、実際にはこの発言は雫の学力を疑ったものではない。優秀な魔法師は遺伝子の流出を防ぐ為に、政府によって非公式ではあるものの実質的に海外行きは制限されるのだ。その為、俺や深雪も生まれてこの方、海外旅行をした経験など一度もない。

 

「ん、何でか、許可が下りた。お父さんが言うには交流留学だから、らしいけど」

「交流留学だったら何故OKが出るんでしょう?」

「さあ?」

 

全く理解できない答えだが、首を傾げる雫に問いただすのは酷というものだろう。

 

「期間は? 何時出発するんだ?」

「年が明けてすぐに。期間は三ヶ月」

「三ヶ月なんだ……ビックリさせないでよ」

 

ホッとした様子を見せるほのかだったが、三ヶ月という期間は十分に、というか政府が許したという意味では長すぎる程だ。しかし、それは今どうでもいいことであり、

 

「じゃあ送別会をしなきゃな」

 

珍しく、兄さんはそんな言葉を口にした。

 

 

 

 

 

定期試験も無事に終わり、今日は十二月二十四日、土曜日。

二学期最後の日であり、同時にクリスマス・イブでもありながら、雫の送別会が行われる日でもあった。何故わざわざこの日にやる必要があるのかと疑問には思うが、口に出すのは無粋というものだろう。

 

「飲み物は行き渡った? じゃあ、いささか送別会の趣旨とは異なるけど、折角ケーキも用意してもらったことだし、乾杯はこのフレーズで行こうか……メリー・クリスマス」

「メリー・クリスマス!」

 

兄さんの落ち着いた声で取った音頭に、皆ははっちゃけた歓声で応えてグラスを突き上げた。

行きつけの喫茶店「アイネ・ブリーゼ」は、今日一日貸し切りである。

 

 

送別会、とは言っても春になれば再会できると分かっている旅立ち、しかも自分たちには普通認められない海外留学となれば、寂しさよりも興味の方が先行するのは仕方のないことかもしれない。

 

「ねっ、留学先はアメリカの何処?」

「バークレー」

「ボストンじゃないのね」

 

日本人魔法師の間には、アメリカの現代魔法研究の中心地はボストンであるという認識が強く根付いている。深雪の発言もそういった考えからだった。

 

「東海岸は雰囲気が良くないらしくて」

「ああ、人間主義者が騒いでるんだっけ。最近そういうニュースを良く見るよね」

 

雫の穏やかざる回答に幹比古は同調する。

 

「魔女狩りの次は魔法師狩りかよ。歴史は繰り返すって言うけど、バカげた話だよな」

「人間の心や行動原理は、何時の時代も似たようなものだからな。一般人にとって俺たちを排斥することは、異教徒狩りみたいなものなんだろ」

 

レオの吐き捨てるような言葉に、俺がバカバカしいという思いを込めて溜息と共に言葉を吐き出すと、予想以上に皆の注目を浴びていたようで、慌てて「俺、個人の感想だけどな」と付け足す。

 

「まあ確かに、東海岸は避けた方が良いかもしれない」

「それは存じ上げませんでした」

 

兄さんの言葉に深雪が合いの手を入れながら解説を求める。当然ながら兄さんが深雪の求めに答えないわけがない。

 

「活動団体のメンバーリストを眺めていると、結構高い確率で同じ名前が見つかるからね。メンバーのリスト自体、表で出回っているような物じゃないから知らなくても無理はないよ」

「達也くんの話の方がよっぽど犯罪くさいんですけど……暗い話題はヤメヤメ」

 

わざとおどけて首を振ったエリカに俺たちは苦笑をしながら頷いた。確かに話の流れとはいえ、この場にはあまり相応しくない話題だろう。

 

「代わりに来る子のことは分かっているの?」

 

少々唐突だが、微妙な空気を変える為に深雪が新たな話を振る。

 

「代わり?」

「交流留学なのよね?」

「同い年の女の子らしいよ」

「それ以上のことは分からないか」

「うん」

 

それだけ? と疑問の表情が浮かぶ中で、兄さんが笑いながら尋ねると、雫は当然とばかりに頷いた。

俺は知っているのだが、それは原作知識があるからで、実際には教えてくれるような人はいないし、もしも知っている人物がいても相手が来るまでは教えてくれることはないだろう。

そんな訳でこの話題は僅か三分足らずという短い時間で終いとなった。

 

 

 

 

 

その後、少しだけ期待していたコーヒー必須のクリスマスらしいイベントが起こることもなく、他愛もない談笑を続け相応の時間となった為に解散となった。もちろんのことだが、クリスマスらしいイベントを期待したのは他人の事情を眺めニヤニヤするという意味である。決して俺自身にイベントが起こることを期待したわけではない。

 

実は俺は前世を含め、精神年齢=彼女いない歴なのだが、あまり恋愛というものに興味がない。それは前世から興味が薄かったというのもあるが、それ以上に今の環境が要因だったりする。

先ず一つ目の要因としては、自分で言うのもアレだが、俺の容姿が深雪並に飛びぬけているからだ。これによって恋愛で色々と面倒なことが起こる可能性が高い。だがまあ、これについては面倒という点を除いては何とかなるので然程問題というわけではない。

 

次の要因として、俺の恋愛により物語に大きな変化が起こるかもしれないということだ。これは俺というイレギュラーがいる時点で既に問題なのだが、それでも今より更に大きなズレが生じる可能性があるということ。しかし、これについても割と整理は付けられる。

 

何よりも問題となってくるのが、最後の要因。とても単純だが一番の壁になるもの。即ちそれは「家」の問題である。どんなに足掻こうが変えようのない四葉家としての立場、これが単純かつ最大の問題だ。

四葉家次期当主の最有力候補である俺が自由な恋愛をすることができる可能性などほとんどない。今こそ立場を隠しているから大丈夫なものの、いざ公表されたとなれば数多くの縁談が持ち込まれ、そして許嫁が決まることになるだろう。

そして、例え自由な恋愛が許されたとしても、相手の最低条件として俺に匹敵するような魔法力を持っていることが必須となるはずだ。この条件に見合うものなど、世界全土を探しても数えるほどしかいないだろう。

そんな訳で俺にとって恋愛とは、あまり縁のないものなのである。

 

ところで、何故こんな急に恋愛の事を考えていたのかといえば、それは目の前で甘い空間を振りまいている兄妹に、早くくっついてしまえとサンタクロースにお願いしていたからである。自分の幸せより他人の幸せを願う俺はとても良い人なのではないだろうか? ……例え、そうでもしなければ空気に堪えられないのだとしても。

先ほどまでは三人で留学が不自然なものだとしてスターズの話をしていたのだが、途中で暗い方向になり兄さんが深雪を慰め始めたところから、シリアスな空気が一転して二人が桃色空間を形成し始めたのだ。もう既に慣れたものではあるのだが、クリスマスイブという特別な日の影響か、桃色空間の濃度が何時もの二倍にまで跳ね上がっていた。

流石にここまでくると俺が居辛いのでさっさと自分の部屋に戻ることにして、手に持ったカップの中身を一気に飲み干すと立ち上がる。

……何故か飲み干したコーヒーは砂糖のように甘かった。

 

 

 




 


最初のところは少し無理があったかもしれませんが、こうでもしないと物語が進まないので大目に見てください。

あと、突然だったかもしれませんが、ヒロインが出るということで今の紅夜の恋愛観を入れてみました。こうして条件を並べてみると、ヒロインをリーナにして良かったと思えます(笑)


どうでもいいかもしれませんが、紅夜の前世に関しては全くと言っていい程、設定を作ってません。ただ、一応年齢だけはふわっと、高校生以上だったことだけ決めてあります。
で、前世が十五歳以上だとして、転生して紅夜になったのが一歳の頃。合計すると、紅夜の精神年齢は三十歳以上となるわけです。リーナの年齢は分かりませんが、十六か十七でしょう。
…………なんか、大丈夫ですかね?



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