魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

34 / 53
 
明けましておめでとうございます!

某歌番組を見ながら東方のイラストを漁っていたら、何やら画き納めなるものを見つけ、私も書き納めをしてみようと、テレビを放り出して急遽予定になかった閑話を書きました。
……しかし文字数六千文字とか、本編書かずに何やってるんだって話しですけれど。

まあ、そんなわけでミスやら何やら色々と酷いことになっているかもしれませんが、大目に見てください。

話しは変わりますが、お気に入りが何ともう少しで2000件になりそうです。最初は一年掛けて千件行ったら良いな、程度の気持ちで投稿したので、とても驚いています。UAもいつの間にか20万件を突破していて、嬉しい限りです。
これも、この作品を読んでくれている皆さんのおかげです。本当にありがとうございます!

こんな作品でもよければ、今年もよろしくお願いします!




閑話 夜を染める紅

 

 

 

灼熱のハロウィン、そう呼ばれる事件が起きてから一週間。俺と兄さん、深雪は揃って地図にも載っていない山村に訪れていた。今いる場所は大きめの武家屋敷調伝統家屋の中。此処こそが俺たちの実家、四葉本家の邸宅だった。

何故ここに来たかと言えば、あの日、真夜からの電話で告げられた招待と言う名の出頭命令によるものだ。

外観からは想像できないモダンな作りをした応接間――――通称謁見室と呼ばれる場所に通されたということは、今日の呼び出しが真夜の私的なものではなく、四葉家当主としてのものということだろう。まあ、最初から分かっていたことだが。俺と深雪はソファーに座り真夜が来るまでの時間を待つ。ここで兄さんの名が無いのは、兄さんが座るのではなく深雪の隣で立っているからだ。そのことに少しだけ何とも言えない気分になるが、こんなことを一々気にしていては仕方がないのですぐに振り払う。

 

しばらく静かな時間を過ごしていると扉の向こうから気配を感じて視線を向けた。同時にノックの音が響き、俺が許可を出すと「失礼します」という声と共に扉が開いて、着物の上にエプロンを付けた女中が姿を見せた。個人的に前世の憧れ的な意味でメイド服の方が嬉しいのだが、屋敷のイメージには合っていないので仕方がないだろう。

その女中さんが深々とお辞儀をしてから身体を横にずらすと、そこには見知ったスーツ姿の男性、風間が立っていた。女中が退室して扉を閉めると先に口を開いたのは風間だった。

 

「久しいな、達也に紅夜。先週会ったばかりだが」

「少佐……何故、いえ、叔母に呼ばれたのですか?」

「そうだ。貴官が同席するとは聞いていなかったが」

「……申し訳ありません」

 

謝罪を口にしたのは風間の入室と同時に立ち上がっていた深雪だ。風間はこの程度のことで気分を害するほど狭量ではないのだが、深雪は身内の不手際をスルーできなかったようだ。

 

「気にする必要はない」

 

そう言った風間に深雪は小さく礼をした後、誰からともなく席に着いた。

 

対馬要塞で別れてから一週間、当日一足先に帰っていた俺は、あの戦闘がどうやって決着がついたのかを詳しくは知らない。ここで風間と再会できたのは好機と思い色々と質問してみたのだが、どうやら風間にも詳細不明の部分が多いようだった。そうなってくるとできることは情報を交換することで、兄さんを交え三人で推理を出し合っていたのだが、こちらに近づいてくる気配を感じてそれは中断された。

 

「失礼致します」

 

形式的なノックの後返事を待たずにドアが開かれる。恭しく一礼したのは年嵩の執事、この四葉家の纏め役といってもいい真夜の右腕に当たる人物、葉山であった。

 

「お待たせ致しました」

 

そしてその後ろ、葉山の背後にはこの屋敷の主である四葉真夜が立っていた。

 

 

「本当に申し訳ございません。前のお客様が中々お帰りにならなくて……。お約束の時間を過ぎているとはいえ、追い立てるような真似もできませんし……」

「どうかお気になさらず。お忙しくしていらっしゃるのは、存じ上げています」

 

余所行の口調で謝罪する真夜に風間が返して、二人はようやく腰を下ろした。

 

「深雪さんと紅夜さんもお掛けになって」

 

促す声に深雪と俺も腰を下ろすと、俺たち四人の前にティーカップが置かれる。その四人とは当然ながら、俺と深雪、真夜、風間のことだ。

 

「本日おいでいただいたのは、先日の横浜事変に端を発する一連の軍事行動について、お知らせしたいことがありましたからですの」

「本官にですか?」

 

早速だけど、そう前置きして語り始めた真夜の言葉に風間が訪ね返す。

 

「ええ、達也さんと深雪さん、紅夜さんにも」

 

そう言って意味ありげな笑みを浮かべる真夜。俺たち「にも」と言ってはいるが、恐らく本当に聞かせたいのは風間ではなく俺たちの方なんだろう。

 

「国際魔法協会は、一週間前、鎮海軍港を消滅させた爆発が憲章に抵触する『放射能汚染兵器』によるものではないとの見解をまとめました。これに伴い、協会に提出されていた懲罰動議は棄却されました」

 

隣で座る深雪の表情が一瞬強張ったが、すぐに安堵の息を漏らした。

 

「懲罰動議が出されていたとは知りませんでした」

 

起伏に乏しい声音で風間が嘯く。俺でも予想できるようなことを風間が想定してなかったはずがないのだが、それを指摘する声は上がらなかった。

 

「では、敵艦の搭乗員に『震天将軍』が含まれていて、戦死が確実視されていることはご存知ですか?」

劉雲徳(りゅううんとく)が?」

 

続いた真夜の言葉に風間の保っていたポーカーフェイスが崩れ目を見開いた。

 

「ええ、国際的に公にされた十三人、いえ、十四人の戦略級魔法師の内の一人である劉雲徳その人がです。大亜連合は随分と厳重な情報規制を敷いているようですけれど」

 

戦略級魔法師のプライバシーなんてあって無いようなものですね、と真夜は笑う。しかし俺たちからしてみれば、どの口がそれを言うのか、お前が言うな、などの統一された感想になる為に全く信用性がない。

 

「政府は、これに乗じて大亜連合から譲歩を引き出したいと考えているようで、参謀長より五輪家に出動要請があり、五輪家はこれを受けました。佐世保に集結した艦隊に澪さんが同行しています」

 

これは驚きの情報だった。五輪家の澪と言えば俺と同じ戦略級魔法師だったはずだ。彼女は半径数十キロメートルにもわたり、水面を球状に陥没させる【深淵(アビス)】という強力な魔法を使えるのだが、それとは対照的に肉体面ではかなり虚弱だ。その彼女を比較的短距離とはいえ何日も戦闘艦艇にのせるのは、ある種の賭けともいえた。

 

「こちらが劉雲徳の情報を掴んでいたように、あちらも澪さんが出陣したことを掴んでいるでしょう。また、これは未確定情報ですが、本日、ベゾブラゾフ博士がウラジオストク入りしたとの報せも受け取っております」

「――――『イグナイター』イーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフが、ですか?」

 

この新たな情報に、またも風間の表情が動く。声にこそ出してはいないが、俺や深雪、兄さんも驚きを僅かに見せていただろう。イーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフは新ソ連が擁する戦略級魔法師である。つまり、これまで戦略級魔法師を実戦に投入することはなかったのに、今回の戦いにはこれで俺を含めて四人の戦略級魔法師が動員されたことになる。

 

「大亜連合も同様の情報を掴んでいるでしょうから……」

「近日中に講和が成立する可能性が高いと?」

「私どもはそのように予想しております。三年前からの因縁は、これで決着がつくでしょう」

 

そこで真夜は一旦言葉を区切った。

 

「ただ、今回の鎮海軍港消滅は多数の国から注目を集めています。あの攻撃が戦略級魔法によるものだと当たりをつけ、氷雨夜光の正体に探りを入れてて来ている国も増えています。しかし、紅夜さんの正体を知られることは、私どもとしてはあまり好ましくない事態です」

「重々承知しております」

 

風間が頷いたのを見て、真夜は嬉しそうに顔を綻ばせた。

 

「ご理解頂けて嬉しく思います。それでは念の為に、しばらく紅夜さんと、それから達也さんとの接触を避けていただきたいのですが」

 

 

 

 

 

風間との交渉は真夜にとって満足いく形でまとまったようだった。

そして今、応接室では俺と真夜が一対一で対峙している。風間は話が終わったので当然として、兄さんと深雪に加え、葉山まで退室しているのは真夜の強い希望によるものだった。

 

「貴方とこうして一対一で向かい合って話し合うのは久しぶりね」

「そうですね。一年ぶりくらいでしょうか」

「そうだったかしら」

 

先ほどまでとは打って変わって砕けた口調になった真夜。それに応える俺の姿は傍から見れば親し気なものだろう。傍から見れば、というのだけでなく、俺からしても十分親し気なのだが。

毎回面倒ごとを持ってくるとはいえ、俺が病気で臥せっているときに、深雪と兄さんに続き、長い時間を話し相手になってくれたのだ。例え腹に何かを抱えていようとも、今のところは敵対しているわけでもないし、何度も話した相手と緊張した空気を作り出す必要はないだろう。

 

「それで、話とは何ですか?」

「そんなに慌てないで。お茶でも如何?」

「そうですね。では冷えたものでお願いします」

 

俺の遠慮の欠片もない言葉に真夜はプッと吹き出した。

 

「そういえば、貴方猫舌だったわね」

「違います。熱いものが苦手なだけです」

 

俺の答えが軽くツボに入ったのか、真夜は暫くの間クスクスと笑い続け、それが収まった後も口元に笑みを浮かべながら呼び鈴を鳴らし、現れた葉山に冷えたお茶を持ってくるように言った。

それから、お茶が来るまで真夜は自分から口を開かなかった。

お茶でも如何、とは、話は飲みながらということだろう。それが分からないほど鈍感ではないし、それを待てないほど子供でもない。しかし退屈なものは退屈だ。そこで暇つぶしも兼ね、思い出したように問いかける。

 

「そういえば、お母様の様子はどうですか?」

 

俺の言葉に真夜は少し驚いた様子を見せる。俺から真夜に対してお母様のことを訊ねることなど一度もなかったからだろう。

 

「……あまり体調は良くないらしいわ。最近はずっと寝たきりだそうよ」

 

らしい、とつく辺り、相変わらずお母様との仲は良好とは程遠いようだ。

前に聞いた話では桜井さんも寿命が近づいてきているようだし、二人の体調は少し心配だ。そんなことを考えているとドアをノックする音が響き、真夜が入室の許可を出す。

 

「失礼します」

 

そういって入室してきた少女の顔を見て、俺は衝撃に見舞われた。予想はしていたし、覚悟もしていた。しかし、まさかこのタイミングだとは思ってもみなかった。予想外の出来事に、痛む胸を無視して表情を取り繕う。

 

「……如何なされました?」

「いえ、何でもありませんよ」

 

心中を占めた驚愕を抑え込み、問い掛けて来た少女――――桜井水波に首を振って答えた。

 

 

 

水波が退出したのを確認すると、一度お茶に口を付けて心を落ち着け、真夜に視線を向けた。

 

「……彼女は?」

「ああ、水波ちゃん?」

 

俺の質問に思い出したとばかりに頷く真夜。その行動は、普段なら葉山がお茶を持ってくるはずだし、狙ってやっているとしか思えないので、白々しい演技としか思えない。

 

「名前は桜井水波。桜シリーズの第二世代で、桜井穂波さんの、遺伝子上の姪に当たる子よ」

 

そこで言葉を止めた真夜に視線で続きを促す。まさか俺が驚く姿を見る為に水波を呼んだわけではないだろう。案の定、真夜の言葉は続いた。

 

「そして、あの子を紅夜さんのガーディアンにしようと思っているの」

「……そう、ですか」

 

まあ、予想はしていた。人材不足の四葉家において、俺のガーディアンを任される存在など限られている。それを考えれば、深雪のガーディアンとして育てていた水波を俺につけるのは不思議なことではない。ここで気になるのは水波がどのくらい原作に影響しているかだ。俺の知識は原作十巻までしかないが、そこで水波が出てきたのは一度だけだ。それでも覚えていたのは桜井さんが印象に残っていたからだ。もしも彼女が原作で大きな役割を果たすことになるのなら、あまり良くない事態だがそろそろ原作知識も終わりを迎えるころだ。原作を意識することをやめるいい機会かもしれない。

 

俺が考え込んでいた為に生まれた奇妙な沈黙をお茶をすすって誤魔化す。少しの間を開けて空気が何となくもとに戻ったところで真夜が口を開いた。

 

「今回はご苦労だったわね、紅夜さん」

「いえ、そんなことはないですよ」

 

真夜の褒めているとは思えない言葉に上辺だけの内容を返す。戦略級魔法師として公表することにしたのはアンタだろうと思うが口には出さない。

 

「でも、四葉にとっては少々面倒なことをしてくれたものだわ」

「申し訳ありません」

 

芝居がかった息と愚痴を零した真夜に、またも表面上だけの言葉を返す。「面倒な」と言っている辺り、真夜も本気で言っているわけではないのだろう。

 

「あそこまでする必要があったのか、本当は風間少佐を問い詰めてみたかったのだけど、過ぎたことは仕方がないわね」

「恐れ入ります」

 

今回の謝罪は結構本気で行った。できるだけ被害を原作に近づける為にやったとはいえ、少々やりすぎた感は否めない。封印を解除した所為で手加減が難しかったという言い訳もあるのだが、やろうと思えばもう少しスマートな破壊は可能だったのだ。流石に、領域内で熱を遮断する部分の術式を破棄したのは、やりすぎだったかもしれないと今更ながらに思う。

 

「それより問題は今後のことです」

「何か具体的な不都合が生じているんですか」

「……スターズが動いているわ」

「それはアメリカが動き出しているという意味ですか?」

「今はまだ、スターズが調査を開始した段階よ。でも彼らは、今回の爆発が氷雨夜光の魔法によって引き起こされたものだと掴んでいるわ。正体についても、かなりのところまで絞り込んでいます。――――具体的には貴方を容疑者の一人として特定するまでに」

 

それは真夜――――四葉にとっては不都合なこと。しかし俺にとっては吉報でもあった。この情報は来訪者編が上手いこと進んでいるということに他ならない。詳細は変わっているだろうが、俺はこのまま来訪者編に入らないという心配はしていなかった。

しかしそこまで掴んでいる真夜の情報網は流石と言える。それを口に出すことはしないが。

 

「身の周りには気をつけなさい」

「忠告、感謝します」

 

俺と真夜の視線が交わる。そこに先程までの親しげな雰囲気はなく、お互いに火花が散るような視線をぶつける。

お互いに何を言いたいのかは理解していた。故に、次の真夜の口から出てきた言葉は過程を飛ばしたものだった。

 

「紅夜、学校をやめなさい」

「……また、あの牢獄に戻れと?」

「そうではないわ。ただほとぼりが冷めるまでは家にいなさい」

「行動を縛られるという意味では大して変わらないでしょう」

 

俺の願いは物語を見届けるというもの。なのに折角の自由を自ら手放すわけがない。

 

「このタイミングで俺が突然退学したら、それこそ氷雨紅夜は俺だと言ってるようなものでしょう」

「理由はなんとでもつきます」

「そうですかね?」

 

一気に場の緊張感が高まり、今にも爆発しそうなところまで張り詰める。

 

「これが最後の忠告よ?」

「断ります」

 

最高潮に達し、緊張感が爆発する瞬間、

 

 

世界が「夜」に塗りつぶされた。

 

 

闇の中、燦然と輝く星々の群れ。

応接間の天井が、月のない夜空へと変貌していた。

その夜空に手を届かせるように、虚空に左手を掲げる。

星が、光の線となってながれ――――

 

 

そして次の瞬間、

 

 

音もなく

 

 

室内を満たす「夜」は、「紅」に染められた。

 

 

元に戻った部屋では変わらず向かい合う俺と真夜。

ただ、俺たちの間に漂っていた緊張感は「夜」と共に消え去っていた。

 

「――戯れは程々にしてくださいよ」

「偶には可愛い貴方と遊ぶのも良いでしょう?」

 

そういうと俺たちは同時に笑みを浮かべる。

要するに、真夜は俺を試したかったのだろう。

 

「今回は貴方の我が儘を叶えてあげることにしましょう」

「ありがとうございます」

「いいのよ。私の魔法を破ったことに対するご褒美でもあるのだから」

 

俺が礼をすると、真夜はヒラヒラと手を振った。

応接間を後にする俺に声は掛からない。ただ、それでよかったと思う。

俺の口元は自分でも抑えきれないくらいに三日月を描いていた。

 

 

 

 

 




 
本当は最後の殺伐とした部分を書くつもりはなかったんですが、タイトル回収をやってみたくて書いちゃいました。
紅夜の戦略級魔法ってどう考えても放射線とか出そうですが、マテリアル・バーストも同じようなことが言えるので、ご都合主義ということで(笑)

何となく、急に思いついたんですが、深雪と達也ってお年玉貰ってるんでしょうか?


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。