魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

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お待たせしました。
モンハンに飽きたので投稿です。村と集会所のキークエを終えてやる気が一気に落ちました。まあ、なんだかんだでプレイ時間が50時間くらいまで行ったので私にしてはやり込んだ方です。大抵のゲームは二十時間以上プレイすると飽きちゃうんですよね……。




横浜騒乱編Ⅵ

 

 

 

会場を出た俺たちは戦闘中の正面出入り口に向かったのだが、そこはライフルと魔法の撃ち合いの真っただ中だった。ゲリラ兵を撃退しているのは協会が手配したプロの魔法師。しかし中に侵入されたことからも分かるように、状況は芳しくない。数の優位か、それとも対魔法師用の武装をしていることからか、恐らく両方だろうが、本来なら通常装備の歩兵など寄せ付けぬはずの実践魔法師が何人も負傷し、倒れている。

先頭を走っていた兄さんが立ち止まったので、続いて走っていた俺と深雪も止まったが、その後ろに続いていたエリカとレオの二人は血気盛んに逸っていた。

 

「止まれ! 対魔法師用の高速弾だ!」

 

兄さんがエリカを呼び止め、レオは襟首を掴んで無理やり下がらせる。

 

「ぐぇっ!」

 

その際にレオが首が締まったのか、変な声を漏らしていたが自業自得というものだろう。

 

「……達也、容赦ないね」

「でも、おかげで命拾い」

 

少し遅れて追いついた四人が到着し、乱暴な止め方に幹比古がしみじみと、どこか感心した様子すら感じさせるように呟き、雫が冷静に反論した。ただ、何となくレオはあのまま出て行っても死なない気がする。実践経験もないはずなのに、この状況で何時もと変わらない様子に少し感心を覚えた。

 

「深雪、銃を黙らせてくれ」

「かしこまりました。ですがお兄様、この数を一度に、となると……」

 

何故か恥じらう深雪に周りは付いていけず疑問符を浮かべている。

 

「分かっている」

 

しかし、次の兄さんの行動で疑問が解消した。

兄さんの差し出した手に、そっと指を絡める深雪。そして、今までの恥じらいの表情は一転して真剣なものに変化した。そして魔法が発動する。

 

振動減速系概念拡張魔法【凍火(フリーズ・フレイム)

 

二度行使されたその魔法は、敵三十人の持つライフルの動作を全て停止させた。効果が発揮されているかどうかも確認せずに飛び出した兄さんの後を追うように俺も駆け出した。ゼロ距離からの【レヴァティーン】により兄さんと同じ効果を出して敵を殲滅していく。

エリカと幹比古の攻撃も含め、敵の大半が倒れたところで、残りの勢力は協会の魔法師に任せて一旦下がる。

 

「出る幕が無かったぜ……」

 

何故かいじけているレオを励まし、若干顔色の悪いほのかと美月に視線を向ける。

 

「すまない。ほのかたちには少し刺激が強かったかな」

「――――いえ、大丈夫です」

 

兄さんの問いかけに力強く頷いたのはやはり恋心のなせるものなのか。

 

「美月?」

「あっ……私も大丈夫です」

 

深雪が優しく声を掛けると強張っていながらも笑みを浮かべる。気弱そうな見た目に反して芯は強い娘だ。問題はないだろう。

 

「それにしてもエリカ、よくそんな得物を持ってこれたな。鞄に入る大きさじゃないだろ?」

 

俺がそう問いかけたのは美月やほのかの緊張を取る為でもあったが、割とかなり本気で気になっていたことだった。

 

「うん、このままじゃ無理だよ?」

 

エリカの口調が何時も以上に砕けていたのは俺の意図を読み取ってくれたからなのだろうが、私欲が含まれている側としては何となく罪悪感を感じる。

 

「でもこうすると……ね?」

「へぇ……成る程」

 

しかしエリカがギミックを発動させると同時に小さな罪悪感など吹っ飛んだ。エリカが柄尻のスイッチを操作すると、刀身が楕円形の断面を持つ短いこん棒へと見る見る縮んでいったのだ。流石にこんな状況ではしゃぐわけにもいかず自重したが、できれば今すぐ質問攻めにしたいところだった。

 

「凄いでしょ? 来年から警察に納入予定の形状記憶棍刀よ」

「そういえば千葉家は白兵戦用の武器も作っていたっけな」

「どっちかって言うと、そっちが収入のメインなんだけどね」

 

兄さんも会話に入り少し話をしている間に、美月も落ち着きを取り戻したようだ。

 

「……それで、これからどうすんだ?」

 

レオが待ちかねたといった様子で兄さんに指示を求める。

 

「情報が欲しい。エリカも言っていたが、予想外に大規模で深刻な事態が進行しているようだ。行き当たりばったりでは泥沼に嵌り込むかもしれない」

「VIP会議室を使ったら?」

「VIP会議室?」

 

VIP応接室ではなく会議室というのを兄さんは知らなかったようで、雫に聞き返す。

 

「うん。あそこは閣僚級の政治家や経済団体トップレベルの会合に使われる部屋だから、大抵の情報にはアクセスできるはず」

「そんな部屋が?」

「一般には解放されていない会議室だから」

「……よく知ってるわね、そんなこと」

「暗証キーもアクセスコードも知ってるよ」

「凄いんですね……」

「小父様、雫を溺愛してるから」

 

ほのかの言葉に夏休みに少しだけ話した人物を思い浮かべ、あの様子ならそういった重要な情報を教えていてもおかしくはないなと思わず納得する。しかしあの「北方 潮」が使う部屋ならば警察や沿岸防衛隊の通信も傍受することが可能だろう。

 

「雫、案内してくれ」

 

兄さんも俺と同じことを考えたのか案内を頼み、それに対して雫は彼女にしては珍しくオーバーアクションで頷いた。

 

 

 

雫に教えてもらったアクセスコードを使って警察のマップデータをVIP会議室のモニターに映し出す。

 

「何これ!」

「酷ぇな、こりゃ」

「こんなに大勢……一体どうやって」

 

モニターに表示された周囲の地図は、海に面する一帯が危険地域を示す真っ赤な色に染まっていた。その赤い領域は今現在も内陸部へと拡大している。

 

「改めて言わなくても分かっているだろうが、状況はかなり悪い。この辺りでグズグズしていたら国防軍の到着より早く敵に捕捉されてしまうだろう。だからといって簡単に脱出できそうにない。何より交通機関が動いていない」

「ってことは海か?」

「それも望み薄だな。出動した船では全員を収容できないだろう」

「じゃあシェルターに避難する?」

 

幹比古の提案に頷くが兄さんには珍しく表情に不安が残っている。

 

「それが現実的だろうな……」

「なら上から駅前のシェルター入口を目指すってことでいいか?」

「えっ、地下通路じゃなくて?……っと、そうか」

 

俺の言葉に疑問を上げるエリカだが、すぐさま納得を見せた。他の出入り口から入って来た敵と遭遇戦になるという可能性に即座に気が付いたのは流石といえる。

 

「それと、少し時間を貰えないか?」

「それは構いませんが……一体何故ですか?」

 

一刻を争う状況での兄さんの発言に、ほのかが首を傾げながら理由を訊ねる。

 

「デモ機のデータを処分しておきたい」

「あっ、そうだね。それが敵の目的かもしれないし」

 

幹比古のフォローもあり、全員が頷き肯定を示した。

 

 

 

 

 

デモ機データ消去に向かう道のりで偶然克人と合流し、共ににステージ裏へと向かうことになったのだが、そこには鈴音と五十里がデモ機を弄っていて、周りを囲むように真由美、摩利、花音、桐原、紗耶香が見守っていた。

思わず自分たちのことを棚に上げて何をしているのかと尋ねたのだが、先に逃げ出すわけにはいかないと当然のように言われた。他のデータを消去するのを手伝って欲しいと言われ、元々そのつもりだった俺たちは手伝うことになった。

そんなわけで兄さんについて作業を終わらせ、控室に戻って来ると既に鈴音たちも控室に来ていた。

 

「お帰り、早かったね」

「首尾は?」

「残っていた機器のデータは全て破壊しておきました」

「へぇ……どうやって?」

 

花音が驚きと興味を含めながら訊ねる。

 

「秘密です」

「花音、他の魔法師が秘密にしている術式のことは聞いちゃいけないって。マナー違反だよ?」

 

兄さんの答えに不満そうにしていた花音だが、五十里の言葉に大人しく引き下がった。不承不承な様子ではあったが。

 

「さて、これからどうするか、だが」

「港内に侵入してきた敵艦は一隻。東京湾に他の敵艦は見当たらないそうよ。上陸した兵力の具体的な規模は分からないけど、海岸近くはほとんど敵に制圧されちゃったみたいね。陸上交通網は完全に麻痺。こっちはゲリラの仕業じゃないかしら」

「彼らの目的は何でしょうか?」

 

真由美の説明を聞いて五十里が疑問を上げる。

 

「推測でしかないけど、横浜を狙ったということは、横浜にしかないものが目的だったんじゃないかしら。厳密に言えば京都にもあるけど」

「魔法協会支部ですか」

 

真由美の言葉を最後まで待たずに花音が答えを出した。

 

「正確には魔法協会のメインデータバンクね。重要なデータは京都と横浜で集中管理しているから。論文コンペに集まった学者さんたちを狙ったっていう線も考えられるけど」

「避難船は何時到着する?」

「沿岸防衛隊の輸送船は後十分で到着するそうよ。でも避難に集まった人数に対して、収容量が十分とは言えないみたい」

 

摩利の確認に苦い顔で答えた真由美の言葉は俺たちが確認した情報と一致していた。つまり、予想通り全員が避難できるわけではないということだ。

 

「シェルターに向かった中条さんたちの方は、残念ながら司波君の懸念が的中したそうです」

 

鈴音からの報告によれば、地下に向かったあずさたちは俺たちの予想通り敵との遭遇戦になって足止めを受けているらしい。幸いなことに敵の数が少なかったらしく、もう少しで駆逐できるとあずさから連絡があったようだ。

 

「状況は聞いてもらった通りだ。シェルターの方はどの程度余裕があるのか分からないが、船の方は生憎乗れそうにない。こうなればシェルターに向かうしかないと私は思うんだが、皆はどうだ?」

 

摩利がまとめた内容に三年生は反対も賛成もせずに沈黙する。どうやら先に俺たちの意見を聞くつもりのようだ。しかし、反対がないことから全員が摩利の考えに賛同しているのは明らかだった。

 

「……あたしも、摩利さんの意見に賛成です」

 

花音たち二年生も選択の余地がないと考えているようで、花音の言葉に反論は出ない。残るは一年生の俺たちのみ。だが、摩利以上の案がないのは確かなことで、答えは完全に決まっていた。しかし、それを口にすることはなかった。いや、できなかった。

 

直感

 

その曖昧な感覚が俺の中で警報を鳴らした。俺はその勘に逆らうことなく、即座に視野を広げる。一泊遅れて兄さんも有らぬ方向に視線を向ける。

判断は一瞬、俺の右手がCADの引き金を引いた。

 

 

俺が発動した【叡智の眼《ソフィア・サイト》】が捉えたのはこちらに突っ込んで来る装甲板で覆われた大型トラック。俺が普通の魔法で止めるには少し時間が足りない。いや、通常のトラックなら普通の魔法でも止められたかもしれない。しかし何よりも問題だったのは、トラックが内側から情報強化を掛けられていることだった。刹那の間の逡巡、そして俺は【業火(ヘルフレア)】を発動した。

 

一瞬でトラックは消滅し、乗っていた運転手も消え去った。

 

そこにトラックがあった痕跡は残らない。まさしく文字通り跡形もなくなっていた。しかし、だからと言って今何が起きたか誰も気が付かない、などということはなかった。

 

「……今の、なに?」

 

恐る恐る訊ねてきた真由美に、やはりかと小さくため息を吐く。予想していた通り、真由美は【マルチ・スコープ】で今の光景を見ていたらしい。さて、どう答えたものかと考えていたのだが、幸いなことに真由美に言葉を返す必要はなくなった。

視野を拡大していた俺の目に、こちらに向かって飛来するミサイルの群れが捉えられていた。真由美も視界を拡張していたのだろう。俺と同じく状況を把握して、顔を青ざめさせる。

どうやら俺たちは敵勢力側から危険兵力と認識されてしまったらしい。頭の片隅でそんなことを考えながらミサイルに対抗する魔法を構築する。

しかし俺が迎撃をする前に会場前に幾重にも重なった障壁が展開された。ミサイルはその壁に衝突する前に横から撃ち込まれたソニック・ブームにより空中で爆発した。

 

「お待たせ」

 

急に室内から掛けられた声に、俺は視点を肉眼のものに戻す。

タイミングを見計らったように控室に入って来た一人の女性。

 

「え? えっ? もしかして響子さん?」

「お久しぶりね真由美さん」

 

真由美に笑顔で答えたのは軍服を着た藤林響子であった。

 

 

 

 




 
予定では後二話で横浜騒乱編が終了です。
実はこの話、二日前に完成していたんですが、投稿するの忘れてたんですよね(汗
そんな訳で次の話しはもう半分くらいできているので次回の更新は来週中にできそうです。
横浜騒乱編はどうにか今年の間に終わらせるつもりですので後少しお付き合いください。


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